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20-3.素人集団の竜族と軍制度(後編)

前回のあらすじ:「死の大地」全域の浄化作戦第一弾を、地上部隊で模した実地訓練をやってみる、なんて検討案も聞くことができて、やはり参謀さん達は選りすぐりなだけはありますね。二十キロに展開した複数の小隊同士の連絡を、同行する妖精さんへの伝話で代用するという案も興味深いです。相手との物理的な距離ではなく、互いを繋ぐ経路(パス)を経由して一方的に短い言葉を送りつける技法なので、結構、癖はありそうですけど重宝しそうです。

で、参謀さん達の思考が純軍事的なところに傾いていたので、竜が力を込めて届ける声、鎮魂歌レクイエムを歌うことで呪いの闇を払う、という視点を追加することにしました。軍事的要素だけで組み終えたパズルも、これで一旦、バラバラにしてゼロスタートですね。(アキ視点)

目の前にいる方々は、各勢力からこの人ならと選出された参謀職の専門家。用意された駒と盤面から、どうそれを攻略していくのか考えていくのは得意中の得意。


 だったら僕の役割は何か。


いくら地球(あちら)、マコト文書の知があったって、所詮、そんなのは素人の付け刃。こちらの文化や歴史的に思いつきにくい事例の紹介程度には役立つとしても、情報が揃った状態から詰めてくフェーズになれば、もう僕の出番はないし、口出ししても邪魔なだけだ。


 それじゃ、今のフェーズはどうだろう?


あらゆる情報が不確定で、情報が足りず、暗中模索の有様で、否定する理由がなければ、思い込みは可能な限り排除しないといけない、アイデア出しのフェーズだ。


 ん。


こちらから情感たっぷりに鎮魂歌レクイエムを歌いかけたなら、呪いは、その集合体である祟り神はどう反応してくるか?


ロングヒルにいる様々な人に聞いても呪いの専門家はいなかったし、詳しい人もいなかった。文献は多少残っているけれど、僕が知りたいような情報の記載は皆無。だからこそ、参謀さん達が敵と称する呪い、それがどう反応するか、と問えば、即答しようがないって事だね。


軍事関連なら打てば響く参謀さん達も、少し反応が止まった。いいね。


「皆さんの中で、呪われた地に訪れてみた、浄化してみた、そうした品に触れてみた方はいらっしゃいますか?」


そう問うと、シゲンさんが手をあげた。


「一応、呪われた屋敷の浄化に立ち会ったことはある」


 ほぉ。この中でも長命で行動範囲が広い鬼族ということもあって経験されてたか。ありがたい。


「どんな感じでした? 注意された事とか、実際に体験された事とか、特に呪いがどんな反応を示したか知りたいんですけど」


 是非是非、と催促すると困ったような顔をしながらも、一応話してくれた。


「俺が参加した屋敷の浄化だが、家人全員が野盗に皆殺しにされた過去があって、呪いの核はその殺された家人達だった。屋敷全体が呪われていて、殺害現場では、家人が死んだ時の光景が現実のように見えたぜ」


 うわぁ……。


「呪いですけど、具体的な反応としては何を起こしてきましたか? 過去視だけですか?」


「いや。そもそも屋敷自体が家人が住んでいた当時と変わっていないように見えたし、触れても古さは感じなかった。それに過去視というのも正確じゃない。音も臭いも流れる血も本物として思えなかった。精神的な揺さぶりが酷かったな。混乱、恐怖、悲嘆なんて感情が無理やり心を塗り潰していくかのようだった」


淡々と話してくれてるけど、かなりエグい体験だね。


「本物、というのは、実際に創造術式で生み出された物体のように実体があった、と?」


「そうじゃない。浄化術式で祓うと、何事も無かったかのように消え去った。手についた血糊も消え失せていたから、創造系ではないだろう」


 ふむ。


跡を残さず消え失せる意味では創造術式にも思えるけど、創造されたにしては内容が複雑過ぎる。ん、ケイティさんが創造術式が浄化術式によって打ち消せるかは別途検証、とメモってくれた。いいね。


