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20-10.日本人気質?

前回のあらすじ:参謀達がアキに対してあれこれ要求を重ねることなく、アキの立ち位置をかなりおなり抑えたものとした理由について、第三者視点で描写したSSでした。エリー大活躍ですね。ただ、エリーが上手く立ち回るほどに、逃してなるものかと皆がしがみ付いてくるのは自業自得というか自縄自縛ってとこでしょうか。

参謀の皆さんやエリーとの歓談も楽しく終えることができて、あとはいつものルーティンをこなして寝るだけ、となった。


いつもの違ったのは、お風呂から上がって、髪の水気を取ったりしてのんびりしてたところで、ケイティさんが封筒を渡してきたこと。


表には、九十九と番号が書かれているだけのシンプルな封筒。ミア姉からの手紙だ。


「何か条件を満たしたんですか?」


ミア姉がテーブル一杯に残してくれたという手紙にはそれぞれ条件が記載されていて、それを満たしたら、僕に渡す手筈になっている。中身は誰も見ていないから、実は僕が読んだ後は、家族の皆も、差し障りがない範囲で内容を知りたがるんだよね。


中身を読んでから別の封筒に入れて封をし直したって、僕にはそうされても区別は付かないのに、律儀なことだ。それだけ皆もミア姉や僕に対して誠意を見せてくれてるって事だろうね。嬉しい。


「先程の会合で、アキ様が寂しさや孤独を強く感じられてましたので、手紙の条件を満たしたと判断しました」


そう言いながら、封筒に添付されていた条件シートも見せてくれた。


 ふむ。


【九十九】

条件:マコトがこちらでの活動に手詰まり感を覚えて、手を広げようとするものの、協力が得られず、焦燥感で空回りしている時。


 んー。


「えっと、結構、拡大解釈してる感じですけど、本当に読んでいいんですか?」


念の為に再確認すると、ケイティさんは困った顔をしながらも頷いてくれた。


「ミア様が残された手紙ですが、その条件が活動初期段階のような、個人の限界にぶち当たった時や、賛同者を増やして活動規模を広げていく時期向けのモノが多いのです。アキ様はそういった段階をあっという間に飛び越えてしまい、多くの協力者、十分な資金、多岐に渡る情報を得る為の伝手も得ており、今後、条件をそのまま満たす可能性は低いと判断しました。以前、ハヤト様やアヤ様がいらした時に説明した通り、そういった手紙については条件を緩く適用することにしてます」


 なるほど。


確かに、この条件だと、確かに今後もきっちり満たすタイミングはなさそうだ。今のところ、お願いして協力を得られそうにないけど、どうしても得たい相手というのもいないし、僕だけなら焦ったり、絶望感に打ちのめされそうになっても、落ち着いて足元をみてごらん、前より進んでるだろう? と師匠のように諭してくれる人もいるからね。


これまでと違って、手紙を渡すタイミングでも、家族が同席してない、ある意味、軽い扱いなのも、ズレた内容の手紙で、さほど影響がないと判断したからだろう。


「にゃー」


ほら、読むんだろー、とちらっと振り向いて催促しながら、トラ吉さんが寝室のキャットドアを先に進んでいった。





【九十九】

あなたは、チーム編成がうまく行かず焦っていた。家令のマサトや秘書のロゼッタに手伝って貰っても、望む技能や知識を持つ人材がどうしても集まらないのだ。無理もない。そもそも街エルフの中でなんとかしようとしても、打つ手なしと専門家達も匙を投げていたのだから。

以前、実施した検討結果の再確認をしたに過ぎなかった。残念な結果だ。

……だが、現実を先ずは認めよう。そして、自分の気持ちも素直に見つめよう。時には歩くのを止めて寝転んでみるのも手だ。気落ちして下を向きがちだった目に映らなかった空の広さに心を委ねてみる、そんな時間もあっていい。



――さて、マコト。これを読んでいるということは、自身ができる事の少なさ、狭さを思い知らされたってとこかな? マサトやロゼッタには必要に応じて手を貸すよう指示はしてあるけれど、どれだけ助力を得られるかはマコトが力を示さなくちゃいけない。利があると説得できなければ、手は貸して貰えないよ。彼らは商人、利がなければ動かないんだから。


