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21-19.お姉様方への提案、その振り返り

前回のあらすじ:最後のユカリさんが携わってる芸事系について、提案を伝えて三者三様の提案もやっと終わりました。思った以上に手間取りましたね。(アキ視点)

お姉様方も大使館へと場所を移して、熱気に包まれていた居間も静かになった。


「お疲れ様。予定より結構時間が掛かったね」


リア姉も労ってくれたけど、確かにもっと簡単に終える予定だった。


「三者三様、それぞれに違う話をするのだから、意識を切り替える時間から言っても、あれくらい間に休みを入れるのは妥当よ。アキはちょっとその辺りの時間の見積もりが甘いかしら」


母さんも、話に加わるとお姉様方が委縮するからと昨日にも増して空気でござい、と徹してくれていたんだよね。


「そこは、ほら、思った以上に情報の制限が大きかったから。僕が聞いている話なのにお姉様方は知らないって事が多くてちょっと驚いたよ。ケイティさん、僕が教えて貰っていた一般常識としての話って、どれくらい一般枠からズレてたんです?」


共和国の島、ミア姉の館にいた頃からケイティさんにはこちらの一般教養として、多岐に渡って教えて貰ったけれど、お姉様方と話をした感じでは、秘匿情報扱いの分野について随分踏み込んで教えて貰ってたようなんだよね。確かにコレは他種族には秘密ですよ、話しては駄目です、と取扱注意って念押しされてたけど。


「アキ様は地球(あちら)の知識をお持ちですので、その知を活かす為にも、地球(あちら)で実現されている技術、知識については、大まかな話を伝えることは予め許可を頂いておりました」


 なるほど。


「許可を取ってくれたのはミア姉?」


「はい。ミア様ができる範囲で動いた結果、次元門構築は不可能、との結論が出ていました。そのような状況ですから、異世界の知を携えてやってくる者に対する制約は可能な限り排除すべき、そうでなければ不可能の状況を覆すことなどできない、と長老衆に強く働きかけたそうです」


ミア姉らしいね。ほんとありがたい。


「それで、ある意味、新参者の僕が知ってるのに、生粋の街エルフで成人されてるお姉様方が詳しく知らない、なんて逆転現象が生じていたんですね」


「勿論、アキ様が未成年であり、共和国の外には出ないだろうことも、その判断を後押ししました。現在も大使館は国内である、という判断もあってこうして、ロングヒルに滞在できていますが、アキ様が会う相手は予めしっかり調査を行い、また、話す内容もどこまでならばよいか、何を伝えてはいけないか判断しているのです」


まぁ、そんな感じだよね。


「資料も見せるけど渡さないとか、見せる範囲を既知の内容に制限した世界儀しか渡さないとか、資料作りも手間を掛けてますからね。外に持ち出す機会がほぼ無いのは多少は楽ですか?」


「それはもう。アキ様の活動される場所がここ別邸と連邦大使館、後は演習場程度ですから助かっています。資料もこの別邸からの持ち出しも許可されてないものは多くあるんですよ」


 うわぁ。


「大使館にも持って行くのは駄目なんです?」


あそこには大使のジョウさんもいるし、長老のヤスケさんもいるけど。


「必要があれば、こちらにきていただいてます。それに大使館と言っても同じ大使館領の敷地内ですから、移動はさほどの手間ではありません」


「そういえばそうでした」


以前は多くの部屋は使われず、こじんまりと使われていたという大使館だけど、今では全ての部屋が常に使われているだけでなく、人形遣いの工房も増築されるなど、不夜城と化していると言うからね。あちこち魔導具だらけということもあって僕は近付くのは厳禁と言われてるから詳しい話は知りようがない。







なんて感じにちょっと雑談をしてリラックスしたところで、リア姉が話を切り出した。


「で、実際にそれぞれに提案してみてどうだった?」


「始めは意欲がちょっと足りないなぁ、と感じてたけど、提案を伝えて話が終わる頃にはちゃんとやる気を見せてくれていたから、いい感じだったと思うよ。少しヒントを出すか、ヒントなしでも先に踏み込んでくる鋭いとこもあって、話してて楽しかったし」


