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21-11.マコト文書専門家として全リミッター解除

前回のあらすじ:三者三様、お姉様達の本業である報道系、出版系、芸事系について、あれこれ聞くことができました。多少の違いはあるにせよ、ほぼ想定内だったので、これなら僕のちょっとした提案もそのまま出せそうです。せっかく遠路はるばるやってきてくれたのだから、良いお土産を渡したいですね。(アキ視点)

お姉さま方の三者三様、報道系、出版系、芸事系について、ここ一年の活動をそれぞれを取り巻く環境、今後の見通しについて教えて貰うことができた。


聞いた感じでは、経営状態に問題は無さげだし、規模を広げていけるくらい余力があるけど、無理に広げて中身スカスカと言う事もない辺りは手堅くて好感が持てる。


「あ、ケイティさん、歪みを是正したグード図法の世界地図と、その夜間地図、それから世界儀、四人用チェスの用意をお願いします」


「四人用チェスは例の種族別人口に比例した駒の配置でしょうか?」


「えっと、今回は弧状列島内の分布にしましょう。あ、もう一つセットがあるようなら、世界全体の配置も並べて欲しいです」


「では、そのように並べましょう」


ケイティさんはこんなこともあろうかと、と四人用チェス盤を二つ並べてくれた。ちゃんと盤の隣には弧状列島、世界全域という見出し札まで付けてくれる気の使い様だ。それに地図の方も、弧状列島のみの拡大図で地形把握用と夜間地図を用意してくれてる。


「ありがとうございます、完璧です」


「恐縮デス」


ベリルさんが恭しく頭を下げてくれた。やっぱりベリルさん達のチーム作か。うん、いいね「こんな事もあろうかと」って言ってさらりとフォローしてくれると。使われない資料がどれくらい埋もれているのか気になるとこはあるけど、藪蛇になりそうなので、ここはさらりと流しておこう。


ん、マリさんが手を上げた。


「グード図法の地図は二人には馴染みがないだろうから説明を」


あぁ、なるほど。


「国内報道メインのミエさんは弧状列島付近の拡大図に慣れ親しんでいるでしょうし、ユカリさんだと共和国とロングヒル周囲の地図程度で十分だったでしょうから、確かに馴染みがないですね。では世界儀と航海で用いられるメルカトル図法の地図、その特徴と問題点、それと今回お出ししているグード図法の特徴についてお話していきますね。えっと――」


そこからは、まず世界の基本は球形の世界儀でこれは方位、距離、面積の全てがほぼ正しくてこれが基本。実際には世界は赤道面で大きいから完全球形じゃないんだけど、まぁ実運用上支障がない範囲だから、そこは端折る。


で、よく目にする平面世界地図、ロシアやアイスランド、南極がやたらと巨大に描かれるメルカトル図法だけど、これは航海に必要な方位が正しく表現される利点がある。その代わり、球体表面を平面に落しているから、極に近付くほど面積が大きくなる欠点があるんだよね。メルカトル図法のロシアと地球儀でロシアを真上から見た場合のロシアだと倍くらい面積が違うから、思ったより小さいと驚いた事がある人もいると思う。


あとメルカトル図法だとそもそも南極大陸なんて横長に描かれていて形状すら不明な状態だ。まぁ南極は殆ど訪れる人もいないから、南極を真上から見た南極大陸図の方が馴染みがあるだろうけど。


で、グード図法は人が住んでない海洋部分にばっさりと大胆に切り込みを入れて、メルカトル図法のように極地方側を広げて描かないことで、歪みをできるだけ少なくして、面積を把握する事に長けた地図だ。その代わり、方位や距離感は地続き部分はそれなりだけど、海越し部分は諦めている地図でもある。


「世界はこの通り丸いので、自国、この場合だと弧状列島を中心に世界を見渡してみようとしても、裏側は勿論、少し角度が付いただけでも同時に把握するのが難しくなっちゃうんですよね。なので、こちらにある紙面で描かれた世界地図は、球体の表面に張り付いてる世界を、机の上に広げて全体が把握できるよう平面に落とし込んだモノになります。勿論、球体表面を平面にするから、どれかを正確に表現すると、何かを捨てることになります」


