19-1.秋の首脳会合開催、そして一歩目にして躓く
前話のあらすじ:若竜達の遊説飛行はラージヒルで、王が錯乱して家臣達に押し込められるという騒ぎを引き起こし、国境封鎖と戒厳令まで敷かれる事となった。連合の東西交流を分断する振舞いに連合内からも非難が殺到し、結果として短時間で国境封鎖も解除されたのだった。
アキが竜族に齎したリバーシセットは、雲取様の部族の幼竜から老竜まで皆が熱心に遊びまくる事になり、あちこちで諍いの火種が燻る事態ともなった。そんな話がありつつも、依代の君も二人目を降ろした事で神力の制御もかなり進んだ事から、研究組も神力の制御研究から本業に戻ることになった。研究組の統制案作りは難航したものの、アキが松竹梅の三案を示したことで、ある程度の方向性を付けることができた。どの案を採用するのかは、出資者でもある三大勢力代表達と相談して決める予定だ。
後は、若竜達の中でも飛び抜けた実力を持つ桜色の鱗を持つ竜、桜竜がロングヒルにやってきたりもした。アキとは意気投合して、桜竜の恋路を応援することにもなった。
そんな話もあったりはしたが、各地から代表達が集い、半年ぶりの会合を行う流れとなる。
という訳で、第十九章スタートです。今後も週二回ペースの更新していきますので、のんびりお付き合いください。
僕がこちらの世界に来てから二回目の仲秋を迎える事になった。まだミア姉のいる地球の世界への道筋は見えてきてないけど、大勢の人との縁にも恵まれて、研究組と命名された次元門構築の為のチームも結成することができた。一年前と言えば、ミア姉が用意してくれた館で「誰かが何とかしてくれる」なんて事を願っていたら、埒が明かない事を痛感して、何とか海を渡って、ここ、ロングヒルの地へと飛び出した頃だった。
あの頃の伝手と言えば、活動を支えてくれる財閥と、その母国である共和国、そして、国外に唯一、大使館を構えている、連合の北の最前線を支える要衝でもあるロングヒルしか無かった。三大勢力の名前くらいは知ってたけど、各勢力の代表が誰か、その名前すら知らなかったからね。
それに比べれば、今回、各勢力から代表が集い、半年ぶりの再会を心待ちにしていた、と思いを交わすこともできた。次元門構築は街エルフ達だけでは理論構築すら無理だったけど、勢力間の交流は皆無と言える状況だったから、交流を促進すれば新たな道が開けると判断して、各勢力からその道の超一流と言える研究メンバーを参加して貰うこともできた。
それに、マコト文書の信仰から生まれた「マコトくん」、その現身を得た存在たる依代の君、地下茎で繋がることで一にして全という不思議な生態を持つ樹々である連樹、その樹木の精霊達が連携、並行思考することで生じる連樹の神様、それからスカイツリーよりも高く一本なのに山のように巨大な世界樹、なんて超存在も活動に加わってきてくれた。
異世界からは妖精さん達が、そしてこちらの生態系の頂点たる竜族とも多くの交流を経て、やはり大勢が参加してくれるようになった。
振り返ってみると、一年で置かれている環境をかなり変える事ができたね。共和国の館で、学生のように教えられるまま、用意されたレールの上を進んでいたら、今の立ち位置に辿り着くことはできなかったと思う。
っと、お爺ちゃんがふわりと目の前に飛んできた。
「アキ、奏者達も準備ができたそうじゃ」
ふむ。お爺ちゃんが杖で示した方を見ると、膨大な量のパイプで組まれた前衛芸術のような存在、妖精さん達の誇る最大規模のパイプ楽器で、奏者の三人もちっちゃな手を軽く振ってくれた。そんな妖精さん達を見て、僕の後ろで体に沿わせた尻尾の上に乗せていた首を雲取様が持ち上げた。
