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19-12.統一に向けた社会変化と竜族(中編)

前回のあらすじ:レイゼン様の腕にぶら下がってぐるっと回って貰えて楽しかったです。やっぱり男は腕っぷしがあると格好いいですね。あと、今後、弧状列島でいくさの気運が減っていくと、仕事の再配置問題は各勢力内の問題なのでお任せするとしても、人口増問題については全体で対応しないと不味いだろうね、と話すことにしました。妖精さん達にとって食料問題なんて気にしたこともないような話だった、ということが明示できた意味でも良かったと思います。(アキ視点)

三大勢力が互いに牽制しつつ、生息域も異なる状態で連邦制のように、各勢力が独立性を保ちつつ、緩い国家体制を築く。


これが近々、辿り着けそうな弧状列島の統一国家イメージになるでしょう、と話して、地球あちらの例ということで、アメリカ合衆国の場合について軽く話してみた。


アメリカ合衆国、米国は国として纏まってはいるけれど、州はそれぞれがかなりの権限を持っており、州兵という独自の軍もいるし、銃の取締り一つにしても全然違っていたりする。そもそも州の一つずつがとても大きくて、生まれた州から死ぬまで外に出ない人も結構な比率がいるくらいだ。


アメリカ人には世界地図を書くことができない人も多いというし、大勢の移民を毎年受け入れていることもあって、公用語の英語を話せない人も何百万といる。収容所が常にパンク状態で、軽微な犯罪では収容すらされない運用をしてるのに、受刑者は二百十万人と、日本の五万人とはあまりに人数が違い過ぎる。人口は日本の三倍なのに、収監基準を緩くしてこの差なのだから、治安の概念が根本的に違うことを日本人は理解すべきだろうね。


というか、アメリカの場合、不法移民だけで千二百万人超とか言ってるくらいだ。移民とか言うけど、要は不法入国者。入国の法を破って身分を偽ったりしつつ住んでる訳だから、立場も不安定で、国民に比べれば順法精神も低い。……日本に換算すると四百万人からの不法入国者がいる、って具合になる訳だから、大統領選挙の重大争点として取り上げられるのも当然だと思う。……っと思考がちょい逸れ過ぎた。


全体を束ねる大統領の権限は大きく、外交や米軍への指揮権などは持っているものの、各州から選出された議員達によって構成される議会の権限も強く、大統領権限の指示を取り消すこともできる、といった具合だ。


単独でも世界の他の軍隊全てと戦っても勝てるとまで言われる米軍、それを指揮できる大統領ともなれば、絶大な権力を握っていると思われがちだけど、実は議会に反対されて政策を撤回させられたりと、常に国民に向けて自身の正当性をアピールすることを求められる立場でもある、と。


ん、ユリウス様が手を上げた。


「アキ、その緩い合衆国のような制度を採用するとしたら、この弧状列島なら大統領は何を担うと思う?」


む、なかなか難しい問いだ。


「多分、各勢力の人数比率から言っても、公用語は現状に習って人、鬼、小鬼の言葉を併用することになるでしょう。列島の力を集うべき国軍への指揮、命令権は大統領が持つべきかと。この場合の国軍とは大型帆船メインの遠征軍と同義で、現状の各地の軍は州軍といった扱いで、現状通り、各勢力が指揮するのが妥当でしょう。二つ以上の地域に跨る場合、混成軍ということで、混成軍を束ねる指揮官を大統領が任命するってとこでしょうか。んー、度量衡も各勢力で統一した状態で問題なさげですし、残りは勢力間を横断するような大規模公共事業を行う場合、大統領直轄にするくらいでしょうか。税率なども各地域にある程度任せるべきでしょうし、大統領権限はかなり限定的なモノになりそうですね」


共に暮すほうが都合がいいから一つの国になる。そして分かれて暮らした方がいいなら、ソレは自然と別の国になるモノだ。ただ、対外的な話をすると、ある程度、国の規模が大きくないと、そもそも対等と見做されないという根本的な問題が出てくる。対等な隣人と思うから話を聞く気になる訳で、相手が路傍の石なら踏み潰すだけだ。