すると、ミエさんはメルカトル図法の世界地図を指して頷いた。


「こちらの地図で、許可されている範囲内だけを記した海外地図なら、うちでも扱ってるわ。海外交易や、探査船団についての報道をする際に時折出す程度だけど」


するとマリさんもこれに同意した。


「私達も、出版を許可されている地域に縛りがあるから、他の図法があるのはマコト文書で知ってはいても、公開情報から世界儀を作って非公開地域の広さを論じた変わり者はいなかったし、極地方の歪みを是正する必要性も感じてこなかったの」


うん、まぁ、そうなんだよね。


確かに共和国は国の規模に比べて、その優れた航海術と大型帆船の性能のおかげで、かなり離れた地域まで足を伸ばして探査し、交易もしてる。だけど、その地域は隣にある巨大な大陸、あちらでいうところのユーラシア大陸の南側を西に移動していって、アラビア海の辺り、中東地域くらいまでしか交易はしてないし、探査の方もアフリカ大陸の南端、喜望峰の手前、マダガスカル島付近までしか到達してない感じなんだ。


で、アフリカ大陸の殆ど、南北アメリカ大陸相当の地域や、南半球のオーストラリア大陸付近は完全に未探査。


だから隣の大陸も内陸部の多くは縁がないんだよね。地球(あちら)で言うと、中国奥地やロシア、それに紅海の先、地中海周辺地域、ヨーロッパや南アフリカ地域の辺りも探査船団は足を伸ばせていない。幸い、地中海沿岸地域はそれなりに発展していて、商人経由である程度の地理や国の分布、文化などを仕入れることはできてたりはするんだけどね。


まぁ、こちらにはスエズ運河が存在しないから、船団が地中海相当の海に辿り着くには、喜望峰経由の西回りルートで向かうしかなくて、そこまでして直接、訪問する利点がないと判断されたのも仕方ないところだろう。


「許可されている範囲内だけだと赤道から弧状列島辺りまでの緯度を描くだけだから、メルカトル図法でもさほど把握するのに支障はでない感じですね。ただ、世界全図を見ればわかるように、公開範囲は世界全体からすればとても狭い事もまた一目瞭然でしょう」


注文販売に応じている世界儀も、弧状列島と隣接する大陸沿岸から、同大陸の縁を西に向けて延々と進んで行って中東地域辺りまでがしっかりカラーで描かれているだけで、非公開エリアについてはその入口付近だけ少し薄い色で描かれているだけで、それ以外の地域は灰色に塗られていて未探査、ということを明示している。


世界は灰色の知らないエリアばかり、我々が知る海外もまた、弧状列島に比べれば何百倍と広いけれど、それでもこの惑星ほし全域に比べれば、ほんの一部に過ぎないことが伝わってくる。


ただ、今、出して貰った世界儀は街エルフでも限られた人しか閲覧を許されない、衛星探査情報を反映したタイプだ。つまり探査船団が訪れていない地域もその全ての地形が露わになっているという大サービス品なのだ。こう見るとこっちでも南極大陸はがっつり存在してる。


もちろん、海域は青く、未探査の陸地は灰色、そして情報によってそれなりに把握できている地域、地中海沿岸相当の地域とかは薄い色で塗られている。国ごとに色分けしてくれているけど、弧状列島の三大勢力程度、鬼族連邦程度の広さで区切る程度で、それより小さな国は雑に纏めてたりはするけれど。世界全体の把握をするのに使う用途だから細かいとこは気にしない。


あ、勿論、点みたいな大きさだけど共和国の島は描かれてる。そこは街エルフとしては譲れないポイントなんだろう。まぁ気持ちはわかる。


ユカリさんはグード図法の地図と世界儀を指し示した。


「こうして眺めてみると、世界の多く、七割くらいは海なのかしら。思ったより陸地が少ないわね」


「ですね。特に大洋の中に浮かぶ島だったりすると、よほど航海術に長けてからでないと周囲に他の大陸があった多くの人が暮らしていることすら知ることができないでしょう。今の話もそうですけど、代表の方々と話をする際も、街エルフが知っている世界の広さ、海の広さ、探査船団が辿り着くのが大変な遠い、遠い未到達大陸の多さについて触れる事を禁じられていたから、結構ストレスがあったんですよね。その点、皆さんは全員街エルフで、このレベルの情報に触れることを許可されていると伺ってますから、やっと制限なしに話せて、実はちょっとワクワクしてるところです。竜族への縛りもあるから、静止衛星や探査衛星の話題もできないし、天体としての月や月面の話もできない、それらや探査船団と直接の情報のやり取りを可能にする転移門の話題も出せない、そう言う意味で、皆さんとこうして歓談の場を設けられたことを大変喜ばしく思ってます」


