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20-18.竜神の巫女、竜族、妖精族は揃うことで真価を発揮する(中編)

前回のあらすじ:甘やかされたい、甘やかしたい、その思いをどちらも持てる対象って、年上の綺麗なお姉さんくらいなもので、それ以外だと、そのどちらか一方だけになるでしょ、という自明の理な話も、何故か皆さんの同意を得ることはできませんでした。不思議ですよね。あと竜神の巫女、竜族、妖精族は揃うと互いに補完し合って中立勢力になるね、なんて話をしました。(アキ視点)


さてさて。代表の皆さんが弧状列島の置かれている状況について、天の(ことわり)として時間の観点から、地の(ことわり)として地理的観点から、人の(ことわり)として各種族や為政者の観点から、考察を進めてくれた内容について、その概要を把握することができた。結果として、現在以外の時代では統一国家樹立への流れとはならないこと、弧状列島の地理的条件も少しズレるだけで今のバランスが崩れてしまうこと、そして、各種族からという形では統一国家に向けた提案、活動は生じないだろうことが明らかになった。


また、地の種族の勢力、連合、連邦、帝国、共和国のいずれにも属さない勢力として竜神の巫女、竜族、妖精族は存在し、その三者が揃うことで互いの不得手を補い、方向性の揃った中立勢力となること。そしてどの勢力にも肩入れしない立ち位置のおかげで、その三者が示す案は中立性があり、裏読みを必要とせず素直に受け取れる利点がある、と。


 ふむ。


「一通り聞いた感じだと、地球(あちら)の事例で例えると、当事者同士では紛争解決ができない地域に派遣された国連平和維持活動(PKO)みたいなモノですね」


「国連とは確か、世界大戦を招かぬよう世界中の国が参加している平和の維持、社会の発展を目的として作られた機関だったな。それで国連平和維持活動(PKO)とはどういう取り組みなのだ?」


説明せよ、と促されたので、ベリルさんに絵図を書いて貰いながら、ざっと概要を説明してみた。国内で終わることのない紛争を続けている国が、争いを止めたいと願い、されど互いを信用できず、当事者同士では停戦維持が困難だとする。そんな国に対して、紛争当事者の間に立って、停戦の監視を行うことで、紛争の再発防止を図る活動なんですよ、と。あと、当初は停戦監視任務だけだったけれど、次第に平和構築任務、例えば兵士の武装解除や社会復帰、選挙が正しく実施されるよう監視する、といった事も行うようになったと説明した。


だけど、説明を聞いた代表の皆さんは首を傾げた。


「アキ、街で荒くれ者同士の抗争を止めようと、衛兵達が間に割って入ることはある。そこで荒くれ者達が争うのを止めるのは、連絡によって駆けつける増援も含めた衛兵達の武力、国家の統治に歯向かってまで続けることではない、と判断するからだ。確かに抗争の当事者双方から信頼される者が仲裁を買って出ることもあり、それで矛を収めることもある。だが国の規模にまで広がった武力闘争に対して、信頼される第三者が介入して争いを止めるなど、本当にできるモノなのか? その国際連合とやらは、それほどに権威があるのか?」


 やっぱ鋭いなぁ、ユリウス様。


「えっと、一応、紛争当事者達も一応、尊重しようかというくらいには権威はありました。なので、当初の国連平和維持活動(PKO)では、国連関係者を意味するブルーヘルメットや旗によって争いの発生を防ぐということで、派遣された停戦監視員の方々も軽武装の民間人でした」


「そいつは駄目だろ。衛兵が武器も持たずに突っ立ってるようなもんだ」


レイゼン様が駄目出ししてきた。


まぁ、そうなんだよね。


「仰る通り、最初こそ上手く働いたんですけど、紛争が再び起こらないよう停戦の監視をしてるだけでは、国連平和維持活動(PKO)の監視団が去れば、元の木阿弥、再び紛争が起きてしまうでしょう。そうならない為には、国中に蔓延している銃器を回収したり、戦いしか知らない少年兵達に他の仕事をして生きていけるよう社会復帰を支援したり、紛争当事者達が納得する形で政治を行える制度を整えて、皆が納得する形で選挙を実施して、武力に訴えることなく政治を行えるよう後押ししていくことが求められました」


