19-22.参謀達との初接触《ファーストコンタクト》(前編)
前回のあらすじ:経過観察ということで、今回は成竜二柱が連れ立っての訪問ということになりました。黒姫様からは、樹木の精霊系の二柱(世界樹、連樹の神)との心話は厳禁と釘を刺されることに。あと、そういう黒姫様も世界樹との交流で煮詰まってる感じだったので、少しお休みして貰う流れとなりました。素っ気なく帰っていく様子が可愛かったですね。それと敢えて沈黙を選んだ白岩様との関係も素敵でした。(アキ視点)
僕の容態確認も終わり、せっかく訪問したのだからと、白岩様はセイケンの付き人レイハさん、鬼人形のブセイさんと隅に移って、武の研究を行うことに。師匠とトウセイさんも研究のためにその場を後にした。
用事は済んだからもういいぞ、と開放された僕はと言えば、そのまま次のお仕事ということで、連邦大使館へと移動することになった。
ケイティさんから、雲取様の鱗をあしらった装身具を受け取って付けると、渡された資料にざっと目を通してみる。
ふむ。
「参謀本部に参加される方々との顔合わせ、ですか。結構、急な話ですね。事前準備とかは不要だったんですか?」
「アキ様、思い違いをされているようですので、訂正させてください。そもそも急なのは、竜族の方々の緊急性が高い割り込みであって、それによってスケジュールの組み直しが頻繁に発生しているのです。また、アキ様の活動時間帯が限定されることから、アキ様に合わせて要件を捩じ込まざるを得ない点もお忘れなく」
ほら、とケイティさんが見せてくれた手帳のスケジュールを見ると、早朝から深夜まで、場所も連邦大使館だけでなく、街エルフの大使館なども使いながら、多くの関係者が話し合いの場を設けているのが見て取れた。そして、第二演習場に天空竜がやってくるたびに、その対応に代表の皆さんや研究メンバー、スタッフが駆り出されることになって、前後の予定がパズルのように入れ替えられているのもわかった。
うわぁ……
「調整ありがとうございます。それで、まぁ、各国が自信を持って送り出してきた方々なので、候補ではなく、確定として参謀と呼ぶことにしますけど、その参謀の皆さんとの顔合わせをする、というのはどういう趣旨です?」
渡された資料は、それぞれの顔写真や身長比較表、あと簡単な経歴が書かれている程度なんだよね。
かと言って、本当に単にご挨拶するだけ、とは思えないし。
「皆様は代表とともにロングヒル入りされて、守秘義務の術式を受けると、アキ様提案の「死の大地」浄化作戦について、これまでに示された内容を学ばれていました」
ふむふむ。
「それは皆が合同で? 参謀同士の意見交換は既に終えていると思っていいでしょうか?」
僕の問いにケイティさんは勿論、と頷いた。
「皆様の理解は、これまでに関係者を集めて行った説明に追いついていると判断されて問題ありません。また意見交換も密に行うことで、参謀間の視点の違いや嗜好も、互いに把握されています」
「それは重畳。んー、そうなると、今日は挨拶を終えたら、質疑応答を行う感じです?」
「それもあるのですが、彼らの求めるところは別にあります」
「別?」
「アキ様に直接会って、人物を見極めたいといった思いを抱かれているようです」
ふむ。
「代表の皆さんや、ロングヒルと縁のある方々から話を聞いても、やはり直接、自身で確かめたいって思いが強い感じ、と。自分の目で確かめたい、というのは軍人さん気質でしょうか」
「全てを自身で確認するのは現実的ではありませんけれど、他人の目線と自分のそれでは、同じ事柄を捉えても、結論が違ってくる場合も多いですから。そして、最も重要な部分は、何はともあれ最初に確認しておきたいモノです」
ん?