あぁ、やっとあれも駄目、これは秘密、なんて面倒臭い制限だらけから抜け出して話せる。うん、それだけでも素敵だ。ぱちんと手を叩いで、あぁなんて素敵、と満面の笑みで気持ちを伝えたんだけど、ミエさんが疑問を持ったようだ。


「こちらには長老のヤスケ様もいて、サポートメンバー達とはそうした制限なしに話せるんじゃないのか?」


「それはまぁそうですけど、ヤスケさんの場合、あくまでも共和国の代表として、という視点に限定されるから、何気に話せる話題が少ないんですよ。三大勢力に対する共和国としての立ち位置からどうするか、という縛りが常に入っちゃいますから。サポートメンバーの場合も、現状把握の話はともかく、少し先、百年程度先に向けてどう動くべきか、どういった意識が必要なのか、という話になると、単なる雑談で終わってしまいますからね。マサトさんやロゼッタさんのように動かせる手札が増えてくればまた話は変わってくるんですけど。その点、皆さんはある程度の規模と自由を兼ね備えていらっしゃる。ほら、個人には手がでない案件でも十人規模の小さな会社なら挑戦できる、百人規模なら取り組み方も変わってくる、千人規模なら、もっと大胆に動ける、って感じです」


話題の粒度の問題なんですけどね、と伝えると、お姉さま方は少し言葉に詰まった。


 ん。


「ほら、皆さんは三大勢力や共和国の代表の方々と違って為政者として背負っていたり、縛っていることが少ないでしょう? 民間には民間だからこそできる大胆さがあります。為政者の皆さんや、インフラに絡む方々は暫くは東遷事業で忙しいでしょうし、「死の大地」の浄化作戦も竜族や軍部の方々がメインだから、やはり皆さんは自由に動ける立場です。そんなお姉さま方だからこそ、長命種である街エルフらしく、ちょっと先、百年先を見据えてみましょう」


しがらみがないって素敵ですよね、自由、なんて素晴らしい響き。新雪に覆われた未知の地に、自身が第一歩を踏み出せる探検家の如き情熱、困難を乗り越えるという己らへの強き自負、そうした話題ってあれこれ想像を広げるだけでも楽しいでしょう?っと熱く語ってみたんだけど。


 あれぇ?


なんか、思ったよりお姉さま方は燃料の燃え方が足りない感じだった。なんでだろ? お爺ちゃんは不思議そう、ケイティさんやジョージさんはまぁこんなモノです、という悟ったような落ち着き、ってとこか。むむむ、思ったより手強い、というよりは、燃えるだけの燃料が足りてない感じか。世界地図一つにしても知らない事だらけでは、確かに想像を膨らませる以前かもしれない。


「えっと、もしかして、衛星関連の情報とか、その運用とか、探査船団と直接やり取りできる転移門の他勢力に対する圧倒的な優位性とか、そういうのは殆どご存じなかったとか?」


僕の問いに、ユカリさんがあぁ、ソコからか、って感じに溜息をつきながらも教えてくれた。


「その話も確かに全然知らないとまでは言わないけれど、それとなく知る程度に過ぎなかったわ。さっき話した通り、私達の仕事とは絡んでこない部分なのと、情報漏洩は防ぐ必要があるから、必要最小限の範囲にのみ情報は開示されているの。こうして話を聞けるのも、竜神の巫女の秘匿情報の多くに触れる為に、馬鹿みたいな縛りの制約術式を受け入れたからだわ。だから、アキは初心者にもわかりやすいように話して。そもそも私達はマコト文書の非公開部分だって殆ど知らないわ」


 あー。


なるほど。非公開部分は財閥が厳重に管理してて、産業に利用できる部分について、限定して関係者に公開みたいにやって、その対価を受け取ってという商売もしてるくらいだし、母さんやリア姉、それに主なサポートメンバーのようにマコト文書抜粋版だけでなく非公開範囲の目録の概要を把握してる、って人自体が稀、と。


