20-17.竜神の巫女、竜族、妖精族は揃うことで真価を発揮する(前編)
前回のあらすじ:天地人、最期の視点、人の理について話を伺うことができました。聞いた感じ、やっぱりボトムアップに統一国家樹立という未来に進むのはかなり難しいってことが見えてきましたね。部族社会のアフリカ諸国に国という枠組みを嵌めて纏めても、枠ががたつくとあっという間に部族間対立と抗争の時代に逆戻りしてしまうのと同様、代表達がどれだけ崇高な思念を持ったとしても、国民一人一人が国という意識を持ち、纏まろうという意識を持たなくては駄目、ということなのでしょう。すぐ解決できる簡単な処方箋がない難題なのでしょうね。(アキ視点)
話のきりがいいので、休憩時間を挟むことになった。
まったくいい大人が揃って意趣返ししてくるなんてね、と思いながらも、なんか心の内が見える対応が微笑ましく感じられて、ついニコニコしててたら、怪訝そうな顔でレイゼン様が話しかけてきた。
「意趣返しされた割にはご機嫌そうじゃないか、アキ」
ふむ。
他の人の反応を見てみると、どうも僕が凹むとか、不貞腐れるとか、そっちで予想してた人が多そう。見る目が無いなー。
「問題行動を自覚できる場を設えた、その行動の源が僕への親愛の情と理解していれば、大切にされてる、と喜ぶことはあっても、不満に思う事はないですからね。行動の強制や意見の押し付けなら反発する気も生じるでしょうけど、そうではありませんから」
話が多段過ぎて一歩ずつ説明してくと結論がボヤける時には、掻い摘んで途中を飛ばして結論を話すのは、よくやる手ですからね、とも伝えた。
ん。
ふわりとシャーリスさんが飛んで来た。
「アキ、もしや、此度のような対応には慣れておるのかぇ?」
そう聞いてきながらも、そうに違いないと確信してるようだ。
「御明察の通り、慣れてるんですよ、僕の場合。ほら、小さい頃からミア姉とあれこれ話してて、わからない事を周りの人に聞いて回ってたでしょう? そうすると、相手の大人達も、一応説明しても、そもそも僕が話を理解しているのか、どこまで想像できているのか確認したくなってくるようなんですよ。両親や先生、近所の年配層の方々、それにミア姉からも散々やられました」
だからこそ、無理なところは助けて貰うし、理解が足りないなら理解するまで頑張る癖もついたんですよ、と話した。
ふわりとお爺ちゃんも前に出る。
「儂もこちらに来てからは、散々、わからないことについて聞いて回ることになったが、儂が理解した内容で誤って話が広がっては大変と随分絞られることになったわい。話を聞いて理解した気になっても、いざ自分が説明する側に回ると、案外、足りてない事に気付かされることも多く、この歳になって学びの大切さを噛み締めておる」
うむ、うむと上手く纏めてくれた。
おや、ヤスケさんが何とも形容しがたい笑みを浮かべてる。
「ヤスケ様、何か?」
「アキがあのミアを相手に毎日、心話で討論していた事は賞賛するしかあるまい。後ろにいる二人とて、そんな真似は真っ平御免だ」
えー。
なんか、ジロウさん、クロウさんまで異論の余地なしと頷いてるし。
ここは誤解を解いておかないと。
「皆さん、誤解されてるようですけど、毎日、ミア姉と心話をしてたと言っても、討論ばかりしてた訳じゃないですからね? その日起きたたわいもない出来事を話したり、疲れた、意味わからない、と聞いた話に愚痴を言い合ったり。討論半分、心話の訓練一割、残りは雑談みたいな感じだったんですから」
普段キリっとしてるミア姉もあれはあれで可愛いところがあって、と話すと、シャーリスさんが溜息混じりにぽんぽんと頭を撫でてきた。
「そうして、アキのお姉さん好きは筋金入りになったんじゃな」
ん。
「凛とした雰囲気の綺麗なお姉さんが親身になってくれたら、普通、好意を持つでしょう? それに甘やかされたいとか、甘やかしたいみたいな気持ちって、他の人達に両方は抱かないじゃないですか。そういう意味でちょっと特別なんですよ」
