21-12.地球(あちら)の歴史と比較したこちらの現状説明(前編)
前回のあらすじ:お姉様方へのちょっとした提案、その前提として何を理解してればいいのか、その概要の大見出しレベルについて列挙しました。思ったより情報へのアクセスに制限が掛かってたので、説明内容も増えて、今日を含めて延べ三日、時間を置いて質疑応答日も設けて合計四日を費やすことに。ちょっと手間ですけど、まぁ三人に財閥くらい元気に動いて貰おうと思えば、僅かな投資、頑張っていきましょう。(アキ視点)
では、こちらの世界、惑星について概要を説明していこう。
「こちらの惑星では空には天空竜、大陸には地竜、海洋には海竜が睨みを利かせているので、それ以外の種族は竜達と衝突しないよう棲み分けを行うことで暮らしています。この点が地球との大きな違いですね」
竜族は空、陸、海のいずれでも最強の個であり、個で軍に匹敵する戦力を発揮する。天空竜の支配する地域ではいつ空から襲撃されてもおかしくないし、地竜が練り歩く道は幹線道路よりもずっと太く、進行上にある全ては踏み潰されるのみ。そして海竜が泳ぐ海では超高圧の水流を叩きつけてきたり、水を汚した海辺の街に対して合同術式で津波を放って洗い流すような真似もするという。
竜は圧倒的に強く、意思ある天災であり、棲み分ける以外に策はない、それがこの世界の常識だ。
これまでに得られた海外情報や弧状列島の歴史を見る限り、三界を支配する竜達、その中でも最強と称される空飛ぶ竜、天空竜に対して本気で殲滅戦争を仕掛けたのは街エルフ達だけであり、そんな彼らと不可侵協定を結んだのも弧状列島に住まう天空竜達だけだった。
「その通り。義務教育で習う内容通りだね」
「です。ところで、弧状列島には地竜は住んでおらず、列島の隅々まで天空竜達の飛ぶ様が観察できますけど、これ、世界的に見るとかなり特異な状態だという話はご存じですか?」
「特異?」
ん、やっぱり、天空竜についての雑誌紹介記事にも載って無かったし伝わってないか。
「これは雲取様にも伺って確認してますけど、天空竜って実は飛び回れる距離が短いんです。戦闘行動半径、つまり飛んで戦って自分の巣に帰ってこれる距離、これが天空竜達の行動範囲なんですけど、往復の飛行と一回の戦闘を想定するだけじゃなく、念の為、更にもう一戦するだけの余力を残して飛んでいるそうです。大雑把に言えば保有する魔力の三割程度しか飛行に割り当ててないんですね。しかも往復なので、片道の距離にすると一割五分程度の魔力までしか巣から離れられません。それと天空竜達は必ず山の上、魔力の豊富なところに巣を作り、その周囲を縄張りとします。この事と弧状列島で確認されている竜の縄張りの分布、竜が住まう山の高さの関係を世界に当て嵌めてみましょう」
ここで、ある程度の高度の山々とそこから戦闘行動半径相当の距離までを塗った世界地図を出して貰った。ベリルさんが話の流れに合わせて空間鞄からさっと取り出して、机の上に出してくれた。
その世界地図からは、弧状列島は全域が天空竜の戦闘行動半径に覆われたけれど、他の大陸では天空竜の活動範囲外の地域がかなり多いことが見て取れた。
「この通り、高い山と狭い平地という地形は世界的に見ると多くありません。延々と続くなだらかな大地、どこまでも続く砂漠といったように、近くに高所がないといった地域の方が多いのです。実際、大陸でも地竜が練り歩くエリアは、天空竜達の縄張りと被らない範囲にあって、なだらかな大地を彼らは踏みしめて闊歩しているそうです」
地竜は大陸規模で周回するように移動する生活をしていて、その活動範囲はとても広い。南は亜熱帯地域、北は寒帯地域まで歩いてるというのだから、大陸で暮らしていると、地竜達の移動は台風や竜巻のような扱いで、彼らの通る道には決して近付かないよう注意しなくてはならないそうだ。