僕の感想に、リア姉は呆れた視線を向けて来た。


「昨日は、派手な振舞いを見て、ミア姉も友人は選ぼうよ、とか言ってたのに随分と変わったね」


 ん。


「それはまぁそう思ったけど、昨日のアレって僕のことをミア姉が化けて担いでないか見極めようとしてた、ってのもあるから、少し割り引いて評価してもいいかな、って。それにほら、今日は匂いのしない化粧に変えてきてくれてたし」


気遣いの出来るお姉さんなら歓迎だ。


「何ともお手軽な評価基準で、コロっと騙されたりしないか心配だよ」


「そこはほら、本当に騙されそうならケイティさんやお爺ちゃんが注意してくれるだろうから、っていうとこはあるから。あと、今回の話で言えば、お姉様方がどう好きに動いても、僕達の研究には絡まないから気楽ってのもあったかな。あ、絡まないは言い過ぎか。交流が増えれば思わぬ人材発掘の可能性はあるから」


お姉様方の活動範囲はあくまでも各勢力、各種族同士の交流促進であって、統一国家樹立に向けた足しにはなっても、次元門構築の研究に何か影響があるかというと、ほぼ関係がないからね。現時点で予算は十分に貰ってて、皆さん、自由に研究してて、予算不足を嘆くような話も出てない。


あと、一応、言い過ぎと思って可能性に触れたけど、実際には人材発掘と言っても、財閥の人材不足緩和とか、竜神子候補が増えるとか、そっちの話かな、って気はしてる。次元門研究に絡みそうな尖った人材、だけど各勢力の為政者達すら知らない隠者、なんてのが存在してたら、って話だけど。それは実力があるのに無名という矛盾した存在ってことだからね。それくらいなら、まだ竜族から研究に興味を持つ個体を探した方がマシだろう。


っと、僕のコメントに、母さんもリア姉も揃って溜息をついた。というかケイティさんを含めたサポートメンバーの皆さんも同じ感想を持ったらしい。


ケイティさんが皆を代表して何故か話してくれた。


「アキ様が興味のない分野をばっさり切り捨てる性格であることは重々承知しています。それに問題がありそうな時に私や翁が止めに入るであろうこと、そうして信頼を置いて頂けていることも嬉しく思います。ただ、先ほどのような物言いは、誤解を招く恐れがあるのでご注意ください。誰しも自分の行いが()()()()()()()()()()()()()と言われれば、あまり良くは思いません」


 むむむ。


「気にならない訳じゃないですよ? 各勢力の交流が盛んになって、互いの理解が進んで一体感が出て統一国家が盤石となったなら素敵だなぁって思いますし。気楽だってところも、提案を元にどう動くかはお姉様方次第、でも悪い方向には多分行かないだろうって感触もありましたからね。後は次に代表の方々が集まる時にまで、目に見える動きがあったらいいな、って期待もしてます。半年後だからそうそう派手な動きはないでしょうけど」


不味くならないだろうから、後は半年後が楽しみだ、って気持ちを伝えたんだけど、いまいち、熱意が伝わらなかったっぽい。


母さんがこめかみを揉みながら、話してくれた。


「アキの言う期待は、買った富籤が当たるか楽しみにしてるくらいのようね。外れても惜しくはないし、当たれば嬉しいくらい」


これにはお爺ちゃんが反論してくれる。


「アヤ殿、そこは群衆資金調達クライドファンディングで出資した取り組みに期待するくらいの熱はあるじゃろうて。運頼みで籤を引いてる訳ではないからのぉ」


 うん、うん。


「だよね。やるからには成功して欲しいし、成功する率は高いと僕も思ってるし」


などと賛同者得たり、と続いてみたんだけど、リア姉にズバっと駄目出しされてしまった。


「ソレ、間違ってもあの三人は言っちゃ駄目だからね。三人とも小遣いでちょっと投資するんじゃなく、本業でリスクを結構背負って未知の分野に挑もうって話なんだから。大勢の社員の生活や未来にも責任があるからストレスも半端ないからね。ケイティも一般に出た範囲の動きは適宜、アキに教えること。アキもそれを聞いたら、手紙くらいは出すんだよ?」


