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19-19.白岩様と内緒話(後編)

前回のあらすじ:代表の皆さん相手の公開演技(デモンストレーション)も終わり、依代の君がハンググライダーで空を飛びたそうなので、怪我をしたらどーするのか、あれこれ話をしました。普通の意味での治療ができない分、彼もある程度、慎重な行動をした方が良さそうです。まぁ、ヴィオ&ダニエルの二人が上手くそこは御してくれるでしょう。その後は、白岩様と心話をすることになり、手始めに落下してもノーダメージみたいな技についてあれこれ伺うことになりました。聞いてみると世の中、そんな都合のいい話がそうそう転がってる訳ではなく、だいたい失敗談をセットになる技ということで内緒とすることになりました。竜族も大概チートだと思ってましたが、何気に制約が多いですね。(アキ視点)

さーて、次は本題だ。


<それでは白岩様、本題に入りましょうか。桜竜様の件でお話があるのでしたよね?>


そう話を振ると、少し言い淀んだものの、話を切り出してくれた。


<それだ。先日、桜竜から鬼の技の研究に参加したいと申し出があった>


うん、うん。


<本人もとても真摯に取り組もうと決意されてましたし、切実な問題を抱えてもいらしたので丁度良いだろうと提案させていただきました。白岩様の目からみて合格でした?>


そもそも、竜族の中で他種族の技を学ぼうなどという試みをしているのは白岩様くらいなモノ、それもそのまま導入はできず全てを手探りで行っていて、自身の試技を客観視する機会すらないとなれば、いくら本人の熱意と基礎能力の高さはあっても、そうそう簡単にはいかず苦戦されているのは聞いていた。


そこに、白岩様の志を知り、共に研究したいと申し出てきた若者が一人。


本人もそれに希望を託していることもあって、研究への熱意は下手をすれば白岩様すら凌ぐだろう。


期待度大ではあるけれど、白岩様の素の反応が知りたいと思い、僕は静かに返事を待った。


 あー、うん。


コレはケイティさんの時と同じで、言語化しにくいぐちゃぐちゃ混沌状態だ。白岩様本人も自身の気持ちを整理しきれないのと、二人の関係を興味津々眺めつつ応援してる僕への恨みがましい思いなんてのも、ちょろちょろ混じっているっぽい。ちょっとかわいいかも。


 あーっと、その辺りの気持ちはちょい棚に放り込んでっ、と。


待つこと暫し。五分くらいかな。内緒話だということと、僕が少し心の距離を離して、気持ちの整理をつけるまで待つ態度を明確に示した、というのもあると思う。白岩様も僕の反応を踏まえた上で、どう話をしていくか考えを纏めることにしたのだった。


<先ず、申し出自体は嬉しく思った。我らの間において、何かに共同で取り組むといったことは、つがいになって子を育てることを除けば皆無と言っても過言ではない。確かに銃弾の雨の際には、騒音に苛ついた母竜達が大勢、襲撃に加わったが、共に出掛けた程度の話であった>


 ふむふむ。


<白岩様が取り組まれている研究、鬼の武を竜が取り入れることは、地の種族と共同研究をしても竜の目線がなく効率も悪いでしょう。その点では渡りに船だった、と。紹介した甲斐があり僕も嬉しいです>


さぁ、続きをと促すと、別の視点からの意見を話してくれた。


<次は桜竜がその身に過ぎた魔力を抱えて悩んでいたところに手を差し伸べてくれたことへの謝意か。我の口から誘うことができれば最上だったとも思える。後から思えば、といった話ではあるが>


<先人達の経験が生きる竜の技とは違うので、そこを誘うのは気乗りせずとも仕方ないことですよ。上手くいく保証もなく、ぬか喜びさせては可哀そうだ、との思いもあったのでは?>


僕の問いに白岩様は苦笑した。


<それは深読みし過ぎというモノだ。そもそもまだ他の竜に披露できるほどの出来栄えとは思っておらず、桜竜の悩みは知ってはいたが、鬼の武の活用を提案する気など思いつきもしなかった>


 なるほど。


<僕と飛んだ際に披露して頂けたことは光栄に思います。僕は皆さんのペット枠みたいな扱いですからね。気軽に接して貰えれば幸いです>


<気楽な間柄となって嬉しく思うぞ>


触れた心からすると、成竜ということもあって、地の種族との接触も皆無という訳ではないけれど、圧に怯えて震えている様子を見ると、長く話そうという気にもなれなかったようだ。それじゃ仲良くなるどころじゃないもんね。


