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21-2.祭りも終わって(中編)

前回のあらすじ:代表の皆さんも帰国し、交流祭りも終わって片付けも始まりました。依代の君からは初逢引(デート)について、胸焼けがするくらい色々と話を聞かされることになったけれど、色々と参考にもなりました。(アキ視点)

依代の君の初逢引(デート)の自慢話も、それを聞かされるだけならお腹一杯ってとこだったけど、役立つ事例紹介として当事者の意見を拝聴できると考えれば、血肉となるとても良い時間だったと言える。


そんな楽しい時間も終わったところで、ケイティさんが仕事として、依代の君に話を振り出した。


「――といった訳で、少し先になりますが、伏竜の名で呼ばれることになった縄張りを持たない成竜が、ロングヒルの地を頻繁に訪れることになります。依代の君には、その際、立ち合いをお願いしたいのです」


ケイティさんは、東遷事業については全種族が集う大規模な治水事業を帝国領で行うこと、その際に伏竜さんが竜族から唯一参加する事になるといった程度の軽い説明を行った。抜粋版マコト文書には利根川東遷事業の話なんて載ってないから、依代の君も当然そのことは知らない。でもまぁ、状況説明にはその程度で十分ってことだ。そして、基準を下げて選出した竜なので、これまでにロングヒルに訪問してきた竜達に比べても、安全性確保の点で立ち合い者が必要といった前提まで話してくれた。


「翁、妖精族は忙しいのか?」


依代の君も理解が早いね。


「うむ。今は既に、飛行船建造、飛行船の船員育成、秋の収穫時期が重なっていて手一杯なんじゃよ。その中で、何年も続く東遷事業に助手として参加する者を五名も選出せねばならん。依代の君がいてくれて幸いじゃった」


お爺ちゃんに立ち会いの任に耐える実力者と称され、彼もまんざらでもないようだ。


「桜竜殿の時のように、他の竜が立ち会う話どうだ?」


「雲取様からのお話で、伏竜様は個としてではなく、竜族からの参加であり、福慈様もそうした立場と認められているとのことです。そのような方に他の竜が立ち会うことは、こちらがお願いしたとしても難しいかと思います」


まぁ、ケイティさんの言う通りなんだよね。これが個としてなら、ちょっと心配だから、と緑竜さんが立ち会って貰うようなパターンもありだけど、部族の代表と認められた方が来るというのに、その言い訳は面子を潰すような流れだから、必要かも、と考えたとしても動きにくいだろう。保護者同伴という年齢でもないのだから。


まぁ、ここはちょいフォローしておこう。


「実際には、伏竜様の育成計画絡みで黒姫様にも心身への影響を診て貰うという名目で同席して頂くし、竜の技を新たに発展させる共同研究者として白岩様にも共に趣旨を説明するから、伏竜さん単独での来訪はその後にはなるよ」


事実上、黒姫様、白岩様が立ち会う形も兼ねるし、計画推進に二柱ががっつり絡んでくるのだ、と明示することにもなる。その中で伏竜さんの振舞いを見れば、どんな方なのか性格も掴めるだろうって補足した。それにロングヒルにやってくる前に心話でも確認するから、と三段構えの体制を敷いて、その上で四段目の備えとしてお願いしたいのだ、と告げた。


「……基準を下げたにせよ、随分と慎重に思える。他に何を考えるんだ?」


依代の君がさぁ吐け、と睨んできた。自己を育んで一般魔導師の方々並みに神力を抑えられるようになったからか、僕ではもう彼の力を感知することはできなくなってるんだよね。だから圧もなく、美幼女がポーズで軽く睨んできても、可愛いとしか思えない。


「ん、これは僕の単なる勘なんだけど、伏竜さんは次元門研究にとって、良い刺激になりそうに思えるんだよね。この一年でそれなりに互いをよく知るようになってきて、研究組もチームとして纏まってきた。それはそれで良いことなんだけど、未知を切り開くという目的を考えると、これまでにない視点の持ち主、研究組の扱う内容を理解できる存在って貴重だと思うんだ」


「それで?」


「竜族にとって、己に匹敵する別種の存在って衝撃的でしょう? こちらの世界では個として最強で並ぶものなしと誰もが認める竜族なのだから。そこに量的な面は別として、質的な面では並び立つ妖精族、そして信仰によって存在する現身を得た神、神力を呼吸するように自然に行使できるキミと混ぜれば、伏竜さんの常識はこう、一気にがらがらっと崩れると思うんだ。凝り固まった常識を一旦ゼロにして、観察眼に優れた伏竜さんが研究組の行い、目指すところを捉えたなら。……何か気付いてくれるかもしれないでしょ」


そう話して笑みを浮かべると、彼は僕の額を指で突く仕草をして神力を小さく放ってきた。


 ぐぅ。


「触ると依代に問題が生じるかもしれないからって、ソレは酷くない!?」


まぁ、軽く小突かれたくらいだけどさ。


「狙うところは理解したし、その趣旨ならアキと僕にとっての利にもなるから協力するのは吝かではない。だが、それだけの為にボクに立ち会わせるというなら性格が悪いぞ」


 うわぁ。


依代の君に、そんな風に非難されると、何故か、かなりショックだ。誤解を解こう。


「同じ成竜という意味では、黒姫様にも君との初顔合わせに立ち会って貰った訳だし、これまでにロングヒルに来てる竜族の方々にも遊んで貰ったりしてたよね? 妖精族も同様だから、常識が崩れるって言い方はしたけど、そう驚いた反応なんてしないと思うよ」


