表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/769

3-9.マサト《家令》とロゼッタ《秘書》がきた理由

前話のあらすじ:料理について翁がちょっと語り、マコト(家令)とロゼッタ(秘書)が館にやってきました。もちろんお仕事ですが、まずは挨拶まで。

皆が席に座り、説明役ということで、家令のマサトさんが机に置かれた箱型の魔導具を操作する。

凹みに赤い宝石をはめ込んで、短く、「表示」と唱えると、ホワイトボードに書き込まれた文字や表が現れた。


プロジェクターと違うのは、書き込んだホワイトボード自体が空間投影されたっぽいところ。さすがに本物と違ってちょっと映像が薄く感じられるけど、後ろに置いたホワイトボードのお陰で、書き込まれた内容もよく読める。


「これ、便利ですね。そちらの宝石に映像を記録しておく感じでしょうか。何枚くらい映像は保存できるんでしょう? 投影の時間制限とかありますか?」


僕が浮かんだ疑問を矢継ぎ早に口にすると、マサトさんは、ちょっと失敗したという表情を浮かべた。


「アキ様、疑問は多々あると思いますが、こういった魔導具である、と御認識ください。詳細な説明は別の機会に」


「はい、わかりました。それで、これは組織図でしょうか」


「その通りです。この場では、まず私が来た理由と、アキ様に関わる者達の立ち位置を説明させていただきます」


書かれている図は、役職名と名前が併記されていて、線で繋がれているのは、命令系統を意味しているようだ。


「我々、街エルフは人形遣いということもあり、各人が家令と家政婦長を召し抱えることがほとんどです。ミア様も同様です」


図を見ると、ミア姉に繋がる家令はマサトさんだけど、家政婦長名は傍線が引かれているだけ。それに、マサトさんから、別の線がでていて、その先には魔力共鳴計画と書かれたグループがあり、トップとして、家政婦長のケイティさんが置かれていた。ケイティさんの下に女中三姉妹のアイリーンさん、ベリルさん、シャンタールさんがいて、更に下位のメイド達が大勢いる感じだ。館を管理しているメイドさん達だけでも数十人という規模に見える。そんなにいるとは思わなかった。


「この館の家政婦長がケイティさんだけど、ここはミア姉の屋敷ではない、あとミア姉の屋敷と、この館の家令はマサトさんが兼任する感じですか?」


「その理解で合っています。今回、契約の見直しが必要となったのは、アキ様がロングヒルに留学されるのに伴い、この館の家政婦長が空位になること、それとケイティ、ジョージの勤務地がロングヒルに変更されるためです」


「この館は、引き続き、リア様が調査、研究で滞在されるため、現在の体制を維持する必要があるのデス」


ロゼッタさんが僕が疑問に思ったことを口にする前に、補足してくれた。流石だ。


この館の体制図だと、あくまでも、この館の雇用主は家令のマサトさんで、父さん、母さん、それにリア姉は共同出資者といった立ち位置のようだ。

ミア姉が推進してきた計画だから、ということかな。


僕の理解が追いついたと判断して、マサトさんが表示を切り替えた。


先ほどまでの図に、ロングヒルの別邸が追加されて、この館の上の方の役職が全て空位に変わった。会社で言えば、部長以上の人が全員いなくなった感じだ。うーん、これは……


「マサトさん、これって、かなり大変な体制変更ですよね」


「御理解いだだけで幸いです。会社の役員を全て別会社に引き抜かれたようなもので、この館の体制再編はなかなか骨が折れそうです。それはこちらで対応しますが、アキ様には別邸での立ち位置を認識していただく必要があります」


図を見直して見るけど、別邸の指揮系統図に僕の名前はない。よくよく探してみたら、ミア姉から繋がる先に妹として書かれていた。


「アキ様は同行メンバーと直接の雇用関係にはなく、賓客(ゲスト)の扱いとなります。指揮命令権はありませんので、契約内容の見直しが発生しそうな場合は、必ず私に話すようお願いします」