<それでは、会合の式典を始めるか>
相変わらず、陽光に照らされた雲取様の黒く硝子のようでありながら金属的な光沢を放つ鱗が美しい。畳んでいた翼も伸びをするように軽く動かすと、ゆっくりをその身を起こした。大型戦闘ヘリ並みの巨体だけど、飛行の為に洗練されたその体躯はスマートで力強い。そこにいるだけで、芸術品って感じで拝みたくなるような素晴らしさがある。
「ほれ、アキ、竜神の巫女として仕事の時間じゃぞ」
お爺ちゃんにこんこんを頭を叩かれて、気を引き締め直す。そう、演奏準備ができるまで、お願いして見学させて貰ってたけど、会場の飾りつけはできてるし、離れの控室でも、代表の皆さん達は出番待ちの状態だ。
雲取様にちょっとだけ、姿見の全身鏡を創造して貰って、最後のチェック。
ん、ケイティさんに整えて貰った巫女の装いに問題はなし。街エルフ特有のゆったりとした長衣に雲取様の鱗を用いた装身具もワンポイントで輝いてる。腰まで伸びる銀髪も丁寧に櫛を通してきたからね。鏡に映る僕の赤い目を覗き込んでも気力充実、元気な印象バッチリだ。
さぁ、仕事を始めよう。
◇
妖精の奏者が三人で手分けして風を操作することで生まれるパイプ楽器による吹楽多重奏は、ゆったりとした異国情緒溢れる音色で、オーケストラのような音の重なりと多彩な音色を響かせてくれる。
以前、不戦の誓いをした時には、神聖さを演出する為に外の音を完全遮断して、耳が痛くなるような静けさの中で式典を行った。だけど、今回は再会を祝い、未来に向けて忌憚なく意見を交わそう、という会合だ。それで、妖精女王のシャーリスさんが演奏を買って出てくれたんだ。
妖精さん達は異世界から召喚されてやってきてる、という特殊な立ち位置だから、弧状列島に住まう者達が集うという会合の趣旨からすると、そうして集えたことを言祝ぐという意味で、ちょうどよい役割分担となってくれたと思う。シャーリスさんも以前から宣言してる通り、弧状列島で統一国家が樹立されたならば、妖精の国もまた正式な国交を結ぶと言ってくれている。
だから、今回の参加はある意味、サービスであり、立会人的な立ち位置だ。
控室まで敷かれた赤い絨毯を歩いてくるのは、四人の代表。人類連合の大統領ニコラスさん、小鬼帝国の皇帝ユリウス様、鬼族連邦の鬼王レイゼン様、そして街エルフ達の国、共和国の長老ヤスケさんだ。そして四人の歩みに合わせて周りをふわふわと飛んでいるのが妖精女王のシャーリスさんだ。
子供のような背丈のユリウス様に合わせてるから、その歩みはゆっくりとしたものだけど、身の丈二メートル半を超える鬼であるレイゼン様の歩みはとても自然だ。ニコラスさんは相変わらず整ったスマートな振舞いで、最初の頃のイメージとは随分と様変わりして格好いいおじ様だ。ヤスケさんも三人に合わせて歩いてるけど、黒い底なし沼のような目のせいで印象はまぁ悪い。だけど、引き締まった表情からも、別に不機嫌でないのは見て取れた。
妖精さんは手の上にのるフィギュアサイズだし、レイゼン様も大きいけど、僕の傍らにいる雲取様は比較対象が武装ヘリだからね。もう比べる対象が自動車ですらない。こうして集うと、ほんと、面白い場だと思う。
四人が雲取様の前に揃うと、シャーリスさんは僕の傍らに飛んできた。立会人だからね。竜と皆を繋ぐという立場の僕、竜神の巫女に近い意味合いだから、こちら側だ。
さて。
こうして半年ぶりに皆が元気に集うことができた事を慶ぶ思いと、特別な場であると告げる巫女としての思い、そしてサイズの問題で、雲取様の前に揃ったような印象はあるけど、実際には、弧状列島に住まう者の一人として雲取様も参加されているのだ、という意識を言葉に乗せて、と。
