20-5.祟り神という呼称は妥当か?(中編)
前回のあらすじ:「死の大地」を覆う呪いについて、あれこれ考察してみました。本当に検討した通りになるかはまだまだわかりませんが、今後、帝国領で行われる呪いの研究によって、色々と明らかになってくるでしょう。(アキ視点)
呪われた地について、集団発想法をざっとやってみたけど、箇条書されたリストを眺めていたファビウスさんが、このリストには大きな抜けがあると主張しだした。
「このリストの示す呪いで、彼の地の呪いの九割九分はカバーしているだろう。だが、残りの要素は呪いの量から見れば僅かでも案外、重要性は高いかもしれないぞ」
これにシゲンさんが何を指摘してるのか気付いた。
「ここで挙げた特徴は、呪われた地、建物、部屋、つまり不動産だ。漏れてるのは呪われた品や不死者か」
確かに呪いの量からすれば比率的には僅かだろうね。でも、不動産系にはない特徴があるから、んー、確かに重要かも。
マサトミさんがこれに続く。
「アキが示した仮説で、呪いの基点は動かず、その在り方は同じ動作をする魔法陣に似ているとの事だったが、僅かではあるが動く基点があるとなると、その前提は変わるな」
うん、そこだ。
ホレーショさんが丁寧に補足してくれる。
「動く基点があることで、祟り神として、生物ほどではないにせよ、行動の変化や柔軟性を示してくる可能性があるだろう」
むぅ、ストレートパンチ一発を放ったら、コンビネーションブローで一気に畳み込まれた気分だ。
ん、近衛さんが手を上げた。
「妖精界では、死者は速やかに弔わなければ、不死者と化してしまうが、こちらではどうなのだ? 魔力がこれ程乏しければ、そうそう不死者化はしないと思うが」
それは確かに気になるところ。にしても魔力豊富な妖精界だとそういう物騒な話もあるんだねぇ。
これにはケイティさんが答えてくれた。
「こちらでは不死者化するのは稀です。ただし、街が壊滅するなど呪力が膨大な場合や、亡くなった者が多くの魔力を秘めていた場合、それと呪われた品を所持していた者が亡くなった際に不死者化した例もあります」
ふむふむ。
「その中で、場に縛られない不死者が生じるのは後ろ二つ、高魔力の者が亡くなった場合と、呪われた品を所持していた者が亡くなった場合だと」
「そうなります。それと呪われた品を所持していると、思考が呪いによって歪み、生あるモノを憎み、滅びを求めるようになる場合もあるようです。その場合、不死者ではありませんが、呪いに与する生者、我々からすれば、不死者陣営に寝返った反逆者なので、大変厄介です」
げ。
他の皆さんを見ると、探索者界隈では話題にはなっても、一般的な軍事組織からすると、縁遠い話のようだ。
おや、ジョージさんが手を上げた。
「皆は馴染みがないようだが、悪魔信奉者の類いは厄介だ。アキも知るように、こちらでは個人への崇拝や、突然目覚めた個人が誰も知らない神を崇め始めて、その神から信仰によって神力を引き出して神術を行使するような事が稀にだが起きる。「死の大地」に縁のある品を媒介に、祟り神に祈りを捧げて、神託を得る事は想定すべきだろう。相手と直接の認識は無くとも、強い信仰心によって、神との経路は一方的に形成できるのだから……今の表現は少し配慮に欠けていた。口外せぬようしていただきたい」
かなり繊細な扱いを必要とする部分だもんね。信者の願いが神に届いたのか、強い信仰心故に神の目に留まったのか。結果は同じでも後者なら神に認められた、という扱いになる。
皆もこれに異論はなく口外しないことを約束した。
◇
ん、ちょっと話を分けよう。
「話が発散するので話題を分けましょう。取り敢えず、「死の大地」は生物はとても生きていけない地と化しているので、動く呪いの基点である不死者について議論を進めましょうか。不死者化した経緯は自前の魔力か、呪われた品かで分かれますが結果は変わらないので、今は纏めて「徘徊する不死者」に絞ります」
僕の提案で、ベリルさんが、反逆者系は別枠に書いてくれた。
ファビウスさんがこれに続いてくれた。
「それがいい。いつどこで沸くかもしれない反逆者をどうするかはセキュリティ部門の管轄だ。それで、不死者だが、ケイティ殿、どんな特徴がある?」
「彼らは動く屍であり、生者を嫌い襲ってくる傾向があります。不死者同士は争いませんが、振るった武器を他の不死者に当たりそうだから止めるような賢さとは無縁です。損傷を与えても暫くすると装備も含めて元に戻ってるのが厄介なところでしょうか。彼らは五感ではなく魔力探知で周囲を認識しているようです。中には言葉を話す個体、呪文を行使する個体もいますが、意思疎通ができる訳ではありません。彼らは死した時の想いに囚われて、その瞬間のまま、滅びの手前に立ち止まっている、そんな存在なのです」