なるほど。別邸では皆は僕をサポートしてくれるけど、僕は主人役をしなくてもいい、と。


「ありがとうございます。お世話になります」


成人してもいないのに組織の舵取り役なんてできる訳がないし、そんなことに時間を取られたら、わざわざアイリーンさん達まで付けてくれた意味がなくなる。


「できるだけ要望には沿うよう配慮します。ご安心ください」


マサトさんが胸に手を当てて、宣誓するかのように、約束してくれた。ありがたい。


とはいえ、なんか面倒な事を丸投げしてる感じで良くないなぁ。


「何か個人的にお礼をしたいのですが、どうでしょうか」


まぁ、僕が出せるのは地球あちらの話くらいだけど。


「……でしたら、感想を伺いたいものがあります。お時間はさほど掛かりません。ロゼッタ、先に君の話をしていてくれ。私は準備をしてくる」


マコトさんは洗練された立ち振る舞いで、部屋の外へ出ていった。何か持ってくるんだろうか。

話を振られたロゼッタさんは、頭に手を当てて、アレですか、などと呟いている。


「ロゼッタさん?」


「マサトは一流の家令デス。それは間違いありまセン。この後披露する彼の趣味も温かい気持ちで見ていただければ幸いデス」


天は二物を与えず、とかロゼッタさんが聞こえるように呟く。嘆く仕草も、悲しいというより呆れた気持ちが強い感じだ。

……とりあえず覚悟はしておこう。


「では、彼が戻るまでに手短に私がきた目的をお話ししマス。私がきたのは、翁が、妖精界で協力してくれる方々の為に、こちらの多岐に渡る分野の話を聞きたいと要望した為デス」


「ロゼッタさんが情報提供をするんですか?」


「いえ。私は全体の情報管理、人別、分野別の情報の取捨選択を行いマス。翁の興味ある分野と、協力される妖精の方々の興味を向ける分野のズレを把握し、話をするメンバーに、会話の指針を示す予定デス」


なるほど、確かにお爺ちゃんの質問に答えるだけだと、ジャンルが偏りそうだし、協力者達の興味を引く分野も見落とすかもしれない。お爺ちゃんと話をした内容を全体的に俯瞰して、指示する司令塔というか調整役は必要だろう。ケイティさんもお仕事があるから、専任を設けるのは良い策だ。


「よろしくお願いします。ロゼッタさんも、僕にできることがあったら、遠慮なく言ってくださいね」


「では、短い期間ですが、この館にいる間、ケイティの代わりに私にお世話させてくだサイ」


間髪入れず、さらりと要望が出てくるあたり、事前に想定していたっぽい。それにしても奉仕することが報酬になるというのは不思議な感じだ。


ケイティさんは、止めるつもりはないようなので、問題はないということだろう。


「よろしくお願いします。でもいいんですか?」


「百万の言葉よりも、一回の抱擁の方が想いが伝わるものデス。アピールする機会は逃しまセン」


手をぎゅっとして、言葉だけでなく、体の動きでも気持ちを表現するのが上手い。

あざとさを感じさせない加減が見事だ。


「サテ、マサトの準備も整ったようでスネ」


ノックをしてマサトさんが入ってきたのに合わせて、ロゼッタさんは壁際まで下がった。お披露目には関わるつもりはないようだ。





入ってきたマサトさんは、奇妙な服装だった。靴は履かず靴下だけ、シンプルで薄手の長袖のシャツと、スラックス。今から運動でもしようかという感じだけど、あちこちに付けられた装身具が違和感を生じさせていた。

オールバックにした髪を止めているカチューシャ、手にはブレスレット、足にはアンクレット、それにゴツいベルトに首元のチョーカー。どれも魔導具っぽいけど、装飾性は薄い。