となると、地球(あちら)の歴史と比較したこちらの現在位置と、今後の発展予測辺りから説明しないと駄目か。うーん、これはかなり先走り過ぎたかもしれない。


「お姉さま方ですけど、明日も時間を確保して貰えます?」


「え、明日?」


「本題に入る前の前提の話をするだけで今日は終わってしまいそうなので」


そう伝えると三人は顔を突き合わせて何やら探り合っていたけど、意思統一ができたようで明日もフルに確保することに合意してくれた。ケイティさんもそれを受けて、スケジュール帳を開く。


「アキ様、順不同で構いませんので話す内容を列挙して頂けますか?」


「はい。えっと――」


外洋帆船の船体が木材から金属製になった事で、木材の成長を待つ縛りが無くなって、外洋帆船の建造に対する制約が大きく減ったことを皮切りに、世界が今後、金属船体の外洋帆船を主体とした大航海時代に突入するであろうこと、今はまだ街エルフの探査船団が我が物顔で海洋を航行できているものの、いずれは海外勢力と航行できる海域を巡って衝突が起きるであろうこと、そうした時代になると、大型帆船の建造には弧状列島全体で纏まる規模でないと話にならないこと、だからこそ、弧状列島内の統一を進める必要があること、地球(あちら)の歴史を鑑みると、残りの未踏破地域に船団が派遣されて、それらの地域を既知として、宇宙に人工衛星や探査機を浮かべる国々が多く出てくるまでもう百年程度しか時間がないってところまで、取り敢えず話をして、と語ったところで、ケイティさんがベリルさんに指示して、関連資料の用意に走ってくれた。ん、できる女は素敵だ。


そうした時代に流れの中で、弧状列島内の各種族の人数割合と、弧状列島の昼間の地図と夜間地図を比べた場合の都市部の見え方から類推した、世界規模での都市分布と規模の推測を話して、世界規模の各種族の人数割合が何を意味するのか、具体的には街エルフや森エルフ、ドワーフその他少人数の種族がどれくらい少数派マイノリティなのかを四人用チェス盤などを用いて説明して。


そうした状況下で、世界を相手とする場合に弧状列島を纏める統一政府を樹立した場合の問題点と、トップダウン式に改革をすることの限界、それを打ち破るボトムアップ式の意識改革辺りを切り口にお姉様方がそれぞれ、どういった関与をしていけるのか、何をしていくべきなのか、ってとこをお話しようかな、なんて伝えてみた。


あぁ、それから、直近の話題として魔力不足問題については街エルフ特有の話として触れておこうか、なんて話してみたんだけど。


「魔力不足、ですか。鬼族の海外渡航時の話でしょうか?」


おや、ケイティさんはピンとこなかったようだ。


「んと、ほら、今、人手不足を補う為に大勢の魔導人形の皆さん達に参加して貰ってるじゃないですか。それも未稼働状態だった多くも叩き起こして、戦力化してる。でもそれって、備蓄しておいた薪をバンバン燃やしてるようなモノで、大勢の魔導人形達を未稼働にしておいたことから考えても、あまり遠くない未来、数十年後とか、遅くとも百年後くらいには多くの魔導人形の皆さんは魔力供給が追い付かないせいで、未稼働状態で休ませる必要が出てきちゃうと思うんですよ」


そう指摘すると、流石に皆さん、成人で全員が人形遣いとしての資格もお持ちなので、ソレが何を意味するのか理解してくれた。


「陽光から生み出していく魔力の総量に対して、稼働する魔導人形の数が多過ぎるというお話ですか」


「ソレです。まぁ改善案のいくつかはあるので、それも軽く触れていきましょう。多分、この話題だとヤスケさんの方が総量を把握されてるから、話をするのに向いてそうですけど、人形遣いである街エルフが活躍の場を広げるなら、ここにいる皆さん全員が当事者でもあるので、認識されておいた方が良いでしょう。えっと魔導人形って体内の宝珠に蓄えた魔力で稼働してるから、数十年程度ならともかく、百年、二百年と動けるほどではないのでしたよね?」


