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SS⑦:参謀達と竜神の巫女

前回のあらすじ:召喚中の同期率を変更することがどういう意味を持つのか色々検証できました。あと参謀さん達からがっつり話をしたいと呼び出されました。まぁやる気があるのは嬉しいですね。(アキ視点)


今回は本編ではなく、参謀達から見た裏話です。読まなくても本編理解には何ら問題はありませんが、読むとより一層楽しめることでしょう。

なし崩し的に始まった参謀達と、研究組や調整組の懇親会は同じ連邦大使館内で会議に明け暮れていた代表達も参加して、思いの外大賑わいとなった。


ロングヒルでは多様な種族が諍いなく手を取り合って生活してると言われても、自勢力圏で同種族だけで暮らしてきた参謀達からすれば、はいそうですか、と納得できるものでもなかった。


だが、百聞は一見に如かず、とも言うように、人、鬼、小鬼、街エルフに森エルフ、ドワーフといった面々が体の大きさにも考慮したテーブルを囲んで和気藹々としてる様子を見させられれば、それが現実であると認めるしかなかった。


まして、そこにふわふわと楽し気に飛び回る妖精達までいるのだ。興が乗ってくれば、誰に促されるでもなく楽器を奏で、種族の垣根を超えて合唱し、妖精達も隠し芸のように魔術をぽんぽん使って、といった具合で、参謀達は何とも現実味の薄い御伽噺のような時間を過ごすことになった。


そうした宴も二次会を終えたところでお開きとなったのだが、参謀達はと言えば、連邦大使館内の一室、というか縁側の一角を確保して、月を見ながらの反省会という名の三次会へと洒落込んでいた。


「こうして魔力の希薄な地で月を眺めると、皆が近くにいるのに、泡沫の夢のようにすら思えて不思議なモノだ」


などとふわふわ飛びながら、近衛はいつになくご満悦な様子だった。


「お前さんは一年前からこの地を訪れていると聞いてたが、気構え一つで見え方は変わるもんかい?」


シゲンもどっかり腰を下ろして、徳利から御猪口と言い張っているぐい呑みにたっぷり清酒を注いで、くいっと飲み干した。


「女王陛下をお守りする任に就いているのと、こうして参謀の一人として参加するのでは雲泥の差だ。皆の表情一つ、振舞い一つ見るにしても、印象は随分変わるものだった。護衛の任をしてれば、マサトミ殿がヨーゲル殿の前で居心地が悪そうにしてる様にも気付かなかっただろう」


などと、ふわりとマサトミの前に飛んで、杖で彼の立派なカイゼル髭に軽く触れた。


「こうして髭を蓄えていると、年配者の重みが出せて良いんだよ。だが、ドワーフから言わせると、顎鬚まで含めてボリューム感がないのは奇妙に見えるそうでな。随分揶揄われた」


勿論、髭無しよりは良い漢っぷりだ、と褒めても貰えたがね、などと苦笑してみせた。


街エルフはどうしても他の種族に比べると若い、というか幼く見えてしまう特徴があって、特に男性は髭があまり生えず、伸ばしても貧乏くさく見えるだけで、剃ってる人が殆どだった。マサトミは体質なのか、口髭だけは立派に揃うボリュームがあったので、他の種族との交流が多い立場ということもあって、個性を際立たせる特徴の一つとして活用しているのだ。


細マッチョが好まれる街エルフの文化にあって、健康に害がない範囲で体重を増やして、貫禄のある外見にしてるのも、その為だったりする。彼も街エルフなだけあって、日々の行動量から適切な食生活の提供を魔導人形達から受けている。彼の体格も外見も意図したモノなのだ。


「大酒飲みの言い訳にしては上出来かな。他の街エルフ達は君と違って浴びるように飲んだりしてなかったじゃないか」


長身のホレーショは、印象こそスマートだが、そこは海の男。引き締まった体躯もあって見た目以上にがっちりした体格だ。そして、彼もまた、マサトミと同じくらいには自身の外見には拘りを持っていた。まぁ、彼が拘る理由は、異性を口説き落とすにはスマートさがないと、なんてとこなのだが。


「酒はいい。その国、種族の酒を見れば、どんな文化か見えてくる。それに美味い酒を振る舞えば、心も軽やか、互いの仲も深まるというモノだ」


だから、我らの船には、空間鞄の技を使った立派な酒蔵が必ず備え付けられているのだ、などとマサトミは自慢げに話した。


「マサトミの話を聞いていると、街エルフは海外との交易品に酒樽を満載してると誤解しそうだ。あぁ、それでも種族の諍いを超えて、帝国産の生命の水(アクアヴィテ)を倉買いしてくれる気風の良さは大歓迎だが」