「すみません、無粋な質問になりますけど、呪いの核、今のお話では被害者の遺体とのことですが、例えば浄化するとその遺体がある部屋だけが浄化されたのでしょうか? それと浄化はどんな効果を齎しました?」


「浄化の効果はその部屋の中だけに留まった。隠されていた本来の惨状、時間が経過し朽ちた様子に変わったぜ。だが、屋敷全体の呪いが残っていたからか、あくまでも古さと放置された雰囲気、汚れがあっただけで、壁や天井が腐り落ちているような事は無かった」


 なるほど。


「物理的な反応はありましたか? 地球(あちら)だと創作ですが、騒霊ポルターガイスト現象と言って、物音がしたり家具が動いたり、なんて話があるんですが」


「……あったぜ。過去視で振り回された刃を盾で防いだんだが、浄化後も、盾には受けた刃の傷が残ったままだった」


 げ。


「ソレは怖いですね。実体化してたのか、魔刃のように魔の現象は、物理に勝るのか。幻術というより、(ことわり)が歪んでるイメージが近いかも。ちなみに今のお話を聞くと部屋の中に立ち入るのは危険と思えますが、外から浄化術式を使わなかった理由はありますか?」


その問いに、シゲンさんは少し意外そうな顔をしつつも説明してくれた。


「浄化術式は、核を識別し、対象を絞り込んで行使するもんだ。浄化杭の話にあるような空間に向けて用いる浄化では、術式の力が弱く拡散してしまう。例の二柱による呼びかけでは、脆い魔導具は壊れたが耐えた魔導具も多かっただろ? それと同じだ。部屋全体を対象に浄化術式を使うと呪いの核は残ったまま、なんて羽目になる。術者の魔力にも限りがある。多少危険があろうと、核をきっちり識別するもんだ」


 なるほど。


「貴重なお話ありがとうございます。竜族の皆さんから聞いた感じだと、呪われた地があれば纏めて消し吹き飛ばすイメージでしたからね。助かります。それで、屋敷には複数の核があったとのことですが、核を浄化した影響が他の核に出ましたか? 例えば露骨に防衛反応を示しだしたとか、呪いが強化されたとか」


「……その話は、すべての核を同時観測しつつ、核を浄化しなけりゃ判断がつかん問いだぜ。例えば扉に鍵が掛かっていた事もあったが、それが最初からなのか、俺らが浄化したから鍵を掛けたのかはわからん」


「それもそうですね。でも聞いた感じでは、例えば遺体のある部屋まで行かずとも、廊下や吹き抜けのホールのような場所で、呪いに起因する現象が派手に出るような事は無かったと」


「あぁ。そういうのは無かったな」


「浄化をする皆さんに対する歓迎や或いは拒絶といった反応はどうでした? それに投石や熱線といった攻撃術式相当の露骨な敵対反応は?」


「意思疎通のような話は無かったぜ? 強烈な過去の出来事を想起させる断片的な記憶を無理やり共有させられた、そんなところで、こちらからの働きかけによる変化は無かった。あ、いや、一応はあったか。さっきの野盗が振り回した刃を盾で受けて邪魔をした時は、刃は盾に食い込んで止まったが、被害者は斬られて死んでた。俺らが介入してもそれに合わせて全体の辻褄を合わせたりはしない感じか。あと術式による敵対反応か。……最後の部屋はそこら中で撒かれた油が燃え盛っていてな。浄化したんだが、屋敷が炎に包まれていく流れは止まらず、それどころかあり得ない早さで屋敷が燃え落ちていく有様で、俺らは慌てて集団で全方位障壁を展開して崩落に耐えることになった」


 うわ……。


「それ、実は屋敷の住人が殺害されただけじゃなく火付けまで行われていた、とか?」


「まぁそうなんだろう。周囲の騒動が収まって、月明かりが照らし出した光景が目に入ってきたんだが、周囲にあったのは焼け落ちた屋敷の残骸や消し炭になった柱や家財が散らばる光景だった。まるでついさっきまで燃えていたかのよう酷い臭いだったぜ」