で、弧状列島は世界規模からすれば、全部纏めて一つの国としないと話にならない小ささだ。ただし、周囲を海に囲まれていて大陸から程良く離れている事もあって、強大な陸軍国の圧力を直接受けずに済む利点がある。


まぁ、海が荒い上に広いから、地中海みたいに手漕ぎのガレー船が猛威を振るうなんてことにはならない。内海用の船なんて外洋に出せばすぐ転覆するのがオチだ。


「内政においては各勢力の代表と等しい権限とするか、大統領と議会のように大統領を別格とするか。どう選出するかでも揉めそうだ」


まぁ、そうだよねぇ。


「いっそのこと、大統領的な方は象徴的な扱いとして、各勢力による合議制でもいいとは思いますよ。無理に代表を立てて荒れるくらいなら、必須という訳でもありません」


権威と権力を分離した国の在り方として、地球あちらの例だと、英国なら王家が権威を担うし、日本なら天皇家が担ってる、と話した。


っとシャーリスさんが手を上げた。


「アキ、わざわざ分けるのは何故じゃ?」


「んー、例えば為政者が権威と権力の両方を持っていると、失政で権力の座を追われると、国を纏める要が失われて国が割れたり、荒れたりしやすいんですよ。その点、別になっていると失政で権力者を挿げ替える場合も、国民は権威の元で一つの国である、という意識は保てる。そして、新たな権力者の元で頑張ろう、と気持ちも切り替えやすい訳です。これが成立するためには、権威者が民に尊重されてないといけません。堕落した権威者なら不要だ、と国民から捨てられちゃいますから」


例えば、タイの王室は前王は国民からとても愛されていたから権威もあったけど、後を継いだ現王は殆どの時間をドイツで過ごし、離婚歴も多いなど、そもそも親近感を持つほど国民との接点も無い。だからこそ、不敬罪が未だに存在するタイにおいて、前王の時代を生きた父母達と、現王に変わった後しか知らない子の世代間の対立が激化したりもするんだ。


っと、ニコラスさんがグラスを持ち上げて、ちょっと片目を閉じて(ウィンクして)みせた。


「今のままなら、竜神の巫女に権威をお願いするしかなさそうだ」


 う。


「「死の大地」浄化作戦で、参謀達が竜族から高く評価されれば、他の者が選ばれる可能性もゼロではないとは思うが。あの竜族が代表と認める者となると、半端な者では務まるまい」


ヤスケさんも、皆を見渡しながら、街エルフを同じ国の民と認めさせるだけでも難しい、代表など提案することとて不快と断じてくるだろうよ、と告げた。


「アキに外交や軍の指揮を任せる話にはならんから、そこは安心するといい。実務は各勢力の代表達が担う。アキは要としてそこにいればいい。なんだ、今と変わらんじゃないか」


レイゼン様が豪快に笑ったけど、あー、目が半分くらい本気だ。


ん、ザッカリーさんが手を上げた。


「当面の間は、竜神の巫女を要とする合議制で運用し、統一国家樹立の際には、竜族を加えた体制へと切り替え、妖精族との正式国交を結ぶ。そこまでは今暫く時間もかかるので、その話はここまでとしましょう。アキ、各勢力が休戦協定を締結し、帝国が平時へと体制を移行シフトさせていくまでの間、他勢力が団結して、食を支えていく事になったとして。そのような時代に竜族が我々の文化を取り込んでいくこと、書物に触れることは何を齎すと思うか、話してくれ」


ん、上手く話を戻してくれたね。


……ただ、スタートがそこか。でも、確かにもう戦いによる口減らしを一年行わなかった分、各勢力は戦時体制のまま、その力を蓄えたとも言える。外征圧力が高まっただけで、平時への移行シフトへの流れはまだほんの僅か。


