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19-26.召喚術式のコスト削減(中編)

前回のあらすじ:お爺ちゃんが幻影術式の違いから、召喚術式の改良点について閃いてくれました。追加で賢者さんも喚んで、意見を交わしてみれば、賢者さんも見所ありと本気で考え始めてくれました。これなら上手く行けば召喚術式の省力化に繋がるし、そうでなくとも理解は深まるでしょう。(アキ視点)

賢者さんが考え込んでる間に、ケイティさん、ジョージさんにも加わって貰って、今のうちに必要になりそうな話について、先手を打っておくことにした。具体的には、先ほどまでの話の流れから、一応、研究組の面々に連絡を入れて貰い、興味があれば連邦大使館に来るよう伝える事になった。調整組はついでだけど、話をせずに実施すると後が面倒臭いことになりそうなので、そちらにも同様に。


それから、ヨーゲルさんには計測機材と操作要員の派遣が必要になるかも、とお願いしておいた。実験内容によっては第二演習場に移動しないといけなくなるけど、その時は仕切り直しということで日を改めた方がいい。


あと、そういった人の出入りに伴うセキュリティ面の調整はジョージさんに手配して貰った。何せ、それなりの人がぞろぞろと集まることになるから、それなりに手間もかかる。そこらの学生がファミレスに集まるのと訳が違うからね。


なんて感じに、こそこそ内緒話をしていると、大使館の奥から、リア姉がやってきた。というか、代表さん達との話に参加してたんだね。


「ん、リア姉、どうしたの?」


「参謀達との打ち合わせの筈が、幻影の銀竜を出すわ、賢者を召喚するわ、と一体何をやってるんだ、と気になってね。皆を代表して私が確認しにきたんだよ。で、何してるの?」


「まぁ大した話じゃないんだけど、銀竜の方は――」


銀竜の方は僕の魔術の腕をお披露目するってことで、賢者さんの召喚の方は、幻影術式の制御からお爺ちゃんが召喚術式の改良に繋がりそうなポイントに気付いて、だったら賢者さんも喚んで、少し検討してみようかって流れになったと説明した。召喚術式は「死の大地」の浄化作戦において、完全無色透明の魔力によってステルス機のように運用できる小型召喚竜に直接絡む話だから、参謀の皆さんも快く検討することに賛同してくれた、とも。


話を聞き終えると、リア姉は溜息をついて、参謀さん達に軽く頭を下げた。


「アキは、興味のある方向に突っ走る悪癖があって、翁もその点ではブレーキ役どころか背を後押しするところがあるので、不味い、規模が大きい、止め役が足りてないと感じたら、遠慮なく止めて下さい。皆さんで止まらない時は、私か……後で止め役になりそうなメンバーのリストをお渡しするので目を通しておいてください」


いきなりのことで驚いているでしょう? などとリア姉は我儘をいう妹に困ってる感をアピールし出した。


 もぅ。


「リア姉、今回は妖精さんだけでも賢者さん、近衛さん、お爺ちゃんの三人を揃えてるから多重チェックはクリア、観測機器の手配もヨーゲルさんにお願いしてるし、多分、妖精さんの召喚とか同期率変更確認をする程度だから、大した話じゃないよ?」


せいぜい、あるとしても、追加で妖精さんを何人か喚ぶ程度だ、だから問題ないよ、とフォローした。隣のお爺ちゃんもその通りじゃ、と同意してくれる。


「……まあ、今回は確かに大丈夫そうだね。ですが、参謀の皆さんには今後、小型召喚の竜も参加する事が想定されてます。竜族は思慮深いものの、大した事ではないと軽く戦術級術式をぶっ放した前科がいくつもあるので、不味いと思ったらすぐ止めて下さい。それと研究組との接点も増えるでしょうが、現身を得た神である依代の君も、見た目こそ幼子といった風情ですが、手足を動かすように気軽に大規模儀礼術式レベルの神技を使いかねないので要注意です」


なんだか、まるで歩く爆弾とでも言いたげな口調だ。参謀さん達も事前に話を聞いていたようで神妙な顔で静かに頷く。


 うーん、ここはフォローしとこう。


「えっと、依代の君ですけど、連樹の社に通って、子供らしい経験を重ねることで、だいぶ大人しくなってきたので、リア姉が脅した程危ない子だとは思わないで大丈夫ですよ。素直なところもある良い子です。まぁ、暫くは万一に備えて、彼と会う時には竜族の誰かには立ち会って貰った方がいいですけど」


下手な神術を使ったとしても、竜族なら術式を瞬間発動できるから安心です、と笑顔で伝えたんだけど、うーん、皆さん、何言ってんだこいつ、って顔をしてて、安心には程遠い感じだ。


っと、ケイティさんがそっと手を上げた。


「アキ様。一般の方々は私も含めて、天空竜が視界内にいるだけで、平静を保つのに努力を要することを思い出してください。天空竜と安心という概念は()()同じではありません」


 う。


()()、と言ってくれる辺り、ケイティさんの優しさが滲み出てる。滲み出てるんだけど。


「でもケイティさん、いつも僕の後ろに控えてくれている時も落ち着いてますよね? ジョージさんもそうですけど」


これには、ジョージさんが勘弁してくれ、と顔を顰めた。


「俺達は仕事だから己を律するよう振る舞ってるのであって、アキのように天空竜相手に喉を鳴らしながら、身体を摺り寄せて幸せ、なんて思えたりはしない」


 ぐぅ。


味方はいないのか、とお爺ちゃんを見たけど、お爺ちゃんも肩を竦めた。


「儂らも、竜が尻尾に頭を乗せて魔力を抑えていてくれれば、身構えたりはせん。が、身構えておらんだけで、心底安心しとる訳ではない。それに儂はアキの子守妖精、最後の備えじゃからのぉ。例え相手が誰であろうと、何かあれば割り込む心構えだけは忘れておらんよ」


