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21-5.咲き誇る大輪の薔薇達に囲まれて(前編)

前回のあらすじ:ミア姉の親しい友人の人達と会う前に、ミア姉が僕をこちらに喚んだ切っ掛け、魂交換の秘術を行うに至った思いを把握しておくべきではないか、ということで、久しぶりにミア姉の手紙を読むことになりました。……まぁ、予想した通り、ネタ仕込みが入ってて。だけど、鏡に映った僕の姿は思った以上に頼りなく感じられて。うん、結構、ショックなところがあったようでした。ただ、その後、母さん、リア姉、ケイティさん、それにお爺ちゃんも巻き込んで酷い手紙の内容に対して忌憚なき意見というか罵詈雑言というか、飾らない言葉の多くを聞くことができました。ミア姉が愛されていて良かったです。(アキ視点)

翌朝、僕は多分、こちらに来てから一番衝撃的な絵面に、寝起きの気分が一気に覚めることになった。


いつものように、自分の部屋で目覚めた筈なのに、感じたのは香水のどぎつい匂い。一人ずつでも強めなのにソレが三人、しかも間近に揃ったことで、くらっとするほどの濃過ぎる匂いになってたようだ。そんな強い匂いを纏った華やかな印象を受けるお姉さま方が三人。


短めの黒髪に一部、金色のメッシュを入れている男役が似合いそうなのがミエさん、栗色の髪を肩口で揃えた大人しそうな印象を受ける方がユカリさん、そして、黒髪ロングの美女なんだけど湿度というか粘度のような独特の雰囲気を感じさせる方がマリさん、つまりミア姉の友人三人衆だ!


「やっと起きたね」「なんて寝坊助なのかしら?」「私達が誰かわかるぅ?」


寝起きでアップ、香水三連の酷いコンボ、分けて聞かせるつもりもない問い掛け三重奏に、こりゃたまらん、と布団を抱き寄せてできるだけ後方に退避!


急いで周囲に視線を走らせると、隣にお爺ちゃん良し! 机の上では立ち上がってるトラ吉さん!? トラ吉さんの間にはケイティさんがいるけれど。


「ニ゛ャ」


おぅ、その辺りにしておけや、みたいなドスの効いた鳴き声が響いて、前のめりになってた三人もビクッと体を震わせてから、そろりそろりと距離を離して、無害を示すように手を上げて見せた。三人揃ってて何とも気の合う方々だ。


ケイティさんがフォローしてくれる。


「本日はあいにく、大雨の天候となり、庭先での会食は室内に変更になりました。それと、アキ様が起きてくる時間が遅い事で健康状態への心配をされまして、そっと見守ることを条件に入室していただきました」


 なるほど。



にしても、流石、トラ吉さん。角猫さんのマジな警告は効果抜群だったようで、お姉さま方も一応、部屋の隅から見守るだけにしてくれている。


 ふぅ。


にしても、酷い匂いだ。


そう、顔を顰めたら、お爺ちゃんが杖を一振り、部屋の空気を浄化してくれた。


「ん、お爺ちゃんどうもありがとう」


「儂にもちとキツかったからのぉ。香水は僅かに香る程度が良いと言うが、それも人数が増えれば限度を超えてしまうようじゃな。この部屋が狭かったというのもあるじゃろうが」


 うん、うん。


僕も日本あちらの父さんから聞いたことしかないけど、朝のエレベーターに女性社員が大勢乗ってくると、行き場を失った個別では微かとされる程度の香水の匂いが自己主張し合って耐えがたい臭いに化けて酷い目に遭った、などとボヤいてたのを聞いた覚えがある。


お爺ちゃんの言葉を聞いて、ミエさんはふらふらと手を振りながら部屋を出ていき、それにマリさんも続く。


「なら外で待つよ。急ぐ必要はないから。あ、そこのメイド、アキの身支度が終わるまでに個人用浄化術式の魔導具の用意を――」


扉が閉まるまでの間に聞こえた声は、何とも他人に命じ慣れた口調で、了承以外の返答はないと確信しているような強みが感じられた。



で、残った栗色髪な美人のユカリさんはと言えば。


「少し気になるところがあるから、身支度を見てていいかしら」


などと居座るのだった。





まぁ、コレが男性でお医者様でもないのなら、出てってくださいよー、と強請るとこだけど、まぁミア姉の友人の方だし、美人さんだから、気にしないことにした。


いつも通り、聴診器をお腹や背中に当てて体内音を確認したり、水銀柱を使ったレトロな器具で血圧を計測したり、やはり水銀を用いたレトロな器具で体温を測ったり、それに舌の色合いを確認したりといった一連の診察をして貰い、ケイティさんもいつものことなので、手早く記録を付けていく。


