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21-15.お姉様方へのちょっとした提案

前回のあらすじ:植民地主義からのブロック経済化、その後の対立構造激化なんてところをざっと触れてみました。あと、そんな中、弧状列島って構造的に内部分裂の因子が根強く残ってるから危ういねー、ってところも。歓談の後は、お姉様方はリア姉を伴って、リア姉の自室に雪崩れ込んで行きました。きっとガールズトークって奴でしょう。男子禁制です。(アキ視点)


サブタイトルを変更しました。

旧:21-15.お姉様方へのちょっとした提案(前編)

新:21-15.お姉様方へのちょっとした提案

翌日も、大雨の影響で外の庭は使えず、引き続き、お姉様方との歓談は居間で行うことに。

と言っても、軽く身支度して自室から出た時には、急かさないからしっかり食べてらっしゃい、などと三人は談笑しながら僕を送り出してくれた。


見た感じ、昨日よりは落ち着いた、というか自分の立ち位置を意識してくれた感じかな。昨日は騒がしいホットスタートだったから、そのせいで腰を据えて、という姿勢になり切れてなかった気がする。話の総量が見えてなくて、どれくらいのペース配分で行けばいいかお互いわかってなかった、ってのもあるかな。


 っと。


そして、アイリーンさんに迎えられてキッチンで朝食という流れになったんだけど、居間との間の扉もきっちり締めて、ケイティさんが軽く、内緒話の術式である「風の輪舞曲ロンド」を唱えて、室内なのにゆっくりとテーブル席を囲うように不自然な風の流れが生じた。


同席してくれるのは、母さんとリア姉だけど、さぁ、楽しく家族で食事の時間を楽しみましょう、って感じじゃないなぁ。


二人とも前に湯呑茶碗こそ出てるけど、手元になんか資料とかメモ帳とかあるし。僕が来る直前までなんかあれこれ話していたぞ、って感じだ。隠すつもりはないのと、あれこれ考えていたんだぞ、ってアピールも兼ねてそう。


アイリーンさんが状態保存機能のついたフードカバーを取ると、中から現れたのは、んー、野菜たっぷりの焼肉定食って感じだろうか。匂いからすると、お、これはラム肉だね!


日本あちらのジンギスカンという鉄板料理を再現してみまシタ」


ラム肉が中央に、その周囲をたっぷりの野菜が囲んでいる鉄板は中央が少し高くて、ラム肉から流れ出した肉汁が周囲の野菜の方に流れて、野菜に味が染み込むという奴だ。


 おぉ。


しかも、保管機能のおかげで、もう食べ頃状態、待ち時間なしで食べられる。匂いが凄く暴力的。


「いただきますっ!」


前の二人に僕がどう見えているのかわからないけど、焦らず食べていいから、などと気を使われてしまい、それから僕は黙々とラム肉や野菜にタレをつけてご飯と共に食べ、味噌汁をいただいたり、お茶を飲んだりと、ひたすら食べることに専念し続けた。


料理の形式上、僕にはちょうどいいサイズに切ってあるラム肉や野菜もお爺ちゃんには大き過ぎるし、妖精さん用のカトラリーで食べようにも広くて大きな皿に広がってるところに浮きながら近づいて、食べられるサイズに切り取って、とかは食事じゃなくて曲芸の域になっちゃう。


……と思ったら、アイリーンさんが伏せたティーカップのような金属製の覆いを取って、指先に乗るんじゃないか、という妖精さんサイズの料理皿を出してくれた。見ると米粒サイズにカットされたラム肉や野菜がおままごと道具のようなサイズの鉄板の上によそわれていた。鉄板自体は薄いんだけど台はそこそこの高さがある。


