19-23.参謀達との初接触《ファーストコンタクト》(中編)
前回のあらすじ:竜族の皆さんは急にやってくることが多いので、調整をされているケイティさん達も随分苦労されているようでした。ありがたい話です。それと話には出ていた参謀の皆さんと会うことになりました。何でも僕のことを見極めたいとか。まぁ、僕も浄化作戦の具体的な推進力となる参謀本部の皆さんには興味がありましたからね。ちょうどよい機会でしょう。(アキ視点)
連邦大使館の中庭に進むと、談笑していた面々が席を立ち、わざわざ並んで出迎えてくれた。資料にあった参謀の皆さんだ。体のサイズがまちまちなメンバーがこうして並ぶと異種族の合同組織だという事実が更に際立つ。
僕より少し背が高い街エルフの男性マサトミさんは、父さんと違ってがっちりした体躯で、何より目立つのはしっかりと手入れされたピンっと張ったカイゼル髭! これまでに会った街エルフは誰も髭を蓄えてなかったから、種族的に髭がないのかと思ってたけど、そういう訳じゃなかったようだ。父さんよりは年上な感じだけど、ヤスケさん達ほど年配じゃないってとこかな。
「髭が珍しいかね?」
「あ、えっと、はい。これまで会った皆さんは髭を蓄えてなかったので。ご立派です」
その隣にいるすらりとした背の高い人はホレーショさん。ニコラスさん系の面持ちだけど、胡散臭さの代わりに軍人としての意志の強さを感じさせる眼差しが印象的かな。ただ、報告書によると、人妻に手を出して、現在、奥さんとバチバチ火花を散らしたバトル中とのこと。……まぁ、実力があれば私生活に多少問題があっても気にしないけど。
「遠目で観た時とは随分印象が変わって驚いたよ。宜しく」
「竜の指導を受けているからでしょう。皆さんにもお勧めです」
その隣にいる頭三つ分は大きい巨躯は鬼族のシゲンさんだ。ただ、ぱっと見、雰囲気はトウセイさんのような普通のおじさんって感じで、これまでに会ってきたバリバリ武闘派な鬼族の皆さんとはかなり印象が違う。あー、でも素な部分もあるだろうけど、僕を見極めようと向けてくる眼差しはぞくっとくるモノがある。良く見ればトウセイさんと違って身体もそれなりに鍛えてる感じだし、敢えて軍人らしさを消してるってとこもありそうだ。
「王から聞いていたが確かに化けたもんだ。堅苦しいのは苦手でな、俺の事はシゲンでいい。アキと呼んでいいかい?」
「はい。それではシゲン、と僕も呼ばせていただきます」
他の皆さんにも、僕のことはアキと呼ぶようお願いして了承して貰った。国を代表するような参謀さんだからね。ただ、逆に様付けは遠慮されることにもなった。嬉しい心遣いだ。
ん。
そして、小学生くらいの背だけど、きっちり鍛え上げた体躯な小鬼族ファビウスさん。ユリウス様のような覇気は感じられないけど、他の三人と並んでいても堂々とした立ち姿もあって、実際の背丈より大きく見える。落ち着いた雰囲気で、静の人って感じだね。彫りの深い整った顔立ちもあって、こちらも自然と背筋が伸びる、そんな方だ。
「独創的な計画案を読ませて貰った。多才な巫女殿と共に働けることに感謝を」
「期待に応えられるよう微力を尽くします」
最後は妖精族の近衛さんだね。観た感じ、他の皆さんとも仲良くやっているようだ。
「えっと、近衛さん、昇進おめでとうございます。呼び名はこれまで通りで構いませんか?」
「皆とも相談したが、このメンバー内であればその呼び名で他と被ることはないので、これまで通り呼んでくれ」
確かに、参謀の皆さんなのに、その中で司令とか言われたら混乱しちゃうからね。
軽く挨拶も済ませたので、全員、席について貰った。
さてさて。
「参謀本部初期メンバーの皆さんがこうして集ってくれたことを嬉しく思います。「死の大地」の浄化作戦について、一通り資料を確認し、意見交換も済まされていると伺ってます。そこで、取り敢えず一問一答形式で話を進めていくということでどうでしょう?」
そう提案すると、特に反対意見は出ず、皆さん同意してくれた。
◇
さーて。それじゃ、誰から行こうかなー。良し、決めた。
「それでは近衛さん。他種族の軍人の方々と戦略レベルの深い話をしてみてどうでしたか?」
シャーリス女王の護衛という役目で同行してくるか、研究組の検討会に参加するといった事が大半だったからね。それ以外でもジョージさんと密な話し合いはしていても、それも護衛という観点からだった。それに聞いてる限り、妖精界では周辺の人族の国々とは国交もないから、こういった機会は持ててなかった筈。
そう話を振ると、近衛さんは皆を見回してから答えてくれた。
