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19-15.依代の君と代表達(前編)

前回のあらすじ:セシリア妃、エリーと一緒にランチをして、二人が取り組んでいる、連合内の王侯貴族の女衆との交流について、色々と話を聞くことができました。僕が望んだ人材がすぐ出てくる感じではなさそうだけど、ロングヒルにやってきて化ける子は出てくるかもしれないと思えました。(アキ視点)

翌日は、気分転換も兼ねて、第二演習場でのお披露目に参加することになった。何のお披露目かというと、電波を用いた無線標識(ビーコン)受信機(アンテナ)の試作機による公開演技(デモンストレーション)、妖精さん用のハンググライダーの飛行、模型飛行船の飛行であり、竜用リバーシの対戦風景を実演することであり、そして、依代の君と代表達の顔合わせを行うという欲張りセットだった。


馬車に揺られつつ、ケイティさんからそんな話を聞いて、何とも頭が痛い気がしたけれど、皆さん、お忙しい身の上だし、まぁ、纏めてやってしまおうという考えも判らないではない。司会進行をやるのが僕だってとこも、天空竜と現身を得た神、それに各勢力代表達を前に、気負いなく笑顔で仕切ることを一般人に強いてはいけない、などと言われれば、仕方ないか、とも思う。どの順番で紹介していくのかも含めて僕にお任せ、という自由っぷりは信頼の証なんだろうか。


「それで、同席される天空竜はどなたに?」


「白岩様になりました」


 おや。


「あまり魔導具類には興味は持たれてないかと思ってました。珍しいですね」


白岩様って、実際に体を動かすとか、鬼族の武を視るように、誰かの技とかには興味津々だけど、地の種族が作る道具とかへの興味は薄い感じだったんだよね。


「何でも桜竜様とのことで、アキ様と少しお話されたいそうです」


ケイティさんの表情からすると、そう悪い話ではなさそうだけど。でも、うーん。


「確か長期スケジュールだと、白岩様が来る日ってもっと先だったと思うんですけど。わざわざ順番を入れ替えてきたって事は……何か揉め事があったとか?」


「いえ、心話をされたリア様からは、そういったお話は伺っておりません。今後の為にも認識を合わせておきたい、と言った程度の話とのことでした」


などとしれっと話しているけど、あー、やっぱり、ケイティさん、少し楽しんでるね。


「で、ケイティさんがちょっと楽しそうな理由は?」


「アキ様が桜竜様にばかり肩入れされた事で、白岩様はアキ様の立ち位置を自分の側に少し引き戻すことを意識されたように思えました。男性視点に詳しいアキ様であれば、上手く立ち回れるのではないか、と期待しています」


 ……なるほど。


考えてみれば、白岩様は立派な成竜だから、誰かを頼るという選択肢は取りにくい。それに下手な対応をしたなら、老竜が文句を言うだろうし、適齢期の雌竜達の動向もどう転ぶか先が読みにくい。それに、緑竜さんの反応からしても、同世代の若竜達は多分、桜竜さん応援派だ。何気に白岩様は難しい立ち位置にいると言えそうだ。


「それって、何かあったら白岩様と雌竜達の間に立てって話ですよね」


勘弁して欲しいところだけど、思いが顔に出てたようで、笑顔で逃げ道を塞がれた。


「多勢に無勢、孤立無援ではいくら白岩様とて苦労されるでしょう。ここは種族を超えて友情を育まれているアキ様が尽力されるのが筋ではないでしょうか? そもそもアキ様が蒔いた種なのですから」


 ぐぅ。


確かに徒党を組んだ雌竜達の怖さは歴史が教えてくれるところではあるし、日本あちらでの事を思い出しても、女子は人数が増えるとその脅威度は加算ではなく乗算で増えてく感じだった。


仕方ない。白岩様が何を望まれているのか、考えているのか、わからない段階であれこれ考えても意味がないし、後はお披露目が終わった後にでも心話の時間を設けて内緒話をしよう。ほんと、今日は盛り沢山な日だ。