でも、戦時から平時への移行シフトを前提として、と来たか。


まぁ、その方が研究組の活動に邪魔も入らないだろうから、ここはちょっと思案すべきところだろうね。





「では、まだ今年もどうなるか確定はしてませんが、取り敢えず、このまま弧状列島内において勢力間の休戦協定が結ばれると仮定し、平和の恩恵として、各勢力は食料を増産し、不足する勢力に対して共同で提供を行うモノとしますね。ただし、提供された勢力はある意味、労せずして国力増強ができる訳ですから、他勢力に対する不戦の姿勢は強く維持せねばなりません。なので、昨年の休戦協定と同様、竜族が同席する中で誓う形として、更に戦争を仕掛けた勢力に対しては残勢力は共同軍を起こしてこれを鎮圧する、という明確な取り決めを行うモノとでもしておきましょう。一部反抗勢力による暴発であれば、全勢力合同軍とは別に妖精族の助力を仰ぐのも手でしょう。地の種族の目線を学ぶのも長い目で見れば必要ですから」


手続きや取り決め部分は枝葉末節なので、ここは何とかしてそれらは成立したという前提で、話をしますね、と言ったら、皆が何とも達観したような眼差しで一斉に苦笑した。


「えっと?」


「アキらしいなってことさ。ほら、続きを」


リア姉がほらほら続きを、と急かすので、話を進めることにしよう。いちいち()()()()()()を説明してたら、確かに話が進まないからね。


「では、いくさの機運が遠ざかり、竜神子達と若竜達の交流も年々密になっていく、それが当たり前となった時代をイメージして見ましょう。各勢力とも国境沿いに配備した軍を増やせば、空を飛ぶ竜がそれを目敏く見つけてくれるので、そのような真似はせず、内政に励んでいきます」


空から地上を観て、その実態を把握する方法については、マコト文書の知をベースに竜族に伝えることで抑止力とするのもいいかも、と軽く説明した。兵力を増やせば建物の規模を増やさざるをえず、多くの水を使えば水の汚れがそれらを教えてくれる、といったようにあらゆる活動には結果が伴うので、それらを全て隠蔽するのは困難だ、と説明した。人里離れた砦に普段より人数が多くいれば、竜眼ならそれを見通すくらい簡単だとも。


街エルフの衛星探査でも可能な話なんだけど、それよりも遥かに高頻度かつ低高度で、更に見通す能力も高い竜族達となれば、彼らが地の種族の動きを群れの単位で把握できるようになることの意味合いは圧倒的だ。


常に情報収集、警戒監視、偵察を任務とする偵察機が何千と飛んでいるようなモノだからね。彼らは気ままに飛んでるだけではあるけど、高度な知性と鋭い観察眼はある。いちいち個人の動きまで追う気は皆無でも、部隊規模の動きくらいになれば、意識するのは簡単だろう。


これまでの地の種族同士の戦いは、いわば、陸軍だけによるいくさだった。互いの配置の大半は知ることができない深い霧に覆われた戦場だった。それが今後は常に偵察機が飛び、全ての配置が露わになった戦場に変わる。


多分、大軍を編成して行軍しようとしても、集める段階でバレて、他勢力はその対応に動けるようになるでしょうね、と話すと、皆が息を呑んだのがわかった。


「竜神子と交流をする若竜は、天災のような場合にだけ伝えるところから、緩い関係を始めますが、別にそれ以上、詳しい話をしてはいけないって事ではありませんから。多分、公共事業で堤防を整備するとか、堤を設けるとか空から見ても判る大きな活動なら、竜達もその活動を楽しく観察すると思いますよ」


子供が蟻の巣作りを観察するように、邪魔をせず離れたところから眺める感じかもと話すと、皆も竜族の刺激を求める姿勢を思い出したのか、ある程度、イメージしてくれたようだ。


「そのような時代、ヤスケ様の提案に従うと、暫くは三柱だけが人形を用いる活動を行うことになる訳ですが。多分、三柱がある程度、人形を使えるようになり、思うところを文字に記し、絵や図を描けるようになってくると、他の竜達も人形を使いたいと言い出すでしょう」


最低でもロングヒルにやってきてる竜達は全員が所望する、そして彼らに行き渡る頃には、各地の部族の竜からも、ぜひ使いたいと要望が出てくる、と告げた。


っと、ニコラスさんが手を上げた。


「それは頭の中だけで考えるだけでなく、情報を外に記せることの強みを活かせる竜が、そうでない竜に対して優位性を発揮するから、ということかい?」


「ですね。皆さんも手元に筆記用具や資料があるのと、自分だけで身一つなのでは、かなりの差を感じますよね? 始めは人形提供が厳しいからと三柱に限定したとしても、ロングヒルに来ている竜達の間で、人形を使える三柱と他との差が明確に出てくる。その次は各地の部族との差が生じる、といった具合ですね。これは予想というより、確実にくる未来だと断言してもいいでしょう。その強みを僕達はよく理解してます」