「ねぇ、ケイティ、質問、いいかしら」


「どうぞ、ユカリ様」


いつものことなので、僕もブラシで長い長い髪の毛先から先ずは整えて、次に中ほどからと、長い髪特有の手間をかけて髪を梳かしていく。


「アキはこれまでに多くの公式行事にも参加し、中心的役割を担ってきたのよね?」


「はい。それが何か?」


「それで何で、香水の匂い程度にあんな反応をするの? 化粧だって香水だって慣れたモノでしょうに」


ユカリさんは心底意味不明だ、と疑問を投げつけてきた。いや、そんな目つきで怪しまれても。


「アキ様は街エルフの皆さんと同様、肌があまり強くありませんが、そもそも肌が十分に瑞々しく綺麗なので、公式行事の際にも最低限のケアをするに留めています」


ちょっとケイティさんが自慢げなのが不思議だけど、説明を聞いたユカリさんは僕の首筋にそっと手を伸ばしてきて、スルリと撫でてきた。


「ひゃっ」


前置きも無く、いきなり驚かすようなことをして、と窘めようとしたけど、ユカリさんはそれどころではないくらい、驚いた顔をして、自身の指先を見つめていた。


なんか怖いので横目でお爺ちゃんに合図を送ると、お爺ちゃんもわかった、と少し前に出てくれた。


「ケイティ、ちょっと確認させて」


返事が入る前に、やはり僕の時と同じようにケイティさんの首筋も指で撫でて、今度はまぁそんなもんか、というある種、安心した表情を浮かべ、逆にケイティさんは少し不機嫌そうに眉を吊り上げた。


なんか怖いんですけど。


「確認したいことができたから、後はリビングで待つわ。お邪魔してごめんなさいね」


そう言うと、僕達が返事をする前に扉を開けて部屋の外に出て行ってしまった。扉が閉まる前に「いるんでしょ、リア、いいからちょっとこっちに来なさい」などとさほど大きくもないのによく通る声が響くのが聞こえた。


……なんだろ、この嵐のようなテンポの速さは。


そう思ったのは僕だけではなかったようで、やっと出て行ったか、とトラ吉さんも座り込んで大きく欠伸をするほどだった。予定してたお客様なのだからちゃんと歓談するつもりだったのに、最初からペース乱されまくりだよ。





身支度を整えてリビングに行くと、他の皆さんにはお茶会セット、僕にはブランチセットをアイリーンさんが用意してくれているところだった。離れたところ、テーブルセットに背を向けるように置かれた椅子にリア姉がなんか渋々座って同席させられている。同じテーブルに着かないのは、あくまでも同席してませんよ、という主張だろうか。


 なんか子供っぽいなぁ。


まぁ、それはそれでカワイイけれど、リア姉も苦手な人が何気に多い感じだ。


っと、シャンタールさんがケイティさんに短く報告すると、ケイティさんは魔導杖を掲げ宣言した。


「ご要望の個別の消臭術式を用いる魔導具は備えていませんが、同様の効果を術式で達成します」


その宣言に誰も文句は言わなかったので、ケイティさんは呪文を唱えた。


消臭デオドラント集団化』


ケイティさんが呪文を唱えるのと同時に魔導杖の先端に魔法陣がキラキラと光りながら周り始めた。これまでの術式と同様、術式の維持、管理は魔導杖が続けてくれるようだ。


 んー。


「ケイティさん、術式の名前からして、匂いが消えちゃうかと思ったけれど、ちゃんと料理の匂いはしますね?」


「それはアキ様や翁を対象としても術式が弾かれているだけでちゃんと機能しています。他の皆様も、自身の近い距離にまで飲み物や食べ物を近づければ、匂いを感じられることができます。あくまでも周囲への拡散を封じ、痕跡を消し去る術式ですから」


その説明を聞いて、ミエさんが実際にティーカップを口元まで近づけて匂いが感じられ、離すと匂いが消えることに驚きの表情を浮かべた。


「ケイティ、見事な技だ。標準の消臭デオドラント術式じゃないね、これ」


「はい。通常より微細な域で制御できるよう独自改良を加えたモノになります」


実際、ケイティさんが術式を発動してくれてからは、リビングの中に立ち込めていた香水の匂いが霧散してくれた。これは大変ありがたい。


さて、それじゃ、料理も一通り揃ったし、不似合いな匂いも失せたし、歓談の挨拶でもしようか、と思ったタイミングで、マリさんが並べられた茶菓子の皿をとんとんと指で叩きながら、口を挟んできた。


「私達が持ってきた茶菓子を出して、とお願いした筈だけど、足りてないわね」


強い口調じゃないのに、早く改めないと、みたいな気持ちが掻き立てられる強い響きが感じられる。どうも示し合わせていたのか、ミエさん、ユカリさんも興味津々とばかりに目を細めて成り行きを眺めてる。



だけど、アイリーンさんは軽く受け流して軽く頭を下げて、そうなった理由を話してくれた。



「一部、お出しできないと判断した激辛餡の饅頭は取り除いていますがご了承くだサイ」


 は?