第二演習場に到着すると、既に代表の皆さんはお披露目用の観客席についていて、ちょっとお疲れな雰囲気があるものの、楽しそうに歓談しているのが見えた。依代の君は控室の方にいる感じか。


ん、遠くから安心できる速度で白岩様がやってくる。ナイスタイミングだ。


「タイミングが良いのは、アキ様が別邸を出るタイミングに合わせて、リア様が心話で連絡を取り、揃って到着するよう調整されているからです」


「まぁ、先に到着しても手持ち無沙汰かもしれませんね」


昨日と同様、あ、今日は役職的には司令官に格上げされた近衛さんとシャーリスさんのペアが来てる感じか。まぁ政治的な話じゃないから、宰相さんは同席せず、と。


代表の皆さんと軽く挨拶をして席につくと、上空からゆっくりと白岩様が降りてきた。魔力からすると、普段通り落ち着いた感じだね。


<諸勢力の代表と揃って会うのは今回が初だな。皆、壮健そうで何よりだ。それでは、依代の君との顔合わせを先ず済ませてしまおう>


ん、いつもと違って、何かあった時に即、対応できるよう体を起こした姿勢だね。陽光に照らされる赤銅色の鱗がキラキラと輝き、パワー系の力強い身体つきが恰好いい。大迫力だ。


っと、無言の思念波で、依代の君に意識を向けるよう注意されてしまった。


 ん。


控室からは、依代の君が軽い足取りで飛び出してきた。彼の後ろには、連樹の巫女ヴィオさん、マコト文書の神官ダニエルさんが付き従ってる。不測の事態が起きないように、彼の暴走を防ぐ鎖となる人達が勢揃いってとこか。


僕の隣にはリア姉も座ってるし、彼もこの包囲状態で、下手な真似はしないと思う。


……まぁ、僕はそこまでしなくても、彼はお行儀よく振る舞うと思うけどね。


それにしても、彼の神力も随分落ち着いてきた。降臨したての頃に比べるともう三割以下、魔力を抑えている竜達並みには抑制が効いてる域にまで辿り着いたってとこだ。偉い、偉い。


後ろの二人に合わせてゆっくり歩いてきた依代の君は、居合わせている者達を一通り眺めると口を開いた。


『白岩殿、同席に感謝する。個別の挨拶や話は別に設けることとして、今はボクの自己紹介を行おう。諸勢力の代表達よ、皆の用意した世界樹の枝より創り出した人形に降りて現身を得た「マコトくん」、今は依代の君と名乗る者だ。今後は長い付き合いとなるだろうが宜しく頼む。それとアキの我儘に付き合って貰えていることに感謝する。無理を言うようなら遠慮せず叱ってやって欲しい。そいつは日本あちらでは社会人として働いた事もない頭でっかちの子供に過ぎん。皆に小突かれているくらいが丁度良い』


小学校低学年程度にしか見えない美少女って外見の癖に、大人顔負けの落ち着いた振舞いと、言葉に乗せた意思が響いて、存在感が半端なく感じられる。


乗せられた意思からは、代表達への礼を尽くした感謝の思いと、僕に対するぞんざいな扱いがきっちり伝わってきた。子供っぽい幼い声質も相まって、何とも不思議な印象だ。


<ふむ。以前より声に乗せる意思の力加減が上手くなったか。それなら皆への負担も少ないだろう。それで依代の君。研究組に神術の使い手として参加するとは聞いているが、代表達との関係は如何するつもりなのだ?>


彼の立ち位置はかなり特殊だからね。ある意味、絶大な影響力を行使できる存在でもある訳だし。


『ボクには、マコト文書への信仰という繋がりを持つ神官や信者達がいる。だが、彼らに信仰する集団として何かをするよう求めることは無く、諸勢力に対してもボクが何か求めることは殆どないだろう。ボクの望みはアキと同様、次元門構築、その一点に限る。研究活動を支えて貰えればそれで十分。それ以外は単なる研究者の一人と思って貰えれば幸いだ』