<それでは、次に。共同研究者として桜竜さん自身の姿勢や意思の強さは良しとして、若い雌竜という事でお困りになりました? 他の雄竜、例えば雲取様とかの方が気楽だった、とか?>


そう話を振ると、とんでもない、と全力で否定されてしまった。


<それはない。アキも日本あちらでは男子だったのだからわかると思うが、男同士が度を越えて仲良く振る舞うというのは……そのな、悪い風評が立って甚だ不味いのだ>


うわぁ……。触れた心象からすると、漫才コンビを見て、男同士が近い距離で話をしていてホモホモしい、と眉を顰めるという欧米的価値観が強いようだ。そんな悪評に比べれば、まだ成竜とはなっていないとはいえ、若い雌竜の方が百倍マシってとこらしい。ちなみに成竜相手の時と比べればやはり不快には思われるようだけど、手を出さなければ爪弾きにされるような扱いまではならないようだ。


<そもそも個で活動が完結してるから、誰かと連れ立って行動する事が稀、雄竜同士が一緒に行動する理由もないんですね。あれ? 不満事の決着をつけるとかで力合わせをされる時は、当事者だけでなく誰か立ち会ったりしないんですか?>


<その場合、年配の成竜に頼むのが筋となる。話が逸れたが、桜竜を共同研究者とする件は、そういう意味では、ロングヒルに来ている竜達の中では最善と言って良い推薦だった>


 ん。


<黒姫様は?>


<アレと共同研究だと? ……桜竜よりは問題とはならんだろうが、アレは今、世界樹と組んだ研究に没頭している。そもそも他の事に手を出すような真似はせんだろう>


ふむふむ。白岩様も黒姫様の事は一般的な意味では魅力的と判断してる、と。あー、でも今はその気はなしっぽい。


 さて。


ちょい、垣間見えてしまったから聞いておこう。


<白岩様は今は鬼の武への興味、技への手応えもあって、そちらへの興味が強く、つがいを求める気運は薄いと感じましたがどうでしょう? 研究に専念できて、桜竜様が他の雌竜に牽制もしてくれるから、いちいち煩わされることもなく済むという思いもちょっぴりあったり?>


口外しませんよ、と示すと、白岩様は溜息をついて呆れた思いを向けた。


<……その思いもないとは言わぬ。だが、桜竜と他の雌竜達が対立することは望んではおらぬぞ? 彼女が研究に専念する態度を示すことで、我がつがいになることよりも、今は研究を優先していると皆が感付いて身を引いてくれれば、と期待してはいるが>


 ん。


<誘われるたびに真面目に対応してたら、それだけで気苦労も増えますからね。共感できるような経験はないですけど、そう思われることは理解できます。それに七柱から言い寄られて苦労されてる雲取様を観てたら、モテて羨ましいぞ、みたいな気持ちも失せましたからね>


波風立てぬように上手く宥めて手を引いて貰う、なんてのは口で言うのは簡単でも、実行するのは大変だ。モテるからと二股をかけるような男もいるけど、そもそも頭数が少ない村社会な竜の間柄、しかも歴史に匹敵するような長寿となれば、その場限りみたいな真似はできる筈もない。それこそ千年先まで針の筵なんて事にもなりかねないのだから。一対一なら優位でも、徒党を組んだ雌竜達と敵対なんて勝ち目のないいくさをするのは馬鹿だけだ。それに他の雄竜達の援護射撃なんて期待できる筈もない。競争相手が没落するならざまぁみろってとこだ。


<アレは恋に恋する若竜という奴だとは思うが。観ていて微笑ましくは思うが、羨ましいとは我も思わん>


恋の駆け引きを楽しんでる感が強いってとこかな。それに白岩様にはハーレム願望はないっぽい。あー、というか、個で完結した暮らしをしている竜族の常識的反応として、そもそも沢山囲う発想自体がないんだね。群れで生きる地の種族だからこそ、大勢囲えるだけの財と勢力を確保できる訳で、竜族にそんなのはないのだから、個であちこちの雌竜をぜんぶ囲おうとすれば疲弊して倒れてしまうだろう。


そして、雌竜の方も自分が巣で子育てしてる時に、外に狩りに行って働いてくれる雄竜でなければ、つがいとしての相手として相応しくない、と考えてるんだね。そもそも竜族においてはヒモのような生活というのは成立しないんだ。


<ですよね。自然に気配りできる雲取様を見てると、ちょっと涙が浮かんできちゃう思いですもん。ところで、桜竜様を共同研究者として、同じ竜に客観視して貰うことで得られたことは大きかったですか? 目の前に姿見を置いて演舞をしたって、演舞しつつ観察もするのは難しいし、視点も限られちゃうから、かなり助かってるとみましたがどうです?>