スラリとした身体は、所謂、細マッチョといった感じで、家令の服装の時もいい体格だと思ったけど、この分だとかなり鍛えていそうだ。


他の人達を見るけど、あぁこれかといった感じで落ち着いている。


……何をするつもりなのか。


「お待たせしました、アキ様。では、一瞬で変わるので、私をよく見ていてください」


マサトさんが皆から少し距離を取って、全身が見える位置に立った。


そして、左手を中段に構えて、右手を真上に突き上げて、部屋中に響く声で叫んだ。


『着装!』


その言葉と共に、全ての装身具が魔法陣を展開して、正に一瞬でマサトさんの全身を銀色に輝く甲冑が包み込む。


爆発とか、ナレーションもないけれど、アレだ。宇宙の刑事さんだ。


よく見ると外骨格が鎧を支える形状で、関節部分も甲冑のパーツが繋いでいる。

これは甲冑というより、パワードスーツだ。


「なんじゃ、これは! 一瞬で鎧を取り寄せただけでなく、装着まで済ませたというのか!?」


お爺ちゃんがとんでもないものを見たと、ビックリして、触りに行こうとしたから、後ろから腰を掴んで引き止めた。


「なんじゃ、アキ! なぜ止める! もっと近くで見てみたいではないか!」


「魔導具だから、ぼくたちが触ると問題が出ると思うんだ。そうですよね、マサトさん」


お爺ちゃんが騒いだおかげで、僕は少し落ち着いて話せたつもりだったけど、十分、僕の驚愕と賞賛の気持ちは漏れていたようだ。

全身鎧の着脱は慣れた人でも五~十分はかかるという手間だから、それが一瞬となれば驚くのも無理はない。


兜を脱いだマサトさんは、少年のような笑顔になって、満足そうに頷いた。


「はい。まだ試作品であり、高魔力耐性はないため、触っていただくことはできませんが、ご了承ください。この甲冑は、警戒させぬ平服で潜入調査しつつ、いざという時には瞬時に完全武装できる捜査任務を主眼に開発しています」


うん、うん、確かにそんな状況でないと効果的とは言えない装備だろうけど、どう考えても目的のために手段を用意したんじゃなくて、手段に合った目的を探し出した感じだよね。


「ふむふむ、初めから重武装では相手に警戒されてしまう。なかなか考えられた装備というか仕組みじゃな」


「ポーズを決めるのと、掛け声は甲冑の装着には不可欠なんですか?」


「このシステムの難しいところは、甲冑を身体の表面の適切な位置に正しく転移させることにあります。色々付けていた装身具は、身体の位置を正確に把握するための補助具なのです。まだ自由なポーズには対応できないため、決められたポーズと誤差ニ%であること、発動ワードと共に、魔導具に決められた使用者が魔力を込めることで、甲冑の転移及び装着が行われる仕組みです」