追伸一:他の種族の協力者を探してみるのもいいかもね。私が探した伝手は共和国とロングヒルに閉じた範囲だったから。

追伸二:無い事を嘆くよりは、有る事に目を向けよう。

追伸三:仲間を集めるなら、リーダーを誰にするのかはきっちり決めておくこと。マサトやロゼッタは有能だけれど、任せる部分とマコトが担う部分はきっちり分けること。

追伸四:誰かを雇う時は、資金繰りに気をつけること。そこは専門家のマサトかロゼッタに頼ろう。ただし、支援者パトロンはマコトが探すんだよ。

追伸五:仲間に手弁当で参加して貰うような事態はできるだけ避けること。どうしても活動が貧しくなるし、稼ぎを理由に抜けられても引き止められなくなるから。



……ん、なるほど。



確かにケイティさんの話してた通り、ズレた内容だった。この感じだとやりたいことはあるけど、プレゼンに失敗して賛同が得られず、協力者も支援者パトロンもなくて、手詰まり感に喘いでる状態を想定してたっぽい。


まぁ、普通に考えれば、生活全般は支えてくれる手筈は整えてくれたものの、当初の僕の扱いは成人するまで普通の子供相当に生活しつつ学んでいけるようにする程度の支援内容だった。


勿論、日本あちらでも、進学したい、塾に通いたい、遠い地の大学だから一人住まいしたい、アルバイトせず学業に打ち込めるだけのお金も出して欲しい、なんて感じに、経済的な意味で一切制限なしって人はそう多くないと思う。かなり恵まれた人だけじゃないかな。そんなご家庭だったとしても、医学部に進むから何千万か宜しく、と言われてサクッと出せるご家庭は更に少ないと思う。


そう考えれば、経済面で一切悩まないで済むだけの手筈を整えてくれただけで大変ありがたかったし、普通なら十分過ぎる支援と言える。


僕の場合、魔力共鳴の影響が色々あって、普通に暮らすだけでも、大勢のサポーターが必要な状況になってたけど、それでも魔術を学ぶという我儘を叶えてもくれたからね。日本あちら換算で言ったら、破格の待遇なのは確実だ。


……ただ、そこまで支援して貰えても、それは自身が十全に動ける、活動できるというだけに過ぎないとも言える。普通の学生のお小遣い程度で、仲間を雇うなんて無理だろうし、何か活動するにしても、必要経費すら捻出するのに苦労すると思う。


金の切れ目が縁の切れ目とも言うからね。人がいない、金がない、モノがない、情報もない、とないない尽くしで途方に暮れる未来も十分有り得たと思う。


そうなったなら、さぞかし侘しい思いもするだろうし、焦りもするだろうね。


 んー。


「にゃー」


トラ吉さんが催促してきたので、手紙の内容をざっと話して、現状とズレ過ぎてて、書かれている状況をイメージしても、いまいち、自分のことのような切実感が持てない事も伝えた。


すると、少し僕のことを眺めていたけど、前足を上げて、タッチするよう催促してきた。


 ん?


いまいち意図がわからなかったけど、取り敢えず、手を合わせてタッチしてみた。


「ニャ」


その様子を観察してたトラ吉さんは、もう触れ合いタイムは不要、って感じに押し返すと、用は済んだとばかりに丸く座り直して目を閉じた。


自身の気持ちを受け入れることとか、少し立ち止まってみよう、とか書いてあったのと、参謀さんやエリーとの間で場違いと感じた事に対して、まだ癒やしの時間が必要か確認したってとこかな。


あの時はかなりショックだったけど、トラ吉さんを抱きしめてたのと、皆さんとざっくばらんに話ができたことで、共感できる意識、感覚も多いと知ることができたからね。おかげで後に引き摺るような事にはならなかったと思う。





トラ吉さんも寝てますよアピールをしてきて、静かになったから、もう一度、手紙を読み直してみた。


以前、ミア姉が想定した状況と大きく乖離した事態のズレから、ミア姉と離れた時間の長さを強く感じることになって、寂しい気持ちが溢れた事もあったけど、今回はそういった思いが溢れてくることもなかった。


 何故かな?