おっと。リア姉の目がマジだ。これは厳粛に受け止めておかないと不味そう。


「うん、その時はちゃんと手紙を書くよ。だいぶ心の籠った物言いだったけど、リア姉も研究所の代表さんをしてるって事は、お姉様方の選択に共感するところがある感じ?」


僕の問いにリア姉は少し遠い眼差しをしながら深く頷いた。


「研究ってさ、そりゃ見込みがあるから研究を始めるんだけど、九分九厘、予定通り行かなくて失敗が続くんだよ。集めた資金もどんどん目減りしていくし、研究は結果がでなければそれまでの投資はぜんぶパーになるし、出資者達だって遊びでやってるんじゃないから、研究の進捗状況は気にするし、納得ができなければ出資を取りやめると脅してきたりもするからさ。このペースで減ってったら、半年後には社員に給与が支払えなくなっちゃうなぁ、とか夢を見て夜中に飛び起きたりしちゃって――」


……などと、口座残高の減っていくこと、成果が出ないこと、大勢の生活が、期待が掛かってることの重圧、その大変さを、聞いている僕の胃が痛くなってくるんじゃないかというくらい、重みのある言葉で淡々と語ってくれた。


お爺ちゃんもそんな感じなのか聞いてみたら、それはそうだ、と笑われた。


「儂も今でこそ好事家ディレッタントなんぞしてのんびり過ごしておるが、新たな事業に出資する時は大変じゃよ。普段の話であれば時間通貨で済むんじゃが、その場払いとならない長期的な取り組みとなると、資金を動かすことになる。そうなるとリア殿が話したような事はどうしても起こる。誰がやってもできる話ならば、そもそも儂が出資せんでも誰かが先に手を付けておるからのぉ。手を出すには資金が多く必要で、しかも成功するとも限らない。そういうところに手を出す。当然、勝率は悪い。以前話したじゃろ。勝率は一割に届かんと。どれも成功すると思って調べて考えて投資した挙句がソレじゃ。向かん者は手を出さん方がいいだろうて」


働いた分だけ給与が貰える、という安定した職というのは、将来の見通しが立てられて、安心して仕事に集中できる。社会が安定して動く為にはそうした大勢の民がいなくてはならない、と。誰もが投資に手を出して資金繰りに苦悩するような社会では、早晩破綻してしまう、と言われた。


あー、なんかちょっと聞いたことがある。


「それって、社運を賭けて、みたいな話はそうそうやるもんじゃないって話だっけ?」


「その通りじゃ。社会を安定して営むための会社がそうそう丁半博打じゃったか、そうした賭けに出られたら安心して生活できん」


妖精界には賽子サイコロが存在しなかったけど、お爺ちゃんもこちらの文化にだいぶ馴染んできたね。


 んー。


「つまり、失敗しても破綻しない程度に挑戦するくらいが丁度いい塩梅で、演劇みたいに分の悪い賭けにでるような真似はそうそうするもんじゃない、って話なんだね」


これには、ケイティさんが補足してくれる。


「そういうお話です。アキ様、いくさや劇で語られるような話がなぜ語り続けられるのか、忘れてはなりません。そうそう起きることでない珍しいことだから、話として語り残されるのです。その陰には多くの失敗があり、選ばざるを得ない状況に追い込まれて、たまたま成功したから、珍しい事例として残っているのです。探索者達が最初に学ぶのは、任務ミッションで不測の事態が起きた時に、取り返しのつかない失敗に繋がらない策を選ぶことです。成功率は高くとも失敗すると取り返しがつかないくらいであれば、成功率が多少低くとも失敗した際に取り返せる案を選ぶ、それが探索者の正しい選択です。探索者は必ず帰還しなくてはなりません。情報を持ち帰らねば、帰還できないような何かが起きた、としかわかりません。それでは探索者失格です」


失敗しても、次は成功するようにすればいい、専門技術を持つ探索者は使い捨てできるような人達じゃない、それより多くの経験を積んで熟練の域に達してくれた方がいい、それに失敗は他の探索者達に同じ過ちを繰り返させない貴重な例となってくれる。規則ルールは血で書かれるって奴だ。





ある程度イメージできたけど、ちょっと疑問が出てきた。


「ねぇ、リア姉。今回の僕の提案なら、お姉様方は本業をやりつつ、新規事業に手を伸ばす訳だから、問題が起きても会社が傾くような話にはならないよね?」


「ミエさんの報道系は勢力間で報道協定を結んで行こう、互いに記事になる情報を融通し合おう、勢力を超えて取材する際の注意事項の申し合わせをしておこうって話だから、確かに影響は少な目かな。マリさんの出版系は最初に多くの本を揃えて出店することになるから、貸本の要望ニーズがある地域を上手く見極めないと痛い目に遭うかも。芸事系のユカリさんは揉め事必至だから、それにどう対処していくか、ある程度、安定するまでは苦労が絶えないってとこじゃないかな。経済的な話より芸人達の心身をどうケアしていくかって話になるよ」


