21-1.祭りも終わって(前編)
前章のあらすじ:「死の大地」の浄化作戦遂行のために、今回、新設された参謀本部。その創設メンバーの皆さんと、竜族と軍制度とか、祟り神という呼称や呪いについての考察を深めてみたり、様々な種族と僕の感性、個と群れのどちらを重視するのか、といった点についてエリーの分析内容を聞きました。幸い、この秋、帝国の成人の儀、定期限定戦争は中止が決まりました。それと天地人の観点から、弧状列島の今の状況はいずれの条件がズレても統一国家樹立に繋がらないだろう、という考察を代表の皆さんから伺うことにもなりました。ほんとよくもこれだけの好条件が揃ったものでしたね。ただ、僕が最優先でロングヒル入りしてなければ多分破綻してた、という話を笑顔で話すユリウス様はちょっと意地悪でした。竜神の巫女、竜族、妖精族は揃うことで真価を発揮する、という考察もなかなか面白い内容でしたね。
今回、弧状列島の地の種族の全て、人類連合、鬼族連邦、小鬼帝国、それと共和国が参戦義務のある軍事同盟を締結し、平和の恩恵として食料の相互供給協定も結んだのは良い流れでした。
最後に思い付いたことがあれば何でも話していいぞ、と促されたので、帝国領の大河を南向きの流路から東向きに付け替える東遷事業を、竜族、妖精族も加えた全種族で遂行して、将来の食料供給への不安も払拭しよう、と提案してみました。
で、提案したんだけど、まぁ色々あってストレス溜まりまくりの一色触発な状況に陥って。お爺ちゃんが上手くフォローしてくれて、仕切り直しもしたおかげで何とか軟着陸できました。日本では六十年かかった東遷事業も、こちらなら五年程度でクリアできるでしょう。
……と捕らぬ狸の皮算用をしてたら、竜族が今のままなら誰も参加しないぞ、と雲取様からまさかのゼロ回答を貰うことになってだいぶ焦りました。なんとか参加する竜、伏竜さんを確保できてよかったです。ちょっと慢心してましたね。(アキ視点)
という訳で、第二十一章スタートです。今後も週二回ペースの更新していきますので、のんびりお付き合いください。
弧状列島初となる多様な種族が集う交流祭りも無事終わり、同期間に被るようにロングヒルに集っていた諸勢力の代表の皆さんも、新たな仕事が山積みだ、などとボヤキながら、慌ただしく帰国の途に就いた。元々の予定通りならば最後に晩餐会を開いたりもするそうだったけど、僕が東遷事業を追加した事で、滞在期間を延長して、何とか今季のうちに合意に辿り着こうと、皆さん頑張ってたからね。
だから、最優先、片付けないとならない話はもうない、と確認し終えた時点で慌ただしく帰国する羽目に陥ったんだ。
前回と同様、代表同士が話のできる直通回線開設は、まだ中継拠点の選定途中で工事もまだ始まってないそうだ。なぜそんなに手間取るのか不思議だったけど、理由を聞けば納得の内容だった。街エルフが共和国とロングヒル間に敷設しているレーザー通信網は、海を越えて繋げてることや、共和国のある島には竜族の縄張りがないので、山頂にレーザー中継拠点を設置できるから、遠くまでレーザーを飛ばしやすい条件が揃ってた。
ところが、これが連合、連邦、帝国となると、高山は竜族の縄張りだから山の尾根の高い地点に中継施設を建設することができない。わざわざ地形を縫うように中継拠点を設置していかざるを得ないんだ。それじゃ、視認距離をあまり伸ばせないから、レーザー送信が減衰するよりずっと短い間隔で中継拠点を用意しなくてはならず、その下調べにも時間が食われている、と。
……それなら、こちらでも高高度に成層圏飛行船を常駐させて、そこを中継するようにすれば中継拠点が一か所で済むから、その方が楽ですよね、って話をしたんだけど。