あー、意思からは、研究者として捨て置け、というか絡んでくるな、と距離を置く姿勢が見て取れた。というか、まつりごとなんて面倒臭い、首を突っ込む気なんてない、ってとこか。正直なのはいいけど、はいそうですか、と言い切れるほど、彼の存在は軽くないよね。


 おや。


目線で合図し合って、皆を代表してニコラスさんがそれに応えた。


「ご要望に添えるよう、我々も最大限、配慮致します」


細かい話は個別に、と最初に言ったこともあって、ニコラスさんの返答はシンプルだった。にしても、代表達の意見を誰が取り纏めるか、というとやっぱり、ニコラスさんが順当なんだね。個性的過ぎる代表達の間を取り持つからこそ、皆もそれでいい、と思う訳だ。面白い関係だ。





挨拶も終わり、さーて、どれから紹介していこうか、となったところで、レイゼン様から、竜用リバーシの実演を観てみたい、との意見が出て、特に反対意見も無かったので、そちらから始めることになった。


ケイティさんが渡してくれた長杖を持ち、皆を案内しつつ、既存の竜用リバーシ盤の置かれた場所に移動した。子供用土俵くらいの広さがあって、なかなかでかい。隣に置かれた駒の置かれた箱も、ボーリング球を並べている棚くらいの大きさだ。


ただ、特筆すべき点があって、今のリバーシ盤の隣に、同サイズの空きスペースが確保されているんだよね。


「さてさて。レイゼン様達、遠隔地から来られた御三方は観るのが始めてですので、簡単に紹介しますね。こちらのリバーシセットは、人用のソレを拡大術式や複製コピー術式で創ったものになります。横には元になったリバーシセットも用意しましたので、ぜひお手に取ってご確認ください」


僕に促されて、三人は実際にバーベルの鉄板くらいありそうな駒を持ってみたり、リバーシ盤と、拡大されたソレを実際に触ってみたりと、それなりに確認してくれた。


<こうして見比べると、我々が使ってきたリバーシ盤はだいぶ草臥れてきてるのがわかる。特に中央付近は凹んできているな>


白岩様が器用に、数秒だけ空中に矢印を創造して竜用リバーシ盤の中央付近を指し示してくれた。確かにちょっと横から眺めても、平らでないのが視認できるくらい凹んでる。


「人用のリバーシ盤をそのまま十倍にしただけでしたからね。小さい時には駒も軽いので問題ありませんでしたが、これだけ大きくなって駒も重くなると、予想以上の負荷になってたようです」


そう言いながらも、今度はスタッフさんが用意してくれた別の人用リバーシ盤を持ってみた。


「こちらは、拡大化したリバーシ盤の変形、負荷の現状を元に、拡大することを前提とした新しいリバーシ盤になります。裏面を見るとこの通り、補強用の梁が追加されていて、衝撃に耐えられるよう改良されています。盤面の方は特に、ん、ちょっと布地が厚くなってますね」


新しい盤は、素材は同じだけれど、大きさ十倍、重さ千倍の駒を打つことを前提に結構手が加えられていた。人用の大きさだと過剰な感じだけど、拡大したら確かに丁度良さそうだ。


これも皆さんに実際に触れて貰い、違いを確認して貰った。


「では、そちらの空きスペースに、新しいリバーシ盤を創りますね。ついでにリバーシの駒を増やすところもやってみましょう」


 ほぃ、ほぃ、ほぃっと。


長杖を構えて、さっき触れて確認した新リバーシ盤を創造し、箱に入っていたリバーシ駒を一つ、盤の上に置いて、それをベースに、駒を複製コピーしていった。


どうぞ、と促すと、今度はヤスケさんやシャーリスさんも含めて、全員が新しい盤や駒に実際に触れて行った。


「消える様子も無し。……おまけに堅い」


レイゼン様は新しく創造した駒を両手で掴んで力を入れてみたり、懐から取り出した紙に魔力を通してピンと張った状態で駒に当てて、通らない事を確認したりと、何とも派手なことをしてる。


