21-16.報道系《ミエ》へのちょっとした提案
前回のあらすじ:今日は内向けの話を軽くやって、それを前提に外向けの事を考えて貰うのを宿題として、明日はヤスケ御爺様にも参加して貰って、皆さんに外向けの提案をしてみよう、って話したら、小一時間、質問の嵐に晒されることになりました。リア姉が上手く仕切ってくれたのと、皆さん、聞き上手ということもあったのでさほど疲れることはなかったけれど、なかなかの手間でした。(アキ視点)
サブタイトルを変更しました。
旧:21-16.お姉様方へのちょっとした提案(中編)
新:21-16.報道系へのちょっとした提案
今日、お姉様方に伝えるお土産相当の提案はそれぞれに一つずつ。
さて、どなたからにするかな。まぁ、一番縛りが大きいミエさんからにするか。
「では、普段の報道でも政府機関とのバランス維持に腐心しているミエさんからにしましょうか」
「顔色を伺ってばかりじゃないが、ね。まぁ、いいさ。で、どんな提案だい?」
報道に携わる者の矜持といったところか、踏み越えてはいけない一線は意識しつつも、自分達独自の指針を貫いて報道しているのだ、という強い意識が感じられていいね。日本だと「現政権の打倒は社是である」と新聞社の幹部が語ったなんて話が出てくるくらいで、揺るがない信念とやらが、どっちを向いているのかによって、国の将来を憂う国士達なのか、国を蝕む売国奴の巣窟なのか、って話になってくるけど。
まぁ、今の長老衆や父さんや母さんのような議員の方々がいるなら、獅子身中の虫を見逃すとも思えないし、ミエさん達は前者なのだろう。なら良いことだ。
「今の統一国家樹立に向けた流れは、現在の為政者達によるトップダウンの施策です。戦がなくなり、太平の世になるのは良いことと思いますけど、地球の例を見ると、トップダウン式で争いを収めて平和になった国というのは、国という枠がおかしくなると、あっけなく崩れる危険性を孕んでいます。国からの様々な圧があるから、争いにまで発展してないだけで、実は水面下で不平、不安がずっと燻っていた訳です。地球のルワンダという国では、前日までは仲良く暮らしていたフツ族、ツチ族という人達がラジオ放送で対立を煽られただけで、血で血を洗う虐殺にまで発展して、僅か百日で百万の人々が亡くなる事態になりました」
「……百万人!?」
ミエさんが驚きの声をあげた。こちらの感覚だと桁が三つくらいズレてるからね。それも連合と帝国の人族と小鬼族という異なる種族同士の大規模な戦での死者でソレだ。同じ種族同士の抗争、それも予め準備していた武装勢力による蜂起でもなく、民衆同士、隣人同士の殺し合い、などと報じられることが多い虐殺だ。
「実のところ、狭い地域での人口過密であるとか、食料不足が生じていたとか、安易に銃火器や手榴弾などの爆発物すら容易に入手できるという治安の酷さもあって、民兵の組織化が行われ、公然と全てのツチ族をルワンダの地から追放すれば全ての問題は解決する、などと話す閣僚などもいたと言います。なので、普通の市民が身近な刃物や鈍器で雑草を刈るように殺害して回るシーンが煽情的に報道されたりはしてましたが、その行動を強く後押しする組織的な殺戮や、その行動を正当化し後押しする報道が効果的に作用したのも確かです」
なので、仲良く暮らしていた人々も多かったけれど、現状の不平、不満を他民族に向ける構造は以前から存在していたし、群れとして虐殺を行えるだけの何万人という規模の民兵組織も作られてて、更に彼らがツチ族排除に動き出してからも、報道は全土に向けてその行動の正しさを伝え続けた、なんて感じに説明してみた。
ミエさんは少し考えていたけれど、重い口を開いた。
「その話は、ラジオ放送、電波を使って不特定多数に広く音声を伝える道具によって、一方に加担する扇動が行われたけれど、もしそれだけなら、大規模な虐殺に繋がることはなかった。つまり初動を起こせるだけの力は報道にはなかった、という理解で合ってるかい?」
鋭い。それに冷静な分析で好感が持てる。
