19-17.依代の君と代表達(後編)
前回のあらすじ:続きということで、妖精さん用ハンググライダーの飛行や、牛くらいのサイズの模型飛行船を実際に飛ばして、付随する話をあれこれお話して結構盛り上がりました。僕が日本で観た飛行船は、宣伝広告用のモノでゆっくりと空を漂う様子は、結構楽しかったけれど、僕が観たすぐ後に解体されちゃったそうで、乗る機会が無かったんですよね。こちらの空でもいずれは人が乗れる飛行船が建造されたら乗ってみたいです。雲のようにぷかぷか浮きながら眺める景色もまた格別でしょう。(アキ視点)
さーて、第二演習場でのお披露目も次でラストだ。
『では、最後は妖精の道が発見された際に、素早くその場を相手側でも発見し、双方から妖精の道を調査する為の器具、無線標識と受信機の試作機の公開演技になります。えっと、実のところ、電波を使う関係で見た目だけだと動作がそのままではわかりません。ですので、演習場全体を薄暗くした上で、無線標識から放たれる電波範囲を照明光で模倣して、その挙動をイメージしていただくことになります。ではケイティさん、お願いします』
僕の合図を受けて、ケイティさんが構えていた魔導杖を振るう。
「仮初の黄昏よ来たれ」
詠唱が終わると、第二演習場の全てを覆い尽くすほどの霧が上空に立ち込めて、あっという間に日没後の薄暗さへと変貌していく。上空からの光を遮るだけだから、地面に近いところが明るくて上空がほんのりと赤い暗さになっているのは何とも不思議な雰囲気だね。
スタッフさんが操作すると、先ずは中央部分に回転灯がついてて全体が保護用プラスチックに覆われているといった形状のバスケットボール大の球状魔導具がふわりと浮かび上がって、少しずつ高度をあげていった。
五十メートルほど上空まで移動した時点でその場に静止して、回転灯が絞り込まれたビーム状の光を放ちながらぐるぐる周囲を照らし始める。ん、回転灯と違って光は一方向だけ、探照灯と同じように光源の明るさを一方向に集束させて照射距離を稼ぐ仕組みだ。
『御覧のように、無線標識は一定高度まで上昇すると、決まった間隔で回転しながら絞り込んだ電波を一方向にだけ発信していきます。今回は公開演技なので高度は抑えていますが、本番では山よりも高い位置まで上昇していきます。この仕組みに合わせて、電波、今回の場合は光を規定間隔で受信した場合にその方角を検知する受信機を用いることで、正確に無線標識からの通信だけを検出します』
離れた位置から、今度は受信機の魔導具、形状は無線標識と同じ球体のそれがふわふわと浮かんでいき、同じ高さまで上昇するとその場に静止した。そして、無線標識から放たれた絞り込まれた光が五回照らした時点で、下部に設置された赤いライトが点灯した。以降は一回照らされるたびにその時だけ輝く、という点滅パターンへと変わる。
<今回は皆に見えるよう近い位置だが、本番では目に見えぬ距離になる、だったか>
『ですね。電波はかなり遠くまで届くので仕様ではこの二つで妖精の国全域をカバーできる予定です。こちらなら弧状列島全域だと五~六個あればカバーできるでしょう。本番では、受信機を離れた地点で複数用いることで、三角測量の要領で無線標識の位置を特定します』
離れた二地点から離れた一点を指し示せば交点を一つに絞れる、というイメージを声に乗せて伝えると、白岩様もなるほど、と納得してくれた。
<これも共同作業の一環なのだな。個では方向だけで距離がわからん>
『夜に灯火だけを見て距離を測るのが難しいのと同じですね。あと、このペアによる位置測定ですが、無線標識を放り込む時点で、召喚を通じて繋がっているお爺ちゃんに協力して貰うことで、妖精界からこちらへ、或いはこちらから妖精界へと無線標識が稼働し始めるタイミングを伝えることができます。無線標識も魔導具、稼働時間には限りがありますからね。受信機を使う側も、連絡が来てから展開の準備をすれば良いので、広い地域での探査と言ってもだいぶ労力は抑えることができます』
