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3-6.ウォルコット《御者》、二頭立て馬車で現る

前話のあらすじ:お爺ちゃん(召喚された妖精)が、街エルフの魔法陣に触れてみたお話でした。パワー不足ではなく、パワー過剰を問題視されるとはお爺ちゃんも予想外だったようですね。

その日は、いつもの訓練時間の前、館の正面玄関前に呼ばれた。なんでも、ロングヒルへの移動に使う馬車の試運転を兼ねて、御者の人を紹介してくれるとのこと。


確かにテンポのいい蹄の音が聞こえるから、馬車なんだと思う。僅かにズレる音からして、二頭立ての馬車っぽい。


僕はいつだったか、ニュースで紹介されていた式典とかで使われるお洒落なイメージの馬や馬車をイメージして、防竜林の奥へと目を向けた。


うん、確かに馬車だ。馬も二頭。


お爺ちゃんも近づいてくる馬車に興奮しているのが伝わってくる。


「ケイティさん、なんか、あの馬、やけにゴツくないですか?」


競馬とかで見る馬と違って、馬用の(バーディング)を付けているのもあるけど、脚も太く頑丈で体格もがっしりしていて大迫力だ。


それに牽引されている馬車もやけに車輪が太いし、客室の床がV字型で、多分、地雷や即席爆弾(IED)対策だと思う。車軸を見ると補助動力っぽいものが付いているし、窓ガラスもなんか分厚い感じで、そもそも牽引している音からしてかなりの重量がありそうだ。敷石がミシミシと音を立ててるし。


「弧状列島で馬といえば、ポニーが一般的ですから、そういう意味では大きく感じられるかもしれませんが、大陸では騎兵や馬車馬と言えば、このサイズですね」


「馬というと、スラリとしたイメージがあったものですから」


「それは足の速い軽種です。乗用馬として使い、遊牧民が乗っているのをよく見かけました」


あぁ、そういえばサラブレッドみたいな走るのが速い馬は軽種、力仕事に向くのが重種、その中間種、あと体高が低いポニーって感じに馬もいろんな種類がいるのを忘れてた。


「あれが馬車か。見ると聞くでは大違い、なんという迫力、そして精巧な作りじゃ。見事なものよのぉ」


お爺ちゃんはしきりと感心している。考えてみれば、飛べる妖精からすれば、わざわざ地上を走る乗り物なんて、必要性を感じなかったことだろう。小さな妖精が地上におりたら、獣に狙われて危険なだけだ。


御者台に座っている人は、恰幅のいいおじさんだ。丸い顔立ち、立派な顎髭、微笑むと線のようになる糸目が特徴的。暑いこともあって、白いシャツにベスト、鍔広帽子という服装でお洒落な印象を受ける。


しばらくして、玄関先に馬車が到着した。馬車馬は、体高がとてもあって僕だと背中に手が届かないほど。

太く立派な脚は、きっと踏まれた人はペチャンコだと確信できる。

馬車から受ける印象は装甲車って感じだ。装飾と落ち着いた塗装のおかげで、式典用とわかるけど、ライフル弾や飛来する破片程度ではビクともしないだろう。車輪は独立懸架式の油圧サスペンションっぽい。


僕が馬車に気を取られている間に、御者の人は降りていたようだ。


「興味を持って頂けたようですな。まずはお会いできたことに感謝を。私はウォルコット。この通り、御者ですが、この馬や馬車の整備士も担当します。快適な旅をご期待ください」


力強い声と共に手を差し出されたので、何も考えずそのまま握手してしまった。とても大きくて厳つい働く人の手だって!


そうじゃなくて!


「アキです、よろしくお願いします。あの、触れても大丈夫なんですか?」


ケイティさんのほうを見るけど、慌てている感じはしない。


「私も魔力耐性を高めることくらいはできるので、ご安心ください。どの程度か把握できたので、出発までには馬車の改造を終えることを約束します」


ウォルコットさんの言葉を聞いて一安心。


だけど、途中から、馬車のサスペンションがギシッっと音を立てて、こちら側に少し傾いたのに気付いて、馬車の窓に目を向けたら、予想外の光景に、思わず凝視してしまった。


 あぁ、窓に! 窓に!


