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19-2.竜の機微と、配慮の緩み(前編)

前回のあらすじ:半年ぶりの再会ということで、式典セレモニーも無事終わって、後は詰み上がってる課題をどんどん片付けて行こう、なんて思ってたんですが、一歩目で躓くことになりました。①竜族の機微への僕とそれ以外の方々との認識のズレ、②自己イメージ強化に伴う竜族側の配慮の緩み、という問題がクローズアップされたからです。しかも、優先度も高いから、と最初の課題として捻じ込まれました。どうしてこうなったんでしょう?(アキ視点)

ケイティさんの勧めもあって、各自、控室で礼服を着替えて、その間に用意されたテーブル席に集まった。スケジュールでは、この後、黄竜さんがやってくるそうなので、前回の桜竜さん来訪に立ち会った緑竜さんからの話を聞いた第三者としての見解もついでに伺おう、という算段だ。


なお、一般、には遠いけれど、探索者目線の意見も聞きたいとのことでケイティさん、ジョージさんの二人が参加することになり、会場の準備をしている間に駆けつけてくれたベリルさんは書記兼魔導人形の意見役として追加参加だ。


「ベリルさん、遠いところ、どうもありがとうございます」


「イエ、この程度の距離であれば問題ありまセン」


ホワイトボードにてきぱきと要件を書きながら、ベリルさんがいつもの落ち着いた雰囲気で応えてくれた。こうしてみると、普通の綺麗な女中さんって感じだけど、ケイティさんが杖で第二演習場への移動を指示して、それから部下の人達と共に走ってきた訳だから、かなりの健脚だ。魔導人形の皆さんにとっては、呼吸ですら演出の為の風味フレーバーに過ぎず、人よりも遥かに長時間、全力行動し続けられるとは聞いてるけど、到着時間を考えると、短距離走の勢いのまま何キロも走ってきた事からもそれが事実とわかった。いやー、凄い。


そして、式典セレモニーで何かあった時の為に控えていた、というザッカリーさんが司会を引き受けてくれた。ザッカリーさんが研究組にがっつり参加するようになったのは、春の代表の皆さんの帰国後だったから、最初に軽い挨拶も交わすことに。


「ザッカリー殿、変わり者の多い研究組を相手によくぞ名乗りを上げてくれた。こうして会えて余も心強く思う」


ユリウス様が労いの言葉をかけると、レイゼン様、ニコラスさんも同様に難事に立ち向かう勇気を褒め称えた。


 うーん。


確かにとっても助かっているし、頼りにもしているけれど、こうも変わり者と連発されると、微妙な気分だ。だけど、そこはシャーリスさんが駄目押ししてきた。


「アキ、妖精の国でも比肩する者なしと称される賢者と並んで見劣りせぬ者達という時点で、普通からは程遠いと諦めよ」


 ぐぅ。


「そもそも、当たり前のことをしてるだけで手が届くなら、儂らはこうして集ってはおらんからのぉ」


お爺ちゃんも、うむ、うむ、などと頷きながら、研究組の目的を思い出させてくれた。それを言われると確かにその通りで、理論すら構築できないって話は、与太話、絵空事、御伽噺に類する訳だからね。常識が邪魔ならぶち壊そうって連中は、一般的な人達から見れば、変わり者なのは確かだ。


「確かにそうなんですけど、皆さん、ちゃんと常識を弁えて理性的な振舞いをしてくれてる訳で」


研究組の皆さんは、道理は弁えていると思う、と抗ってみた。だけど、これはヤスケさんに切り捨てられた。


「アキ。人はな、自分より少し優れた程度、手が届きそうな存在ならば、自分達の側であると受け入れるモノだ。しかし、だ。あまりに実力差が開き過ぎると、もはや同じグループ、仲間とは思えなくなる。賞賛する思いもあるが、異質さに怖れも抱くモノなのだ。そして、研究組の叩き出した成果は、万民を黙らせるだけの力があった」


確かに、歴史に残されるような偉業をばんばんと成し遂げたって自覚はあるけど。


「今は驚き、戸惑っていても、いずれは人々も落ち着き、それが当たり前と思うようになるさ。このまま統一国家樹立に向けた動きが進めば、いずれは、三大勢力が争っていた時代を歴史書でしか知らない世代も台頭してくる。小鬼族なら十年もあれば、そうなるってアキも言ってたようにね」


リア姉がそう纏めてくれた。確かにまぁそう考えれば、気にしてもしょうがない気もしてきた。それに十年後っていうとかなりの未来に思えるけど、こっちに来てからもう一年が経過したと考えれば、そんなにのんびりした先の話じゃないとも言える。


僕がある程度納得したところで、ザッカリーさんが話を元に戻してくれた。


「今は目新しくとも、それらがあるのが当たり前の時代となれば、奇異に思う者も減るでしょう。その為にも、今は目の前の課題を片付けていくのが肝心ですな。それでは――」


ベリルさんが箇条書きしてくれた課題を示しながら、ザッカリーさんが今回の趣旨を話していく。後から参加した人達もいたから、これでやっと認識合わせもできた。





「課題は、①竜族の感情の機微を捉えるアキと他の者の認識のズレの評価、②自己イメージ強化に伴う竜族側の配慮の緩みの二点。このうち、①については黄竜様がやってきた際に纏めて話を聞く事とし、②から話し合っていきたい」