「呪いが時を止めていたかのようですね。最後に一つ、浄化に参加された方々ですけど、精神を制する特別な訓練、或いは魔導具を所持されたりしてました?」


「鬼族の心技で止水という技がある。心を平静に保ち、何事にも心は揺るがず澄み切った湖面のように、受け流す事ができる。呪いはこちらの心の荒れ具合に反応してくるから、呪いを浄化する際には、止水の使い手を集うのが決まりなんだ」


 なるほど。


「以前、各勢力に残存している呪われた地や品について調査を依頼しましたけど、体験談の収集もお願いしておけば良かったですね。シゲンさんの例は、呪いを刺激しない特別な訓練を受けた方々のモノだったので、呪いの反応が限定的でしたが、それでも多くを得るものがありました。ありがとうございました。ちょっと、休憩を挟んでから再開しましょう」


そう提案すると、皆さん、同意してくれた。なかなか重い話だったからね。





休憩しつつ、他の人にも聞いてみたけど、呪いの浄化に立ち会った人は他にはいなかった。ついでに止水の技で心を静かにする効果について、掘り下げて聞いてみたところ、あくまでもその場で心を平静に保つだけで、記憶自体は残っているので、止水の技を終えた後は精神的に疲弊することにもなったとのこと。ケイティさん、ジョージさんに確認したけど、同じような技は人族の方にもあるけど、術式を発動しつつ動けるのは鬼族だからであって、人族の方は護符で心への影響を食い止めるのが一般的らしい。精神防御の技が普及してるって時点で、地球(あちら)との違いを感じるね。


そうこうしてる間に、ベリルさんもやってきたので、板書役はケイティさんからベリルさんに交代だ。


 では、再開だ。


「シゲンさんの体験談からは、呪いについて色々なことが見えてきましたね。一つの例を汎化するのは危険ですけど、取り敢えず今はそれを議論のベースとすると、心を静かに保ち、呪いが起こす現象にも心を乱さない者が対応する場合、呪いの反応はかなり限定的になると言えそうです。これは朗報と言えるでしょう。なぜなら、竜族は成竜となった時点で、自らの心を律し、他に頼ることなく自身を維持できるからです。心が荒れようと、それを内だけに留めて、外からは平静な状態のままで保つ程度の行動は容易です」


そもそも竜族は空間跳躍テレポートの際に世界の外に一度出る、つまり時間も空間も存在しない場に身一つで出ても影響を受けない、それだけの高い自律性を持っているんですよ、と話すと皆さんも、その意味するところを理解して少し安堵の表情を浮かべてくれた。


「竜族にとっては、意識すれば鬼族の止水のような精神状態を維持できます。これは呪いへの刺激を激減させることに繋がる訳ですから、呪いの意図しない反応も防げるでしょう。鎮魂歌レクイエムを歌う場合であれば、慰霊の思いだけを純粋に届け、雑多な感情、不安や嫌悪感といった余計なモノを混ぜずに済みます。これは呪いの研究という意味でも役立つでしょう。複数の感情が混ざった状態だと、引き起こされた事象がどの感情に起因したのか分析を難しくするけれど、それを回避できるのですから」


ケイティさんが手をあげた。


「アキ様、それは今後の呪いの研究に、竜族の皆様が竜眼による観察だけでなく関与もされるということでしょうか? 力が強過ぎて呪いを掻き消してしまいませんか?」


 む。


「その可能性はありますね。ではそこは、竜族相当に心を制することができる術者が参加、ということで」


暫定条件、としてベリルさんが板書してくれた。まぁそこは些細な話だ。


「浄化する力を持った人々が屋敷に近付き、屋敷の中を歩いても呪い側から働きかけが無かった、というのも良い反応です。これが地の種族で防衛意識があるなら、自分達に匹敵するであろう敵対勢力はなるべく遠方で迎撃したいところですし、それぞれの呪いの核が浄化されるのを座視するのではなく、呪いの力を出し惜しみせず、集中することで撃破するでしょう。でも、呪われた屋敷、複数の核からなる呪われた地は、そういった挙動を見せなかった」