ユリウス様に置くところを見てみたいと言われ、物体移動サイコキネシスで駒を持ち上げて、これまでの盤と、新しい盤の上で実際に駒を打ったり、ひっくり返したりとしてみた。


「確かにこれまでの盤は、駒を動かすたびに盤面が揺れるのが解るが、新しい盤はそれが殆どない。それに音もだいぶ軽減されてて良いな」


うん、うん、そうだよね。細かいところだけど、打ち味ってのはあるからね。駒を置いた時の音とか響きとか感触とか。そういうのは何気に大切だ。


 っと。


「ケイティさん、この古い方ってどうするんでしたっけ? 残しておいても邪魔ですよね?」


「はい。増やした駒も含めて、お手数ですが白岩様、竜爪で消していただけますか?」


<それもそうか。それならアキ、手元まで持ってきてくれ。あぁ、記録もするのだな?>


「はい。ご協力に感謝します」


ケイティさんが深々とお辞儀をすると、手早くスタッフに指示をし、記録用の魔導具を構えたスタッフさん達が手早く観測位置についた。


そこからは、僕が物体移動サイコキネシスの術式で駒や盤を持ち上げて、白岩様の手の近くまで持っていき、それを白岩様が爪でとんとんと叩いて消す、という作業が繰り返された。僕はもう見慣れた光景だったけど、御三方にとっては、凝視するくらい面白い作業だったようだ。


その後は、実際に一試合やって見せることになり、白岩様と依代の君が対戦することになった。


『アキ、ひっくり返す作業は任せたぞ』


「はい、はい」


それぞれ、駒は打つけど、ひっくり返す作業は僕任せってことになった。


その後は、互いに待ち時間ゼロで駒を物体移動サイコキネシス術式で運んでは打つを繰り返し、僕はひっくり返す作業に追われることになった。勝負内容には拘らず、重さ十キロ近い駒がばんばん回転を繰り返す様を魅せるってのが主眼だと二人も理解してるから、トータル五分程度で、実演も終わったけれど、うん、丁寧に駒を置くようにはしてたけど、なかなか派手な動きだった。


「話には聞いていたけど、これだけの大きさがあると、まるで格闘技のようだ」


ニコラスさんが目まぐるしく変わる様をそう称してくれた。確かにばんばん連続して重い駒が跳ねまわる様子は、ボードゲームと聞いた時のイメージとは随分違ってるよね。


「儂もこうして竜用のセットを用いる様は始めて観たが、アキの駒の操作も随分手慣れたモノだ」


ヤスケさんも、テンポよく踊るように回転が連鎖していく様をそう褒めてくれた。


「同じ調子で操作するのがやっぱり心地よいですね」


まぁ、何試合かやれば慣れてきますよ、と話すと、なんか皆が、そう言うならそうなんだろう、みたいな妙に達観した様子で頷いてくれた。


<自分で駒をひっくり返すよりは楽でいい。それにひっくり返す様子を観てるだけでも面白いモノだ>


「何気に面倒臭いんで、普段はご自分でどうぞ」


まったく、冗談って声色ではあったけど、思念波からは普段もいるといいなぁ、なんて気分が混ざってたりして、困った方だ。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字、脱字の指摘ありがとうございます。自分では何度読んでもなかなか気付けないので助かります。


さて、代表達も裏では面倒臭い話を延々とやってますが、白岩様がちょい話をしたいと要望を示したこともあり、そちらも含めてちゃっちゃと片付けることになりました。


代表達と依代の君の顔合わせ、竜用リバーシ盤に関するお披露目も終えることができて、これで皆も緊張感を解せたことでしょう。代表達からすれば、伝説にしか語られたりしてこなかった竜爪の技をじっくり眺める機会を得ましたし、創造術式で作られた品が術式を崩されて掻き消される様も目撃することができました。稀有な機会を得たことで、先々に想いを馳せる時にもそれらの経験は役立つでしょう。


次回の投稿は、五月三日(水)二十一時五分です。

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