有人飛行船の建造すら未着手な中、そんな話に手を伸ばすのは難度が高過ぎて現実的ではないとか、今ある技術体系でないと安定運用できないとか、関連技術が成熟してくるまで保留としようとか、口調こそ穏やかだったけれど、明らかに「進んでる計画をひっくり返すような話はしないでくれ」と拒否る意識が感じられて、その話はポシャった。
まぁ、地球でも成層圏プラットフォーム構想は確かまだ研究開発段階だったから、ちょっと手間かもしれない。ドワーフのヨーゲルさんは結構食いついてくれたんだけどね。
それでも高度二十キロの成層圏に浮遊してる飛行船のレーザー受光機を正確にとらえ続けようとなると、直線距離三十キロ先にある数十センチサイズのふらふら動く物体を補足し続けてって話だから、必要とする精度が高過ぎるとは話してた。その距離は共和国との海越えルートで通信はできてるけど、互いのレーザー中継施設は地上設置で動いてないから難度はまるで別物らしい。
それと、これは帝国ルート限定だけど、東遷事業の話が本格始動することになったから、レーザー中継ルートを東遷事業のエリアを通るように変更しよう、なんて話も出て来たそうだ。これは、直通回線を代表同士の会話だけに使うのは費用対効果が悪いので、どうせなら、東遷事業地域の通信・物流網の運用強化にも割り当てよう、という話だった。
確かに、ロングヒルとの間で太い交易路が開かれることになるし、東遷事業で東向きの河川が生まれれば、船便がそこを行き来することにもなるし、通信手段を複数用意しておくのは何かあった時を考えると良い策かもしれない。
……って具合に、話が派生しそうになって、代表の皆さんも後ろ髪を引かれる思いで、話を打ち切ったのだった。
電波が魔力濃度によって偏向してしまうこちらの世界では、光通信は有望だし、街エルフはそれを実用化もできてるんだから、そっちを伸ばすべきと思うんだけどね。まぁ仕方ない。
◇
期間限定の仮設拠点が設置されまくってた第三演習場も今は、業者の人達が解体作業で忙しくしてるそうだ。お祭りが終わった感があってちょっと寂しいけれど、解体された諸々の設備は、新設された倉庫群に保管されるそうだ。交流祭りは大盛況だったので、毎年開催するかどうかは議論の余地があるけれど、定期開催をしていこうってことに決まったんだよね。それで、こちらでは地球のように作って壊して、なんて無駄をやるような文化はないので、丁寧に解体して、次にもちゃんと使えるようにしっかり保管しとく事にしたってことだった。
なんてことを、わざわざ記録用の魔導具を使って幻影表示で、解体中の様子まで表示して説明してくれているのは、ぱっと見、美幼女にしか見えない依代の君だ。
僕が起きてくるのに合わせて、食事しながらでいいからって話を捻じ込んできたんだよね。
食卓に並んでいるのは、クロウさんが土産にくれた戻りカツオの叩きをメインとした和定食。脂がたっぷり乗っててトロのような濃厚な味わいがとっても美味。おろし生姜のおかげでさっぱり頂けてご飯も進んで、これは嬉しい。
「それで君は、交流祭りのラスト、代表の皆さん達、お偉方限定開催期間にヴィオさんとお出かけしたんだっけ?」
そう話を振ると、よく聞いた、と別の幻影を表示してくれた。半ズボンが眩しい小学生仕様な依代の君と、その左右にはシンプルな装いのヴィオさん、ダニエルさんがいて、少し後ろにヴィオさんの護衛をしてる連樹の里の方が二人といった整列写真だ。
「両手に華とは正にこのことだね、この幸せ者。で、なんでダニエルさんも誘ったの? 元々はヴィオさんとの逢引って話だったでしょ」
本心から羨む言葉を贈ると、彼も、ふふん、と優越感すら感じさせる笑顔を浮かべた。
「ダニエルにも随分世話になっているから何か礼がしたかったんだ。それで話を聞いてみると、今回のような祭りに遊びに出掛けるような経験もしたことが無いと言う。神官として布教活動に出向くのが主だったらしい」