僕のところにも並べられている小さなお饅頭は普通の茶菓子に見えるけど。


「あら、パーティーゲーム用の軽い遊びじゃない。過保護じゃなくて?」


マリさんも強く咎めるといった感じではないけど、一歩も譲る気なし。


「申し訳ありまセンガ、アキ様の食を預かる料理人の矜持とシテ、お出しすべきではないと判断しまシタ」


アイリーンさん、凄いなぁ。当然の義務を遂行してる、という強い自負が感じられてブレない。


「名前を聞いておこうかしら?」


そこで初めて、興味が湧いたといったようにマリさんが告げた。


「アイリーンと申しマス、マリ様」


「そう。名入りは誰も彼も筋金入りの頑固さね。覚えたわ」


なんかこう、対戦者リストに登録エントリーしたぞ、と言わんばかりの宣言だ。口調は穏やかなのになんだろ、さっきからこう殺伐した空気がちらちら混じってる感じなのは。


まぁ、深入りすると藪蛇そうだから別の疑問を解消しよう。


「あの、アイリーンさん、その激辛餡ってそんなに凄い味なんですか?」


「味、というか、痛みを感じさせる劇物デス」


 げ。


それは悪意アリアリのほんと罰ゲーム用の奴だ。確かに日本あちらでも一箱に何個か激辛餡入り饅頭を入れてロシアンルーレットを楽しもう、みたいな悪乗り土産品を自衛隊さんが売ってたけどさ。


なんとコメントしようか悩んだところで、マリさんが切り込んできた。


「アキ。そこのアイリーンが言うところの劇物、罰ゲーム用の激辛餡饅頭だとして、貴女はそれをどう扱うのが良いと考えたか話して貰えるかしら」


 んー。


「避けてくれて正解、適切な処置と思います。そもそも料理で遊ぶような真似は控えるべきです。それは美味しく食べて貰おうと思う料理人と、それを食する者のどちらにも礼を欠く行いでしょう。……そんなところですけど、ご納得いただけました?」


なぜ、わざわざそんな当たり前の問いを、と思ったけれど、僕の答えはマリさんを納得させるのに十分なようだった。


「えぇ、理解したわ。貴女は母アヤ、父ハヤトの三女アキ以外の何者でもない、と」


マリさんと同じ思いだったのか、ミエさん、ユカリさんも先ほどまでのどこか探るような、咎めるような目つきを改めてくれた。……とは言っても、今度は三人とも玩具を見つけた猫のような笑みで、無害ですよアピールをしだしてるけど、いくらお姉さん好きな僕でもコレに喜んで抱き着いていくほどボケてはいない。態度がころころ変わり過ぎだ。


 うん。


三人とも方向性の違う美女と言って良いお姉さま方で、華やかに咲き誇る彩りや花弁も見事な大輪の薔薇のようでエリーとは違う方向で映える人達だ。ただ、薔薇に例えた通り、その茎に鋭い棘が沢山生えてて、しかも依存性の高い毒まで持っていそう。


もっと友人は選べばいいのに、と日本あちらで平和を満喫してるミア姉にぼやきたくなった。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字・脱字の指摘ありがとうございます。自分ではなかなか気付けないのでほんと助かります。


ふぅ。すみません、インフルエンザで倒れてまして執筆がギリギリになりました。ストックしておけばと思いつつ、時間があればあったで、悩む時間が増えるだけ、というのだから困ったものです。処方されたゾフルーザって薬凄いですね。ほんとすぐに39℃をばんばん突破してた体温が飲んで二日後には平熱域になってくれました。医学の進歩万歳。


っと、話を本編の後書きに戻しますと。


今回の友人三人、ミエ、ユカリ、マリの3名なんですが、キャラが固まるまで随分と悩むことになりました。決まってしまえば、あぁこのキャラだわ、と納得なんですけどね。


どう歓談させるかもあれこれ考えたんですが、アキの境遇を考慮して、色々ヒント出しまくりのイージーモードでの歓談、という流れになりました。次パートでは種明かしをしますが、彼女達が今回のような態度で臨んだのもまぁ、理由あっての事なのでした。話を聞けばまぁ、アキもきっと、半分くらいは納得するんじゃないでしょうか。後半分は「やっぱ素でソレか」ってとこでしょうけど。


次回の投稿は、十二月三日(水)二十一時五分です。

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