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19-7.人形操作(マリオネット)と波及効果(後編)

前回のあらすじ:人形操作マリオネットに使う人形について、ヤスケさんにちょっとした提案をしてみました。できれば、共和国として意思統一した上で人形の復刻と提供をして欲しいとこですね。(アキ視点)

んー、休憩中だけど、誰もヤスケさんに近寄らない感じだし、ちょっとフォローしとこう。


「御爺様、横、失礼しますね」


「……なんだ?」


ぶすっとした表情ではあるけど、追い払うほどではなし、と。


「ちょっと気になることがあって。街エルフが今の島に引っ越した後の世代って、基本的に竜との交流はなくて、高い空を飛んでる姿を見かけた事がある程度なんですよね?」


「不用意な接触から、不可侵の取り決めが破綻するのを避ける必要もあり、奴らの縄張りに近付くのも禁じていたから、その認識で間違いはない」


 ふむ、ふむ。


「それだと、そういった世代の人達なら、見上げるような大きな竜が一生懸命、小さな人形を操ってる様子とかを見たら、可愛いとか好感を抱いたりしませんか? 頑張ってる姿勢を悪くは思わないでしょう?」


ただ向かい合って話をしてるのと違って、歩み寄ってる感もあるし。


「可愛い? アレが?」


おや、ヤスケさんにはそういう感性はないか。


「ほら、レイゼン様みたいに体の大きな大人が糸を操って、幼児向けにかわいらしい人形劇を演じて見せたりしたら、見た目とのギャップもあって、親しみを覚えるでしょう?」


大きな体を小さく丸めるように、両手で人形を操る様をちょいちょいと演じて見せると、離れて見ていたレイゼン様が大きな声で笑い出した。


「なんだ、アキには人形操作マリオネットがそう見えるのか」


「皆さんだって、黄竜様と直接話をするのと、幼女人形を相手にするなら、操ってるのが黄竜様だと理解してても、人形の方に意識が向くでしょう? 人形劇ってそういうモノで、想像力豊かな子供達は、糸で操られた人形のコミカルな動きを物凄い集中力で観るじゃないですか」


小さな子がお人形遊びをするのと違って、糸で吊って動かすおかげで、人が動かしてる感が減って、人形が自分で動いているかのように思えて楽しい、と身振り手振り(ジェスチャー)混じりに話すと、ふわりとシャーリスさんが飛んで来た。


「子供が抱えている人形というと、妾達くらいの大きさよのぉ」


「糸で吊ってないのに、自分で楽しく飛び回る妖精さん達は、子供達からしたら正に夢の国の住人って感じですよ」


可愛い、と褒めると、望む印象通りということで、頷く姿も満足そうだ。


っと、ユリウス様がコーヒーを飲みながら、興味深そうな視線を向けてきた。


「そこは種族によっても文化に違いがあるのだろう。我々、小鬼族でも女児向けの人形はあるが、劇で使うような人形となると、上から多くの糸で吊るして操るのではなく、下から棒で支えて複数人の黒子が操作するのが主だ」


 ほぉ。小鬼族は人形浄瑠璃系と。


「俺達、鬼族も幼児向けの抱き人形ならあるが、劇は自身で演じてこそ華があるという思いが強くてな。武の動きも交えて軽妙に飛び跳ね回り、格好よく見得を切るような演出が好まれる」


どちらかというと、激しい立ち回りを演じる京劇系か。


「レイゼン様、それだと彫像とかは?」


「過去の偉人の像を祖廟に飾ったりはしてるぞ」


 ふむ、ふむ。


「ニコラス様、連合の方ではどうです? 人形劇文化とか」


「手袋のように手を入れて操る人形なら祭りの出し物で見た覚えがある。ただ、少人数の子供向けで、人形劇を観るには鑑賞料代わりに菓子を買う必要があるんだ。菓子を食べ終わるくらいの時間で終わるような寸劇だった」


