表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
583/769

20-19.竜神の巫女、竜族、妖精族は揃うことで真価を発揮する(後編)

前回のあらすじ:現在の弧状列島の状態って、三竦みの状態に対して中立勢力が駐屯している国連平和維持活動(PKO)みたいだよね、ってことで地球(あちら)での取り組みと顛末をざっとお話しました。皆さん、優秀な為政者なので、一を聞いて十を知る、サクっと失敗に至る流れを予見してくれました。やっぱり凄い方々です。あと、何故か今の流れが「全ては竜神の巫女の策略だった」なんて陰謀論が出てきそうって話のようで、何だかなぁって気分です。(アキ視点)

僕が竜族の振舞いをどうこうできる訳ではない、と反論しようとしたけど、ユリウス様が先に制止してきた。


「まぁ、待て。アキが以前から主張しているように、竜族達はアキから提案があっても鵜吞みにはせず熟考し、部族同士でも調整を行った上で方針を決めているのは皆も理解している。余らが指摘したいのはそこではない。物事の起きる順番だ」


 お?


「順番、ですか」


むむむ、何だろう、あまり馴染みのない見方だ。


「竜神の巫女は、あの竜族も含めてどの勢力にも肩入れすることがないからこそ要足りえる。それは確かだが、では竜神の巫女は我々、地の種族と竜族の間を繋ぐ立ち位置かと言えば、正しい面もあるがそれだけではない」


 ふむ。


まぁ、それだけかと言われれば、他の事もしてるから、全てではないね。


「そもそもだ、連樹の巫女を見ても判るように、一般的な巫女と言えば神からの啓示を受けて、それを信徒達に伝えるか、信徒達からの要望を受けて、それを神に伝え、判断を仰ぐ、そんな立ち位置だ」


「それはそうですね」


うん、うん、ヴィオさんの振舞いは正にそれだ。尤も私的な交流もそれなりにしてるっぽいけどね。それは本筋ではないだろうから、言うのは控えておく。


「また、アキはマコト文書の専門家でもある。百億の民が五千年かけて積み重ねた叡智で、為政者達の求めがあれば助言を行ってもいる」


まぁ、その通り。


「そこで、注目を浴びる事になるのが物事の順番だ。民には我らがやり取りをしている文など見えぬ。では、ここ一年、物事に先駆けて動いていたのは誰だ?」


 んー。


「一年前、三大勢力がロングヒルの地に集う切っ掛けとなったのは、ユリウス様が訪問すると打診してきたのが発端でしたよね。そこから、帝国から皇帝が来るなら、連邦は鬼王だ、連合は大統領だ、とあれよあれよと言う間に代表が集う流れが生まれました。あそこで全権委任されてる大使がやってくるとかなら、それほどの衝撃インパクトは無かったでしょう」


あの時は驚いたよね。小鬼帝国から名前も知らないくらい疎遠なのに、皇帝陛下御一行がやってくる、なんて話が飛び込んで来たんだもの。


ん、レイゼン様がこれに異を唱えた。


「確かにこれまで直接交流の無かった皇帝が帝国領の外に出てくると聞いて、俺もロングヒル入りを決めた。だがな、アキ。その件の発端はユリウスじゃない。雲取様でもないし、妖精族と言うのも正確じゃない」


 む。


ここでヤスケさんが後に続いた。


「発端はアキ、お前がロングヒルに魔術を学ぼうと訪れた事にある。我ら街エルフが表に出る事は少なく、その姿を見る者は稀だった。そのような中、アキは子守妖精が必要な未成年でありながら、他にも大勢の魔導人形達や探索者として五指に入るケイティ、ジョージの二人も伴って海を渡ってきた。本来、共和国では出国が許可されるのは成人を迎えた者のみ、との原則があるにも関わらず、だ。こうして列挙された内容を聞けば、それがどれだけ普通の留学と違うかは明らかだ」


「僕はもっとこう、単身留学みたいなこじんまりとしたイメージで考えてたんですけどね。その節はお世話になりました」


そう頭を下げると、ヤスケさんが薄く目を細めた。


「馬車で移動する為に、大型帆船で港に乗り付け、道中の安全を確保すべく、地中探査グランドソナー術式の使い手達や人形遣い達によって、不安要素は全て事前に排除した。移動の当日には対象地域への出入りも禁じて、これ以上ない手配がされていたことも覚えておけ。一体、どんな重要人物(V.I.P)がやってくるのか、と近隣諸国が訝しむほどだった。この上なく過保護なマサト、ロゼッタに感謝の念を伝えておくがいい」