ん、ニコラスさんが手をあげた。


「そもそも利害が一致しない勢力同士、今言ったことに皆が納得して大人しく従い続けて、武力衝突に発展することなく共同統治体制に移行するのは無理じゃないか? どこかのタイミングで移行後の政治体制への不満が爆発して武力衝突に発展し、軽武装の停戦監視団は、その争いをただ眺めるだけ、自分達が巻き込まれないよう撤退するしかないと思うが」


一を聞いて十を知るって感じで話が早い。というか、国連平和維持活動(PKO)設立時の人々ってなんでそんなに無邪気に平和な世が訪れると信じられたのか、今となっては凄く不思議だ。


「はい。予想されたように、暴動から虐殺へ、争いが広がる事態となり、国連平和維持活動(PKO)の停戦監視団はそれを止めるにはあまりに無力でした。その後は、ある程度の武力衝突に独力で対応できるよう、国連平和維持活動(PKO)は武力介入を行える能力を持たせるといったことになっていきました。ただ、結局のところ、武装勢力に対して通じるのは言葉ではなく武力だけだった、という残念な結論だけが残りました」


勿論、紛争再発にまで行かず停戦監視が機能してる事例もあるんですよ、とフォローしてみたものの、代表の皆さんの反応としては、何とも中途半端な活動に思えたようだった。





「アキ、先ほどの国連平和維持活動(PKO)の事例と、弧状列島の現状では何が違うと思う?」


ユリウス様が、さぁ説明せよ、と促してきた。もぅ、言うのは簡単だけど、結構面倒臭い話だよ。


「そうですね、国連平和維持活動(PKO)が派遣されるような紛争国では、国の統治機構が破綻しており、各勢力はせいぜい武装勢力といったところであり、国家の体を為していません。それに比べると、弧状列島の場合、三大勢力及び共和国はいずれも国家として完全に機能しており、この一年、偶発的な紛争すら起こさず過ごすことができた事から、末端に至るまで、その統治は行き届いていると見ていいでしょう。地球(あちら)の紛争国では、例え勢力間で停戦を合意しても、すぐあちこちで衝突が起こってしまい、勢力内の統治が行き届いていません。また勢力の支配地域でのまつりごとも、国と呼べるほどの秩序も仕組みもありません。ここは大きな違いでしょう。あちらと違い、弧状列島の場合、各勢力の代表同士で合意が取れれば、勢力間の抗争は防げます」


大変良いことだ、と褒めると、ユリウス様がそれならば、と踏み込んできた。


「国として内部統制が取れた勢力同士の停戦、ならばその監視団は軽武装の民間人で十分と思うか?」


 ふむ。


「それでは不十分でしょう。そもそも諸勢力が互いに共存などできぬ、と拒んで争っていて、自主的な取り組みでは手を取り合えないと考察でも答えは出ていましたから。この一年、勢力間の衝突が起きなかったのは、これまで相互不干渉を貫いてきた竜族が、その在り方を変えてきた。どこまで干渉してくるかわからない、だから動けない、って側面が強かったように思います」


そう話すと、ヤスケさんがジロリと鋭い視線を向けてきた。


「そうして皆が手を(こまね)いている間に、まんまと列島中に天空竜と竜神子の交流拠点を用意して回り、更に明確に竜族が関与していくことを示して、武力衝突する気運を消し飛ばしおった」


 ほほぉ。


「んー、ヤスケ様、それはかなり穿った見方ですよ。事の発端は、ロングヒルだけで進む天空竜との交流、それを僕や一部の人達だけで独占していると邪推されては面倒臭いって話と、それなら希望者同士を募って、地域や勢力に偏りがでないよう、弧状列島のあちこちで交流できるよう促した、って流れですから。独占せず皆と触れ合う場を分かち合った、それが結果として、争う気勢を削いだ。その結果はオマケです。勿論、多少は争う気運に水を差す効果があるだろうと期待はしてましたけど」


そう韜晦(とうかい)してみたけど、皆さんからは揃って白い目を向けられてしまった。


シャーリスさんがふわりと飛んでくる。


「物事をアキの視点で時系列に沿って、掻い摘んで話せばそれでも間違いではなかろう。しかし、此度は、アキの提案に乗って、地の四勢力が参戦義務を伴う軍事同盟を締結し、平和の対価として食料の相互提供を行う条約も締結する。竜神の巫女は、初登場の時点で三大勢力を休戦に導き、半年後には三大勢力だけでなく共和国、竜族、妖精族も加えて合同活動の実施に漕ぎ着けた。この一年の流れを見て、民が何を思うか。それこそ、全ては街エルフの陰謀だったと言い出すかものぉ」