 うわぁ。


「僕が手を出すと碌な話にならないだろうけど、応援してますって姿勢は示した方が良さそうだね。聞いてるだけで大変そうだもの」


「そういうこと。対外的にも、竜神の巫女は統一国家樹立に向けた取り組みを応援しています、ってアピールはしておいた方がいいよ。それだけでも、多分、少しは皆の背を推すことになるから」


「半年に一度、集まった時に言祝ぐだけじゃ、情報発信力が足りないってことだね」


「あまり頻繁でも問題だけどね。まぁどちらにしても公式な発言となれば、皆と相談して決めることになるから、アキはそこまで気にしないでいいとは思うけどさ」


「うん。そこは適宜、教えて貰ったら考えるようにするよ」


 ふぅ。





「アキ、明日に向けて特に用意するような話はもうないかしら?」


母さんに促されたのでちょっと考えてみる。


明日は、外向けの話になるから、何気に僕の要望も結構入れてく感じになるんだよね。


「今思いついたんですけど、未探査領域に今後、探査船団を派遣する事になるじゃないですか。いつか、という点は未定でも、未探査のまま放置するってことはないから」


「そうね、それで?」


「その時、対象地域に竜族がいないか、殆ど接点がない場合、そうした実体のある神、意思ある災いとなりうる種族がこの惑星ほしには沢山いるのだってことを伝えないと、話が擦れ違う事になりかねないですよね?」


「竜とアキが一緒に映った写真でも持参して見せれば良くないかしら?」


「それも必要と思うんですけど、やっぱり現物があった方が衝撃インパクトが稼げるかな、って思うんですよ」


「現物? 所縁ゆかりの品を持参するということ? それだと竜族の同意を得ないといけないわね」


 ん。


「それなんですけど、基本、弧状列島に住まう高位存在の所縁ゆかりの品は、海外への持ち出しは禁じた方がいいかなって思うんです。ほら、僕やリア姉みたいに、所縁ゆかりの品を使って直接、接触されると色々困る事が起きそうでしょう?」


そう話すと、母さんは趣旨は理解した、と頷いてくれた。


「それは確かに困るわね。でも所縁ゆかりの品を持ち出さず、現物で、という話は両立しないわ。竜の魔力を籠めた宝珠でも持っていけば多少は説得力があるかしら?」


 さて、どうだろう?


これにはケイティさんが答えてくれた。


「ある程度の効果はあるかと思います。量ではなく質、天空竜の高い位階の魔力に触れれば、誰でも我々、地の種族との差を理解できるでしょう」


 なるほど。


「あら、アキの思い描いたのとは違う話だったようね。それならアキは何を持ち出せば良いと思うの?」


僕は思いついたことを皆にざっと説明してみた。いまいち感触は良くない感じだけど、一応、師匠に連絡を入れて許可を貰い、明日の話合いに向けたサンプル作成までは良し、ということに。


ということで、長杖を構えて、サクサクと十枚ほど銀色の鱗を創造してみた。


「取り敢えず、雲取様の鱗を参考に、体格差を考慮して小さめの鱗を用意してみました。僕の魔力なので、完全無色透明の属性だから感知はできませんけど、触れれば位階の高さは感じて貰えるし、何より相手に所縁ゆかりの品として利用されることも防げるでしょう? こちらでもリア姉相手に心話ができたのはミア姉ただ一人だった訳ですから」


そう話すと、皆さん、実際に銀色の鱗を手に取って色々と見たり、試したりしてくれた。まぁ、僕にはここにいる皆さんの魔力は感知できないから、様子からなんか試してるんだろうなぁ、と推測しただけなんだけど。


「確かに職人が鱗を模倣した品を作っても、だからどうした、ってだけだからね。コレなら、こうして手に取って視ても良くできてるし、ケイティも魔力が全然通らない事を検証してくれたから、並みの代物でないってのも簡単に伝わるとは思う」