そう伝えると、白岩様は感嘆の声を上げた。
<こちらで電波を受信するとしたら、予備も含めると受信機は二十基程度は必要ということか。それに遠隔地で機器を展開して計測を開始するよう素早く合図を届ける連絡網も欲しい。群れで生きる皆だからこそできる精緻な仕組み、見事だ>
個で生きる竜族の感覚からすると、多分、関係者だけで数百人、魔導具の整備まで含めたら数千人が関与してくる大規模プロジェクトというのは、かなり衝撃的だったようだ。勿論、竜族とて、地の種族が小さな力を合わせて大きな仕事を行っていることくらいは知っている。
だけど、力を合わせると言っても、大岩を大勢で力を合わせて引っ張るのと、弧状列島全域をカバーするように離れた地点で、関係者達が決められた行動をきっちりこなす、というのは難度は桁違いだ。
白岩様から放たれた思念波には、その凄さを理解し、そして感嘆する思いが籠められていた。
『この仕組みを使う為には、いつ開くかわからない妖精の道を発見して、それを連絡してくれる監視網を弧状列島全域に展開しなくてはならないって前提もあります。それに、妖精の道の出現地点によっては、受信機を海上に設置する必要性も出てくるかもしれません。そうなれば竜族のどなたかに運搬していただくことになるでしょう。地の種族、樹木の精霊達、それに竜族、二つの世界の連絡をする妖精族と、この計画は全種族の力を合わせるモノです。そういう意味では、「死の大地」浄化計画より前に、皆が力を合わせる画期的な行いになります』
素敵ですね、って思いを言葉に乗せると、依代の君もグッと拳を握り締めて立ち上がった。
『確かに、ボクが神官や信者達に願ったとしても到底成し得ぬ偉業だ。それに、こうして準備が着実に進んでいるというのは大変喜ばしい。ところでコレの運用はいつから始まるんだ?』
もう、声に無邪気な思いが乗ってるから、勘違いしてるのがバレバレだよ。
『はいはい、焦らない、焦らない。コレはあくまでも試作機だからね。これから離れた地点で実際に電波を高空から飛ばして検出できるか、天候が荒れてる時の挙動はどうか、竜族に運搬して貰う場合の保護ケースはどの程度の品が必要か、連絡網も財閥が展開している既存のソレだと時間がかかるから、可能なら弧状列島をカバーする各拠点までは有線連絡線を敷設したいとこだし、樹木の精霊達とも何度も予行訓練をやって連絡がちゃんと届くようにしていかないといけないから、まだまだ本格的な運用は先だよ』
指折り数えて、アレが必要、コレが必要と諭すと、彼も前のめり過ぎた、と恥ずかしそうに席に座り直した。
<単なる群れと、統率の取れた群れはまるで違うのだな。個人が技を練るのとは違った難しさもありそうだ>
『お気付きのように、妖精の道を見つける計画は、どこか一つが予定より劣化してると、全体の質がそこまで落ちてしまうという問題を孕んでいます。樹木の精霊が発見できなければ、その先の行動には続きませんし、無線標識がちゃんと機能しなければ、いくら受信機が稼働しても検知できません。受信機がちゃんと動かなければ、無線標識の電波も見落とすことでしょう。なので、関係者達がその末端に至るまで、決められた仕事をきっちりこなして、初めて成果に辿り着ける共同作業です。体制が構築できたら、実際に、関係者には位置を秘匿して、今から無線標識を打ち上げるとだけ伝えて、検出させるような大掛かりな訓練も必要でしょう』
どこに出現するかわからない、いつまで存在し続けるかわからない、それが妖精の道が持つ困った特徴だ。だからこそ、広げる探査網に破れ目があっては泣くに泣けない。
っと、リア姉がフォローしてくれた。
「特に訓練では検知できなかった場合の評価は困難なモノになります。広げた探査網の中に無線標識が存在しなかったのか、それとも機器の故障や展開高度の誤りなどで存在してても検出ができなかったのか。それを無線標識が稼働している間に見極めて、もし後者であれば、速やかに問題を解消する手を打つ必要がでてきます。訓練では意図的に機器を故障させたり、運搬する竜族にわざと設置位置を間違って貰うなどして、その誤りを関係者達が見抜けることも確認することになります」