自分が小さい頃の話だが、と教えてくれた。いいね。


こうして聞いてみると、ほんと種族毎に違いがあって面白い。ヤスケさんの反応から見ても、少なくとも街エルフも若い世代なら、竜が人形を操る事への拒絶反応は無さそうだ。





休憩も終わり、雑談をしたことで場の空気もだいぶマシになった。ザッカリーさんも穏やかな顔で、場を仕切ってくれる。


「それでは時期を区切り、先ずは黄竜様達、三柱への人形提供までで意見を出して行きましょう」


 ん。


お、レイゼン様が最初か。


「その件だが、ヤスケ殿の話からすると、新たな人形の製作にはある程度の時間がかかりそうだ。それならばいっそ、提供する竜ごとに注文制カスタマイズとする事を前提として、今の技術で量産するつもりで腰を据えて造るのはどうだろうか」


 ほぉ。


「提供した人形はその竜が末永く使うことになるから、注文制カスタマイズにして、他の竜とは被らない、唯一性オリジナリティが感じられる造形が良いと言う考えですね?」


「そうだ。竜が互いの人形を出して、姿が同じではやはり気まずいだろう。敢えて同じにするという要望もあるかもしれんが」


お、ユリウス様が手を上げた。


「レイゼン殿、その話では敢えて提供時期を後ろにずらすとも取れるが」


「俺はそうすべきと思う。昨年までは竜と我々は短い時間、僅かな言葉を交わす程度だった間柄だった。それが竜神子と通じてではあるが、少し時間を伸ばせそうというのが今の段階だ。それに比べると人形操作マリオネットを用いた活動は、言葉だけでなく、我々の用いる物をそのまま制限なく利用できてしまう。その歩みはあまりに早過ぎて危険だ」


ん、レイゼン様はやはり慎重派だね。っとユリウス様も頷いて賛同の意を示した。おや、珍しい。


「ユリウス様なら、先行導入する竜に色々試して貰って問題を洗い出した方がいいと意見されるかと思いましたけど」


僕の指摘に、ユリウス様は苦笑しつつも思いを教えてくれた。


「余とて、どんな時でも拙速を尊ぶ訳ではないぞ。道具の中には取り扱いを注意すべきモノも多い。幼児に刃物を扱わせないように、三柱の人形が我々の扱う物に触れるのであれば、せめて成人に準じる程度には繊細な操作ができる事を前提としたい。アキと同様、既製品ではない道具類となれば、値も張るので了承して欲しい、とでも言えばいい」


「慎重ですね」


っと、今度はニコラスさんが手を上げた。


「それはリスクを負って挑むのが小鬼族ではなく竜族だからだろう。自分達の事であれば、どこまでが許容でき、どこからが無謀なのかはある程度予想もできる。しかし、話が竜族となると、先日の遊説飛行の件もそうだが、何がどう転ぶか予想が難し過ぎる。幸い、今回は用意に時間が掛かるだけの理由もある。竜族の方々も納得して下さるだろう」


 ふむ。


「ニコラス様もペースダウン派と」


今度はシャーリスさんがふわりと飛んできた。


「妾もこの件はゆるりと進める考えに賛成じゃ。新しい事への取り組みは、自身の中で咀嚼するのに時間がかかる。そこを蔑ろにしては、表層的な理解に留まってしまう。アキもそのような薄い関係は好まぬのではないかぇ?」


「それはそうですね。んー、例えば、金竜様は今、文字を学ばれてますけど、幼児の学習を真似るなら、先ずは自分の考えや何かメモを書いて残す事が第一で、それもシンプルな表現、短文に留めるようにして、慣れて貰うとかでしょうか?」


「それと絵や図を描くことよな。好きなように描いてみたいという話を聞いたのも一度や二度ではない。それにそうした行動は、単に文字を書くのとはまた違った経験ともなろう。それに仕上げるのにも時間が掛かる。これは皆の望みにも合致して良い」


 ふむ、ふむ。


っと、ヤスケさんも手を上げた。


「大方、意見が出たが、儂も人形の導入は時間を掛けるべきと思う。レイゼン殿の話されたように、竜ごとに他と被らない唯一性ユニークな人形を提供するというのも良い話だ。良い人形は丁寧に使えば十年、百年と使い続けられる。矢弾のように使い捨てられては職人も嘆くというものだ。それと、我々の文化に密に触れる竜を当面の間、今回の三柱に限定しておきたい」