なんて言い切ると、一同、何とも達観したような目を向けてきた。なんか酷い。
仕方ない。親やそれ以上の世代の人達とか年上のお兄さんとかに甘やかしたいって気持ちを抱くことなんてないし、年下の子達相手に甘やかされたい、なんて気持ちにもならないでしょう? って感じに、それからも結構熱く語ってみたんだけど……。
何と言うか。
思春期だね、なんて感じに生暖かい目線が更にマシマシになってしまった。むぅ。
◇
ユリウス様が、さて、と会合の再開を告げる。
「それではアキ、竜神の巫女、竜族、妖精族、この三者がなぜ揃うことで真価を発揮するのか、他勢力との違いは何か話してみよ」
さらりと、なかなか難度の高い要求をしてくるなぁ。まぁ話ながら考えを纏めて行こう。
「では勢力間のパワーバランスという意味で単一勢力で他を圧倒する竜族について、考察を進めてみましょう。彼らは最強の個であり、戦力という意味では、多分、他勢力全てを制圧するのにも全体の一割も必要としない、それくらい戦力差があると考えていいでしょう。では、片手間で他を圧倒できる竜族を頂点として、他をその下に配する二階層の国家構造が成立するか。これは成立しません。そもそも竜族にそんな面倒臭いことをやろうという意思がなく、竜族全体として纏まる仕組みも意識もやる気もないからです。彼らは最強の隣人、弧状列島の同居人ではありますが、その活動は本質的に自己完結していて他を必要としません。ですから、竜族単独では、勢力というよりは、意思ある天災、地の種族と交わることのない存在と看做していいでしょう」
交わらない存在だから価値を発揮するも何もなし、と纏めると皆さんもこれには頷いてくれた。
では、次。
「次は妖精族にしましょうか。文化的な側面はともかく、生存する世界が異なる妖精族は、一割召喚といった工夫で、召喚できる人数は多少増やせてはいるものの、こちらでの活動にある意味、何も必要としない時点で、竜族と同様、御伽噺の住人、ふらりと立ち寄って去っていく旅人、地の種族と勢力として、弧状列島の活動に関わる事のない存在と考えて良いでしょう。妖精さん達がこちらで休憩するのに使ってるツリーハウスも、規模としては樹木一本、庭先スペースですから。弧状列島規模で考えるとその活動規模は誤差レベルです」
話してみると、アレだ、竜族と同じ傾向があるね。地の種族と交わらず自己完結してる勢力という意味で。
ん、シャーリスさんがふわりと前に出た。
「アキの話した通り、妾達は召喚体という形で、仮初の体を得てこちらに訪れているものの、術式を止めれば消えてしまう幻のような存在よな。今はまだ無理ではあるが、いずれは妖精の道を意図的に創り出す次元門の運用をする世ともなろう。では、次元門を通じて直接交流が進むかと言えば、答えは否。妾達にはこちらは魔力が薄過ぎて実体で来ても長居はできず意味がない。そしてこちらの住人もまた、妖精界の魔力が濃過ぎて心身に不調をきたしてしまい、やはり長居はできまい」
「ですね。異なる世界という点をこの惑星の裏側、地の果てにある異国としても大差ない話でしょう。直接の行き来はできず、術式を通じて情報のやり取りをするに留まる関係です」
「長居をするだけであれば、召喚体で事足りるからのぉ」
確かに。
「最後は僕、竜神の巫女ですね。竜族と妖精族で共通点があったのでそちらに沿わせる形で思考を進めてみましょう。竜神の巫女は種族としては共和国、街エルフの勢力に属しているものの、その代表でもなく、要職に就いている訳でもなく、勢力として見た場合には関係はないと看做しても良いでしょう。ああしろ、こうしろと干渉せず、自由にやらせて貰えて感謝してます」
そう言って頭を下げると、ヤスケさんも鼻を鳴らしながらも、話を先に進めろと流してくれた。