「手勢を率いて如何に効率よく戦うか。私が担ってきた戦術レベルで求められる能力と、浄化作戦で求められる能力の差に困惑しているというのが正直なところだ。目の届く範囲では容易に行えていた事も、軍が大規模化し、活動が広域化し、自軍が連絡を取り合うこともそうだが、敵の情報を如何に得て、こちらの情報を隠蔽できるのか等々、考えねばならぬ項目が格段に増える。そして集まった情報の内容だけでなく、いつ得られたかも、こちらの次手を打つ際に考慮すべき点だ、というのは自分にはない意識だった。それに大軍を率いる術に疎い私の為にもわかるよう説明してくれるのだが、彼我の文化の違いも考慮してくれて大変助かっている。敬服する思いだ」
そう話し、皆にも頭を下げた。これにはシゲンさんが身振りまで加えて苦笑した思いを吐露してくれる。
「おいおい、それは謙遜し過ぎってもんだ。俺らだって空の活用なんぞ使い魔の鳥を飛ばして、多少偵察する程度に過ぎん。地形を無視して飛べる種族から見た世界と、地に縛られた俺らの世界の大きな違いには面食らった事も多い中、お前さんは飛べない俺らでも、空を素早く自由に移動できる様をイメージできるよう、説明してくれていたじゃないか。それにマサトミとホレーショも本業は海、俺とファビウスは陸だ。俺らとは違う専門家として頼りにしてるぜ」
彼の主張に他の皆も同意し、それぞれが近衛さんの理解の早さや、どこに疎いかしっかり話してくれる分、自分達との差も把握しやすく助かってる、とフォローしてくれた。
あー、近衛さん、照れてる、照れてる。
っと、揶揄いたい気持ちは心の棚に放り込んで、っと。
「この場にはまだいませんが、浄化作戦の主力となる竜族もその活動域は空。陸、海、空、それぞれ二名ずつということで初期メンバーのバランス構成は良さげですね。近衛さんには同じ空域メインということで、他の方々と竜の間を取り持つ立ち位置ともなるでしょう。彼らは彼らで地の種族の視点に疎いですからね。上手く繋いでいってください」
ファイトです、とぐっと手を握って応援すると、近衛さんは露骨に嫌そうな表情を浮かべた。それに、おや、残りの三人も以外そうな顔をした。っと、マサトミさんがそんな三人を代表して口を開く。
「我々と竜達を繋ぐのは、竜神の巫女であるアキが担うのではないのか?」
おや。
「僕は研究組の活動が本業なので、竜神の巫女として竜族と参謀本部を繋ぐ役割は担うことにはなると思ってますけど、参謀同士の交流については、皆さん同士で親睦を深めて頂こうと考えてます。先ほど話した参謀本部にくる竜は、雲取様のように竜族の窓口としてくるのではなく、参謀の一人、同僚として参加するイメージですから。勿論、最初の顔合わせくらいはフォローしますよ」
ちゃんと考えてますよー、とアピールしたんだけど、どうも皆さんの期待値を大きく下回ったようだった。
「アキも交流のある探索船団の提督ファウスト、彼も専門は海だが、それなら私も同じ海で同等かと言えば、そんなことはない。私は小型帆船を用いた調査、測量がメインであり、ホレーショ殿は沿岸警備メインと違いがある。本格的に計画を検討していく段になれば繋ぐ役は欲しい」
ふむ。
「天空竜はこれまでに接点のあった方々だけでも結構な数になりますけど、皆さん、とても聡くて、一を聞いて十を知る感じでしたので、理解力については安心できるかと思います。恐らく、竜族側でも参謀本部に出向させる者の重要性を考慮して、相応しい竜を選んでくれるでしょう。後はまぁ、ついうっかり魔力が荒れたりした時は、近衛さんもいるので、ザクっと投槍でも刺して止めてくれれば大丈夫ですよ、きっと」
そもそも実力差は理解しているので、うっかりさえ止めれば、と話すと、残念、不安払拭とはならなかった。
「……同僚となる竜については、問題が多岐に渡るからここは保留としよう」
マサトミさんが提案してくれたので、その件はここまで。
では、同じ海がメインと言ってた二人の違いも教えて貰えたし、残り二人についても聞いておこう。
「シゲンとファビウスさんは同じ陸軍系、それに連邦と帝国と国境も接している事からすると、以前から交流とかあったりします?」
何せ合同軍を起こしたりもしてきた二勢力だからね。
「直接言葉を交わしたのは、ロングヒルに来てからが初だが、まぁ、見知った間柄ではあったな」
シゲンさんが嫌そうな顔をすると、ファビウスさんも頷いて、理由を教えてくれた。