リア姉は、先ずは良い点を列挙してくれた。うん、うん。そうだよね。でも、その言い方からして問題もあると。


「ただ、この通り、小さくて魔力感知もできないから紛失しやすそうなのが心配かな。それと創造術式で生成した品がいつ消えるかもまったく見通せない中、それを海外に持ち出すのは問題だと思う。竜の魔力を籠められる宝珠となると高額なモノだから、こうして代用が利くなら予算的な話で言えば利点は大きいってとこかな。明日の話のネタにはちょうどいいんじゃないかな。実際、未探査領域に向けて探査船団が出航するのなんて決まったとしても、ずっと先の話だから、何を持参するのかはそれまでに決めればいいんだから」


「うん。僕もコレで確定とかじゃなく、明日の話の小ネタになればいいかってくらいの思い付きだからそれで十分だよ」


そう話すと、母さんが釘を刺してきた。


「ケイティ、コレの保管はしっかりお願いね」


「承りました。ご安心ください」


「ところでアキ、探査船団が未知の領域に向かうのなら、以前、私達の知らない高位存在がいれば、それらの情報が欲しいと話してたわよね?」


「はい、そうですね。今の研究体制は良い感じですけど、行き詰まる可能性もあるので、手札は多いに越したことはありません。次元門構築に役立ちそうな存在がいるようなら、ぜひ情報は持ち帰って欲しいですね。可能なら所縁ゆかりの品も貰ってきて貰えたらありがたいです」


僕の答えは予想済みだったようで、母さんはそこが問題ね、と話した。


「あちらからは神やそれに類する存在に繋がる所縁ゆかりの品が欲しい、でもこちらからは所縁ゆかりの品は渡したくない、というのは交渉としては難しい話ね。だからといって、この創造された銀竜の鱗を渡します、というのも交渉だけ見れば悪くないけれど、創造品を手放す事の影響を考えると、それが許容できる話か判断し兼ねるわ」


母さんの話を聞いて、お爺ちゃんが疑問を思いついたようだ。


「ところでケイティ、その創造された鱗じゃが、創造したアキとの経路(パス)は愛用の品に負けずとも劣らないじゃろう。コレを使って心話は行えるもんじゃろうか?」


「そうですね。第二演習場や別邸に設置している心話魔法陣が用意できるとして、という話にはなりますが、心話の術式自体は起動できるかと思います。ただ、相手がアキ様の心を感知できるかどうかは試してみないとわかりません」


「それだとアキやリアに心話で繋いできて騒がしいことにならんかのぉ?」


「それは試みた者がアキ様のように相手との心の距離を適切に制することができる力量を備えていることが前提です。下手をすると、距離感を間違えて過負荷で精神に重大な障害を負ってしまう可能性があります。私とアキ様も心話を行えていますが、距離感の調整は全てアキ様にお任せしている状態です。そもそも私には距離を調整するといった事自体ができません。ですから、原理的には可能、試みることもできる。ただ、恐らく碌な結果にはならないでしょう」


 げ。


「そうすると、無用な事故を招かないよう、相手に渡すのは避けた方がいいかも」


接触を試みた人が次々に心を病んでしまったりしたら、邪悪な存在とか勘違いされ兼ねない。


「その方が賢明でしょう。この品を持参する前提として、相手が竜種や他の高位存在を知らない、或いは疎遠であるとしていました。となると、そうした高位存在と接触するノウハウを相手側は持ってないことになります」


 なるほど。


「あ、ケイティさん、その話ですけど、実体を持つ高位存在はいないとして、マコトくんみたいな信仰によって存在する神ならどうです? 膨大な数の人々から信仰された神がいるなら、信仰によって神と繋がる神官や信者の皆さんは、自身の信仰する神との交流はできるのでしょう?」


「アキ様、そもそも神からの啓示、神託オラクルを受ける者自体が稀で、そのようなことがあれば歴史書に記される、そうした出来事なのだと思い出してください。確かに今のロングヒルでは、マコトくんや依代の君、それに連樹の神が神託オラクルを頻繁に出してはいますが、これは歴史的に見れば極めて異例、というか前例のない事なのです」


 あぁ、確かに。


「それだと、あまりノウハウはない感じでしょうか?」


「あったとしても、自身の信仰する神との接触に対してであって、ミア様やアキ様のように多様な存在を対象とした心話を行える、とは想定しない方がよいと思います」


 ふむ。


「取り敢えず、こうして鱗一枚を出しただけでもあれこれ議論ができましたし、コレなら明日も話の小ネタとして役立ってくれるでしょう。所縁ゆかりの品の収集は重要ですからね」