「竜神の巫女は、その活動を支えるかなりの人数のサポーターを要する集団であり、財閥から手厚い支援を受けている訳ですが、三大勢力や共和国と勢力として比較した場合、その活動規模はやはり誤差レベルです。そういう意味では竜族、妖精族、竜神の巫女はいずれも、既存の勢力に属さず、その活動に他勢力を必要としないと看做していいでしょう。僕がロングヒルにいてこうして安心して生活できるという意味では、共和国と連合の庇護下にあるから、という大前提はあるので、竜神の巫女は竜族、妖精族ほど完全に自己完結はしてないですけどね」
全体に対する影響という大局的な視点で語るので、そこはご了承ください、と伝えると、ニコラスさんも苦笑しながら、理解してるからそこは安心していい、と話してくれた。
◇
さて。
「竜神の巫女、竜族、妖精族、三者に多少の違いはあれど、その活動、生活に三大勢力や共和国が勢力としては絡んでおらず、ある意味、柵がないという特徴は見えてきました。直接的な利害関係がないというのは、客観的な視点を持つのに役立つ特徴と言えるでしょう。どこかに肩入れしてては、中立性は担保できませんからね。僕はどの勢力も贔屓せず等しく扱うからこその要と称して貰ってますけど、竜族、妖精族もまた中立の性質を持つからこそ、要としての重み、意味も増すのではないかと思います。中立的な視点で意見を僕が話したとして、それに対して同じように中立的な視点から意見を重ねてくれる竜族、妖精族がいるからこそ、僕の要としての価値も増す。これが竜神の巫女が他と揃うことで得られる支援効果でしょう」
マコト文書の知の視点から異邦人目線で客観的に語る子供が一人、というよりも、その意見にそうだね、と同意してくれる三万柱の竜達、何千人という妖精族が同じ側につけば、他勢力に対しても意見が届きやすい、と補足した。
「自勢力の利害という視点を含まない意見は受け入れやすい、という点は同意しよう。では竜族が揃うことで得られる支援効果は何か?」
ユリウス様がなるほど、と頷きながらも次、と促してきた。
ふむ。
完全に同意してる感じじゃないけど、ここで種明かしするんじゃなく、後で纏めてってとこか。
「では、次は竜族ですね。彼らは地の種族に疎いので、誰かが両者を繋がなくては検討の意味が出てくるような意見を発する流れになりません。力を背景に従え、と伝えるのは意見ではなく命令ですが、それをする気は彼らにはありませんから。彼らが潜在的に持つであろう欲求、需要を掘り起こして、独立独歩の立ち位置から、地の種族の隣人となるよう歩み寄るよう働きかける存在、竜神の巫女が必要となります。地の種族に歩み寄り、隣人として共に暮らそうという姿勢になるからこそ、竜族も第五の勢力としての存在価値が生まれてきます。では、妖精族がそこに加わることで生じる支援効果は何か。んー、多分、弧状列島の全勢力、竜族も含めた勢力のいずれとも異なる勢力、それも地の種族と同じように集団活動を基本としつつ、竜族のように空を主な活動の場とするという絶妙な立ち位置です。妖精族は個で完結してる空の竜族と、集団で活動してる地の種族を繋ぐ架け橋、客観性を持って両者に意見を話せる第三者、という役割を提供してくれているのでしょう。二人が対峙してるより、両者のどちらにも属さず双方に理解を示す三人目が加わった方が話が拗れずに済みますからね。えっと、竜族に対して竜神の巫女、妖精族が加わった場合の効能はこんなところでどうでしょう?」
僕だけで、今、妖精族が行ってる竜族と地の種族の間を取り持つ役目まで抱えたらパンクしちゃうのは確実だ。
「それは登山の際の団体行動でも恩恵があったな。高空を飛ぶ竜と地を歩く者達の間を同行した妖精のメンバーが上手く繋いでくれたと報告にもあったぜ」
レイゼン様が解り易い例を出して、同意しれくれた。良し。