「その通りです。いくら色々と不満を抱えていようと、いきなりテーブルを囲んでる相手に向けて、ナイフを振りかざして同居人が襲い掛かってくる、なんてホラーな展開は報道では起こせません。ただ、何千、何万という武装した民兵達が銃で害獣駆除のようにツチ族を殺害し始めてる状況下なら? もしフツ族市民だとしても、ツチ族排除に協力的な態度を示さなかったなら、民兵達の銃口が自分達に向くかもしれない、報道もツチ族殺害は正しい、奴らを追い出せ、と煽ってる。警察も軍もまったく当てにならない。そうしたお膳立てがあれば、人は最後の一歩を踏み出してしまう。そして、踏み出してしまえば、自分達の行動は正しかった、と考えたくなる。報道も正しいと言ってくれる。正しいのだから、もっと正しい行動を続けないと!」
一度、踏み越えてしまえば、そしてそうした人数が増えて行けば、後は多くの仲間達、同じ意識を持つ者達が集団意識によって動き始める。そうなったらもう個人が多少動こうとどうにもなりません、しかもラジオ放送はそうした中でも、四六時中、ツチ族を追い出せ、その行動は正しい、と煽ってた訳です、と説明すると、広く多くの人々の耳元に囁き続けられるラジオ放送の怖さが想像できたようだ。
ユカリさん、マリさんもミエさんを気遣う視線を向けた。
「私達の報道は新聞や雑誌を通したモノだけれど、こちらの世界で電波が使い物にならない事に感謝したい気分だよ。ユカリはその道のプロだけれど、音楽や声だけでもその表現力は多様だ。それに印刷物より感情に働きかけやすい。それに音しかないと思えば、人々も音に意識を向け、音が奏でる情景を思い描きもする。それにラジオ放送は発信する局を用意すれば、人々は小さな受信機器を持つだけでいつでもその放送を聞けるんだろう?」
「そうですね。その受信機もゲルマニウムラジオという種類だと、電池不要でも動作し、ラジオ放送を聞くことができちゃうくらいで、地球ではラジオ放送はあっという間に世界中に普及することになりました。……さて、物騒な話をしてしまいましたけど、報道には限界はあるものの、強い力があり、多くの市民達の意識にある程度の影響力を行使しうることはイメージできたかと思います」
「そういう面があることも否定はできないね。良い事も伝えているし、難解な出来事の解説をして理解を促したりもしてるんだが」
ミエさんもそんな真似はしない、という信念はお持ちのようだけど、報道という組織、技術からすれば、そうした事が可能であることは認めざるを得ない、と意識してくれてるって事だね。良いことだ。
「新聞だと、見出し一つで同じ出来事でも真逆の印象を与えることすらできちゃいますからね。災害に対して、「初動が遅かったのではないか、その問いへの政府返答」とか書けば、初動が遅かったんだろうなぁ、と読者に第一印象を植え付けることができますし、本文を読むと二次被害を回避しつつ現地入りする為のルートを確保し、正しい情報を集めつつ派遣する救助隊を向かわせてる、と書いてあるけど、最後に「……と政府は主張した」などと書くだけで、まるで事実は別にあると言わんばかりの印象も与えられます」
「……ねぇ、アキ。なんか報道への偏見とか持ってない?」
ミエさんが、そうした手法もあるけどさ、と不満を口にした。
「あぁ、すみません、日本では何故か、政府のやること為す事、反対するのが正義と標榜するような新聞社がいくつもあったり、海外向けの他言語版記事では、日本を貶めるような内容をばんばん書いてたりする話が後を絶たないせいか、無批判に受け入れる意識はごっそり減ってるとこはありますね。中学の頃、自由研究で図書館で様々な新聞で、同じ事件をどう報じているか比較した事がありまして。報じ方一つで印象は真逆にすら変わる、ってのを知ったんですよ。それからは自宅で購入してる新聞一社だけしか情報源がないのは怖い、と思うようになりました」
日本だと、ネットも普及して、怪しいなぁと思った記事について調べると、同じように感じた多くの人の意見に簡単に触れられるようになって、場合によっては実例付で記事の矛盾や事実誤認、誤誘導なんかも知ることができるようになりました、と安心するよう伝えたんだけど。