なんてクスクス笑い、ヤスケさんがこれには苦言を呈した。


「シャーリス殿、冗談だと理解しているが、我ら街エルフが不俱戴天の仇たる竜族と仲良く手を取り合う未来を思い描いたなどと言われては、黙ってはおれん。断言してもいいが、我が国に変わり者は多くとも、アキが提案したような統一国家構想を思い描くような酔狂な輩は一人もおらん。そもそもあの竜どもを眺めて、恰好いいだの、美しいだのと公言するような者とて皆無だったわ」


本気で言ってるのではないと思うからこそ、口調もそれほど荒くはないものの、言葉の端々に竜族への決して埋めることのできない確執、拒絶の思いが感じられた。


 でも、ちょいと待って。


「あの、ヤスケ様。話が少し横道に逸れますけど、共和国の館で観た事のある雲取様を描いた絵画は見事な出来栄えでした。あの絵画からは機能美や圧倒的な威は感じられましたけど、それ以外の感情は籠められてなかったですよ?」


そう指摘すると、ヤスケさんは嫌々ながらも説明してくれた。


「だから、描いた者は公言してはおらん。画家が絵を語るのは無粋だと言っておった」


 ふむふむ。


立場上、私は見た姿を描いただけです、どう感じるかは、各自の自由でしょう、と。見事な保身だ。


シャーリスさんも、ヤスケさんに頭を下げる。


「つい頭に浮かんで埒も無いことを口にしてしまった。許されよ。話を戻すが、アキ。この一年、当事者として関わってきた妾達ですら、今の状況はアキの深謀遠慮の策だったと言われれば、否定する術を持たぬのよ」


経緯を一通り知ってる皆さんがそんな御冗談を、と思ったけど、皆さん、目が本気マジだった。


 えっと。


「次元門構築の為には、考えうる限りの全ての種族の助力が必要で、だからこそ、勢力間の争いは無いに越したことは無い、そう考えていたのは確かです。だから、それぞれの時点で、争いが起こりにくいように、裏が取れるまで動きにくくなるように、そんな思いもあったことは認めます。でも、僕自身は各勢力に割って入るような武力はありませんし、中立勢力として括られてる竜族、妖精族にだってそんな気はありません」


僕は皆さんにどうですか、と案を示して誘うことまでしかできませんから、と笑顔で締めると、ユリウス様が心の奥底まで見通すような鋭い眼差しを向けてきた。


「そう、アキの巧妙なところはソレだ。虎の威を借る狐、だったか。さしずめ、こちらで言うなら、竜の威を借る狐、といったところだろう。天空竜の傍らにあって親し気に振舞い、竜と共に空から舞い降り、人々の心に直接、声を響かせる竜神の巫女は、力ある仲裁者と見られるのに十分だった」


アキは威張る小者として振る舞ってはいないが、と一応、フォローしてくれたものの、ユリウス様の説明は皆の総意でもあるのは明らかだった。


……まぁ、為政者視点だと、そういう見方になるって話だとは思うけど、竜族を軽く捉える意識があると誤解を生みかねないから、雲取様を交えた時に触れるとしたら、もう少し配慮した物言いにしないと不味そうだ。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


中立勢力(竜神の巫女、竜族、妖精族)って、国連平和維持活動(PKO)に似たとこあるよね、ということで、似てるところ、似てないところについてあれこれ話してみました。

そこから派生して、為政者視点で観た「竜神の巫女」像についても触れることに。まぁ、こちらについては、これまでにもあちこちで触れてる内容なので、総括的な部分と、次パートでのそれが意味するところ(メリット、デメリット)についての布石ってとこです。


ヤスケが思いっきり否定してましたけど、街エルフと竜族の骨肉の争い、不俱戴天の敵であるという歴史がなければ、街エルフの陰謀論は湧いて出てくる事態だったでしょう。


次回の投稿は、九月三日(日)二十一時五分です。


<それと>

本作ですが、総合評価が2,000ポイントを超えました。3,000ポイントまでの道もやっと折り返し地点(※)です。目出度い節目となりました。

 ※1,000ポイントからの道のりと言う意味で。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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