しかも、少し自慢げに語ってくれた事によると、単なる小さな鉄板に見えるけれど、実は台の部分は開放型の保管庫で、短い時間だけど料理の状態を最適に保ってくれるそうだ。


「妖精の方々向けのサイズに切ると、すぐ冷めてしまう問題がありましたが、ヨーゲル様が解決してくれマシタ。これで食事の間は熱々デス」


実際、食べてるお爺ちゃんも「これは美味いのぉ」などと僕に負けず劣らずのペースでがつがつ食べてる。


甘辛いタレもまた絶妙でご飯が進んで、お代わりまで貰うことになった。大満足。


「凄い食べっぷりだね、朝から胃がもたれない?」


リア姉が褒めながらも、どこか呆れた感じで聞いてきた。


「結構、満腹って感じですけど、無理して食べてはいないから大丈夫。あー、でも今日はもう後は軽く摘まむ程度で十分かな」


「精神的なモノなのかしら。アキの食の好みってどちらかというとハヤトやリア寄りね」


母さんも僕の食べっぷりを少し驚きを持って眺めたようだ。


「まぁ僕も、気持ちはともかく、二人のようにここから更に追加で小皿料理を頼んだりはしないから、量は母さん寄りですよ、多分。今回のジンギスカン料理は、なんか昔食べたなーって懐かしい気持ちになって、その分、食が進んだっぽいです」


そう。満腹中枢がストップをかける前に、目の前の料理に専念して食べきった、ってところ。ゆっくり食べていたらお代わりせずに、満腹と言ってたんじゃないかな。


アイリーンさんが出してくれた緑茶が美味しい。


 ふぅ。


……さて。


「それで、二人がこちらにいるのは、お姉様方に聞かせない内緒話をご所望ってとこですか?」


「当たり。昨日は寝るまでの時間も無かったから、今日の段取りを何も聞いてないでしょ。話を聞いてからじゃその場で対応するのも大変だから、予め概要だけでも聞いておきたいんだ」


リア姉がそう言って、聞く準備は整えた、というように示した先では、もうベリルさんがノートを広げてペンを持って書く準備万端で待ち構えていた。


 あー。


「そう言えば、昨日はケイティさんともお姉様方の印象とか、話した感触とか、香水の話題とか話して終わっちゃってた。でも、今日は多分、伝えるだけなら午前中で終わると思うよ?」


「なら、明日も確保したけど、明日の分も今日纏めて話すかい?」


 んー。


「一方的に話すだけだとイマイチ、思考が深くならないから、お姉様方には今日、それぞれに提案を伝えた上で、外向けの施策を考えて貰った方が面白いかなーって思うんだけどどうかな?」


「外向けって?」


「ほら、お姉様方はそれぞれがある程度の規模の会社をお持ちで、弧状列島内に対する影響力を行使できるでしょう? だから、今日はその範囲で役立ちそうな提案を伝えようかな、って。この惑星ほしの現状と置かれている立場は昨日伝えてあるから、それらを元に弧状列島の外、未探査地域を含めた多くの国々に対して、どう関与していくのか、ってとこまで思いを巡らせて貰いたいんだ」


だから、今日は内の話、明日は外の話、と簡潔に伝えると、何だろう、皆さんの表情が一瞬固まった気がした。


一瞬で氷結状態を壊して、母さんが殊更、穏やかな声で問い掛けてきた。


「アキ、少し時間尺度タイムスケールが長過ぎる話にならないかしら?」


 おや。


「でも、街エルフ換算だと、子供が義務教育を終えて成人の儀を迎えて一人前になる期間の半分程度ですよ? それくらいのスパン程度までなら考えて動いた方がいいと思うんですよ。ほら、ヤスケ御爺様達、為政者の皆さんを社会を推進する車輪とするなら、もう一方の車輪は国民達であって、その両輪が揃って同じ方向を向いて同じペースで進んでいかないと、おかしな方向に進んじゃうじゃないですか。そして、お姉様方はその国民に強く働きかける力を持っている。なら、為政者と同じ目線で先を見越して――」


おや、ケイティさんが手をあげた。


「アキ様、そのお話であれば、説明を二度行う手間を省く意味でも、両輪の一方である為政者、その代表として制限のない話に参加できるヤスケ様に同席をお願いした方が良くないですか?」