ほぉ。
給仕をしてくれているアイリーンさんにちょっと聞いてみよう。
「アイリーンさん、魔導人形の皆さんも僕達と同じように学ばれるのなら、お祭りの日に息抜きに出掛けるとかしないんですか?」
「街エルフの皆様は外出することを好まれない方が多いのデス。それに私達にとって飲食は必須ではありまセン。その機能を持つ者の方が少ないのデス」
なるほど。
「ケイティさん、街エルフの街ではお祭りとかやらないんですか?」
「ない訳ではありませんが、同好の士を集めた即売会であるとか、交流会といったこじんまりとしたモノが主ですね。後は不定期に探査船団が帰国すると、帰国祝いが催されますが港町に住む者達が参加する程度で、別の街から足を伸ばしてまで参加する者は稀です」
むぅ。
まぁ、戦時下の世界ってこともあるんだろうけど、随分地味だ。
二人の話を聞いて、依代の君は我が意を得たりとばかりに口を開いた。
「民の悩みを聞き、導く役目を担う神官であるのに、自身が体験したこともないのでは説得力も生まれまい、と説得して、共に出掛けることにしたんだ。ボクとダニエル、二人とも祭りは初心者だから頼りにしてると話したら、ヴィオ姉も快諾してくれた」
流石はヴィオ姉、と依代の君はご満悦だ。
まぁ、日程的にもヴィオさん、ダニエルさんとそれぞれ日を改めて逢引をするというのも厳しかっただろうから、まぁそれはそれでアリか。それに依代の君は実体を得てから僅か一ヶ月程度、ダニエルさんも子供時代なんて無いから、一般的な人とは歩んできた人生も随分違う。二人が揃って出掛けても、楽しむのは大変そうだ。それにダニエルさんは信仰対象となる神とその神官、という間柄でもあるから、純粋に楽しんで、と言われても精神的に難しいかも。
「一般客を排除した特別期間ってことは、会場内はそれなりに空いてて、あまり待たずに利用できたのかな?」
「代表や同行してやってきてる使節団の者達もいたから、それなりの人数はいたが、待ち時間は無しでどこでも利用できたんだ。それで、ボク達は――」
で、それからは依代の君は、僕が時折、次の話題に移りやすいように相槌を打って、軽く促す程度にするだけで、いつまで続くんだってくらいに後から後から、二人のお姉さんとの思い出をそれはもう熱く、楽し気に語り倒してくれた。
まぁ、参加型アトラクションみたいなのは、身体強化者並みの依代の君が参加しても、施設を壊すか、難度が簡単過ぎて娯楽にならないから、そういうのはスルーしてたらしい。
生物としての疲労や飲食も全てが風味に過ぎない依代の君は、熱狂するといつまでも動き続けられてしまう悪癖が出るけど、そこはダニエルさんがヴィオさんに負担にならないように上手く配慮してくれたそうで、そうした気遣いができる理由を尋ねたところ、奉仕活動に参加する信者の人達の行動や限界をよく観察してきたので、無理をする前に一息入れるべきタイミングも理解している、とちょっと誇らしげに教えてくれたそうだ。
なるほど。
生物としての制約があるのが自分だけ、という状況だった訳だから、これはヴィオさんも何気に大変だったんだろうなぁ。
撮影役は護衛の二人が担当してたようで、トータル何枚撮影したんだ、というくらい、様々なシーンが記録されていたけれど、ヴィオさんも見た感じ、最後まで元気そうな様子だったから、ペース配分は上手くやっていたようで安心した。
「で、カフェで揃いのストローで一緒に飲んでたりもしてるけど、そんなサービスまでやってたんだ?」
街エルフの魔導人形の皆さんがシックな喫茶店を出店してるとは聞いていたけど、ハートマークを描く二人用ストローなんてモノを用意してるとは全くの予想外だった。これはヴィオさん、ダニエルさんでそれぞれ別に揃って飲むシーンを映してた。何とも幸せそうだ。年の差があり過ぎるせいか気恥ずかしい感じがお姉さん達から感じられないけれど、それはそれでまた良し。