この発言に、ニコラスさんも苦笑した。


「共和国の長老でもそこまでしないだろうという配慮なのに、やってくるのはまだ成人していない魔術見習いの娘、その理由も留学ときた。報告を受けた時には何かの暗号かと思ったほどだったよ」


ユリウス様もこれに続く。


「放っていた密偵達も監視領域から距離を置くことを余儀無くされた。余がロングヒルに注目したのも、その動きがあったのが切っ掛けだった。これまで背後にいて表に出てこなかった共和国が大きく動いたと、幕僚達が騒然とする程だったぞ」


 ぐぅ。


更にレイゼン様まで笑いながら駄目押しをしてきた。


「しかも、その魔術見習いの小娘は、魔導人形ではない、本物の妖精を子守役として伴っていた。そして続報は、総武演では、街エルフの人形遣いと妖精達が公開演技エキシビジョンで出し物もすると言う。セイケン達を派遣する判断をしたのはその情報があったからだ」


三代表の畳みかけで、もう僕の体力はゼロだった。





ユリウス様は僕が復活したところで、話を進める。


「その後の出来事については、次元門研究者を募る目的はあったにせよ、勢力も種族も超え、アキが貪欲に働き掛けた結果として、弧状列島の諸勢力は過去に前例のない方向に舵をきる事となった。アキが働き掛けて、皆が動いた。これがこの一年で起きた大イベントの定番パターンだった」


これにヤスケさんが後追いする。


「大イベントの中には、アキが心を病んで代表の方々にロングヒルへと足を運んで貰った事も含まれる。アレで民の認識では、竜神の巫女は多くの竜達が目を掛け、諸勢力の代表達が勢力間の諍いを横に置いても庇護する、配慮する存在と認識されたのだ」


 ぐぅ。


「その節は皆さん、急ぎで集まって貰い、大変助かりました」


あの時は、見知った皆さんと対話をして、大切に思い、思われ、思い出に触れる事で、疲弊した心を、自身を確かにすることができた。アレはかなり不味い事態だった。


そこにニコラスさんが別の切り口から踏み込む。


「それと、弧状列島の統一国家樹立に竜族も含める件、これについて我々は明言していないが、発案者が誰なのか、地の種族に興味を持たず相互不干渉を貫いてきた竜族を引き摺り込んできたのかは、誰もが知っている」


「人のことわりで考察したように、代表の皆さんからそのアイデアが自発的に出てこないから消去法で僕だと?」


そう問うと、シャーリスさんがふわりと飛んできて、頭を撫でてきた。


「もっと、もっと直接的な話よ。相手がどの種族であろうと礼を持って接し、竜だろうと、妖精だろうと、鬼でも、小鬼でも等しく仲間として厚遇し、ロングヒルの地限定ではあるが、全ての種族が共に暮す様を体現して見せたであろう? 統一国家の話はその全国版。それで気付かぬ方がどうかしているというモノじゃ」


それは結果であって、と反論しようとしたけど、レイゼン様に気勢を制された。


「アキ、反論は意味がないぞ。今、話しているのは、民が物事をどう捉えるかだ。それと、な」


「あの、まだ何か?」


「この場にいる者の中で、多くの種族の幅広い層に最も知られているのはアキ、お前だ。知られているというのは、単に名前を知ってる程度の話じゃないぞ」


え?


またまた、国家元首の皆様より広く知られてるなんて、と思ったんだけど、背後に控えているケイティさんが理由を明らかにしてくれた。


「アキ様はここロングヒルでも複数回、連邦でも多くの人々を集めて洗礼の儀を執り行っているではありませんか。それに帝都を訪問し各勢力の礼を届けた件も、雲取様と共に皆に語りかけていたので、実質、洗礼の儀と同等でした。それと便利だからと、声に意思を乗せて、皆の心に強く響かせる行いもされてましたね。天空竜の傍らに立つアキ様は、皆の心に強く残った事でしょう」