「複数の新聞を購入してる層は少ないし、こちらにはいつでもどこでも簡単に多くの情報を検索できるような仕組みもないから、耳に痛い話ね」
ミエさんは、自身が現代日本の報道関係にあるとしたら、とイメージしたようだ。自分自身はしっかり調査して多角的に分析もして正しく伝えてるつもりでも、何事にも限界がある。そして何万、何十万という読者が読めば、部分的には記者の知を超える者もいるだろうし、何より報道側と違って読者側はある意味、時間制限なしにじっくり考え抜いてから発言もできる。そこを何とかするのがプロだろ、という意見もあるだろうけど、確定しきった情報しか出せないとなったら、報道から迅速さは失われてしまうだろう。
……まぁ、日本の場合、明らかに賄賂でも貰ってか、或いはポジショントークなのか、物凄く一方に肩入れし、自身の主張に有利となるような情報だけ恣意的情報選別したような記事ばかり発信するような人達もいて、そういう人達は記事を出した途端に、反論でフルボッコにされるのもよく見かけるようになってきたけどね。
簡単に発言できるようになったせいで、記事もろくに読んでない、或いはタイトルくらいしか読んでないとしか思えない我田引水なモノも多いし、そうした何かをきっかけに自己主張したいだけの騒音少数派もいて世界の混沌さは深まってて悩ましい。
◇
「さて、ミエさん。情報発信という点ではマリさんの書籍は共和国内だけでなく連合にも販路を広げていますけど、ミエさん達、共和国の報道機関は、情報収集は共和国だけでなく連合にまで及んでいるとしても、情報発信という点では共和国内に留まっている、との認識で合ってますか?」
「それで合ってるよ」
「では、共和国ではできないことはない、という街エルフの民が主な読者層ですから、そうした人々への情報発信で腕を磨いてきたミエさん達は、情報分析、発信を行う技量としてはかなりの高みにあると思うのですがどうでしょう? 三大勢力と違って共和国は遠い海外まで探査船団を派遣して、海外との交易も行っていて、その視点の広さ、古い年代まで覚えている長命種の強みもあるので、単なる政府機関の広報担当、などという立ち位置とはかなり異なる独自の強みをお持ちと思うんです」
僕の言葉にミエさんは苦笑を浮かべた。
「今度はやけに褒めるねぇ。確かに街エルフの同胞たちを相手にしてる事もあって、昔の出来事であっても当事者として覚えてる者も多いから、半端な記事は書けない。それに海外の情報や航海日数などから世界の広さを読者も理解しているし、天体望遠鏡を持っている人も多く、宇宙の広大さを理解してるから、直接、人工衛星の話は書けないけれど、宇宙からこの地を眺めるような視点、意識を前提とした話であっても、読者はちゃんと理解してくれてるのは、記事が書きやすくていいよ」
読者の知識レベルの想定は結構悩ましい問題なんだよね。ある程度知ってることを前提に書くなら、多くの情報を端折って、本当に伝えたい内容に注力できる。でも、馴染みが無い内容だとしたら、前提としてこうで、と概要説明などを入れないと、読者からすれば意味不明記事になってしまい、読んで貰えないなんてことにもなる。
……まぁ、鍛え上げられた百戦錬磨の読者「だけ」を対象とした専門誌ってのは、それはそれで問題があるんだけどさ。
「上の力量にある者が下に合わせる、導くことはできるけれど、その逆はできません。ですから、ミエさん。弧状列島の報道ですけど、今はバラバラなソレを束ねること、横の繋がりを増やしていき、その活動規模を共和国という小さな枠から、弧状列島という枠に広げて貰えませんか? 日本でも各地域が方言をバラバラに話していた時代が、ラジオ放送を通じて標準語での音声が全土に響くようになると、標準語を話す層が増えていきました。それは同じ言語を話す同じ国の民、という意識を醸造することにも繋がったんですよね。ミエさん達には報道の力を通じて、人々に今、分かれている勢力の民ではなく、弧状列島の民である、という意識を育てて欲しいんです」