 あぅあぅ。


それはそれで大変ありがたい話だけどぉ。


「多分、参謀の皆さんも、竜の圧を感じずに済む小型召喚体の竜族との交流を重ねれば、彼らが心強い味方、信頼できる相手だと理解できると思いますよ。今はまだロングヒルに来たばかりですし、うん、これからですよ、これから」


ぱんっと手を打って、知らないから不安なだけですよ、とアピールしてみた。


……だけど、リア姉は、はいはい、と僕の頭を撫でながらも、釘を刺すのを忘れなかった。


「小型召喚体の竜族との交流は圧がない分、精神的な負担は少ない。これはアキの話した通りです。ですが、完全無色透明の魔力によって形作られた召喚体の後ろには、ここから遠く離れた第二演習場に降りたっても、その魔力圧を感じられる、おっかない本体がいることを決して忘れないようお願いします。慣れるまでは、第二演習場で本体との直接交流メインとしましょう。小型召喚体を前にしても、本体の事を脳裏に思い描けるようになること。これは皆さんだけでなく、皆さんの属する勢力にとっても重要です」


小型召喚体と言っても、軽自動車くらいの大きさがあるんだから、そこまで甘く見るような人はいないと思うんだけど。ただ、参謀さん達の表情を見た感じだと、近衛さんはその辺りは重々承知してるけど、他の人達は確かに慣らしが必要そうではあった。





そんな話をしているうちに、賢者さんも思索の時間を終えてふわりと降りてきた。


「同期率の変更の種族差についてもいずれは確認したいが、この場では近衛と同等の召喚体として彫刻家を、一割召喚の確認対象として弟子を二人召喚して、翁も含めて計五人について、通常状態と同期率を下げた場合の挙動の違いを確認しようではないか。ケイティ、済まんがヨーゲルに連絡を」


「観測機材は、光学観測用のみで構いませんか?」


「それでいい。どちらにせよ召喚体の魔力は計測できん」


賢者さんの返事を受けて、ケイティさんが杖で宙に文字を描いていき、暫くして短く了承を告げる文字が返ってきた。


「それでは、観測班が合流するまでの間に、本日、この場で確認する内容を明示しておきましょう。賢者、順番は書き換えますので、抜けがないよう列挙をお願いします」


ケイティさんがペンを持ってホワイトボードの前に立つと、ならば、と賢者さんも思いついた確認事項をどんどん列挙し始めた。


 うん、うん、順調だ。


今回はちゃんと記録も残しているし、関係者にも声を掛けているし、研究組の今後という意味では、記念すべき第一回ってことにもなるだろう。


 んー。


「この後は、かなり地味な検証作業が続くと思いますけど、参謀の皆さんとの話し合いの場は後日改めて、ということで一旦、解散としますか?」


いくら、浄化作戦に絡む話、召喚人数は増えると言っても、この後は、同期率を下げると意識が途切れて倒れるとか、反応が鈍くなるみたいなのを延々とチェックしてくだけだろうし、そこまで付き合う必要はないと思ったんだよね。


 でも。


彼らの反応はと言えば、予想してたのとは随分違っていた。すっかり腰を据えて、ぽつぽつと集まってきた他の研究組のメンバーや、調整組の人達に挨拶しつつ、ファビウスさんが彼らの思いを教えてくれる。


「こちらは新参、そしてこうしているだけで続々と繋ぎをつけておくべき人々が集ってくれる。こんな場を辞するなどとんでもない。アキもこの後は研究組の一人として専念してくれればいい。それこそが我らの見たいモノだ」


僕がいまいち納得しきれてないのを察してか、上役が身分を隠して仕事の様子を眺めるようなものだ、と補足してくれた。


 なるほど。


取り繕った様子じゃなく、普段の様子が見たい、と。


よく見てみれば、参謀の皆さんは奥からやってくる代表達にも軽く会釈する程度で、気負いなく、中庭にやってきた人達との会話へと入り込んでいく有様だった。研究組の面々と違って、大勢の人達の相手も手慣れたモノ、シゲンさんもトウセイさんと同じ一般枠でござい、なんて態度を表に出して和やかさをアピールしてる。マサトミさんやホレーショさんも部下をよく大事にする、と報告書にも記載されていたように、軍人らしさを程よく崩しつつ、相手の来た理由や思いを聞き出してたりしてる。


聞かれてる方も、より互いのことをスムーズに理解し合えるよう、話題を上手く選んでる感じで互いに目的が同じだから対話もスムーズだ。トウセイさんは少しぎこちないところもあるけど、そこは師匠がフォローしてくれてて良いコンビっぷりだね。


参謀と言うから、切れ者だけど扱いにくい、協調性が乏しい尖った人が混ざってたりするか懸念があったけど、この分なら思ったより早く馴染んでくれそうだ。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


誤字、脱字の指摘ありがとうございます。自分では何度読んでもなかなか気付けないので助かります。


奥で打ち合わせをしていたリアも覗きに来るくらい賑やかになった参謀達との初接触ファーストコンタクトも、何とか問題なく軟着陸することができました。内心の驚きを上手く隠せる大人達ばかりだったというのもあるでしょう。


参謀達の反省会もSSで書いたほうが良さそうですね。アキ視点だと、清濁併せ呑む手練の参謀達という印象だけで終わってしまい、深みが足りなくなってしまうので。勿論、SSを読まなくても問題ありませんが、読むと一層楽しめるでしょうって奴です。


次回の投稿は、六月十一日(日)二十一時五分です。

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