 あー。


言われてみれば確かに、他の皆さんは自勢力はともかく、他勢力となると知る人は少ない。


最後にユリウス様がトドメを刺してくれた。


「そして、各勢力は、洗礼の儀にはこれぞと思う次代を担う人材を集めていた。つまり、竜神の巫女アキは、全勢力の支配層なら誰でも話を直接聞いた事があるほど知られるようになったのだ。それも格式張った式典向けの取り繕った態度ではなく、親しい隣人であろうと、感情豊かに語りかけていた振る舞いをして、だ。天空竜の傍らで自然に振る舞う様子は、竜からの圧との差もあり、印象深いものとなった」


竜族と仲良くなってもらおうと、温和で話の通じる相手なんだよ、とアピールに動いたつもりが、僕自身をアピールすることに繋がっていたというのは、あまり意識してなかった。ぐぅ。





これまでの考察を踏まえて、ユリウス様が、最初に話していた結論を話しだした。


「アキは、諸勢力全てを束ねる要であるだけでなく、竜族が地の種族と交流を重ねて互いを必要とするよう促す導き手であり、竜族、妖精族と共に中立勢力として、統一国家が樹立されるその時まで、その立ち位置であり続けなければならない。また、これまでと同様、ロングヒルの地を全種族が分け隔てなく平等に暮らしていける実例として示すことで、全勢力が集う統一国家の樹立が絵空事ではなく、手が届く未来なのだと人々に伝えてゆくのだ。最後に六十年と言ったのは、連合、つまり人族で今の三大勢力が争っていた時代を知る者が殆ど鬼籍に入り、皆が同じ国で等しく暮らす世を当たり前とする世代へと移り変わるのに、それだけの期間が必要だからだ。その頃には帝国は二代は入れ替わっていて、争っていた時代はもう歴史の彼方だ。そこまで辿り着ければ、統一国家の大多数を占めるのは、共に暮す統一国家しかしらない世代だ。再び戦乱の世に戻ることもあるまい」


滔々と語る様は、まるで預言者のようでもあり、後を託して引退していく古老のようでもあった。


「……あの、ユリウス様、まだ浄化作戦も準備段階、帝国の防疫都市開発も始まったばかりですからね?」


ちょっと悲しい気分になって、現役バリバリなのに、なに黄昏れた事を言ってるのか、と発破をかけてみた。


感情が表情に出ていたようで、ユリウス様はいつも通りの力強い目を向けて笑い返してくれる。


「忘れてはおらぬから安心するがいい。しっかり土台造りをした後は、先代達のように悠々自適の隠居生活をしつつ、皆が四苦八苦する様を楽しく眺めながら、激動の時代を余の視点から捉えた書を記すつもりだ。困難は多かったが、こうして太平の世となった、そう記せるよう労は惜しまぬ」


その振る舞いはいつものユリウス様通りで、でも、だからこそ、種族の歩む時の違いを強く感じさせられることになった。


……あと何年かのうちに次元門を開いて、さくっとミア姉を救出できたら、後は皆さんにお任せ、などと軽口を叩けるような雰囲気でもなく、その思いは飲み込んでおくしかなかった。


だけど、六十年か。僕がこれまで生きてきた人生の三倍働け、と言われてもピンとこない。日本あちらの人間換算なら、八十歳までは現役で宜しく、と言われた感じだものね。先は長いや。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


物事には何事にも始まりがある。そして次元門構築の為に、他が動かないなら自分が動く、と率先して活動しまくった結果、ここ一年の大変化は、第三者からすると、全ての発端は竜神の巫女アキにあった、なんて見えると言う事実を示されました。しかも、集った代表達よりアキが誰よりも名が知れ渡ってるというオマケ付き。竜族内での認識まで含めたら、二位以下を大きく引き離してぶっちぎりの一位でしょう。……とまぁ、アキも薄々、気付いてた話ですが皆から事実を突きつけられたお話でした。


あと、ユリウスが次、を考えて発言してましたが、彼も既に二十代中盤、人間に換算すると四十代後半から五十代前半くらいに相当する感じですからね。小鬼族の時は早く過ぎ去るので、小鬼族の文化的には、自分の代では何を為すか、といった思考は誰もが持つ普通の感覚なのでした。


次回の投稿は、九月六日(水)二十一時五分です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
評価・ブックマーク・レビュー・感想・いいねなどいただけたら、執筆意欲Upにもなり幸いです。

他の人も読んで欲しいと思えたらクリック投票(MAX 1日1回)お願いします。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