「弧状列島では空に天空竜達がいるのが当たり前ですけど、世界的視点で見ると、そうした空は全体の一割にも満たないのです。大陸を我が物顔で歩いている地竜の方が大地の覇者として隆盛を極めていると言っても過言ではないでしょう。同様に世界の七割は海であり、そこを巨大な庭のように周回して泳いでいる海竜達もまた、海洋の覇者ですね」
判明している海竜の周回ルートを示した海図を出して貰い、その規模の広さ、赤道付近から極地域までを泳ぐスケールの広さにお姉様方も感銘を受けてくれた。
◇
「それから、大地に満ちた魔力の強さなんですけど、やはり弧状列島は世界的に見ても特異で、その魔力は高めです。北方、鬼族連邦の地域は魔力が強く、それが彼らの強さを支えているとも言えます。実際、彼らは圧倒的な武を誇りながらも魔力の比較的弱めな地域にその活動域を広げてくることがありませんでした。明言はされてませんが、鬼族が海外渡航において魔力不足に苦慮していることを考えると、彼らの生活域には多くの魔力が満ちていることが重要なのでしょう。そして世界的にみると探査済みの地域や情報が入ってきている隣接地域では、連邦領ほどの高い魔力は見つかっていません。未探査領域も含めてもせいぜい今の連邦領と同程度の広さしかないのではないか、というのが僕の見立てです」
共和国のある島や、今は呪いに覆われてしまっている「死の大地」も世界的に見ると魔力は高めで、世界の殆どの地域は人族や小鬼族が住むのに適した程度の薄い魔力しかありません、と補足した。
「探査船団は遠い地まで探査や交易に行っているし、船員や探索者達から魔力不足に苦しんだ話も聞いたことがないわ」
ユカリさんが疑問を口にした。というかやっぱ、探査船団の人達はお得意様か。まぁ芸事を求めてぱーっとお金を使う人も多そうではある。
これはケイティさんがフォローしてくれた。
「その件ですが、外洋帆船はその大きな帆によって潤沢に魔力を生み出して、船員や探索者達に不調を生じないだけの魔力を提供しています。また、多くの魔力を籠めた宝珠も空間鞄内に詰めて行動するのが常なので、船外活動においても必要に応じて宝珠の魔力を利用することでやはり、魔力不足は回避できています」
なるほど。
というか、以前、鬼族の皆さんが渡航できるようにお弁当箱のように宝珠に魔力を籠めて持ち歩けば、と言ってたけど、それに近い事はやってるんだね。
「街エルフの方が魔力を多く必要とする感じですか?」
「そうですね。鬼族の方々ほどではありませんが、食事に魔力を多く含む食材を入れた品を一つ増やすといった工夫はしていました」
「あぁ、その程度なんですね。それでも宝珠を持ち歩くのは何故です?」
「いざという時に瞬時に使えるのは体内魔力なので、宝珠に篭めた魔力は先に使っていくのです。その分、体内魔力を温存できますから」
「ふむふむ」
ん、ミエさんが手を上げた。
「その話からすると、同行していた人族の方が魔力不足に陥りにくい? それとも個人差の方が大きい?」
「魔導師のように魔力の高い者ほど、その地の魔力量の少なさに難儀してました」
ふむ。
「どこでも魔力が強い探索者が良い訳ではないってとこですか」
「周囲の魔力が薄いと、私のような魔導師は逆に目立ってしまいますからね。そうした場では魔力の少ない者の方が潜伏行動に向いていたりします」
なるほど。
「ちなみに魔力が全くない地域はありました?」
「私の知る限りでは、薄い地域はあっても魔力のない地域は発見されていません」
残念。
「まぁ、そこは未探査領域に期待しましょう。魔力ゼロの地域があると、そこで科学のこちらでの検証もサクサク進みますからね」
さて、ここで四人用チェスの登場だ。
「では、今の話を踏まえてこちらをご覧ください。弧状列島では街エルフや森エルフ、ドワーフ、竜族といった少人数の種族を全部足した人数が駒一つとすると、鬼族は駒五個、人族は駒二十個、小鬼族が駒三十個といった比率くらいになるでしょう。厳密な割合じゃありませんけど、小鬼族は他全てと同じくらい多く、鬼族は優れた武を持って数の差を補っているイメージです」