「はい。それだけの長期間、活動し続ければ宝珠の魔力が尽きてしまいます」


まぁ、そりゃそうだ。幸いなのはこちらの宝珠は地球(あちら)の電池で言えば、使い切ったら終わりの一次電池ではなく、再充電可能な二次電池相当ってところ。


「なので、動いた分を供給してあげる必要がある訳ですが、これほど多くの魔導人形が稼働し続けるというのは、多分、初めての事態でしょう? 普段、空間鞄内に収納しておくのも魔力消費を抑える意図が多いんですよね?」


「その認識で問題ありません。その話はヤスケ様を交えて明日行いますか?」


ケイティさんの提案に、お姉様方は目線でノーと激しく拒否ってきた。


 もぉ、可愛いなぁ。


「そちらは後で概要と提案だけ別途伝えれば十分でしょう。稼働数に対する魔力供給不足程度、長老レベルであれば把握されてるでしょうから。その対処もお姉様方が行う案件でもありません……っと、屋敷単位とか持ち運びできる設置式の魔力蓄積布、外洋帆船の帆みたいな奴って財閥で商品化とかしてるでしょうか?」


「聞いた事がないので後程確認してみます。私達、探索者でも、長期任務の際には予備の宝珠を持参する程度で、嵩張る魔力変換帆を持ち歩いて、それを長時間広げて魔力を貯めるような真似はしたことがありません」


 ふむ。


「こちらだと、まだ極地方とかで一度現地入りしたら、支援物資が届くのは半年後みたいな苛酷な地での観測とかはやってないようだから、必要とされてこなかったのかもしれませんね。では、その件は後でマサトさん、ロゼッタさんに聞いてみてください」


ん、ミエさんが手を上げた。


「その話と私達がどう絡むんだい?」


 おや。


「社会構造の大変革、現状より遥かに多くの魔力を必要とする社会へと変貌を遂げていくとなれば、これまでの常識では通用しなくなり、新たに膨大な魔力の供給、消費を支える社会システムの構築、運用をしなくてはなりません。社会がどう変わっていくのか予め見えていれば、どの分野に投資すればいいか、どんな研究を後押しすればいいか、世界のどの地域を予め確保しておけばいいのか、どこで海外勢力との衝突が起きるのかなどなど、多くが見えてくるでしょう? そしてそれらが見えてない勢力と、見えている我々の差を、数で大きく劣る我々が活かさない手はないんだぞ、って話です。幸い、お姉様方は情報と文化を担われているので、この情報の優位を更にどう活かすのか、左右できる立場です。絡むどころか当事者ですよ」


皆さんは主役だ、と褒めると、なんか少し身構えられてしまった。もぅ、そんな幼子みたいに怖がらなくてもいいのに。


さて、どう緊張を解していこうか、と思案したところで、ケイティさんからスケジュールの提案があった。


「アキ様、日程ですが、明日一日ではなく、明後日も確保し、また別途、質疑応答の為の日を用意しましょう。幸い、まだ伏竜様がやってくるまでは日があります。伏竜様の件との兼ね合いは如何されます?」


「それは、お姉様方もお忙しいでしょうから、お話するちょっとした提案と、伏竜様を軸とした竜族社会変革の概要を把握して貰って、必要があれば歓談の機会を設けるくらいでいいでしょう。竜族の動きは鈍いですからね。半年後でもそう遅くないと思うんです」


っと、これにはミエさんが割り込んできた。


「そこはこちらで判断するから今は保留にしておこう。……それで、今から聞く話ってソレ全部かい?」


ベリルさんが気を利かせて、前提となる話についてざっと項目をホワイトボードに列挙してくれた。ん、解り易くていいね。流石だ。


「大項目レベルであればこちらで十分でショウ」


ベリルさんもさらりと、中項目レベルに派生していく事を匂わせたけど、お姉様方も腹を括ったのか、アイリーンさんに飲み物の追加と、軽食の準備をするよう指示し出した。それに小さなポーチからひょいとペンと手帳を取り出して前に置いたりして、準備万端。


「大筋を把握すればそう大した話じゃありません。もし気になる点があれば、僕が寝てる時間帯でも、サポートメンバーの誰かに伝えれば関連資料の提示や説明も受けられるので、大まかな把握に努めてください。ではまずは、こちらの世界、この惑星ほしの全体像について――」