相手がどこの誰でどんな権能を持つ神やそれに類する存在なのか、活動地域はどこかなど、所縁ゆかりの品はそれ単品では意味がなく、付随する情報が極めて重要だ。相手が地竜、海竜ならそれに合わせた話題も用意すべきだし、生活お役立ちみたいな権能の神様だと、次元門構築という意味では接触する意味もないからね。


あと、世界樹の精霊さんみたいに、色々とかけ離れた存在だと接触は避けるか、黒姫様にお願いした方がいいって話になるから、注意も必要になる。そんな感じに、所縁ゆかりの品を集める件をどう統一国家の国益に絡めるか、考えたネタを色々と披露してみたら、皆からその論法は我田引水が過ぎるとか、高位存在経由で情報が広がることへの懸念など、色々と突っ込まれることになった。


でもまぁ、そうして考えの浅いところ、少し注意した方がよいポイントも明らかになって良かった。これなら、明日の外向けの話も色々と提案できそうだ。

評価、いいね、ありがとうございます。執筆意欲が大幅にチャージされました。


今回はお姉様方も退室したので、家族&サポートメンバーによる振り返りとなりました。

アキから事前に話は聞いていたものの、実際に話をしたことで考えが変わる可能性もあるし、新たな思い付きがあるかもしれませんからね。そうした部分にも、フォローを入れる。


言うのは簡単ですが、やるのは大変です。


<アキの見聞きしている情報と、成人の儀を終えているお姉様方で知る情報の逆転現象が起きている件>

気になる方もいたかと思ったのでざっくりフォローしました。普通なら権力に近い側の方が詳しいものですが、アキの場合、情報開示範囲を限定、制限するような内容まで色々教えて貰ってますからね。お姉様方もこの件については、ヤスケから経緯の説明をこの後受けてることでしょう。


ただ、何でも開示してるかと言えばそんなことはなく、アキが興味を示す部分は、戦略級、それも国家戦略レベル辺りまでで、それより下層で気にするとしたら、次元門構築や研究組が関与する魔術や理論についてなので、実は知らない事だらけです。


技術や理論についてもそう深く踏み込むこともないですからね。踏み込んでも素人にはわからないだろうから、とそこは専門家にお任せします、とスルーしてますし。


本編でケイティも語ってるように、事前に資料や話の内容を検討して、どこは伝えてはいけないとアキに注意しておくか、何気に苦労が絶えないのも確かです。資料作りの段階であれこれ意見を交わしているので、その辺りの意識合わせはできてますけど。大変ですね。


<アキやリアに対して心話を試みたらどうなるか>

簡単に言えば、竜族相手に心話を試みるのと大差ありません。なので、相応の実力がないのにそんな真似をすれば、精神に重大な障害を負うことになります。接触された側は、魔力撃に触れてもアキが何も感じないのと同様、接触して心がおかしくなった相手が出たことすら認識しないでしょう。


で、落ち着いた状態で接触しただけでソレですが、福慈様の激昂みたいなのに巻き込まれた場合、アキのようにうまく回避できないと精神は砕け散って終わります。アキはあれでもほぼ完全な回避に成功してるので、精神にダメージを受けた程度で済みました。ノーダメージ回避はあり得ません。いやぁ、高位存在ってば怖いですね。同じ竜族の成竜以上なら、回避に失敗しても暫く引き籠る程度に軽く病むくらいで済みます。種としてのベースが違うので。


<創造された品、それってば>

創造された銀竜の鱗ですけど、高位階魔力の高密度結晶体ですから、当然ですが、これに街エルフが製造してる術式を付与された貨幣を触れさせたりすれば、一発で術式が壊れる物騒な品です。あの場にいる全員が魔導師級なので平然と触ってますけど、取扱注意の危険物なのです。まぁ、その辺りの突っ込みはヤスケに頑張って貰いましょう。アキやリアは普通の術者と違って魔力の出力調整ができず常に最大出力、最高位階をぶち込んでしまうので、一見便利使いできてるように見えて、厄介極まりないのです。



次パートからは、お姉様方+ヤスケを加えて、外向けの話をあれこれしていきます。リミッターなしでお話できるからと、アキが楽しく話ができるとウキウキしてます、などと伝えられたヤスケの心中はどんなモノだった事か。そこはヤスケが最初に愚痴ることでしょう。


次回の投稿は、一月二十一日(日)二十一時五分です。

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