マサトミさんが手をあげた。


「我々でも、明確に敵対している相手でなければ、悪戯に刺激せずやり過ごそうと考えもするだろう」


ん。これにはホレーショさんが異論を唱えた。


「だが、最初の核が浄化された時点で、呪いを滅する存在であることは明確となった。生者ならば、仲間同士で連絡を取り合い、協力して対抗しようとする筈だ。だが呪いはそうした行動を取らなかった。呪いは生きていない。だから過去の経験から現在を分析して未来を予測し対策を立てるような真似はできない、だったか」


ケイティさんが頷いた。


「はい。呪いは生きておらず、だからこそ経験を積むことはなく、何かに懲りるようなこともなく、ただ、ただ反応するのみと伝わっています。けれど、生者の感情には素早く反応するので、まるで生きているのではないか、とすら思えると言った経験談も多いです」


 ふむ。


「人は何か不安があると、その気がなくても悪い事態を想像しちゃいますからね。そして呪いはそんな生者の心に反応してくる。ある意味、自分自身が引き起こした事象なのに、その事象に心が搔き乱されることで、更に次の反応を引き起こす、という連鎖が続くと。シゲンさんの話からしても恐怖や不安といった感情が強く想起されるようですから、そうして余裕がない状態に置かれては、相手を想像以上に悪意ある存在と認識してしまうのでしょうね」


人は壁に三本線が引かれてるだけでも顔と認識するように、何もないところに意味を見出してしまったりする思考の癖があるからと話すと、ファビウスさんも渋い顔をしながら同意してくれた。


「考えるな、と言っても思考してしまうのは人、小鬼、鬼でも違いはない。妖精族はどうだ?」


「妖精界では思いは容易く世界に影響を与えてしまう。だからこそ、自身の心を制する行いは幼少の頃から身に付けていくのだ。あぁ、アキ。だからと言って、妖精族が皆、竜族のように心を律する技を習得済などとは思わないでくれ。我らはそんな事を必要とはしてこなかった。やればできるかもしれないが」


近衛さんが釘を刺してきた。なるほど。少なくとも鬼族の止水くらいの精神制御は行えるけど、竜族ほどじゃないと。


「それから、呪いの行動として、一般的な魔術相当の術式を用いてくることが無かったというのも興味深いです。これは心を乱された術者が暴発的に、こちらから魔術を行使すれば、その刺激に呼応して、術式相当の反射をしてくるかもしれないけれど、呪いの側から先に術式を用いてこない事が期待できることになります」


ケイティさんが手を上げた。


「呪いが起こしたという過去視と、過去事象を現在と混在させる歪みの発生ですが、これが呪いの核付近で起きたというのも、浄化作戦の視点で考えると良い傾向ではないでしょうか?」


 ん。


「ですね。呪いの持つ力の強さにもよるのでしょうけれど、シゲンさんのお話では屋敷自体は往時の姿を留めていたものの、屋敷の外では呪いに起因するような事象は起きていなかった。この事から、この世界の(ことわり)を歪める力、現象はそう容易に起こせるものではなく、対象範囲は狭いと言えそうです」


これには皆さんも同意してくれた。


 さて。


「これまでのお話からは、呪いの核が複数あり、核同士の明確な連携は見られなかったものの、屋敷全体が往時の姿を保ち続けるという歪みがあったことから、呪いが起こす(ことわり)への介入には意図的なモノと、共通的なモノがありそうです。それに複数の核があるからといって、それは呪いの集団と看做すのも妥当ではないかもしれません。我々の感覚で集団と称すると、それは群れの力、特徴を有する存在と同義ですが、先ほどの話からすると、呪いは同じ屋敷に存在していながらも、あくまでも個として活動していて、群れとしての挙動を示すことはありませんでした」