流れの方向はそうでも、何年かけてそうなるかはわからない、と補足すると皆も少し安堵してくれた。


「それで、書物なんですけど。ヤスケ様が懸念されたように、竜族の知性が高いからと言って、大人向けの書物を読ませるのは確かに不味いと思います。それは幼い子供に年齢や閲覧制限を付けるような書物に触れさせるような行いであり、利よりも害が大きく、制御不能な動きを誘発するでしょう」


何せ、若竜と言っても一柱は一軍に匹敵するのだから、僅か一柱でも変な思想に染まって暴走すると洒落にならない、と話すと、皆も表情を改めてくれた。


 さーて。


ここからが本番だ。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字、脱字の指摘ありがとうございます。自分では何度読んでもなかなか気付けないので助かります。


弧状列島の統一イメージの参考ということで、アメリカ合衆国について語ってみました。自由の国アメリカ、一代で超金持ちにまで昇り詰めることができるアメリカンドリーム、GAFAMに代表される超企業群、と燦然と輝く面が注目されることの多い超大国ですけど、光が強ければ闇もまた濃い、を体現している国でもあるので、それらにも軽く触れた感じです。


盗み程度の軽犯罪!なら収監せず、刑務所には日本なら70万人(日本は5万人)相当の受刑者達がいて、不法入国者が日本換算で400万人(日本は5.8万人)もいて、幼児だけで外を歩くなどあり得ず、あちこちに現地の人も寄り付かない危ない地区があり、塀と門で囲われて外部から隔離することで安全を確保した地区「ゲーテッド・コミュニティ」が全米に二万箇所もある、それもアメリカです。


日本人がある意味、当たり前と思ってること(安全とか、飲める水道水とか、市民が銃が持たないとか、国民健康保険制度があること)が世界的にはかなりの少数派マイノリティなのだ、ということは理解した方が良いと思うんですよね。


アメリカの路上生活者ホームレスも57万人!(日本の約124倍)というのも闇が深いですよね。高収入なのに家賃も高くて賃貸にすら住めないスーツを着た身形の良いサラリーマンなんてのもいる、というのは日本人の感覚からするとかなり想像しにくいでしょう? 強いていうなら、日本ならネカフェ住まいの人達辺りに相当する感じでしょうか……。


あと、アキが平和路線で行く今後の前提は、とサラリと話したところで、同席していた皆が苦笑してましたが、この辺りは彼ら視点のSSで補足することにしようと思います。アキ視点だと「手続きはともかくソレはできたとして」と軽くスルーされてしまっていて、政治的な衝撃が全然読み取れないので。


言ってる事は、戦争を防ぐための相互安全保障体制設立(参戦義務のある軍事同盟)と加盟国間での食料供給協定締結をしてね、って話ですから、地球(あちら)で言えば、前者は北大西洋条約機構(NATO)設立相当、後者は安全を対価とする恒常的かつ安定的な食糧提供協定ということで地球(あちら)でも例のない話だったりします。しかも加盟国間の軍事行動は、彼らから完全独立している超勢力=竜族の何千柱が好き勝手に域内を飛んで監視するから、と。そんな内容を「これからパーティをするからテーブルの上を片付けて」って程度で軽く流されれば、まぁ彼らも苦笑するしか無かったでしょう。


アキは桜竜の「まぁいいんじゃないかな?(何かあれば出向いて潰せばいいか)」って感覚に危機意識を覚えた訳ですが、代表達から言わせれば、アキの根本的な思想「取り決めは大筋決まってれば十分でしょ。(火種が出たらすぐ見つけられるし、お願いして潰す方向で動いて貰えばいいから。それにどうせ火種ゼロなんて無理だし)」って言うのも大概な話ですからね。


次回の投稿は、四月二十三日(日)二十一時五分です。


<活動報告>

以下の内容で投稿してます。


【雑記】2023年地方選挙と投票数の標準偏差

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