そして、その隣の盤には世界レベルでの人種の比率を示してみる。
「こちらは世界目線ですけど、その他少数を一駒とすると、鬼族はせいぜい二駒、残りを人族と小鬼族が埋め尽くす感じでしょう。多分、小鬼族に向いている魔力の薄い地域の方がずっと多いでしょうね」
そう言って、実際、小鬼族の駒が盤面の半分以上を埋めている状況を指し示した。お姉様方も弧状列島の人口比率がかなり特異だ、と気付いてくれたようだ。
◇
「次は夜間地図を見てみましょうか。こちらは弧状列島を見てみるとかなり興味深い状況が見て取れます。共和国の島は実際には大勢が住んでいるものの、建物の壁や屋根を緑で覆い、夜間も照明の光が外に漏れないよう工夫しているので、昼間の地図でも街の位置がよくわかりませんし、夜間地図を見ても、人々の営みを示す灯りが殆ど観測されておらず、まるで無人地帯のようです。それに比べると天空竜との確執がない連合領は、夜目が利かない人族の特性もあって、街は周囲を監視の為に照らしていて夜間地図では街がかなり目立ってます。鬼族もそれに準じる程度、小鬼族の街の灯りが弱いのは多分、夜目が利くのと物資の節約をしているからでしょう」
そう言って、今度は世界の夜間地図を示してみた。この街灯りの分布がまた面白い。
「どうです? これを見ると街エルフほど徹底した灯火管制や街の隠蔽をしている地域はどうも他には存在しないようです。大陸では気性の荒い天空竜の飛翔する地域から人々は逃げだして、離れた地に都市を築いているようですね。それに比べると地竜は歩くルートが決まっているせいか、街の分布はそれほど偏っていません。それに未探査地域にも多くの地の種族が住んでいて街を建設していることがわかります。こうして灯りから判断すると、連合の二大国を遥かに超える巨大な都市が世界にはあちこちに存在していることも確認できますね」
この精度だと大雑把な街の規模くらいしか判断できないのが残念、と話すと、行ったこともない遠く離れた地の都市の位置や規模が把握できるだけでも、驚異的なことだ、と窘められることになった。うん、そう、そこなんだ。
「はい、凄いことですよね。こうして惑星が丸いことが認識できるほど遠く離れたところに人工衛星を飛ばして運用できている共和国だからこそ知りえることで、宇宙空間はおろか、天空竜達が飛び回る大空すら活動の場としていない地の種族からすれば、誰も到達したことのない地域は未知の領域であり、そこが海なのか陸なのかすらわかりません。航行する船からは水平線の先は見えないのですから。それに街エルフはかなり把握している海竜の回遊ルートも、他の地域の国々からすればやはり見えない情報であり、この広い海洋のどこに海竜達が泳いでいるのか理解できず、かなり慎重に航海をせざるを得ないでしょう」
ここで、メルカトル図法の地図に意識を向けて貰う。航行中の船から見渡せる範囲、高いマストの上から眺められるせいぜい半径二十キロを示す駒をおいてみた。実際にはそれほどの長距離が観測できるほど天候に恵まれる事の方が稀だけど、そこはまぁ置いておく。
「これは航行中の帆船から、同程度の帆船を観測できる範囲です。高精度船舶用時計、船舶用羅針盤と対象地域での磁北との偏角情報、それと六分儀を用いた天測航法なら、世界儀のどの位置にいるのか、この駒の中心、鉛筆の芯くらいの範囲まで絞り込めます。他国が知る世界儀では未探査領域は灰色一色で、どこに何があるかわかりません。見えるのはほんの少し自分の周辺だけです。それに衛星から観測していれば、進路の先に野分(台風)があれば避ける選択もできるでしょう。でもそんな遥か先など見える筈もない普通の船なら、海が時化ってきたら、帆を畳んで転覆しないよう祈るしかありません。この差もまた大きいですね」