 これが一つ、と指を立てて、話を続ける。


「呪いが自身の領域テリトリーである部屋の外に対して、力を行使してこなかった、というのも我々にはない振舞いと言えるでしょう。呪いの核が視認されれば浄化される、浄化を防ぎたいなら部屋の外で撃退するのが良策ですが、それをしない。それなら浄化を望んでいるのかと言えば、扉の鍵が掛かっていたりするくらいですから、浄化しやすいよう便宜を図る真似をするでもない。未来を予想して布石を打つといった真似は、そもそも呪いの持つ特徴、性質からすると自発的には起こり得ないモノなのかもしれませんね」


 これが二つめ、と指を立てて、話を続ける。


「術式を使ってこなかった、これも良い傾向です。そもそも僕が学んだ古典術式では顕著ですが、現実がどうであろうと、己がイメージする姿こそが真実として、現実を上書きするというのが基本原理です。でもこれって、現実を認識して、欲する未来と、そこに繋がる術式を想定して発動する必要がある訳で、それは、かなり高度な知的活動なのは間違いありません。呪いの領域テリトリーに生者が触れることなく、遠距離から術式で働きかけたなら、呪いはどんな挙動をするでしょう? オウム返しに同じ現象を返してくるくらいはするかもしれませんね。でも射点に向けて反射的に撃ち返すならまだしも、位置を変えた術者を追尾してその未来位置に向けて撃つ真似まで反射でやれますかね? ちょっと無理臭いでしょう?」


 これが三つめ、と指を立てて、話を更に続ける。


「最後は呪いの核が見せた振舞いですね。過去視だけで、これは被害者が最後に経験した出来事の範囲に留まってるように思えます。つまりあくまでも過去のある時点の出来事が、時間を超えて現在に混入してきてるだけで、そこに意思はなく、その場の(ことわり)が歪んだ事象に過ぎない……のかもしれません。ただ、骸が死してもなお動き続ける不死者アンデッドの存在はあると聞いているので、呪いと不死者アンデッドは似て非なる事象かもしません。ここは保留としましょう」


ベリルさんが、要検証と追記してくれた。


 ん。


ホワイトボードに列挙された呪いの特徴、性質はかなり好都合な内容になってるね。


「呪いは拠点間で力の移譲は行えるけれど、呪い自体は地に縛られていて不死者アンデッド、動く屍でなければ、基本的に動くこともない。複数いても群れとしての挙動はなく、計画的な行動もせず、浄化術式の発動に対して力を集めて対抗するような真似もしてこない。つまり、「死の大地」を覆い尽くしている無数の呪いは、数こそ多いけれど、それは群れではない、少なくとも我々が考える軍集団のような群れの強みを発揮する存在ではなく、せいぜい単純な論理ロジックで動く小魚の群れと大差がないと言えそうです」


ここで一息入れてから、結論を続ける。


「つまり、力を込めた歌声、鎮魂歌レクイエムを遠方から聞かされたとしても、それに対して音源を黙らせようと熱線術式を使って狙撃してくるような計画的な行動をする可能性は低いって事です。それと呪いの闇が剥ぎ取られたことで、潜伏が露呈した軍のように、一斉に対空迎撃をしてくるような組織的な行動もまずやってこないでしょう。反射的に鎮魂歌レクイエムを返してくるというのも難しいでしょうね。ある程度の長さがある歌詞を覚えて、そこに篭められた思いも含めて返すとなると、その行動はとても反射とは言えません」


 それと、と駄目押しの情報を補足することにした。


「そして、竜族はそもそも人族が使う低位の術式程度であれば、意識することなく無効化することができます。だから術式ですらない力ある歌声が跳ね返ってきたとしても、何らダメージになりません。歌声に対して熱線術式で、という対象への効果を考えて別の事象を思い描く真似は、反射では無理でしょう」