「最後は妖精族ですね。異なる文化圏、こちらとは異なる住人である彼らにとって、仲介者なしにこちらの勢力との交流を行うことは、やはり困難が伴います。それよりは異なる文化同士を扱う文化比較学への理解がある仲介者、この場合は竜神の巫女というよりは、僕のもう一つの役職、マコト文書の専門家としての立場と、その活動を支える大勢のサポートメンバー達が間に立つことで、交流がよりスムーズに行えるようになっている、その恩恵は間違いなくあるでしょう。では、竜族が加わることで得られる恩恵は何か。んー、多分、竜族に対する妖精族と同じで、初見で説明を聞いても我々の文明や技術についてかなりの理解ができる聡い竜達、彼らがどちらにも肩入れせず、先入観もなく、意見を述べてくれる、というのが恩恵でしょう。客観的に見てるつもりでも、自然と自分達の文化、概念ベースで理解を進めてしまいがちな異文化交流にとって、どの文化にも影響されていない、聡い第三者がいてくれる、というのは有難い話ですよね」
そう話すと、シャーリスさんもこれにはその通りと大きく頷いてくれた。
「妾達も妖精界の人族の事を多少は知っているが、それは文化交流と呼べるほどの濃さではなかった。それに魔力がこれほど薄く、意思が活動に与える影響も極僅か、というこちらの環境への理解もやはりまだまだ十分ではない。そんな中、先入観なく、妾達とは異なる視点で物事を捉え、竜眼で観察し、その独特の視点で得られた情報を惜しげもなく示してくれる竜族は得難い友と言えよう」
手放しで竜達が賞賛されるとやっぱり嬉しい。
「総括すると、竜神の巫女、竜族、妖精族はそれぞれが単独では、他勢力に与える影響は限定的か、殆ど無しになってしまうが、三者が揃うと、互いの不得手を補い、中立的な第三勢力として方向性が揃うことで、地の種族が提案しても字義通りに受け取って貰えない問題をクリアして、中立性があって裏が無い、裏を必要としない提案として素直に受け取れる効果が生まれるって事。勢力としての色が付かない提案って考えてみれば、地球でも無かった話な訳ですから、今の我々が置かれている状況ってかなり面白いですね」
三界、妖精界、こちら、地球のいずれにもこれまでになかった事、もしかしたらこれからもないかもしれない事、と気付いて、これは面白い、興味深いって意味ですよ、とフォローまで入れると、皆さんは頷きながらも、同時に疲れた視線を向けてきた。
「三者の揃うことで発揮する真価、その意味について補足する意見、視点はあるがそれは本流ではないので後に回そう。他勢力との関係も含めて、アキの考察については概ね、我らの検討内容と等しい。だからこそ、余らの苦悩、不安が生じるのだ。誰もこれまで踏み込んだことのない未知の領域、未来への舵取りをせねばならないのだから」
誰も踏み込んだことのない未知へと進む、と聞いてワクワクしてしまったけど、ちらりと横をみるとお爺ちゃんも同じ意見ではあったけど、言わぬが花じゃ、と目が語っていたので、慌てて僕も、それは大変ですね、と共感の意を示して取り繕った。
……勿論、そんな取ってつけた態度はバレバレで、代表の皆さん達は、こいつはそーいう奴だよ、などと口々に不満の声を漏らすのだった。
いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
今回はこれまでに主張してきた内容、情報の総括篇って感じになりましたね。
多分、アキだからこそ中立を意識できるのであって、これが例えばミアであれば、中立であろうと心掛けたとしても、どうしても共和国視点になってしまうし、財閥代表という柵もある中では、その立ち位置からの意見、という色眼鏡は持たれることになってしまうでしょう。
あと、三者、竜神の巫女、竜族、妖精族は互いを補完し、揃うことで真価を発揮する、という意見。
嘘じゃないんですけど、正確な物言いかというと、これもまた疑問符が付くんですよね。その辺りについて次パートから語ってく感じになります。
次回の投稿は、八月三十日(水)二十一時五分です。