 ふむ。


「今日の話は、お姉様方それぞれへの個別の提案だから、ヤスケさんがそこまで首を突っ込む必要はないと思います。でも、確かに明日の話なら、同席してくれた方が話が進むでしょうね。スケジュール調整して貰っていいです?」


「構いませんが、先ほどの言葉だけで招くのは難しいので、もう少しお話ください。予め資料があった方が良い内容であったり、地図や図が必要そうであれば、それもお願いします。それらは明日までに用意致します」


なるほど。


「少し時間かかっても大丈夫です? お姉様方を待たせちゃいますけど」


この問いには、リア姉が問題ないと太鼓判を押してくれた。


「そもそも私と母さん、それにスタッフ達が話を聞いて段取りをつける件は、ちゃんと合意を取ってあるから安心していいよ。それじゃ、えっと、先ずは国内向けに三人それぞれへの提案をするんだっけ? あと、明日の提案っていうのは個別というよりは弧状列島の統一政府や国民が行うべき内容ってとこで合ってる? 誰がやるか具体的なところは後から決めるとして、大枠で言うとそのレベルの集団が実施すべき提案って捉えたんだけど」


 おぉ。


「うん、リア姉の認識で合ってるよ。今日伝える内容は各自で考えて貰えばいいけど、明日の話だと、その中の誰かが動いてどうにかする粒度の話じゃないからね。人工衛星たんぽぽの機能強化や改造とかだと、多分、お姉様方じゃなく財閥が絡む案件でしょ?」


「あー、そうだね。そもそも財閥というより私の研究所が絡む案件かもね。それじゃ、ちゃっちゃと片付けて行こうか。で、先ずは三人が携わる分野、報道とか――」


リア姉が仕切ってくれて、いつのまにやら、ハンドサインで呼び出したシャンタールさんまでやってきて、そこから、そこそこがっつり提案していこう、話題にしようと思った内容を列挙することになった。





小一時間を費やして話を終えて居間に向かうと、お姉様方がやっときた、と探るような視線を向けて来た。


「随分時間が掛かったわね。何かトラブルでもあったのかしら?」


ミエさんの問いには、ケイティさんが答えてくれる。


「アキ様が思い描いていた提案のうち、明日行う予定の分については、長老のヤスケ様も同席される方向で調整する事となりました。他にも資料の用意が必要となることが判明し、その内容を詰めていた為、お待たせすることになりました」


「は? ヤスケ様? ナンデ?」


あぁ、そんなにショックを受けたって気持ちを全身で表現しなくてもいいのに。


「色々と相談してみたんですけど、話す内容がヤスケ御爺様達も絡む粒度で、皆さんと認識を合わせておいた方が良いってことになりまして。同じことを二度分けて行っても、その後、ヤスケ御爺様とお姉様方の認識合わせの場を設ける手間を掛けるくらいなら、一緒に参加して貰う事にしました」


その分、今日は、ボリューム少な目ですから、というと、三人は嬉しがったりせず、怪しむ眼差しを露骨に向けてきた。


「それはアキが私達に話す内容が少ないだけで、明日までの時間に私達に何かやらせようという目論見だったりしない?」


ユカリさんが踏み込んできた。いやぁ、やっぱ鋭い。


「ですね。昨日は僕達を取り巻く環境についてお伝えし、今日は皆さんそれぞれに、お土産としての提案をお話するつもりです。つまり手札を渡すってことですね。それで、お姉様方には明日までに現時点の場と手札から、僕が暫定で儲ける到達地点に向けて、今後、何をしていくべきか考えて貰う、それを明日の歓談の時までの宿題としようかな、ってとこです。一方的に僕から話を聞くだけより、場と手札からあれこれ実際に考えてみた方が気付きもあるでしょう? 良い気付きがあれば、明日の歓談の実りも多く豊かになります」