勿論、弧状列島全体の報道を育て束ねるということは活動規模は百倍くらいになりますね、その旗振り役になりましょう、と推すと、ミエさんは弧状列島全図に視線を向けて小さく唸った。
少し畳みかけてみようか。
「丁度良い未曽有の大規模工事、全種族が参加する東遷事業が今後五年くらい、ユカリさんの見立てではもう少し続くようですけど、それが実施されていくことになります。同じ事業ですから、各勢力にその情報が正しく伝えられることが重要と論じれば、各勢力の報道機関同士での連携を促す流れも生じさせることはできるでしょう。いちいち各勢力の政府を通じて、などというまどろっこしいことをやっていては報道の迅速さが死んでしまいます。だから報道協定を作って、実際、各報道機関が発行した新聞や雑誌については、他機関が査読して、問題があれば指摘するといった相互補完体制を作るんです。合同で勉強会を開いてもいいし、種族によって伝え方も工夫していく部分が違ったりもしてくるでしょう。そうした違い、注意点を明らかにしていく中で、ミエさん達は街エルフ相手で鍛え上げられた技量を如何なく発揮して、下手を打たなければ、全報道機関の中でも一目置かれる立ち位置になれるでしょう。少数派が存在感を出すなら、主導権を握る立ち立場となり、尊重される、ある種の権威を持つのが最上です。そうでしょう?」
気を利かせてベリルさんが東遷事業の計画表を出してくれたので、今はまだ開始前、でも東遷事業の後に全種族が参加する大規模活動はないから、ゴールはここ、と東遷事業の完成年をトントンと叩いて、限られた期間ですけど、頑張ってくださいね、と応援してみた。
あー。
ミエさんは、食い入るように計画表を凝視して、思考の沼に沈み込んでしまった。ここはこれ以上、話し掛けず、ちょっと考えが纏まるのを待つことにしよう。
◇
暫くして、ミエさんも自分がどっぷり思考に沈んでた事に気付いて、バツが悪そうな顔をしながらも、意識を外に戻してくれた。
「……なかなか刺激的な提案だね。それにアキが言うように確かにこれは私が育てる札、大札だ。ついでだから聞くけれど、何か注意すべきポイントがあれば教えてくれるかい?」
ふむ。
「読者層が誰か、どういった人々か意識するといったところでしょうか。分業化が徹底している小鬼族は短命ということもあって、街エルフほど広く深く多くの分野の事を知らないでしょう。人族はそれよりはマシですけど、やはり自分の国程度までしか意識がなく、人類連合という枠への意識もそう強くありません。どの分野もそうですけど、初心者を厚く迎えて定着させていく努力を怠ると、中間、上位層だけで自己満足した挙句、新規参入者が入らず規模が縮小し廃れていくことになります。小鬼族は僅か四十年程度で一生を終えてしまうのですから、常に新規参入を意識しなくてはなりません。長命な街エルフだけ相手にしているとそうした意識が薄くなりがちかな、と思いました。弧状列島全体をパイとして見た場合、共和国は一口サイズであることを忘れないように。ただ、なら全部、初心者向けにすればいいかというと、それだと内容に不満を持つ既存読者が離れて行ってしまうので、初心者向け、人族一般向け、長命種向けみたいに分けるのも一つの案ですね。そこはまぁミエさんがご専門ですから、上手く差配してみてください」
日本だと、子供向け新聞であるとか、特定分野限定の新聞、業界紙なんてのもあるということで、薬局の新聞とか、化粧品の新聞なんてのもあるんですよ、と紹介すると、お姉様方は驚きの表情を浮かべてくれた。うん、凄くニッチだからね。
「それほど狭い分野でも商売になるほど日本は経済活動規模が大きいって事か。そして共和国内だけでは商売にならないだろう業界紙も、弧状列島全体となれば成立する。いやはや、参ったね。凄い大商いだ」