世界はこれほど広いのに、現在位置は数キロ範囲まで天測航法で絞り込めても、そもそも周辺海域がどうなっているかわからなければ、不安が解消されることはないだろう。どこまで進んでも見えるのは海、海、海。これで風が凪いでしまって、船足が止まってしまったりすれば、船員達のストレスは簡単に上限突破してしまいそうだ。
「世界はとても広く、海の先に何があるのか知り、海竜達を避けて航行できることは圧倒的に優位ね」
マリさんが灌漑深げに呟いた。うん、そうだね。
「海竜の周回ルートの絞り込みも、探査船団の皆さんがソナーに耳を澄まして、海竜達の声を聞いたら地図上にその位置をプロットするという地道な作業を繰り返してくれた事で見えてきた情報です。地球でも周囲の音を受動的に聞くソナーが搭載されたのって五十年ほど前からでしたからね」
線のように見える周回ルートも実は聴音手が記した無数の点の集まりなのだ、と話すとその労力の多さにお姉様方も目を丸くするほどだった。途轍もない労力だもんね、ほんと、根気のいる作業を積み重ねてくれたね。
これにはケイティさんも補足してくれる。
「こちらの周回ルートですが、海竜を発見した際の日時も合わせて記録することで、どの時期に海竜達の集団が多く泳いでいるのか、どの時期であれば疎らになるのかも見えてくるようになりました。今日の安定した交易もそうした情報が無ければ成立しなかったでしょう」
小さなプロットが一年、三百六十五日、記されていったことでその価値を高めていったんだね。
ケイティさんは、おまけで発見した際の月の満ち欠けや水温も影響していると教えてくれた。天候はあまり関係してないとのこと。
僕はこうした話は大好きだけど、お姉様方の興味がちょい薄れてきたので、次の話に移ろう。
◇
「安全に航海すること、世界地図を持っていること、これらは街エルフの探査船団に大きな優位性を与えてくれてます。勿論、船自体の性能もあるんですけど、その中でも重要なのは転移門、船団と共和国の間での直接通信を可能とする設備の存在です。これのあるのとないのでは、船団の運用に天と地ほどの差が出てきます」
これについては最高機密のようで、ユカリさんも特別な通信手段がある、くらいにしか把握していなかったから、その仕組みについて軽く説明を行った。予め対とした転移門を用意しておく必要があり、起動と維持には膨大な魔力を必要とするけれど、距離を超えて転移門同士が繋がり、直接、物を受け渡すことが可能となる街エルフ固有の魔導具だと。そして転移門が小さく、受け渡す物が小さく、転移門を稼働させる時間が短いほど魔力が節約できるので、実際の船団では、ミリ単位の小さな宝珠を一瞬受け渡してすぐ転移門は閉じてしまうそうだ。その宝珠には情報がぎゅうぎゅう圧縮して詰められていて、受け取った側はそれを解凍して読み取るとのこと。
いまいち、ピンとこなかったようなので、船団が離れた位置にAとBの二つがいて、片方が何か問題を起こしたとする。助けが欲しい船団Aから現在位置と状況が船団Bに届けば、船団Bは船団Aを救助しに向かうことができるという例で説明してみた。一般的な通信術式では大洋レベルの超長距離となるととてもじゃないが実用的に使うことはできないし、こちらでは電波通信も使えないから、船は出航したら他と連絡を取り合うことが転移門がなければ不可能になってしまう。街エルフ以外ではそれが絶対の原則だった。
追加効果として、転移門が完全に同期していることを利用した時刻合わせもできる。本国に置かれた標準時計の指定時刻に合わせて門を稼働させれば、その時刻を船団側は認識し、搭載されている高精度船舶用時計の時刻補正ができるのだ。その為、半年の航海を続けても誤差が秒未満という恐ろしい精度を実現している。これに衛星観測データと磁北の補正を合わせると、正確に太陽が真南にきたタイミングでその時刻を確認でき、その結果、秒未満の誤差で現在位置の緯度を割り出せる事になる。