ファビウスも小鬼族らしい小柄な体躯なので、付き合う程度にグラスを傾けながらも上機嫌だ。


ふわりと近衛が飛んでくる。


「ファビウス殿は、他の種族の者達の振舞いに少し戸惑われていたか」


そう話を向けられると、苦笑しながらも彼も内心を明かした。


「他の種族は見上げるような立派な体躯の者達ばかり。矜持はあれどやはり多少は差を感じるところはあった。だが、どの種族も決して体躯の小ささを揶揄するような真似はせず、しっかりと敬意を払ってくれていた。まぁ、その訳もすぐ理解できたがね」


などと言いつつ、掌に乗るような小さくて愛らしくおっかない種族と触れ合えば、体躯の大きさなど些細とも思う、などと笑みを向けた。


「私達は草木の影からこっそり覗き見るような奥ゆかしい生き方をしてるのに、酷い誤解だ」


などと近衛も返して、一同、近衛も含めて一斉に大笑いするのだった。





ひとしきり、多様な種族間の交流について感想を述べあったところで、誰が一番の重要人物キーパーソンか、という話をシゲンが振った。


「正直なところ、尖った人物が多過ぎて誰を指してもその通りと納得されるところだろうが、俺は調整組の筆頭、ロングヒルのエリザベス第一王女様が頭一つ、二つ抜けてると感じた。あぁ、我らが上役の方々は勘定外だ。ご立派な方々なんだが何せロングヒルに住まわれてない」


そう評すると、マサトミは何を苦笑しつつも頷いた。


「何を軸に評するのかでいくらでも変わりそうな話だが、そう評するのも理解できる。彼女がご教授してくれた、竜達とアキの関係への考察は大変面白かった」


これにホレーショが続く。


「小型召喚によって圧なく雲取様と交流をした森エルフやドワーフ達は、竜達がアキに向ける認識が懐いてるペットか幼竜程度の認識と聞いて拍子抜けした、という件だろ。私も驚いた」


これにはファビウスも同意した。


「長命種にとって子供は、人族や小鬼族が思うよりもずっと大切で重みがあり、過剰としか思えないほど周囲の大人達が総出で育てるものとして、種族間の意識の違いを簡潔に話してくれて腑に落ちたものだった」


近衛もこれに感心した点を補足する。


「竜族は個で完結した生き方をするから、その分、独り立ちするまで手を借りねば生きていけない幼竜への心配りは、何でもできるよう育てる街エルフにも並ぶほどとも話していて、それは私にもない認識だった」


マサトミは肩を竦めながらも頷いた。


「我々の育て方は必要と思う最低限ではあるんだが。それでも他種族のソレより手間と時間を費やしてることには同意しよう。それと彼らの意識は、気のいい近所のおじさん、おばさんレベルだとも評してたが、あれは何と言うか衝撃的な視点に思えたな」


「そして、迷子の幼児の手を引いて自宅まで一緒に歩く程度の気持ちで、その力を気安く振るう。力や規模こそ大きいものの、やってることは単なるご近所付き合い、子供の手助けや見守り程度と」


ホレーショは、竜神達とご近所付き合いしてる、とは何とも衝撃的だ、と身振りでオーバーに表現した。が、その目は真剣であり、そして他の者達も、エリーが説明した内容の意味を本当の意味で理解していた。


皆の見解が出揃ったところでシゲンは自分の認識を明らかにした。


「アキが心を病んだ時、諸勢力の代表達と会うことが癒しとなると聞いて、大勢の竜達が道中の護衛をしようか、自分達が同行すれば諍いもおきまい、などと言い出して、その過保護っぷりに連邦も随分と悩んだものだった。竜神の巫女とはそれほどの重みがあるのか、と。だが、そいつは大いなる勘違いだった訳だ。病気の子供が出たって? 水臭いことなんざ言いっこなしだ。ちょいと手を貸してやろう。エリザベス殿が明かしてくれた真相、見解はそんな話だった」


「問題があるとすれば、そうして気軽に動く竜族は、音よりも早く飛翔し、弧状列島を散歩するようなノリで飛び回り、竜神と称されるほどの圧倒的な力を有していること。そしてそんな天空竜達が何十、何百柱とアキに興味を向け、見守ってることだと」


ホレーショが竜族の持つ力や行動範囲の広さに言及すると、重くなった空気をかき混ぜるように近衛がふわりと飛んだ。


「そしてエリザベス殿はこうも話していた。天空竜の力の強さや圧に惑わされることなく、彼らの考えを理解すべきだと。竜族には素朴な村社会程度の仕組みしかなく、群れで生きる我々のような深読みや賛同者を得ようとするような行動はそもそも必要としていない、シンプルに捉えるべきと」


この意見にシゲンも深く頷き、そして笑みを浮かべた。


「そうして派手な部分に惑わされることなく、本質を見極めて、相手に理解しやすい言葉を選べる、あの王女様は間違いなく傑物だ。それに俺達にとって、彼女の立ち位置や姿勢は大変ありがたい。大いに頼りにさせて貰おう」


「どの種族とも気負いなく触れ合えながらも、その意識は我ら寄りだと」


ファビウスが告げると、マサトミも同意した。


「諸勢力の要たるアキ、竜神の巫女はどの種族にも組しない。だからこそ要足りえる訳だが、竜族との力関係は、それ以外の全勢力と比べても竜族の方がずっと重い。こちら寄りの仲間は欲しい」