ミエさんは、一般紙の新聞だけで活動してたところから、子供向け、一般向け、専門向けと多様に広がっていく未来を思い描けたようで、熱い溜息すら零してくれた。いい表情だけど、ちょっと色気が増したので、距離を取って、と。
あー、もう、なんか笑われた。
「当然ですけど、規模が百倍とかになれば、共和国内の人材だけで回すのは不可能です。それに活動を広げる趣旨から言っても、多様な種族から広く人材を集めねば、それほどの活動は不可能でしょう。報道向きの人材なんて、そう多くありません。他の種族とて状況はそう変わらないでしょう。ただ、街エルフのような長命種視点で育成していくのを人族や小鬼族に展開していくのは無理ですから、短期間にある程度、使える人材にまで育てる、といった視点はお忘れなく」
一社ではなく、多くの報道機関が集う一大産業となるであろうこと、そこは多様な種族の集まりとなること、その中で報道規約を作って、共通的な価値観を育てることですよ、と伝えると、ミエさんは少し考えたところで、ふと疑問を口にした。
「ねぇ、アキ。さっきからの話では、意図的に各勢力の政府の事に言及するのを避けてるように思えたけれど、それは何故だい?」
「それは、今回の趣旨として国を動かす両輪、為政者達と対になる市民層に焦点を当ててるからですね。そもそも政府が行うことが常に正しいとは限りません。今のように諸勢力が集ってる中では、各勢力の為政者達の向いている方向も大まかにいえば統一、戦を減らす方向と揃ってはいるものの、差異はあるでしょう。そんな中、横の繋がりを増して、同じ弧状列島の民としての意識を育てた人々には、おかしいと思った時は声を上げられるように、民間ではカバーできない分野を担う国家に対しても、手が足りないところがあれば、意見を出せる程度になって欲しいんですよ。政府も群れの集まりですから、官庁間での権力闘争なんて馬鹿をやったりもしますからね。報道機関がソレをおかしいと非難しても、そうだそうだ、と同意してくれる大勢の市民がいなければ、為政者達も改革に踏み込めません。逆に多くの市民の後押しがあれば、多少の抵抗があっても改革も行えるでしょう」
政府に対抗する勢力ではないですよ、と念押ししておく。政府に言われた事を鵜呑みにするだけの愚民では、世界規模でいうと少数派である弧状列島は、しっかりとした立ち位置で存続し続けることができず、大国に飲み込まれてしまう。山椒は小粒でもぴりりと辛い、って奴ですよ、と話してみたけど、ミエさんは遠慮なく、僕に呆れた視線を向けてきた。
「言葉にすれば簡単でも、それを為すのは容易なことじゃないって奴だ。長老達が言ってた通り、アキの言葉は猛毒だ。名医だけがそれを薬として処方できるってね」
あぁ、そう言えばそんなことヤスケさんも言ってたっけ。
「加減を間違えると政府に睨まれるし、増長した街エルフの民が教えてやる、導いてやる、などという驕った考えを持って手に負えなくなるかもしれず、規模の拡大だけに奔走した挙句、刺激的な記事ばかり扱う品性下劣な新聞社が出てきたりもするかもしれませんね。まぁ、そこはミエさんなら上手くやってくれるでしょう。一応、保護機構的な話をすると、地の種族の活動は、新たに隣人となろうと興味を示してくれた竜族達が常に視ている、というのは安心できる要素でしょう。あまり下劣な真似をしてると、竜達は呆れて背を向けるかもしれません。そう思えば、少しは背筋も伸びるというモノでしょう?」
弧状列島に共に住まう隣人として、竜族の事もお忘れなくと思い出させると、ミエさんも表情を引き締めてくれた。
「アキの見立てでは、全ての竜に竜神子が付いた未来にはその数は三万、関係者がそれぞれ十名程度いたとしても、三十万人からの規模になる。そうなると週刊竜神子業なんて専門紙も成立するだろうから、記者達は厳選しないといけないか。竜族が我々を視るとしても、その竜族が正しくあり続ける術は、今のところ竜神子を通しての繋がりしかない」
竜神の方々が正しいとは誰が保証してくれるというのか、という命題だね。
