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19-25.召喚術式のコスト削減(前編)

前回のあらすじ:参謀さん達相手に、完全無色透明の魔力を持つ使い手としての力量を示すことになりました。幻影術式で銀竜を創って演じてみたら、見せてる最中の反応は薄いと思えたけど、後から聞いたら、ちゃんと活き活きとした姿と感じ取って貰えたようで良かったです。(アキ視点)

それじゃ参謀さん達と質疑応答を続けようか、としたところで、ふわりとお爺ちゃんが前に出てきた。


「お爺ちゃん、どうしたの?」


「幻影術式で気になったことがあってな。今回に比べて色々と足りぬと言われた昨日の銀竜と、生々しい今日の銀竜を観た儂だからこそ気付いたと言えることがあるんじゃ。召喚術式に絡む話でもある。ちと話してもいいかのぉ?」


こういうのは閃いた瞬間が大事なんじゃ、とお爺ちゃんが皆に話すと、シゲンさんが口を開いた。


「召喚術式のうち、小型召喚体による浄化杭の運搬・投下は浄化作戦でも重要な位置にある。絡むと言うなら、遠慮せず、話してくれ」


他の参謀さん達もその通りと頷いてくれる。


「済まんな。それでな、気付いたのは今日の銀竜は随分と生々しさを増しておったが、魔術としての幻影術式自体は昨日と今日で変わった訳ではない。そして今日の銀竜は生々しくはなったものの、術者の負担は随分増えておった」


 ん。


「そうだね。僕も幻影を出してお終いじゃなく、ゆっくりと変化していく様を演技し続けてたから、動きは穏やかでも、物体移動サイコキネシスで物をずっと浮かべておくような負担がずっと続いてたよ」


うん、何気に面倒な話だった。短時間だから良かったけど、あと五分続けろと言われたらを上げていた事だろう。


「うむ、頑張ったのぉ。それで、本題となる召喚術式だがな、今の儂やそこの近衛は召喚術式で創られた召喚体じゃろう? そこでな、ふと疑問に思ったんじゃよ。儂らはアキのように自身を動かす事に集中なんぞしておらん。自身の身体のように自在に操れており、そのことを意識すらしておらんのじゃ」


「便利だよね。召喚術式のほうでそういった部分まで全部面倒を見てくれてなければ、複数召喚なんて無理だと思う。それに僕も竜族なら随分観てきたし、身体が大きい分、意識して観察することもできたけど、妖精さん達は小さいし、飛び回ってるから、竜族ほどには明確に動きをイメージできそうにないよ」


お爺ちゃんもそうじゃろう、と頷いた。


「儂らも、身近な距離でじっくり視られることは好かんからのぉ。竜族のようにイメージできずともおかしな話ははない。それでな、儂はふと閃いたんじゃよ。この召喚体を本体と同様の生々しさで動かしておるのは何かとのぉ。召喚術式は対象が何だろうと制限なく召喚対象とすることができる。そして相手が何だろうと、本体と同様の召喚体が形成され、そして本体同様の生々しさで、本体と差異無く動かすことができておるんじゃ」


 ほぉ。


「それって、召喚対象から身体情報を取得して、それをもって召喚体を形成してるって事に繋がる話だね。……つまり、僕が幻影術式で細かく制御したように、召喚術式は召喚を維持している間、召喚対象と召喚体の感覚を繋いでいるだけじゃなく、かなり深い身体層でも繋がっていて、無意識での身体の動きを本体の生体機能に頼ってるってこと?」


「うむ。それなら、相手の種族が何だろうと、それぞれに沿った生々しさを再現できている事実にも符合しよう」


 ほぉ、ほぉ。


ん、これはこれまでにない新しい切り口だ。そのままの召喚では維持コストが高いから、召喚体を簡素化した簡易召喚、召喚体が再現できる魔力をばっさり削った一割召喚、本体の六分の一サイズに縮めた小型召喚で、何とか維持コストを減らそうとしてきたんだよね。