ここまで伝えきると、ファビウスさんが総括してくれた。


「つまり、浄化作戦の実施において大軍を持って作戦を遂行するだけの軍相当の組織作りは必要だが、「死の大地」を覆う呪い、祟り神が呪いの群れ、軍集団と想定する必要まではない、ということか」


 いいね。


「はい。今の話からすると今はそう想定してもいいと思います。彼の地の呪いは厄介ではあるけれど、きちんと資格のある人達が対応すれば、粛々と対応できる案件が延々と並んでるだけの荒廃地、整備し直して分譲する地に残ってる除去が必要な残骸と看做せるということです」


ぱん、と手を打って、皆さん悪い方に考え過ぎですよー、と参謀的思考の歩みを止めて貰った。


敵を知り己を知れば百戦危うからず、と言うけど、その「知る」の内容は多岐に渡る。同じ人族同士ですら難解なのに、今回の相手は生き物ですらない。これまでに誰も体系的に調査してこなかった現象群だ。


……まぁ、話の雰囲気からすると、己が精神を完全に律して振る舞う竜族が超遠距離から一方的に歌ったり、思念波を放ってれば、反撃されずに第一弾作戦を終えられそうだね、というノリで話を終えられそうかと思ったけど、流石にそんな筈もなく。


参謀の皆さんはなるほど、その意見はなかなか興味深い、なんて頷きながらも、反論を一つ、二つ思いついたようだった。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。


今回はたまたま、長命な鬼族、しかも男手不足で八面六臂の活躍を余儀なくされていたシゲンが、呪われた地に赴き、その場を浄化する経験をしていた、ということでその話を元に、「死の大地」の呪いについて、考察を進めてみました。


本作では、呪いとは(ことわり)を歪める穢れ、現象とされているので、それへの対処というのは、何気に高難度シナリオになっていくんですよね。ケイティが毛布で視界を閉ざすようにぽんぽん使ってる戦術級術式「黒夜」は、範囲内の(ことわり)から光の要素を失わせることで、範囲内を完全な闇で閉ざすという高難度術式ですが、呪いもまた、(ことわり)を歪める意味では厄介で、並みの探索者が関わるような代物ではないのです。


さらりとシゲンが説明していた心技「止水」も、発動中は竜眼ですら完全に平坦で変化のない魔力としか認識できなくなり、その心の類推が不可能になる高難度技で、使える連中は漏れなく達人級となります。……なので一般人でござい、という雰囲気と態度なシゲンですが、彼も熟練の鬼族の漢ですから、当然のように達人級なのでした。この辺りはいずれジョージにでも聞く機会があれば説明して貰えるでしょう。彼はミアと同じ演技派なのです。そう振る舞う理由は別ですけど。


参加者全員が心を完全に律して、呪いへの刺激を最低値にまで落としていたので、各部屋を巡って淡々と浄化していって終わる流れになってましたが、これが精神防御の護符すら持たない探索者達が呪われし館に迷い込んでしまった……とかなら、典型的なホラー映画のノリで休む暇なく怪異現象が起こり続けて逃げ惑った挙句、全滅エンドってとこでしょう。そういった事も帝国領の百箇所の呪われた地での研究が進めば明らかになってきますが、それはまだまだ先の話。


シゲンの経験談から導き出した呪いの特徴、性質からすると、アキが示したように「死の大地」の呪いの闇を払う第一弾作戦は大した被害を出さずに完遂することができそう、って結論になりました。めでたし、めでたし。


まぁ、そこで終わらないのが参謀さん達なんですよね。彼らも代表達がいる間に大問題があれば見つけ出そうと必死なので、ロングヒル常駐組がアキの話を聞いてたのとは真剣さの度合いが段違いなのです。時間制限あり、本業の軍事系技術以外の知識も色々と必要、出てくる対象も最低ラインが竜神級と超難度、と聞いてるだけでストレスで胃に穴が開きそうです。お疲れ様なのでした。


次回の投稿は、七月九日(日)二十一時五分です。

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