細かいところは後回しにしないと、前提とする話だけでもそこそこボリュームがあるからね。ここは気合を入れて頑張ろう、と気合を入れつつ、平易な言葉や地図、っと追加で持ち込んでくれた年表も横に足したホワイトボードに貼ってくれたから、それらを使ってふんわり説明していくことにした。


必要なのは大きな流れの把握、概要を掴む事だからね。弧状列島という狭い地域を扱うのはその次だ。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


はい、という訳で、本格的な説明に入る前の序章、アキの愚痴と、相応しい顔ぶれが集まったことを喜ぶ様を描いてみました。


三人のお姉様方は、それなりの認識と姿勢でミアの末妹となったアキに会って、先々の為に色々話を仕入れて布石の一つも打ってみるか、くらいの気構えでやってきましたが、実は鴨葱で自ら鍋の中に入り込んだ事に気付いたのだった、なんてシーンとなりました。


自分達もそれなりの規模の大会社を率いていると自他共に認める立場だと思ったのに、アキは「皆さんくらいならこの話も関われますね」と最低ラインクリアの評価なのだから、内心、色々と思うところもあったんじゃないでしょうか。そこでぐっと言葉を飲み込んで表情を取り繕ってるだけでも偉いですね。


さぁ、ここから、技術レベルは大正から昭和前期程度、世界観は江戸時代末期程度の意識から、人工衛星が飛び回り、世界規模で情報や物資が繋がる令和時代まで……ではないにせよ、国同士の関わり合い方は帝国主義全盛期、街エルフだけは昭和末期から平成時代くらいの宇宙活用という段階まで、駆け足で意識を切り替えさせられることになります。哀れ(笑)


僅か4時間程度で、半径100km、せいぜい500km程度で閉じていた世界感から、惑星全域、月軌道前提まで一足飛びで到達ですね。


これまでに回数や時期を分けて説明してきた内容なのでかなり端折りますが、かなり前に語った話も含むので、思い出せる程度には描写していこうと思います。なにせ、それらは「前提条件、話を聞く準備」ですから、ちゃっちゃと済ませないと。


ケイティが今日一日で本題に入るのなんて無理、というか聞いた情報を理解して血肉とするのにも時間は必要、と気を利かせてなければ、お姉様方も途中で力尽きていたでしょう。幸い、今回はちゃんと前提がどこまで、先はどこから、今日はここまでって感じで到達地点が明示されてるので、自分達の理解具合を自問自答しながら、お姉様方もどこで話を一旦区切るべきかは判断するでしょう。頑張れ。


次回の投稿は、十二月二十四日(日)二十一時五分です。


◆地図に関する補足

話の中で紹介した地図の図法は高校地理の範囲なので、軽く紹介しておきます。マコト文書のおかげで、地球(あちら)の知識がそのまま記せるので便利、便利。


・正距円筒図法(本編では触れてませんが)

挿絵(By みてみん)

地球儀の表面を覆う舟形の紙片(極が1点で、赤道付近が広がる)をずらりと横並びに展開して、紙面を埋めるように横方向に広げた図法です。よく世界地図といって出てくるのがこちらなので、見覚えが一番ある世界地図でしょう。縦横比の基準を北緯30度&南緯30度にしたり、北緯45度&南緯45度にしたりとバリエーションあり。


・メルカトル図法

挿絵(By みてみん)

正距離円筒図法で横に伸ばした分、縦にも伸ばしたのがこちら。極地方に近付くほど歪みが酷くなるけど、角度だけは正確です。船の航行ではどっちに進むのか、つまり方位が最重要なのでコレは今でも使われてます。極地方に行く人は稀なので極付近はばっさり切ってるバージョンが殆どでしょう。


・グード図法

挿絵(By みてみん)

面積が正しいという性質を保ったまま、世界全体を通して大陸部分の形の歪みができるだけ小さい地図を作るために、サンソン図法(注1)の地図とモルワイデ図法(注2)の地図を中心の経度を変えて複数描き、それら(合計12枚の地図)の一部を組み合わせて1枚の世界地図にしたもの。面積が正しく表されている。


注1:サンソン図法=船形の地図を引き延ばさず隙間を無くした地図。

注2:モルワイデ図法=緯度によって縦横比を調整、全体を楕円とした地図。

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