「同じ街エルフでも贔屓はしない、か」


「配慮はしてくれてるとも。他の種族と同程度だがね」


ホレーショの問いにも肩を竦めるしかない。アキの活動全般を支える財閥、それに政治的な支援を手厚く行っている共和国、そして同じ街エルフとなれば、多少の贔屓はあると思うのが普通だ。


だが、その普通の感覚が欠落してるからこそ、アキは要足りえる。それはポーズとして公平さを意識してるのではなく、そもそも街エルフ視点、という意識が欠片もない。海千山千のまつりごとの世界を生き抜いてきてる代表達は、アキのそんな本質を見抜いていた。


大好きだと公言して憚らない竜族に対してすら、その思いは他種族と同程度であり、肩入れなどしてないし、するつもりもない。そう代表達も疑いなく信じられるほど、その姿勢は揺るぎなかった。


……だが、それでは困るのだ。


少なくとも地の種族の群れとしての力を、強みを見せることで竜族に一方的に庇護される存在ではないと証明したい参謀達にとっては、ある程度、自分達寄りに行動してくれる心強い味方が一人でも多く欲しい。


アキはその点では、頼りにできないのだ。


聞けば答えてくれるだろうし、助言もするし共に考えてもくれるだろう。だが竜神の巫女は、竜族に頼まれれば、同じように振る舞うことは疑いようが無かった。


それに、とシゲンは続けた。


「あの王女様は魔術を同じ師に学ぶ姉弟子でもある。それにアキと歳も近く、友人として私的に交流する間柄だ。研究組の暴走を食い止める調整組としての意識も強い。どうしたらあんな女傑に育つんだ?」


これにはホレーショは首を横に振った。


「連合に国は多くあれど、あんな王族はそうそう居てたまるか。……あぁ、だが、確かセシリア王妃と共同でロングヒル入りしている各国の女衆達とも懇親を深めてるようだ」


「第二、第三のエリザベス王女を期待しても?」


ファビウスが茶化すと、近衛がこれに盛大な駄目出しをした。


「それはきっと駄目だ。ロングヒル王家も二人の王子とエリザベス王女がそれぞれ異なる性格、技能を持っていたのは幸いだったとアキも話していたと言う。エリザベス王女が三人だったら国が割れて纏まるどころでは無かったと」


マサトミもこれに続いた。


「あの王女様は華があり過ぎる。何人もいてはいらぬ騒動を招くだけだろう。それよりは情操教育面でアキに近い年代の者が出てきて欲しい。常に年上にばかり囲まれていては心は豊かにならん」


「アキの話では、この前、登山に赴いた三柱の若雄竜達は同年代の青年といった心象らしいが?」


「竜と人では心の在り方が遠過ぎて、それこそ情操教育にならんよ」


近衛がわかっていて混ぜ返すと、マサトミはこれをばっさり切り捨てる。


そこからは、なら、それぞれの勢力でアキと精神的な意味で年齢の近い者をお友達候補としてロングヒルに呼び寄せるか? なんて話に派生していき、話がぐるぐるしつつも、結局のところ、アキの行動を多少なりとて止められる人員となるとかなり限られるという認識に到達した。


そして、もう暫くしたら、数少ない止め役足りえる代表達は帰国してしまう。アキの行動は多くの勢力に影響を及ぼすことも多かっただけに、上役達がいる間に、問題点の洗い出しは終えておくべき、とも。


勿論、代表達同士でもそれは考えているだろうが、浄化計画を推進する参謀としての視点では深堀していない筈であり、それこそが今、最優先すべきである、と。


そこまで方針が決まれば、それから後は早かった。あれよあれよという間に議題アジェンダの準備も終わり、ケイティに打ち合わせの場を設けるよう依頼も済ませる。


機を見るに敏、というのはそれこそ彼らの十八番だった。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字、脱字の指摘ありがとうございます。自分では何度読んでもなかなか気付けないので助かります。


参謀達から見たアキや関係者達との初接触ファーストコンタクトの裏話でした。彼らも代表達から、この者ならば、と参謀役として推薦されただけあって、人を見抜く目は持っていて。だからこそ、自分達には仲間が必要、それもアキの止め役足りえる仲間が欠かせない、との結論に達したのでした。


アキから言わせれば、そんなの考え過ぎ、ちゃんと皆さんのことも考えてますよ、と自己弁護することでしょうけどね。


<活動報告>

以下の内容で投稿してます。


【雑記】トヨタが全固体電池を2027年にもEVに。これとプロブスカイト/シリコン・タンデム型太陽電池を組み合わせると……


<今後の投稿予定>

十九章の各勢力について      六月十八日(日)二十一時五分

十九章の施設、道具、魔術     六月二十一日(水)二十一時五分

十九章の人物について       六月二十五日(日)二十一時五分

二十章スタート          六月二十八日(水)二十一時五分

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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