これがどれくらい凄いかというと、惑星が一日かけて自転する三百六十度を、秒単位つまり、八万六千四百に分割したラインである緯度上に船団がいることが確認できることを意味するのである。
地球では赤道上の円周は約四万キロだから上記秒数で分割すれば一単位がキロを下回り、実質、四百メートル程度の精度が出るのだ。
正確な時計だからできる絶技であって、普通、機械式時計の日差、つまり一日で生じる誤差は±5秒とかだし、クォーツ式でも一般品だと月差で±20秒、超精度品だとなんと年差±1秒とかだから、転移門を用いた誤差修正付時計はそれに匹敵する極限域ってこと。もうこれを超えるのは電波時計しかない。
っと、話を戻すと、後は六分儀でちゃんと様々な天体との角度を計測して計算すれば経度も割り出せるのだが、その精度は緯度の倍、最高精度では二百メートルなんて値になったりする。吃驚だね。
なんて感じに天測航法について踏み込んだ説明をしたら、街エルフの義務教育範囲に含まれていないそうで、お姉様方も世界儀上の一点、針先のような精度で船団が位置を認識しながら航行できることの凄さを実感してくれた。ふぅ。
あ、こっちの外洋大型帆船って船殻がチタン合金だったりするし、磁力ベースの羅針盤じゃなく、金属の影響を受けない転輪羅針儀の方を使ってるのかもしれない。機会があれば聞いてみよう。
「それに、天候不順で帰港が遅れるなんて話があったとしても、通信手段がなければ、不幸があって船は沈んでしまったのか、座礁してしまったのか、どこかの港に避難しているのか等々、あれこれ考えたとしてもそれを確認する術がありません。他にも、予定していたよりも特定の交易品を多く仕入れてくれ、といったような注文変更も通信手段があれば伝えることができます。便利でしょう?」
なければ、半年後に帰ってくるまで、ただ待っているしかありませんから、と話すと、お姉様方も探査船団の船旅の長さ、目的地の遠さを改めて意識してくれた。
ユカリさんがくすっと笑いながら指摘してくれる。
「その貴重な転移門の通信で、弧状列島内の仕事枠を先に埋めるな、と脅したりもできるのね」
あー、うん。
「遠く離れた地にいるので、本国の情報が少しとはいえ得られるだけでも心強いモノはあるでしょう。どうもファウスト船長に伺った感じだと、結構私的、というか感情溢れるやり取りもそれなりに行われている感じですけど、そうした贅沢な使い方ができるのも通信手段があればこそですね」
ファウスト船長が日々、変化を続ける弧状列島の様子をちまちまと各地の船団へと伝え、その結果、なぜ、そんな面白い時に自分達は遠く離れた地にいるんだ、と怨嗟の声を響かせることにもなったらしい。何やってんだか。
他国にはない未探査地域まで含めた世界地図、海竜達の周回ルート情報、衛星から探査した予定海域の天候情報、それに距離を超えた直接通信手段の確立、と。
他にも風が無くても航行できる魔導推進器とか、外敵からの発見率を低減してくれる光学迷彩とか、遠く離れた海竜同士の内緒話すら聞き逃さない巨大な受動的ソナーとか、優位なポイントは盛り沢山なんだけどね。
さて。ここまでで、お姉様方は、この惑星の広さ、未到達領域の広さ、海の広さ、推定人口分布、街エルフを含む種族がどれくらい少数派なのか、弧状列島がどれだけ特異なのか、街エルフの探査船団がどれほどの優位性を備えているのか知ることになった。それに探査船団の視認できる範囲のちっぽけさも知ったので、全方位どこまで見ても海しか見えない状況の心細さ、不安さなどもイメージできた事だろう。先は長いね。
ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
はい、アキも纏めたように、惑星規模での全体把握、弧状列島の位置と特異性について説明が終わりました。んー、このペースだとほんとに前中後編で、前提部分の説明が終わるのかどうか……?