でも、それらは召喚体の能力や規模を落とすことによるコスト削減であって、異世界との間すらタイムラグなしに常時接続をしている部分、通信相当の機能に手を入れてはいなかった。


そして、お爺ちゃんの指摘は、本人が意識できる五感とは別に、無意識層レベルでも深く繋がっていて、本体の生体機能に頼ることで、召喚体は生きているような細かい挙動まで実現できているだろう、って話だ。


「……召喚術式の維持コストが高い訳だね。召喚体の維持と言うけど、実際には仮初の実体を存在させ続けているだけじゃなく、世界間を一切の遅延なく繋いで、無意識層まで含めると膨大な量の情報を常にやり取りし続けているんだから。さっきの僕と同じで一見、静かに見えても、実際には全速力で走り続けてるって話じゃない!?」


「そう、それじゃ」


「そこはもう削れる余地ありありだよね! お爺ちゃん、賢者さん喚べない?」


「ちと待っておれ。この時間なら家におるじゃろう」


そう言うと、僕の返事を待たずにお爺ちゃんはあっという間に、召喚体との同期率を一気に落とした。それによって、お爺ちゃんはそのまま落ちていくけど、すぐにふわりと浮き上がった。


「まったく、あちらの儂もそう慌てずとも賢者は逃げんじゃろうに」


などとぶつくさ文句を言い出し、その様子に参謀さん達がちょっと待った、と一斉に騒ぎ出すのだった。





そもそも、お爺ちゃんの今の動きは何だ、あちらの儂、とはどういう意味だ、といったところから疑問が噴出したから、召喚体同士の同期率を落とすことで、召喚状態を最低限維持しつつ、妖精界にいる本体と、こちらの召喚体が別々に動いているんですよ、と説明した。


そしたら、以前の僕と同様、本人が二人に増えてそれぞれが独自に動けるのか、と期待マシマシな雰囲気で説明を求められたから、そこまで便利なモノじゃなく、後で同期を戻した時に酷い二日酔いのような状態になるとか、そもそも同期率を落としても独自に動けるほど高性能な召喚体なのはお爺ちゃんだけ、なんて事も話すことになった。


ここで、ファビウスさんが鋭い質問をしてきた。


「ならば、今ここにいる近衛殿が同期率を落としたらどうなるのだ?」


皆の視線が一斉に集まると、近衛さんは少し考えてから、答えてくれた。


「試したことはないが、多分、意識を失ったように落下するだろう」


「じゃ、そこは後で横になって試してみましょう」


「な、試すのか!?」


「同期率を落とした時の本体への影響も、お爺ちゃんのソレとの違いとかも確認しておきたいですからね。まぁ、その辺りは賢者さんが来てから相談としましょう。今、思いついたんですけど、召喚術式って、ブラウザ系ゲームサービスと考えると、まだまだ維持コストを下げられる余地は沢山あるかな~って」