説明をするマサトさんの口も滑らかだ。語りたい事は山のようにあるのに、厳選して答えている感じがする。


「体型の変化もやはり誤差二%ですか?」


「お分かりですか。この装備は事前に設定した際の体型からあまりズレると、転移位置を正しく制御できません。そのため、ボディメイキングは欠かせないのです」


 それは大変だ。父さんを見ると、体を鍛え維持するのは大切だからな、とか頷いてるけど、なかなか苦労が絶えないシステムだ。


「多少の手間は仕方なかろう。それで、これは王侯貴族なら、皆が欲しがると思うが、どうなのじゃ?」


確かに護衛対象が平服なのと、甲冑装備では、だいぶ違うだろうし、そっちのニーズはあるかも。


「残念ながら、今は服装が限定されるため、すぐ量産、配備という訳にはいきません。ですが、いずれは実用品として使われる日が来ると確信しています!」


おー。なんともすごい熱意だ。


「もしかして、輝く刃の剣もあったりします?」


「もちろんです! 見ますか!?」


「ぜひ!」


マコトさんが腰に付けた剣をスラリと抜き放った。一見すると普通の片刃の長剣だ。


『魔刃発動!』


横に構えた長剣の刀身が、マサトさんの言葉と共に、赤く輝き始めた。


「これは、デモンストレーション用なので、光る以外の効果はありませんが、実際に魔刃を付与する事で、通常の武器が通じない魔獣や悪霊も斬ることができるようになります」


「凄いです、マサトさん。こちらは引く手数多な武装じゃないですか?」


「アキ様もそう思われますか。私もこれは良い品と自負しております。ただ、街エルフの国には合わず、ニーズがありませんでした」


「あ、もしかして空間鞄があるから複数武器の所持が苦にならないとか?」


「ご明察の通りです。また、我が国では、魔剣の装備は一般的であり、わざわざ一時的な付与をした武器を用意する意味が薄いのです」


「でも、確か、小鬼達はナイフに一時的な中和術式の付与とかしていましたよね?」


「……それも問題でした。洗練された武器が小鬼の手に渡ると、彼らの武器に応用されかねないと懸念の声がでたのです」


「残念ですね。格好いいのに」


「まったくです」


マサトさんは、心底、この装備が好きそうだ。


「ちなみにマサトさんは、その装備の開発をされているんですか?」


「いえ、私はそういったことは苦手でして、主に群集資金調達(クラウドファンディング)で出資者を募り、意欲のある技術者達との橋渡しをしています。これは出資者特典で借用できた物なのです」


「出資者特典で試作品の貸与ですか? いったいどれだけ注ぎ込んでいるんですか?」


流石になんか、かなりおかしい気がしてきた。


「家令ということもあり、ミア様からは高給を戴いております。生活に支障が出るようなことはありませんので、ご安心ください」


「なんだか、金持ちの道楽ここに極まれりって感じがしますけど、お金持ちがお金を使わないと困りますし、身を持ち崩さない程度に頑張ってください」


「もちろんですとも。ところでアキ様。ご興味があるようでしたら、一口出資されてみてはいかがでしょうか? 今なら、定期レポート以外にも、開発秘話を収めた特典画像込みの画集をプレゼントしていますが」


などとにこやかに、マサトさんが何処からともなく、立派な装丁の本を取り出した。表紙には格好良くポーズを決めた銀色の甲冑の人が描かれている。というかいつでも出せるように持ち歩いているっぽい自然さだ。


「……マサト、そのあたりまでにしておきなサイ。貴方の金銭感覚は、アキ様にとって害悪デス」


ロゼッタさんが割り込んできた。まるで日の目を見ない儲け話に資材を注ぎ込む旦那の如き扱いだ。仕事上の発言ではなく、マサトさんとロゼッタさんの個人的な関係から出た言葉なんだと思う。なんか素敵だね。


「のぉ、その群集資金調達(クラウドファンディング)とやらは、他にもそんな面白そうな事の出資者を募っておるのか?」


「もちろんですとも。その数は千を超えるほどで、その分野も内容も多岐に渡ります」


「ほぉほぉ、それは楽しみじゃ。ぜひ今度、詳しく話を聞かせてくれ。儂も子守の仕事で給与を貰えるからの。やはりどうせなら、面白そうなことに使いたいのじゃ」


お爺ちゃんは節度ある行動をしてるつもりだろうけだど、話へののめり込み具合からして、どこかでブレーキを掛けないと不味いかも。後でケイティさんに相談してみよう。


ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

地球文化に被れた街エルフは実は多いのです。なにせマコト文書のファンが列を為したら隣町まで並ぶほど(第一章より)ですから。もちろん、地球の環境でないと成立しない分野、技術も多いので、何でもかんでもという訳ではありませんが……。

次回の投稿は、九月九日(日)二十一時五分です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
評価・ブックマーク・レビュー・感想・いいねなどいただけたら、執筆意欲Upにもなり幸いです。

他の人も読んで欲しいと思えたらクリック投票(MAX 1日1回)お願いします。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