 ふむ。


「配慮の緩み、ですけど、代表の三人が口を揃えて指摘されたということは気のせい、ではないですよね。演習場で竜の皆さんと話す時って、控室の方で魔導具による計測とかもしてたと思いますけど、指摘されたような変化ってあったんでしょうか?」


この問いにはケイティさんが答えてくれた。


「自己イメージ強化の指導を受けた事で、魔力の浸透力と言ったところが強まり、アキ様が普段使いされている馬車の耐魔力強化を行うことにもなりました。また、スタッフに確認したところ、来訪される竜族の方々が放つ思念波にも変化がありました」


「変化、ですか」


変わった印象は無かったんだけどなぁ。


「普段の圧には違いはないのですが、感情が昂った場合などに以前より強い圧を検出するようになっていました。以前よりも感情表現が豊かになった、或いは、声の大きさに遠慮が無くなってきた、とも言えるでしょう」


 ふむ。


っと、ヤスケさんが補足してくれた。


「三人の指摘に、他の皆が意表を突かれたのは、竜達はこちらの自己イメージに合わせて、思念波の強さを加減しているからだろう。強くなった分だけ思念波の加減も減らしていた。だから、我々はその変化に気付かなかったのだ」


 ほぉ。


「ロングヒルにいる皆さんは、まだ伸びしろがあると喜んで指導をお願いしてましたからね。言われてみれば確かに盲点でした」


これで腑に落ちた、と思ったところで、ニコラスさんがまったとかけた。


「そこで納得して終わりの話じゃない。話はもっと根が深い問題を含んでいるんだ」


「根が深い?」


「つまり、だ。ロングヒルで密な交流を続ける竜達は、対応を続ける面々が竜の指導を受け、交流を重ね慣れることで、自然と竜の圧への耐性が高まっていく。そのペースは各地にいる竜神子よりも頻度が密な分、早いモノとなることが想定される。そうなると、ロングヒルを基準に、他地域との交流を行ってしまい、以前より負荷が増える恐れがある」


この意見に、レイゼン様も頷いた。


「実際、緩和障壁の護符を付けてても、感情を生々しく感じたからな」


 あー、なるほど。


「それらですけど、問題解消できるかもしれません。雲取様と竜の距離感、対人距離パーソナルスペースについて伺ったんですけど――」


竜族は体が大きいので、少なくとも体長の数倍、五十メートルくらいは距離を離するのが基本。今日の式典セレモニーは、皆で集合写真を撮る流れもあったので、人の距離に合わせたものの、竜族からすると距離が近過ぎるという認識だと説明した。それと、距離を離した場合だけど、竜の側からは絞った思念波で、こちらからは風を操って声を届ければ、無理に声を張り上げる必要もなく、互いに穏便にやりとりできる旨も話した。


「という訳で、同じ資料を一緒に観るような場合は一工夫必要なんですけど、竜側にストレスとならないよう距離を離せば、圧の問題はかなり緩和されると思うんですよ。僕達からするとかなり距離を離してる感があるから慣れは必要ですけど」


そう言って、実際、雲取様が良しとした距離まで離れて、お爺ちゃんに声を届けて貰って少し会話をしてみた。


「離れていても間近で話しているように聞こえる。確かにこれならば負担は減りそうだ」


ユリウス様も安堵してくれたようだ。


っと、ニコラスさんが注意点を指摘してきた。


「確かにこれならば竜の圧は減らせるが、皆の声を竜の耳元に届けるとなると、魔導具が欲しいところだね。一言届ける程度なら術式を唱えてもいいが、術式を発動状態で維持し続けつつ、会話に集中するというのは難しい」


確かに。


ん、これはケイティさんがフォローしてくれた。


「そちらは、声を拾う魔導具(マイク)を使って声を集めて、竜の皆様の傍らに拡声器スピーカーを置くことでも解決できると思います」


「無指向性の声を拾う魔導具(マイク)、用意できます? どうせなら、この後、やってくる黄竜さんとの会話で試してみてはどうでしょう?」


僕の提案に、ケイティさんはスタッフの方々と少し調整していたけど、準備できそうということで、試してみることになった。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。


分量が少な目ですが、キリがいいので今回はここまで。


今回は、式典セレモニーということでトラブルもないだろうと、ベリルは別邸に残ってたんですが、急遽、呼び寄せることになりました。アキは短距離走ペースで、などと軽く言ってますが、魔導人形達は身体強化を行った戦士達並みに動けるので、並みの人間の瞬間限界である時速44kmなんて軽く超えるペースで爆走してました。昨今だとウマ娘並みの速さってとこでしょう。実際には服装が乱れない程度に抑えていたので、そこまで速さ全振りではありませんでしたが。それでも何人もの女中さん達がそんな速度で軽やかに爆走していく様子はまぁ、結構、目立ったんじゃないかと思います。


次パートでは久しぶりに黄竜の登場です。雲取様に言い寄る七柱の雌竜の中でも断トツに登場シーンが少なかったので底入れすることにしました。数えてみると登場シーン自体は紫竜と変わらないんですが、紫竜は魔獣生息域玉突き事故をやらかしたこともあって、本人のいないところで語られるシーンが多くあり、それが印象の違いになった気はします。


次回の投稿は、三月十九日(日)二十一時五分です。


<活動報告>

以下の内容で投稿しています。

・中華の鉄人 陳健一氏死去

・オーストラリア、米国から原潜5隻を購入

・掃除機の進化

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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