「二人とも、そこまでじゃ。賢者と話が付いた。今、同期率を戻すからのぉ」


そういうと、お爺ちゃんがやはり一瞬、浮力を失ったように落ちかけて、そこからふわふわと戻り出した。


「この感覚は慣れん。話の続きは賢者を喚んでからじゃ」


そして、返事を待たずにお爺ちゃんが召喚術式を展開すると、あっと言う間に賢者さんを喚び出した。


賢者さんはちらりと周囲に視線を向けて、見慣れない参謀さん達がいるのに気付いたものの、軽くスルーして、僕の方に向き直った。


「召喚術式の改善に繋がる閃きを得たそうだな。詳しい話を聞かせて貰おうか」


さぁ、話せ、すぐ話せ、とっとと話せ、という思いを溢れさせながら、賢者さんはブンっと杖を振って催促してきた。





取り敢えず、お爺ちゃんが気付いた内容についてざっと説明してから、それを前提とした話を切り出した。


「それで、魔術なんですけど、大きく分けると術者だけで完結しているグループとそれ以外に分けられますよね?」


「その分け方で言えば、熱線や投槍、それに障壁の展開なども術者のみという意味では同じか」


賢者さんも流石理解が早い。


「ですね。この分け方だと、経路(パス)を利用するとはいえ、片道で相手に意思を届ける伝話もそちらに属すると言って良いでしょう」


「ふむ。創造術式も同様だな。使い魔と感覚を繋げる術式は使い魔がいなければ成立しないから後者だ」


「はい。そして後者の中でも召喚術式は別格です。召喚体と本体の感覚を繋げるという意味では、使い魔と感覚を繋げる術式と同じ機能を、世界間を超えて実現している訳ですから、これだけでも凄いですよね。あ、使い魔を異世界に飛ばして、感覚共有を試した人はいないから、案外繋がるかもしれないですけど」


「妖精の道が繋がったら、それも試してみよう。話を戻したまえ」


 っと、催促されてしまった。


「召喚術式が別格なのは、召喚対象と経路(パス)を通じて繋がってから、召喚対象から情報を入手して召喚対象に相応しい召喚体を創造して、それを召喚が続く間、維持し続けること。そして、その召喚体と召喚対象の間の感覚を遅延なく繋ぎ続けて、自身の身体と同じように世界を超えて召喚体を操れること」


「そして、翁が指摘したように、召喚対象が意識しない下位、無意識層でも実際には深く繋がっていてその情報を元に召喚体を活き活きと動かしているということか」


賢者さんも、満面に笑みを浮かべて目をギラギラさせながら、先を話せ、と促してきた。


「ですです。そういう意味では、やはり使い魔との感覚共有よりも、繋がりが深いと言えそうですね。使い魔との間では視覚共有のように、感覚の一部だけに限定しているようですから」


「あまり深く繋がれば、先日のアキのように、己に存在しない部位の感覚に翻弄される事ともなる。それで、召喚術式が、その、ブラウザ系ゲームサービスだったか。それとどう似ているのだ?」


とにかく話の本筋を進めろ、と方向修正の熱意が凄い。


そこで、僕はちょいとホワイトボードを用意して貰って、ブラウザ系ゲームサービスの模式図を描いてみた。


「このように、ブラウザ系ゲームサービスでは、サービス提供側サーバにあらゆるデータが存在し、サービスを利用する側はブラウザ、情報を得て絵を描いたり音を鳴らす機能、んー、空っぽの魔導具があると思ってください。空っぽだからそのままじゃ何もできないけど、実行したいデータを放り込めば、それに合わせて機能してくれる汎用性が特徴です」


こちらだと、あらゆる魔導具は中に術式や機能が予め封入されているパッケージ系ゲーム方式なんだよね。日本あちらでもネットが普及する前の時代は、カセット入れ替え式のゲーム機が主流だった。


「わざわざ空で創るのか。……ふむ。それはそれで面白いな」


もぅ。自分だって意識が本筋から逸れてるし。


「そっちは脇道なので話を戻すと、召喚術式は、①召喚対象と経路(パス)を用いて繋がる機能、②召喚対象を模した召喚体の形成に必要な情報を入手し創造する機能、③創造した召喚体を維持する機能、それと、④召喚対象と召喚体の感覚を無意識層まで含めて深く同期させる機能、の四つで構成されていると言えます」


で、①と④は使い魔との感覚共有術式に近く、③は創造術式に近く、②は術者がイメージせず、召喚対象から情報を引き出す術式だろう、と説明した。ここで重要なのは②と④だ。


「この中でこれまで召喚術式のコスト削減として取り組んできたのは②の部分です。創造する召喚体をどれだけ簡素に小さくするか、というところで頑張ってきた訳ですね」


こうして分けてみると、①の繋ぐ部分も、お爺ちゃんとの間では、お爺ちゃん愛用の帽子という触媒があったおかげで、多分、発動コストは大きく削減できていたと思う。②はこれまでも削減しようと奮闘してきた。③は動きがないリバーシの駒とかと違って生体を模してて変形しまくるから維持コストが高いのは仕方なさそう。