「僕が、ですか? 発起人だから? それとも竜神の巫女、要の立場にあるから?」
近衛さんは例外としても、他の四名もこれまでに洗礼の義などに参加されていて、僕のことを多少は知ってる感じではあるんだよね。
それでも、質疑応答より人物像の見極めを重視、っていうのは気になるところだ。
「計画の主力を担う竜族の方々の立ち位置が、ボランティア参加者相当であって、軍人ではないというポイントには全員、気付かれてましたから。皆様、頭を抱えていたそうですよ。自分達は政治家じゃない、と」
おやおや。
「上司の命令を絶対とする軍組織じゃないのは、そもそも群れで生活してない竜族が主力な時点で諦めて貰うしかありませんからね。でも、口先三寸で竜達だって働かせて見せるぞ、って気概は見せたりしてませんでしたか」
「真っ当な軍人は徹底的な現実主義者ですから。希望的観測だけ積み重ねた計画なんて、碌な結果にならないことなど百も承知してますよ」
ふむ。
ケイティさんの説明もやけに実感が籠もってるなぁ。
「ちなみにケイティさん、探索者をやってて、政治的な縛りに苦労されてたりします?」
「それはもうタップリと。あれは駄目、これは駄目と、禁止リストだらけで気が滅入ったモノでした」
それはご愁傷様。
んー。
「ちなみに、近衛さんですけど、他の四名に圧倒されちゃってますか?」
妖精族の軍事的行動って、基本的に戦術レベルで済んでる感じだし、実働部隊にしても近衛さんが一人で直接指揮ができちゃう規模っぽいからね。戦略レベルの話となると、馴染みが薄い筈だ。
「あの方は、浄化作戦の一部には参加するものの、大半には関与しないので、傍聴者的な立ち位置です。ですので聞き役に回ることが多いとは聞いています」
っと、ここはお爺ちゃんがふわりと前に出てフォローしてくれた。
「奴は、戦端を開く前、準備段階の段取りを学んでいこうとしておる。儂らの国では、これまでは女王陛下が方針を示し、近衛が実働を担うといった役割分担をしてきたからのぉ。しかし、浄化作戦のような規模、難度となるともはや、一人で差配するのは無理じゃ」
あれだね。中国の三国志時代とかなら、軍師が差配しても何とかなっていたけど、近代戦となるとナポレオンの頃には個人では扱いきれない複雑さとなって、参謀本部を立ち上げるに至った訳だもんね。
そういう意味では、近衛さんからすれば、始めてのことだらけ、ってとこか。傍観者で良かったとか思ってそうだ。
ふむ。
おっと、お爺ちゃんがぺしぺしと頭を叩いてきた。
「アキ、よほど問題となってなければ、煽るような真似は控えるんじゃぞ? 本人がやれる以上に荷物をもたせては墜落してしまう」
まぁ、それもそうか。
「はいはい。それで連邦大使館を会場としたのはなぜです? もしかして代表の皆さんも場合によっては参加してくるとか?」
「念のため、とのことです。浄化作戦は軍事的側面だけでなく、政治的側面も強いことから、判断に迷う局面が出てくることも有り得ると判断されてました。そこで話が保留になるくらいなら、近場にいてフォローできるようにしておいたほうが良い、と」
それは何ともお優しい話だね。うーん、子供のお使いじゃあるまいし、少し過保護な気もするけどなぁ。集まってるのはかなり実績があり実力派でもある上級士官な筈なのに。
そう考えていると、ケイティさんが僕の内心を見通したかのように、理由を話してくれた。
「皆様、実力派揃いですが、換えの効かない方々でもあります。未知の作戦に対して、想像の翼を広げられる士官というのはそう多くありません。ですから、せめて初手で拗れるような事態だけは避けたいという事なのでしょう」
慎重側に倒した判断をされた、ということですね、とケイティさんは話を締め括った。お爺ちゃんも、大きな話は始めが肝心、と言って頷いてる。
でも。
言葉とは裏腹に、明らかにやらかさないか心配されてる感マシマシってとこで、何とも居心地が悪かった。
いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
誤字、脱字の指摘ありがとうございます。自分では何度読んでもなかなか気付けないので助かります。
今回はキリがいいので短いですけどここまで。
さて、前々から話題となっていた参謀達ですけど、浄化作戦関連の一通りの資料確認及び参謀同士による意見交換も終えたことから、アキとの初接触を行う流れとなりました。元々は朝一で行う予定でしたが、白岩様&黒姫様の経過観察の割込みがあったので、後ろにズレることに。
ケイティの説明では、近衛は傍観者的立ち位置とされていましたが、実際のところは、空軍……まではいきませんが、陸軍に付き添って飛ぶヘリ部隊のような運用をしている妖精族ということもあって、陸軍とは異なる運用については彼が多くを説明することとなりました。
その辺りはまぁ多分、次パートでさらりと触れられることになるでしょう。アキと違って、実際に空を飛び、集団での空戦をこなしている実務者ですからね。他の参謀達は大軍運用の経験はあっても、空は畑違いというか未経験ですから、両者を繋ぐ重要な立ち位置なのです。……って辺り、近衛もまた戦略級の実務経験に乏しい分、自覚が薄いことでしょうけれど。
で。
代表達や、同席するケイティや翁、それと今回は発言してませんがジョージも懸念しているのは、アキが基本的に浄化作戦は専門家へのお任せ案件と捉えていることであって、自分の手を空けるために、できるだけ参謀達に仕事を押し付けようとしているのがバレバレだということ。割り込むかどうかはまぁ、アキと参謀達との綱引きの結果次第でしょう。
次回の投稿は、五月二十八日(日)二十一時五分です。
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