ミア姉がいない事に慣れてしまったのかもしれない。人はどんな環境にだって慣れるから。慣れる事なく、こちらに来た初日のように泣き崩れたままでいたなら、精神的に潰れてしまったと思う。だから、悲しいことだけれど、慣れた事は、そういうモノと捉えておこう。


それと、研究組も考えうる最高のメンバーが揃い、黒姫様と世界樹が共同で「世界の外」に取り組んでくれてたり、世界を超えて作用する経路パスや召喚術式についての知見も広がっていってるから、というのもあると思う。やれることは多く、確かめたいことも山盛りだ。


今は、雑多な話が増えてきてるから、あくまでも次元門構築こそが第一、という意識だけは保つよう注意していこう。他の事にかまけていて肝心な研究が遅れてしまっては本末転倒なのだから。


あと、エリーが示してくれた気質に関する表はとても有意義だった。僕は理性的に会話が通じるのなら、相手が誰だろうと偏見を持つつもりはないし、意識して拒否感を抑えつける必要もなかった。


だけど、同じ種族同士で団結して、世界を敵と味方の二色に塗り分けて生きてきた人達からすれば、昨日の敵も今日から味方と言われて、はいそうですか、と納得できるかと言えば、争わずに対話を選べるだけで称賛すべきなんだと思えてきた。


僕にとって、仲間を信じて死地に赴ける関係というのが、日常からかけ離れてて理解できても共感しにくいのと同様、他の皆さんにとっては、他の種族を信じて楽しく親睦を深める関係というのも、日常からかけ離れてて理解できても共感しにくいって事なんだろう。


よくよく考えてみれば、相手の人種や母国がなんであれ、さほど偏見を持たず「よくこんな遠い国にいらっしゃいました」と、鴨葱と看做すこともなく、取り敢えず歓迎する意識が持てる日本人って、地球あちらで考えても、かなり特殊な層に位置してるんだよね。


あまりにフラットで、白人を特別視しないせいで、そうされることを当たり前と思ってる一部の白人層からは、扱いが悪いとか文句も出てるようではあるけれど。


アメリカ人でジャズ演奏で有名な人が、日本にきてスターとして持て囃されて「自分は黒人なのに!?」と困惑と感動をしたと言う事例もあるように、海外の人種差別はかなり根深いモノがあるというからね。


日本にくると、幼い子がいれば性別も人種も気にせず可愛がる反応が一般的だけど、海外の人の反応では、実際に経験した人の話を聞いても「それは白人だったからだろ」なんて疑念が出てくるくらいだ。


洗礼の儀でも、小鬼族に向ける意識の悪さを注意した事もあったし、ロングヒルにいる人達が表面的にではあっても、異なる種族同士で穏やかに交流できてるのは、もっと褒められるべき状況なのかもしれない。派遣される要員の選別にはかなり気を使ってるとも聞いた覚えがある。


……これからは、そうしている状況を当たり前と思わず、もうちょっと褒めていくよう注意してみよう。あくまでも自然に。


匙加減を間違えると、大人を幼児扱いする馬鹿にしたような態度と思われかねないから要注意ではあるけれど。


そんな事を考えてるうちに、起きているのが辛くなってきたから急いでベットの中へ。


今日は午前中はのんびりしてたのに、午後は盛り沢山で大変だった。明日の予定は何だっけ、なんて考える頃には意識がサクッと落ちていた。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。


今回は久々にミアからの手紙でした。アキの今の立場が想定からズレまくってるせいか、手紙の内容もかなりズレた結果となりました。そうしてズレてしまい離れた距離、時間を思い、以前のアキは悲しみに沈むこともありましたが、今回は状況がだいぶ好転してきた……気がするので、負の感情に押し流されることはありませんでした。それが良いことなのか、悪いことなのか。ただ、アキの性格からして、臥薪嘗胆、ずっと忘れないぞ、と心を凍らせていくようなルートは合わないでしょうね。忘れるとか諦めるなんてルートもあり得ませんけど。


次回の投稿は、八月六日(日)二十一時五分です。


<活動報告>

以下の内容で活動報告を投稿しました。


【雑記】LED照明化、冷蔵庫新型、エアコン室外機に遮熱シート貼り付け

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