 おや。


「他の方々より踏み込んだ意見ですけど、絞る理由は何です? こちらの一般的な品々と違って、魔術に寄らない生産品は一品物で高額になる、という経済的な話ですか?」


「それもある。できれば、人形を数多く展開する際には、一般的な術式を用いた普及帯の品々を使えることとしたい。そうでなくては数を揃えるのは困難だ。だが、それは副次的な話だ。一番重要な事は、竜に与える品や情報を制御下に置くことにある」


 ふむ。


「ロングヒルに来ている雌竜の三柱だけであれば、彼女達が見聞きする話を把握するのはそう難しくないとは思いますけど、各地の若竜に人形を提供して、竜神子を窓口として制するのは厳しいとお考えですか?」


ロングヒルでなら可能、他地域では難しい、というのはちょい意見としては偏ってる気がするんだけど。


「儂が懸念しているのは、竜族が我々の書物に触れることなのだ。リアやアキなら理解できると思うが、そこらの道具を数百、数千と渡すよりも書物を一冊渡す方が影響が大きい事もあり得る。渡すのは容易で、書いてある文章をただ読むだけなら、文字を学んだ竜達なら容易にそれを為せるとは思う。だが、それはあまりに危ういのだ」


「それは、文法的な意味で言葉を読めることと、その裏にある文化まで理解した上で読むのでは、雲泥の差があるという事ですね。シャーリス様の指摘された点にも繋がる話でしょう」


っと、リア姉が手を上げた。


「ヤスケ様が懸念されているのは、書物の持つ特性だと思う。私達が行う心話と同じで、書物に対しては、竜族の持つ強靭な身体も強大な魔力も、僅かな挙動も見逃さない竜眼もどれも効果がない。それに心話のような双方向性もなく、著者の意見を一方的に読み続けることになる。……アキなら色々と思い当たるところがあるんじゃないかな? 免疫を持たない人が読むと、どっぷり嵌るような書もあちらだと多いだろう?」


 あー、そっちか。


「あっち系の本とかだと、確かにヤバいね。マコト文書もそっち系は外部公開禁止にしてたっけ。あれ? でもこっちでもそういうトンデモ系の本とかあるの?」


「そりゃあるよ。あの出来事も街エルフの陰謀だった、みたいなネタ本は根強い人気があるんだ。ただ、ヤスケ様が懸念されているのはそういったトンデモ系じゃない。そうじゃないですか?」


リア姉の意見にヤスケさんも深く頷いた。


「解決の難しい諸問題の山積を嘆き、多くの考察から問題の本質を突き留めて、解決策を提示しているような一見すると立派な本の類は危うい。多様な書物に触れていれば、書かれている意見の偏りや話の飛躍、強引な共通化など問題点にも気付くこともできる。だが竜族はそうではない。彼らは書に触れてきておらず、云わば、免疫がないのだ。そのくせ、暇な時間はいくらでもあり、読み解けるだけの知性はある」


教師をしていたヤスケさんならではの着眼点だね。確かに今の竜族が持つ特徴は、あまりに大学生に似通り過ぎてる。


「そう言えば、地球(あちら)でも、暇な時間のある知識層がどっぷり嵌ったヤバい思想がありましたね。今の竜族に読ませるのは確かに止めた方が良さそう」


おっと、お爺ちゃんがふわりと前に出た。


「アキ、その危険な思想とは何じゃ?」


おや、お爺ちゃんが興味を持つとは珍しい。


「んっとね、マルクスって人が書いた共産党宣言って本に書かれた共産主義って思想なんだ。地球(あちら)でも飛びっきり影響力のあった本でね。バタバタとその思想に染まった国がまつりごとの仕組みを変えていって、世界を二分する対立構造が生まれた程だったんだ」