<なんと……。そうか。アキが言っていた「無い」ことの証明の難しさか>
「仰る通り、それを時間制限内で行うには高い実力を備えたスタッフと、本番に備えた徹底した漏れのない訓練が必要なのです」
<聞いているだけで身震いする思いだ。うむ、ケイティよ、この計画だが絵図にして貰えないか? 拡大した幻影は我ら自身が術式で行えばよいが、このように大規模で複雑な振舞いは絵図抜きには説明できぬし、理解も十分にできまい。それに、群れの力を伝える良い素材ともなろう>
ほぉ。
思念波からすると、説明役の竜があちこちの部族を回って、説明絵図を片手に、それを拡大表示しつつ、多段階かつ広域、そして異なる二つの世界が連携しあう大計画を話して回ってくれる感じか。
『それは素晴らしいですね。一緒に、良く分かってない妖精の道だからこそ、出現中に詳細に調べ上げる必要があること。そして詳細が理解できたなら、我々で力を合わせて、望んだ位置、タイミングで妖精の道を開けるようにしよう、という部分の紹介もお願いします。あ、妖精の道は、地球の世界へと繋げる次元門構築のための前段階ってところも!』
それと、それと、と話そうとしたところで、依代の君が待ったをかけてきた。
『まったく、そうして何もかも詰め込もうとするなんて、少しは落ち着け、恥ずかしい』
彼はわざわざ両手を掲げて、あぁ恥ずかしい、などと振る舞う始末だ。
まったく。
……っと、ちょっと興奮し過ぎたので席に座って、と。
<はっはっはっ、こうして並ぶと二人が似たモノ同士だと良く分かる。皆も息切れせぬよう、歩調を合わせねばならんな>
白岩様が噴き出したように笑いだし、跳ねるような楽しい思いが思念波に乗って届いた。
ふわりと、皆の前にシャーリスさんも飛んできた。
「白岩殿の言う通りじゃ。この計画は歩みの一番遅い者に合わせざるを得ない。だが、無理に急かしてならぬ。急いて穴の開いた網にしては、獲物は捕まらん。そうであろう?」
ほれ、ほれ、とシャーリスさんが先ほどの僕の発言を引用して煽ってくる。
ぐぅ。
『大きな試みだからこそ歩みは一歩ずつ着実に。心に刻んでおきます』
殊勝な気持ちでそう告げると、皆も悪乗りして盛大に笑い出してくれた。……もぅ、依代の君まで一緒に笑ってるけど、いい気なもんだ。
評価、ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲が大幅にチャージされました。
誤字、脱字の指摘ありがとうございます。自分では何度読んでもなかなか気付けないので助かります。
前回のあらすじでアキが観たと言ってるのは準硬式飛行船ツェッペリンNTです。2010年に運航会社の日本飛行船が破綻して、同年7月に解体されてしまいました。残念。
アキは2017年に世界を超えている関係で、飛行船「新スーパードライ号」は観れてないんですよね。同船の型番は「LIGHT SHIP A-60R」と言いまして、その名の通り、胴体は透明素材でできてて、中に光源があって夜間にはライトアップできる機能がついているという、夜間の広告宣伝、デモンストレーションに最適な飛行船です。パイロットを含めて定員5名ということで遊覧飛行には向かないですけどね。
さて、第二演習場での公開演技も無事終わりました。ついでに行った依代の君と代表達との対面も終わり、これでほっと一息つけるとこでしょう。
まぁ、この後、アキは白岩様とこっそり内緒話が待ってるんですけどね。未成年の女の子の恋心を応援だー、って若者らしいノリで動いた訳ですが、大人な白岩様からすれば、好意を不快に思うことはなくとも、扱いには困る案件でしょう。桜竜は雲取様に負けずとも劣らないくらい注目される若手ですから。
次回の投稿は、五月十日(水)二十一時五分です。
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