なお、本編では航海士がまるで手作業で現在地特定作業をしているかのようにアキが話してますが、ファウスト船長やケイティに聞けば「まぁ、普段はそれらを自動化した魔導具でやってますよ。太陽や複数の恒星の位置を観測して自動で緯度、経度を表示してくれます」なんて話も聞けたことでしょう。揺れる船上で六分儀を用いて対象毎にいちいち測定してたら時間が掛かる上に精度も落ちますから。
それと、年差±1秒とかいう変態精度の腕時計はCITIZENさんのCaliber0100という逸品です。ラインナップを見ても限定品しか並んでなくて、水晶振動子のカットに工夫をして気温や重力の影響を極力排していたり通常の256倍の周波数で動作したり、それを伝えるドライブ機構自体も歯車のあそび部分を埋める特別な歯車を追加したり、温度計測して補正処理してたりと、うん、とにかく、あー、妥協しないとここまでしちゃうんだーってな製品なんです。なのにお値段はなんと八十万円程度。いやぁ安い、安い。エコ・ドライブのおかげで光がある限り、超精度で動き続けてくれて電池交換も不要。さすがCITIZENさん。日本人として誇らしいです。まぁ、私の腕には活動量計が付いているので、腕時計さんは随分前に退場されましたけど。
スマホさんは、NITZ規格対応で「日付と時刻の自動設定」をONにしておけば、定期的に時刻補正してくれるのでズレてる人は、基地局から離れた圏外地域で延々と活動し続けたような人くらいしかいないでしょう。科学の力ってばスゲーです、ほんと。
それとアキも気付いたように、金属船殻の街エルフの外洋帆船では方位磁針を用いる羅針盤はいまいち精度がでません。一応予備で搭載はしてますけどね。なので転輪羅針儀を使ってます。船殻はチタン合金製、船体は消磁処理が施してあります。ただ、金属製品はやはり多いですからね。羅針盤はあくまでも予備です。
戦闘行動半径って概念は、航空機が発達してないこちらの世界には無い概念です。自動車も船舶も航続距離、つまり片道での移動概念がベースなのに対して、航空機、特に戦闘用の場合、基地から出撃して同じ基地に戻るのが運用の基本だからこそ生まれたんですよね。飛行機だと混雑してるから、はい、明日まで外で待ってて、とかできないってのもあります。燃料切れで墜落しちゃうから、離発着の管理は厳密にせざるをえません。こちらだと天空竜達なら、どこでも簡単にふわりと着陸できるので墜落の危険性はないんですが、誰でも使える汎用のホテルのように休める巣なんてのはありませんからね。どうしても自分の巣との往復が基本になります。
あとは、そう、街エルフの探索者達が作戦行動を行う際に魔力補填用に宝珠を持ち歩いてる件は、弧状列島全体で言えば、頭おかしいブルジョワ装備です。普通は疲れたらそこで休憩、或いはキャンプを設営して休むだけです。勿論、街エルフの探索者チームとて、全てがソレという訳ではないんですが、情報を持ち帰ること、何も現地に残さないこと、全員帰還すること、可能なら無傷で、という方針があるので、この辺りは結構過保護なのでした。ネジ一本残すだけでも色々バレますからね。示威行動とかする割にはそういった部分は気を付けてます。
……察しの良い方ならお気付きのように、どの分野でも最低限プロレベルを達成とか言ってる頭おかしい街エルフ達でも、船乗りになるのは1%に満たないくらいとなれば、端折ってる分野も色々ある事も露呈してきました。アキは散らばってる様々な情報から、それらを組み上げて、はいっと提案(完成したサンプル)を出してくる訳ですけど、きっと、他の人達から見れば、それはまるで手品のように見えることでしょう。そうしたズレはお姉様方視点のSSで補填しますね。
次回の投稿は、十二月二十七日(水)二十一時五分です。