取り敢えず、白岩様の意識はあらかた確認できたし、後押しした僕への恨み言も特に出てこなかったから、この話はここまでとして、共同研究の方について話を伺うことにしよう。興味もあるからね。


<うむ、自身ではわからぬ事も、視られることで気付きを得られ恩恵は大きかったぞ>


 ほぉ。


<自己イメージを完全に持っている成竜であっても、馴染みのない鬼の武を自身に適用するとなると、過不足が生じますか、ふむ、ふむ>


<それは誤解というモノだ。そもそも鬼の武は余計な力みをせず、程よく脱力することによって最小の力で体裁きを行う事が基本であり要なのだ。力強く打撃をしようと拳を握り締めれば、突き出す拳は速さを失う。打撃を加えきるまでの間、そこだけ全身をバネのように連動させる、これがなかなか難しくてな。特に竜の身となると、体裁きよりも魔力の遷移と加減の比重が高く――>


どうもスイッチが入ったようで、竜眼で観察した際の演舞の攻防の様子や、力加減や脱力具合、それに魔力を操るタイミングや必要な時以外は力を抑えてる具合なども、それはもう事細かく教えてくれることになった。魔力操作は、人族だと杖の先に集束させたりするけど、鬼の武の場合は活性化させて魔力の状態を一時的に跳ね上げて強くするようなイメージっぽい。でも活性化と言っても全身を均一にするのは初歩の初歩で、それだと無駄が多いらしい。例えば腹筋運動をするなら腹の側の筋肉は収縮するけど、背中側の筋肉は脱力してる、それに合わせた魔力の活性化具合も濃淡を付けてるって話のようだ。それを全身で、なおかつ型を繰り出す各タイミングで最適化して、と。


武人が延々と無心で技を繰り出せるように、身体に型を覚えさせるのも凄く納得できる話だった。そんな高度で面倒臭い操作を即興でできるのはそれこそ天賦の才を持つ者くらいだろう。


そして、基本的な考えはそれでいいとして、ソレを空を飛ぶ竜の身に適用しようとすると、風を上手く掴みつつ、全身の力は程よく脱力し、魔力運用も適切にするってことなるんだね。


触れ合った意識からすると、そもそもある程度飛べればそれで十分ということもあって、普通の竜は飛び方は誰もが我流であって、その飛び方を洗練させていくようなストイックな真似をしてる竜は稀らしい。自分の縄張り内を見回る程度なら、そもそも効率をそこまで気にする必要もない、と。


だけど、普通より長距離を飛ぶとか、高空まで上がってくとか、超高速で大気を突き破るとかをし始めると、途端に差が出てくるようだ。それも短時間なら気にならずとも、何時間という単位となれば、小さな積み重ねが大きな差となって露わになってくるんだ。


……とまぁ、そんな感じで、白岩様も話の合う相手に飢えていた思いに付き合うことになった。結構長い間、記憶を共有させて貰ってたせいか、背筋を使って翼を広げる感覚とか、存在しない長い尻尾を操ってバランスを取るコツとかまで、結構イメージできるようになって面白い経験だった。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字、脱字の指摘ありがとうございます。自分では何度読んでもなかなか気付けないので助かります。


白岩様との内緒話、その本題ということで、桜竜さんが共同研究者として参加を希望した件について色々と伺いました。揉めることなく、共同研究をすることになって安心しました。それにしても、雄竜同士が仲良くしてるだけで、あらぬ疑いをかけられるとは、いやはや、怖いですね。

ある意味、健全と言うべきか、多様性に欠けるというべきか。あまり深入りしない方が良い分野でしょう。


竜族ですが何せこちらの世界では最強生物なので、そもそも鍛えるとか、技を極めるみたいな発想もないし、その必要もありませんでした。そこまで頑張らずとも、結果が出せちゃいますからね。そういう意味では伸びしろがあるとも言えますが、先人に教わる訳にもいかないので、実は白岩様も悪戦苦闘してます。苦労すること自体を楽しんでるところは多分にありますけどね。


桜竜も自身の問題に直結する話なので、白岩様に追いつけ、追い越せとばかりに頑張ることでしょう。真摯な姿勢をアピールする絶好の機会でもあるので、そこは無理せず頑張る感じになるか、気合が入り過ぎちゃうか。まぁそれもまた良い経験でしょう。


次回の投稿は、五月十七日(水)二十一時五分です。


<活動報告>

以下の内容で活動報告を投稿しています。


【雑記】Google Bard(会話AI)、日本語対応スタート

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