「今も竜神子支援機構の情報誌という形で、竜神子同士の情報共有は図ってますけど、規模が増えてきたら、そういう専門紙が出てきてくれると便利でしょうね。その時はお願いします。あぁ、でもランキングとか推しとかは避けてくださいね。そういうのは余計な争いにしかなりません」
群れとしての活動が最小限な竜族からすれば、妙な派閥ができるのは嬉しい事態ではないだろうし。
個で活動が完結してる竜族に対して、言葉が通じるからと言って、群れの論理を当て嵌めて勝手にあれこれ考えるのは、判断を誤ることになるので要注意ですよ、と話すと、思わぬところから叩かれることになった。リア姉だ。
「でも、アキや参謀本部は、竜族に軍事レベルの集団行動ができる程度には、群れとしての意識を高めて欲しいんだったよね」
これは痛い。
「まぁね。統一国家に弧状列島の一種族として参加して貰う以上、竜族も変わる必要がある。その為に竜族全体としての纏まりを作って貰おうとしてるとこでもあるし、群れとしての活動には慣れて貰わないと困る」
これを聞いて、ミエさんはにっこりと微笑んだ。
「今よりは群れとしての意識を高めて欲しい、けれど、個として完結してる竜族の生き方をあまり変えないで欲しい。なら、その匙加減は竜神の巫女様にも参加して貰うとしよう。専門紙ができたら、コラムの執筆をして貰うのもいいか」
げ。
「竜神の巫女は権威を担えばいい、って代表の皆さんも話してくれてるし、そういうとこにまで手を伸ばすのはやり過ぎだと思うんですよね。そういうのならほら、リア姉の方が手慣れてるだろうし――」
そんな面倒臭い話なんて巻き込まれたくない、と防衛ラインを敷いたものの、マリさんからも「竜族と直接心話で交流するアキの経験は他の竜神子も聞きたがる筈」なんて援護射撃があったり、ユカリさんからは「リアは論文を書いたりするのは得意だけど、コラムのように不特定多数向けの執筆は逃げ回ってて駄目」とか残念な事実が明かされたりと、散々、弄り倒されることになった。
他人任せにするつもりはないとか、心話で竜族社会でキーとなる方に働きかけるとか、ある程度は助力するよ、と今やってる内容を話したりもしたけど、そもそも目の前までくる天空竜ではなく、その奥にいる社会的な意味で上位の竜に直接働きかけられるのは、心話ができる竜神の巫女だけだとか、色々と突っ込まれることにもなった。
変だなぁ、大まかな方針を伝えたら、後は専門家にお任せして、というつもりなのに、未来の仕事がどんどん増えてってる気がする。うーん。
いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
お姉様方、その一番手は報道系に携わっているミエになりました。
アキの提案は、弧状列島全体の報道を束ねて全国紙でも作ってみたら、って感じの内容でした。今は共和国内だけの商いで、規模的にはニッチな分野の専門紙程度ですからね。その記載内容はと言えば、長命種の街エルフ達が金を払って読もうと思えるだけの高品質。随分と鍛えられた事でしょう。
ミエも、今回の東遷事業という稀有な機会を逃せば、その後に地道に同じ結果に辿り着こうと足掻いても、その労力は何十倍、何百倍と増えてしまい、期間も長くなることが見通せたことでしょう。全種族共通の話題であり、全種族が参加する巨大事業ですからね。同じ内容を報道するなら、規定を定めて逸脱しないよう互いに査読して質を高めていこう、なんて提案も今回だから通じる奇手です。
それとミエも言ってましたが、アキの提案は猛毒もいいところです。せいぜい十年程度の間に活動規模を百倍に、なんて超急成長は中身が伴わず潰れてしまうのが常です。急成長させて、業界として確立する必要はあるけれど、その際に量だけでなく質も伴わないといけない。
世界に自分達だけなら、のんびりしたペースでじっくりやっていけばいい。だけど、世界はあまりに広く、競争相手の多くは弧状列島より大国であり、規模は比較にならない。その中で後手に回っては飲み込まれるのみ……と。
という訳で、ミエもだいぶ、気合が入ったことでしょう。
次回の投稿は、一月十日(水)二十一時五分です。