「この中で③と④が召喚の維持中に支払うコスト部分です。③は削れそうな要素は少なそうですけど、④は案外、削れる余地があるかもしれません。召喚術式は対象が何であれ対応できますけど、それって過剰性能かもしれないでしょう?」


ん、ここまで言えば、賢者さんもすぐ気付いてくれた。


「そこで幻影術式に繋がるのだな。先日の外見だけ模したという幻影は無意識層の繋がりがない事例、そして生々しさを再現したという幻影は無意識層との繋がりのある事例だと。そして、過剰性能というのは白岩殿が取り組んでいるという鬼族の武と同じだ」


「鬼の武というとアレか、必要な部位に必要最小限の力、魔力を配分することで全身の流れを整える基礎技術の話か」


 げ、それ奥義じゃないんだ。


単純に身体機能を全体的に高める強化術式と違って、部位を絞り、タイミングも限定することで、運用コストを極限まで抑える技なのに、ソレが基本、基礎技かぁ。ほんと、鬼の武は深い。まぁ、賢者さんはそう、それだ、と軽く頷いて驚きなど皆無だけど。


「現状の④の感覚共有は、身体強化術式と同じで実はかなり無駄なことをしてる可能性があるかなって気がします。それと②の召喚体創造部分も毎回、情報を全部引っ張ってきてるから、通信量という意味では無駄だらけですよね。対象と深い縁のあるお爺ちゃんの帽子で発動を補助したように、宝珠に召喚体創造に必要な情報を溜め込んでおけば、わざわざ世界を超えて同じ情報を毎回、引っ張ってこなくてもいいでしょう?」


ゲーム機のSSDメモリにダウンロードしたゲームを入れておくようなものだ。


「それだと召喚相手ごとに宝珠が必要とならないか? いや、種族で共通な部分だけ封じるようにして差分だけ得ればいいのか。感覚共有も無意識層まで含むとなると、違和感を感じない程度に共有レベルを落とす自動調整機能が必要だろう。違和感を感じたなら感じない程度に戻せさえすればいい。ふむ……」


賢者さんが目を見開いて、杖をぶんぶん振り回し、あっちへふらふら、こっちへふらふらとしながら、ぶつぶつと考えを自問自答しては、その先へと思考を飛ばし始めた。


邪魔しちゃ不味そうだと皆も目線で合図し合って、こっそりとテーブルに戻る。


「あぁなると暫くは戻ってこんから、少し休憩じゃな。戻ってきたら忙しくなるから英気を養っておかんとのぉ」


などとお爺ちゃんが笑みを浮かべて、遠巻きに待機していた女中さん達に声を掛けるのだった。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字、脱字の指摘ありがとうございます。自分では何度読んでもなかなか気付けないので助かります。


このまま参謀達と浄化作戦についての話を深めて行こうか、と言う流れは、翁の閃きによって断ち切られることになりました。まぁ、シゲンも話していたように全く関係がない話という訳ではないし、アキが深く関わっている研究組の活動に触れる内容でもあるので、そちらの話をしていく事になりました。


参謀達は今後、ロングヒルに常駐する身でもあり、代表達ほど時間的に切羽詰まってないというのも大きいでしょう。


とはいえ、研究組の活動を伝聞でしか知らなかった彼らからすれば、世界を超えた活動や、呼び鈴で招くようなノリで行われる召喚行為というのは、やはり結構な驚きがあったようです。喚ばれた賢者も、参謀達を一瞥した程度でスルーするというくらい、興味のある分野以外どうでもいいという振舞いでしたからね。


まぁそれを言うと、浄化作戦を話している時と、召喚術式の改良について話をしている時で、アキの態度もそりゃーもう別物って具合だった訳ですが。本人はそれほど差を付けてないつもりですが、周囲からすれば熱意の違いはバレバレなのでした。


次回の投稿は、六月七日(水)二十一時五分です。

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