そうなってくれる、と楽しみにしてますよ、と手をパチンと打って、ね、と誘ってみたけど、お姉様方はいまいち、打てば響くような反応が返ってこない。うーん。


っと、マリさんが申し訳なさそうに一応、フォローしてくれた。


「趣旨は理解したけれど、先ずはアキが渡してくれるという手札を見てからでないと、楽しめるかどうかはわからないわね。でもお土産なのだから期待しても良いのよね?」


などと、耳障りの良い声で問い掛けてきた。声は心地良いんだけれど、副音声で、ちゃんとした手札を渡しなさい、と本音が透けて聞こえてくるのだから質が悪い。


「勿論です。僕が話す内容は呼び水程度ですからね。でも皆さんなら、ちゃんとそこからしっかり手札を育て揃えて、明日の歓談に備えて色々と策を考えてくれるでしょう」


「あら、直接、手札は渡してくれないの?」


「僕は転がっているパーツを搔き集めて、話のネタになるだろうブロックを組み立てて示すだけですからね。上手く今お持ちの手札を育てて増やしてください。皆さんお得意の分野ですよ」


だから大丈夫、とアピールしたけど、お姉様方は、あら嬉しい、などと言いながらも慎重な態度は崩さなかった。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

今回はキリがいいので短いですけどここまでとします。


今回、キッチンで術式「風の輪舞曲ロンド」を唱えてますが、多分、一度試しに唱えて埃が舞って酷い事になってたと思うんですよね。アキが起きてくる時間帯は遅いので、そうした惨劇の後は綺麗に清掃されて残ってませんが、きっと一敗後です。


今回は妖精さん向けの開放型保管庫の紹介がありました。サイズが人間の1/6、それは縦、横、高さがそれぞれ1/6なので、一口サイズのお肉というと、米粒サイズに近くなってしまうんですよね。なので単なる保温プレートでは水分が蒸発してぱさぱさになってしまうので「熱々を妖精さんにも食べて貰いたい」というシンプルな要望も実現するのは大変だったことでしょう。

あと、翁のこの体験を受けて、妖精の国でも適度に温かい、あるいは冷たい料理への知見が広がっていくことになります。通常の攻撃系術式と違い、手に持ったカップ内の僅かな水滴サイズのスープを適度に温める術式とか、米粒サイズの肉片の中まで火を通しつつ表面を焦げ付かせない術式とか、とか。こちらの世界ではほぼニーズがないニッチな分野ですけど、妖精達なら誰でも魔術は呼吸をするように使えるので、物凄いペースでその手の術式は発展していくでしょう。


アキは軽く「内と外」と言い分けてましたけど、都道府県サイズを国、と称してきた人々に対して、弧状列島全体を一つの国、内政問題としてぇ、などと軽く語られると、言葉は平易で聞き取れても、脳が理解を拒絶しちゃうでしょうね。幕末動乱時に、藩の単位でなく、日本全体で物事を考えること、それを必要とした人がどれほどいたかと言えば、いないとは言いませんが、結構少なかったでしょう。まつりごとを担っていた幕府の人達も、幕府は、と幕府視点で考えてましたから。


明日はヤスケさんも同席しますよ、と言われてお姉様方が目一杯嫌がってましたが、まぁ仕方ないところでしょうね。ヤスケさん、竜族と殺りあっていた、ガチな戦中派ですから。談笑しながら一瞬で意識を切り替えて目の前の相手の首を刎ねるくらいの真似は平然と行えるような人です。アキは竜族への意識が真逆だけど話をすると楽しい御爺様、と認識してるので、すっかりお爺ちゃんっ子してて、アキ視点で語られる本編だと、その辺りの温度差がわかりにくいところはあります。


まぁ、アキの隣でふわふわ浮いて話題を振られれば話に参加してくる翁も、和やかな雰囲気を保ちながらも、子守妖精として周囲の一挙手一投足を見逃さず、必要があれば瞬間発動させた投槍で撃ち抜いてくるだろう抜き身の刀のような鋭さをちらつかせてる訳ですから、ヤスケから言わせると、どっちもどっち、と言いたいところでしょうね。


次パートからは、お姉様方への実際の提案をちゃっちゃと伝えていくことになります。字面だけだとシンプルな話が多いんですよね。言うのは簡単やるのは至難、という定番ですけど。


次回の投稿は、一月七日(日)二十一時五分です。

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