内心、どう思うかは別としても、これまでの竜の皆さんは、少し驚いても距離を離して竜眼で注視する程度だったからね。


「驚かせて、緩んだ意識を締める程度と言いたい、それはまぁ認めよう。だが、それならボクが立ち会うのは、伏竜殿の見極めができるまででいいのか?」


「ん、そこは君が会って何を感じるか、によるね。伏竜さんの物事の考え方、観察を通して見通す力が面白いと思えば、立ち合いの仕事とは別に、伏竜さんとの交流をキミの方でも持ってくれると嬉しいかな。僕とキミでは結構考え方に違うところがあるから。伏竜さんの力を引き出す可能性を取り逃したくない」


次元門構築は当たり前を積み上げても道筋が開けない超難度な挑戦だ。今の研究組も伝手の届く範囲で全種族から尖った最高のメンバーを集めることはできた。……ただ、ちょっと研究が足踏み状態に陥ってる感もあるんだよね。


「随分な熱の入れ様じゃないか。……それほどなのか、その伏竜殿とやらは」


「かなり面白い方だと思うよ。そもそも竜族にとっての価値基準というのは――」


これはちょい、一通り説明した方が良さそうだ。ベリルさんにホワイトボードを用意して貰い、伏竜さんに対して僕が切ったカード八枚について一通りの説明をして、それとは別に伏竜さんが基準に満たないとされた竜族特有の評価基準について、その特徴と地の種族視点で捉えた場合の問題点について語っていった。


結構、たっぷり時間を費やしたけど、ケイティさんもスケジュール調整で対応できるから、この際、きっちりどうぞ、と後押ししてくれたので、心置きなく説明していく。


依代の君も、見た目こそ低学年小学生ってとこだけど、食事どころか呼吸だって風味付け(フレーバー)に過ぎないからね。能力的に言っても実体験が足りないだけで、その知性はあちらの誠相当と言って良い。


だから、遠慮なくサクサクと説明していったんだけど、一通り説明し終えた時点で、また例の神力デコピンを打たれた。


 ぐぅ。


「なんか扱い雑じゃない? ミア姉の身体なんだから、もっと優しくしなよ」


「ふん、ちゃんと軽く小突いた程度にしてるだろ。僕や妖精族と会うことで最強の個という常識が崩れるどころの話じゃないぞ、それは。……ボクだって、いくら相手に見所があったとしても、そこまで試したりしない。伏竜殿との話合いは一通り全部ボクも立ち会うぞ」


まったく、こんな奴じゃ伏竜殿が可哀想過ぎる、などと愚痴まで言い出した。


「世界の外に身一つで飛び出しても、己を完全に律することができる天空竜相手に心配し過ぎと思うけどね。まぁ、キミが喜んで参加してくれて良かった。何かあればフォローは宜しく」


あぁ、これで一安心だ、とパチンと手を叩いて同意を求めたけど、依代の君は、何故か、残念な子を見るような眼差しを向けてきた。


「何か?」


そう問うと、彼はそれはもう深い、深い溜息をついて呆れた眼差しを向けたまま、内心を吐露する。


「ボクに足りないという陰の心を育んだ挙句、辿り着いた成れの果てがコレかと思うと、本当に今のまま、ロゼッタに指導して貰うのは問題があるのではないか、と思ったんだ」


 ほほぉ。


「悲しいなぁ、せっかく身内と思って取り繕った態度をせず話してあげてるのに。心配しなくても、伏竜さんと話す時には安心できて、未来に希望が持てて、やる気が出てくるように煽るよ」


ちょっと腰が重い方のようだから、坂道を転がり続けられるように、こう根付いた部分をがつがつと、っとノミで削り取るようなポーズをして見せたんだけど。


「それを言うなら、奮い立たせるとかだろ」


「そう、それ」


ちょっと言葉の選択をミスった、と詫びたけど、依代の君はわざわざケイティさんの方に身を向けて、伏竜さん説得のシナリオについて第三者視点でしっかり妥当性と問題点の洗い出しを終えておくように、と頼み込む始末だった。ケイティさんも、ケイティさんだよ。神妙な態度で完遂する旨を約束したりして、さ。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


今回も短いですけど、キリがいいのでここまで。


依代の君も、一般人がお出掛けするイベントへの参加を許可されるくらいには心配が減ったんですよね。これまではアキとの確執もあり、会う場合は万一の事態に備えて竜族の誰かが必ず立ち会ってました。それが今回、逢引デートの自慢話をするのに、竜族の立ち合いなし、妖精族増員なし、別邸内、ヴィオやダニエルもいない状況でアキと会うことが認められた、という時点で、彼への信頼の高さが伺える訳です。


なので、これまで竜族や妖精族が担っていた立ち合い役として、依代の君が抜擢されることになりました。


あと、アキがかなり遠慮なく、というか言葉の選択が雑になってましたけど、そうした対応をしても受け止めるくらいには、依代の君の心も深みを増してきた、と判断したから、というのもあります。ベース思考が誠だから、自分の考えもサクサク通じるだろう、という遠慮の無さもまぁ出てますけどね。


ちなみに、依代の君が軽く小突いた程度と称した神力の叩き付けですけど、技の系統としてはケイティ達、魔導師が用いる魔力撃の強化バージョン相当です。普通の魔力撃だとケイティがこれまでに何度もやって見せてるようにアキには影響が出ないですからね。多少なりとて頭を揺らせるのだから、強化具合も見えてくるってもんです。ケイティが受けるとしたら多重障壁を展開して身体への接触は絶対防がないと不味いレベルでした。


次回の投稿は、十一月二十二日(水)二十一時五分です。


<活動報告>

以下のタイトルで活動報告を投稿しています。


【雑記】Microsoft BingのImage Creator(アーケード街、大勢の民衆、メカ少女)

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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