あまりにも衝撃的な絵面に、思わず意識が変な方向に向いてしまう。いけない、いけない。

馬車の窓に張り付くように髭面で団子鼻、ガタイのいいおじさん達が大勢乗っていて、僕を見ようと片側にすし詰め状態になっててかなり暑苦しい。明らかに定員オーバーだ。頭と肩のバランスからして、身長は低そう。


つまり。


「ドワーフさん?」


僕を見て彼らは、何故か目を見開いて驚いている。ちょっと怖くなって、ケイティさんの後ろに隠れた。


「彼らは、馬車の開発者です。館に逗留しますが、直接の接点はないとお考えください」


なるほど。


「馬車の改造、よろしくお願いします」


中にも聞こえるように大きな声で伝えると、彼らも手を振って応えてくれた。なかなかゴツい手だ。さすがドワーフ。


「さて、ウォルコット。儂は翁、見ての通り妖精じゃ。共に働く同僚としてよろしく頼むぞ」


お爺ちゃんはウォルコットさんの前まで行き、杖を構えてポーズを決めた。その姿を見て、ウォルコットさんは目を細める。


「まさか、本物の妖精をこの目で見る日が来ようとは! この出会いに感謝を。翁、こちらでは勝手も違い、わからないことも多いでしょう。私も探索者ほどではありませんが、多くの地に足を運び、多くの技術に触れてきました。お話しできることも多いと思いますよ」


ウォルコットさんも話しながら手応えを感じたようで、お爺ちゃんは前のめりになって、せひ聞かせてくれ、と言ってる。放っておけば、このまま、二人してどこかに飲みにでも出かけそうなほど意気投合してる。


「翁、話は馬車の格納や開発者達の受け入れを終えてからです。ウォルコット、工場へ案内します。ベリル、誘導と説明を任せます」


「お任せくだサイ」


いつのまにかきていたベリルさんが、誘導棒を持って、馬車の前を先導していく。


「では翁、また後で。ちなみに酒は嗜まれますかな?」


「酒! 無論じゃ」


「では、出会いの記念に、とっておきのウィスキーを開けましょう」


ウォルコットさんの賑やかな声に、お爺ちゃんも小躍りしながら、体一杯で楽しみな気持ちを表現していた。


なんとも騒がしい。


「アキ、ドワーフの連中からも話を聞いておくから楽しみにしておれ。それにしても夕食が待ち遠しいのぉ」


「はいはい、よろしくね、お爺ちゃん。あんまりがっついたら駄目だよ? あっちだって、妖精さんの話は聞きたいだろうから」


「うむ。任せておくがよい。きっと毎晩、美味い食事と酒を肴に話すのが楽しみで待ち遠しくなるよう、がっちり掴んでみせるからの」


お爺ちゃんは、既に心は半分、宴会場に飛んでるようなので、ケイティさんに、あまり無軌道にならないよう舵取りをお願いした。


「わかりました。ジョージでは抑えになるか心配なので、念の為、リア様にも同席していただきましょう」


「リア姉?」


「リア様は、技術者の方々と馬が合うので、羽目を外さず、手綱を握るのを得意とされているのです」


なるほど。作業着姿がしっくりくるのは、リア姉も技術畑なせいか。納得だ。

僕も話に参加できればいいんだけど、そもそも夕食の時間帯まで起きていられないから、残念だけど参加は無理。


お茶の時間に、リア姉にちょっと探りを入れるお願いをしておこう。救出計画に参加できるような変わったドワーフがいるかどうか。

やっぱり探すルートは多くないとね。

ロングヒルへの出発準備も少しずつですが進んできました。館にくる人も増えて慌ただしくなってきましたね。単にお出掛け準備で旅行鞄に服を詰め込むだけ、とはいかないので大変です。


<雑記>

先日、映画「ペンギン・ハイウェイ」を観てきました。深夜にやってた紹介番組を見て興味を持ったんですが、いやー、物語を書いてる者の一人として、あの発想、ストーリー、そして少年とお姉さんを組み合わせた物語は、凄いと思いました。私の頭の中からはあの物語は出てこないなぁ、と。

映画館の座席もほぼ埋まってる感じでしたが納得の出来でした。丁寧な作りで絵も音楽も声も良し。

監督の石田祐康さんってまだ三十歳という若さなんですよね。今後がとても楽しみです。


次回の投稿は、八月二十九日(水)二十一時五分です。

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