「あぁ、それはロゼッタが手配してくれたんだ」
「ロゼッタさんが? 他にも何か指導があったの?」
「あった、あった。ボクだけじゃ気付けないことが多かったから、聞いておいて正解だった。そもそも逢引において、催し物は切っ掛けであって、お揃いで同じ体験をして、それによって互いがどんな反応をするか、そこに目を向けて愛でるものだと言われて、ハッと気付かされたんだ。ヴィオ姉やダニエルと一緒に行くから意味がある、それを忘れては本末転倒だと――」
……などと、逢引だけど、実は監修はロゼッタさんだった、と裏事情を暴露までしてくれた。互いが親しくなること、相手を持て成す気持ちを忘れない、けれど一方的にそればかりしては駄目で、持て成し、持て成されるバランスも大事で、相手と揃って、という観点が重要だとか、随分と入れ知恵を授けていたようだ。
「逢引では互いに普段とちょっと違ったお洒落な装いとしてるのだから、非日常感を意識した方がいい、か」
「そこはかなり念押しされたんだ。ヴィオ姉やダニエルとは普段から一緒にいることが多いから、下手をすると、普段と何も変わらないって状況に陥りかねない。それではせっかくの逢引感が薄れてしまう。そこで――」
依代の君は、僕が興味を示したのに気を良くして、あと、多分、自分の方がこの分野では経験者として語れるという優越感もあったりしたせいか、ケイティさんから、そろそろ時間ですので、とやんわりと終わりを告げられるまで、大演説会を続けてくれたのだった。
いやぁ。
だってね、ちょっと時間は取れてないけど、僕もケイティさんから休暇を楽みましょうか、と誘って貰えてるからね。魔導具を壊してしまう問題もあるから、今回のお祭りみたいな場にお出掛けって訳にはいかないけれど、全部お任せだと、普段と変わらなくなっちゃうから、そこは僕ができる範囲で、ってとこはあるけど、僕も主体的に動けないと。
……そんな訳で、思いの外、役立つ収穫があった、と感じたけれど、ケイティさんからは、貴重なレーザー通信をロゼッタさん相手に使うのは無しだ、と釘を刺されてしまった。残念。
ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
今回は短いですけど、キリがいいのでここまで。
秋の首脳会談も日程を少し延長することにはなりましたが、十日間で何とか終えることができました。その裏では、依代の君も念願の逢引にお出掛けしてたんだよ、というお話でした。
彼も人生初の逢引、しかも好意マシマシなお姉さんのヴィオ、それとダニエルと一緒だったこともあって、この素晴らしい体験を語りたい、自慢したいという気持ちで一杯でした。
アキもだいぶ興味津々って感じでしたが、依代の君と違って、共和国で直接指導をして貰うといった裏技は使えないので、ロゼッタに指導されるルートは回避されることになりました。
なお、レーザー通信を今回のような件で使用する件は、ケイティが駄目です、と禁じましたが、実のところ、予算的な話で言えば、アキに支払われている潤沢な給与から少し出すだけで問題なく利用できちゃうんですよね。ここはケイティの自由裁量範囲、というか我儘なのです。
依代の君は陰の部分の心を育んで心身を健全に育てる必要がある、という大義名分があるので、ロゼッタの指導も必要との判断にもなりますが、アキの場合、今の歳までミアがしっかり?導いているので、わざわざロゼッタとの意向を足す必要などない、ってのが表の理由。
裏の理由はまぁ、いずれ二人が休暇に遊ぶSSを書く際に明らかにしますね。
次回の投稿は、十一月十九日(日)二十一時五分です。
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