「私とシゲン殿は、成人の儀で片手であまる程度には戦場でやり合った仲だ。ただ、アキも知っての通り、鬼と小鬼ではその武は比較にならず、私はシゲン殿が出てくるたびに頑張って逃げ回っていたものさ」
仕事だから戦ったが、鬼が出た、と報告を受けるたびに寿命が縮まる思いだった、などと語ってくれた。なるほど。ただ、強力な矛である鬼族、その軍勢を率いていたシゲンさんはと言えば、目を細めて不貞腐れた顔をした。
「良く言うぜ。お前さんが対連邦戦線に来てからは、連邦は攻勢に出た分、背後を脅かされて慌てて戻る羽目に陥ってるじゃねーか。いいか、アキ。この男、ファビウスは相手の力を削ぎ、全力を出せないよう嵌める事にかけては天才的だ。負けない戦い方ができる奴は浄化作戦では力になるだろうよ」
ほぉ。
戦場でやりあってきた間柄ではあっても、こうして席を同じくすることとなれば、きっちり意識を切り替えられるのだから、良好な関係と言えそうだ。それに鬼族の圧倒的な武の強みを発揮させない指揮能力というのは確かに稀有だろう。
「浄化作戦の最大の障害となる祟り神、「死の大地」を覆う呪いの集合体は厄介な相手ですからね。短期決戦という訳にもいきませんし、相手の手を縛り、選択肢を減らし、思うように動けない状況に貶めていく事は重要でしょう。ファビウスさん、作戦の主力となる竜族はあくまでも、任意に参加してくれるボランティア活動参加者ってとこなので、多少の怪我くらいまではいいですけど、後が残る大怪我とか死者が出るような事態は避けられるようお願いします」
「勝負になる駒すらない中、苦慮してきただけなのだが。ところで、ちょうど話題に触れたから聞くが、アキが浄化作戦を提案した理由を教えて欲しい。取り繕った言葉は不要だ。正直に話してくれ」
ファビウスさんは不本意と強調しながらも一応、頷いてくれた。ただ、それはそれとして、と踏み込んだ問いを振ってきた。発起人としての意見、その思いを話せ、と。
ふむ。
んー、竜神の巫女として考慮しておくべき思い、視点というのはあるんだけど、求められているのはもっと深い部分、根源的な起点は何かって事だよね。
「ケイティさん、筆箱を出して貰えます? 消しゴムとか鉛筆がピタっと入っていたモノです」
「筆箱、ですか。はい」
疑問に思いながらも、ケイティさんが空間鞄から求めた筆箱を出してくれた。そうそう、これ。鉛筆削りとか、定規とかも含めて全部入れるとぴったり収まってくれて持ち運びも安心って奴だ。
それをテーブルの上に置いて、中身をざっと取り出してみた。
「こうして取り出した文房具が現時点で用意できそうな要素、この筆箱が「死の大地」の問題と考えてみてください。彼の地は放置しておくと後々、問題となることが確定しているので、可能なら何とかしたいところでした。で、僕が見知った各要素をふと見回してみたら、それらを組み合わせれば、問題にぴったり対応できそうだな、って気付いた訳です。これが発端ですね」
筆箱に、外に出していた文房具を戻していくときっちり中が埋まって、振っても音がせず安定することを示してみせた。
「彼の地の問題を解消できると、各勢力への利も多く、それだけ利を提供できれば、研究組の活動への支援も快く行って貰えるでしょうからね。つまり打算です。彼の地については共感できるほど知ってる訳ではありませんから。理解はしていますが、原点はそんなところです」
失望しました? とも聞いてみたけど、皆さんはと言えば、あぁ、聞いた通りの奴だわ、みたいな納得した表情を浮かべて、揃って苦笑いしたのだった。
いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
誤字、脱字の指摘ありがとうございます。自分では何度読んでもなかなか気付けないので助かります。
新登場の人物が多いので、ちょっとごちゃついた感じにはなってしまいましたが、顔合わせと軽い関係、経歴については軽く明らかになってきたってとこですね。
シゲンもフォローしてましたが、陸軍主体でせいぜい気球で上空から観測していたという第一次世界大戦前くらいの三大勢力に対して、がっつり地上に寄り添って運用されるヘリ部隊のような妖精族の軍は、かけ離れている竜族に比べると、まだ理解しやすい相手なのは間違いないでしょう。なので、近衛が思ってる以上に他参謀達からは評価されている関係なのでした。
ラストでアキが内心をぶっちゃけてましたが、驚かれることが無かったのは、まぁ、代表達がちゃんと言い聞かせていたのでしょう。
軽い挨拶は終えたので、次パートからは踏み込んだ内容へと入ります。
次回の投稿は、五月三十一日(水)二十一時五分です。