そんな社会変革の津波を引き起こしたのがただ一冊の書籍だった、と告げると、皆が息を飲むのがわかった。……なるほど。ヤスケさんが懸念を持つ訳だ。僕も赤く染まった竜族なんてのは見たくない。


「アキ、儂らがそれを聞いてもいいんかのぉ?」


「読んだら呪われる魔導書とかじゃないし、実際にまつりごとに携わってる皆さんなら、色々と問題があって上手くいかない事も想像が付くから大丈夫」


で、そのまま説明しようかと思ったんだけど、ここでケイティさんが時計を示して、その時間がない事を教えてくれた。


「すみません、共産主義とそれに付随する思想の問題やあちらで実際に起きた事象については、皆さんも把握しておいた方がいいでしょう。書物の管理もせず竜達に乱読させるのは確かに怖過ぎますから。ただ、今日はもう時間がないので日を改めて説明する場を設けさせてください。リア姉、この後、皆さんに軽く概要だけでも説明をお願いしてもいい?」


僕のお願いに、リア姉は無理、と拒んだ。


「私も聞いた覚えはあるけれど、それこそ軽く目を通しただけで、深く理解なんてできてないし、なんで世界を二分したか、なんてところまで説明はできないよ。関連資料は取寄せておくから」


 んー。


「じゃ、資本主義には本質的な問題があって必ず富の偏在と、階層の固定化と諸問題の悪化を招いてしまい、最終的には社会が破綻しちゃう件だけでも説明をしておいて。えっと、こちらだと、天空竜や魔獣、それに勢力間の争いもあるから、国が倒れるような階層間闘争は生じていないって認識でいいよね?」


「身内で争うような暇は無かったからね。各勢力で違いもあるだろうから、そこまでは揃えておくよ」


 ふぅ。


リア姉も引き受けてくれたし、そこまで揃ってれば話も早そうだ。共産主義って、社会経験がない、或いは乏しい知識層、それも若く理想に燃えるというか求めるようなガッツのある層ほど染まりやすいからね。地球(あちら)だと幾多の経験を経て、どうも駄目っぽいと人々も悟ることにはなったけど、それも死山血河を築いた末にやっと理解するに至った訳で。


理論はよくできてるんだよね。だからこそ学生が嵌るんだ。しかも能力が高い人ほど「自分なら上手くやれる」とか「自分は私欲に染まらない」とか思ったりするからね。理論だけじゃなく、地球(あちら)が歩んだ歴史も合わせて説明しないと、そのヤバさも伝わらないだろう。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


前回はがっちりぶつけ合ったので、アキもフォローに動きました。各勢力の人形文化についてもあれこれ知ることができてニコニコです。


人形提供はある程度時間を掛けて、できれば当面は今の三柱(黄竜、青竜、金竜)に絞ろう、という案がでました。まぁ、提供する側としては絞りたいとこですよね。

絞る理由として、竜が書物を読むことの危うさ、そこから派生して、地球(あちら)でも飛びっきり影響力がある書籍(思想)、共産主義についてさらっと説明することに。


これまでと同様、代表達に説明する程度なので、かなり端折った平易な表現かつ共産主義そのものにスポットを当てる形ににしていきますのでご安心を。


……なんで共産主義、社会主義に関する書籍って、あんなに読みにくかったり、主張が激しかったりするんでしょうか。今回の執筆で色々と探してみたんですが、読むのが大変でした。中学生向けくらいの共産主義、社会主義、資本主義を比較した解説程度だと、確かにわかりやすい概念の説明にはなってるんですが、それが何故生まれたのか、ヨーロッパ中で火種を巻きながらも、なぜロシア帝国で花開いたのか、理想から急激に逸れて行ったのは何故か、なんて根本的な話がごっそり抜けてて資料的に役に立たないんですよね。


あと、共産主義と言えば、総括せよ!とか、反対すると離党させられるとか、必ず独裁強権化するとか、眼鏡はインテリとか、子供医者とか、付随する濃い話は色々とあるんですが、そういった部分もばっさりカットすることにしました。本筋の話ではありませんからね。


次回の投稿は、四月五日(水)二十一時五分です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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