うわぁ。
普通に暮らしてたら、そうそう不死者なんかに遭う事もないんだろうね。参謀の皆さんも、ケイティさんの説明に聞き入っている。
「近衛さん、妖精界の不死者も同じですか?」
「同じだ。それと先程までの話を聞いて思ったのだが、不死者とは、動き回る呪われた地なのかもしれん。死した時のまま止まった存在だからこそ、多少の損害を与えても、死した時の姿に戻る。変化から取り残された哀れな存在なのだろう」
信仰に支えられた神ですら、信仰に合わせて在り方は変わっていく。この世の全ては移ろい変わるモノ。なのに呪われた存在はそこから外れている。この世の理から転げ落ちたモノ、取り残されたモノ、か。
「不死者は生前の最後の行動を続ける事が多いです。守衛なら、朽ち果てた門の残骸の前に立ち続けるように。ひたすら坑道を掘り続けていた不死者も記録に有りました」
「鉱夫だった方ですか」
「大量の出水で水没したまま、水の抵抗もあって殆ど掘り進めることもないまま、ひたすらツルハシを振るっていたそうです。勿論、発見した探索者は浄化して丁重に葬ったそうです」
想像しただけでも物悲しい気持ちになってしまった。不死者と言うけれど、死に囚われた者なんて呼び名のほうが相応しい気がしてきた。
ん、シゲンさんが手を上げた。
「今の話からすれば、動く呪いの基点という視点からすると、不死者は動き回ると言っても、その範囲は狭そうだな」
あー、うん。
「そこなんですけど、彼の地は高魔力を持ち亡くなった存在がゴロゴロいたんですよ。街エルフが彼の地を去った頃に、結構な数が亡くなってます」
「地の種族への不干渉を拒んだ竜達、か」
「ですね。僕達が狭い範囲を徘徊するノリで、生前のように縄張りを飛び回るだけでも、行動範囲はかなり広そうです」
ホレーショさんが手を上げた。
「その辺りは、今後参加する参謀の竜に聞くとしよう。彼の地の周囲を飛ぶ竜達も多い。飛び回る不死者の竜と遭遇した事があるかどうかも聞けば、色々と情報は集まる筈だ」
確かに。
マサトミさんが手を上げた。
「浄化作戦で、彼の地を縦断中に不死者の竜と遭遇したら、基本は殲滅か」
まぁ、そうできるならそうしたいね。
「死してもなお動き続ける同胞を見るのは忍びないでしょうし、簡単に勝てるようならそうするでしょう。勝てないようなら追って来なくなるまで後退、不死者竜の活動地域を迂回して縦断浄化再開ですね」
呪いの闇を払うのが第一弾作戦の目的なのだから後回しできるならするべきと主張してみる。
「囚われた思考で動くだけの骸に天空竜達が遅れを取る場合が有り得るのか?」
おや。単純な動きしかできない雛は空の戦いにおいては鴨葱だからってとこかな?
「浄化作戦に参加するのは基本、若竜ですからね。相手が成竜や老竜の不死者なら手古摺るでしょう。それに纏う呪いの濃度によっては攻撃の効果が薄いかもしれないし、近付くと呪いの影響に囚われそうになって、それを嫌がるなんて事もあるかも」
空中戦で負けはしないけど、勝てるとは限らないし、慌ててれば竜でもその守りに隙ができて、呪いに付け込まれるかもしれない、なんて話したら、皆さん、眉間に皺を寄せて考え込んでしまった。
考え込むのも無理はないか。一定範囲を彷徨いて、生き物を見つけると、問答無用で襲いかかってくる不死者の竜、戯れに地の種族を襲っていた粗暴な頃の災竜のような振る舞いをしてくる敵がいそう、それも下手すると数百頭いる、と言うのだから。
いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。
さて、祟り神についてもだいぶその在り方が見えてきた……と思ったところに、新たな指摘追加となりました。
全体としては九分九厘動かないとしても、動く残りがいるだろう?という訳です。
そんな訳で、前々から話題には出していた不死者、その中でも極めつけに厄介な不死者の竜がどうもゴロゴロいそうだ、という話になってきました。
呪いの濃度によっては攻撃が効きにくい……かもしれないという特性持ちでもあり、天空竜達にとっても決して軽く扱える存在ではなさそうです。他にも魔獣や地の種族の不死者もぞろぞろいそうですが、竜の不死者に比べればそんなのは浄化作戦からすれば誤差でしょう。
次回の投稿は、七月十六日(日)二十一時五分です。
<雑記>
以下の内容で投稿しました。
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