『それでは皆様が集いましたので、秋の集い、首脳会合の開催を宣言します。雲取様、参加していただきありがとうございます。他の皆さんとは異なる立場での参加となりますが、そちらについて思うところがあれば一言お願いします』
そう。首脳会合、だ。前回も同じ面子ではあるけれど、前回ラストに、今後、統一国家樹立に向けて活動していく方針を決めたからからね。今回からはこの集いも定例化して半年ごとに開催していこうって話になったんだ。
一年間隔では間が空き過ぎると遠隔地にいる三人が強く主張して半年間隔に。これより短くするのは国政への影響を考えると難しいそうだ。
<こうして皆に再び会えた事を先ずは祝おう。我ら竜族には皆のように全体を束ねる政府の存在はない。だが、これまでの活動を経て、我も、他部族からも地の種族達との窓口として活動する事を認められた。故に多くの話にも、より踏み込んだ話もできよう>
ほぉ。
『あちこち部族巡りをした甲斐がありましたね。縁の深い雲取様がそのような立場となった事はとても嬉しいです。ちなみに例の騒ぎの件は、ここにいる皆さんとの話題に上げても構いませんよね?』
慶ぶ気持ちを載せつつ、ヤスケさんには相談したんだし、他の面子もいいよね、と確認してみる。
<……うむ。まだヤスケ殿の助言を踏まえた活動も手を付けたばかりだ。他の種族の声も聴くことで得られるモノもあろう。宜しく頼む。だが、口外はせぬようにな>
雲取様も相談する側だから譲歩してくれてるけど、淡々とした口調できっちり釘を刺してくる辺り、結構気にしてるっぽい。
っと、ユリウス様が口を開いた。
「雲取様、それはアキの生い立ちに絡む情報に準じるとの事で宜しいか?」
<そうしてくれれば幸いだ。まだ燻ってる段階だが、敢えて広めたい話題ではない>
雲取様は渋い顔をしたけど、まぁ、そんな表情をする気持ちもわかる。崇められる竜神って看板からすると、どちらかと言えば醜聞に近いという認識を抱いた感じかな。
『その辺りの情報の取り扱いで、竜族の手を煩わせるような事は避けられるでしょう。ちなみに地の種族の外聞を気にされているのは雲取様だけですか? 他の方々、と言ってもロングヒルに来ている皆さんは立ち位置が特殊なので、それ以外の皆さんの認識だといかがです?』
こちらからは窺い知ることのできないところの話だからね。ここは少し踏み込んで聞いておこう。
<気にしない者もいる。だが気にする者もいる。どちらかと言えば気にする者の方が多いだろう。ところでアキ、なぜ、そんなに嬉しそうな顔をしておるのだ?>
楽しくなる話題でもないだろうに、と訝しむ目を向けられてしまった。
むぅ。
『崇め、崇められ、という関係なら、地の種族がどう思おうと気になどされなかったでしょう? だけど、先の騒ぎの件を受けて、竜族の皆さんは僕達にどう思われるか気になった。僕はこれは、上下関係から横に並ぶ関係へと進みつつある良い傾向と思えるのです。いつまでも外向きの取り繕った態度を続けてては、関係も先には進みません。醜聞にまで行くと確かにどうかと思いますけど、砕けた振舞いなら親近感も持てるでしょう』
ご近所さんなのだから、もっと肩の力を抜いていい、という思いを言葉に乗せてみた。
んー。
雲取様は、わざわざ据わった眼差しを向けて、溜息までついたりしちゃってから、何とも困ったような笑みを浮かべた。
<アキが嬉しく思うのは理解したが、親しき中にも礼儀あり、だったか。我らにもそうした思いはある。巣で寛ぐ姿を晒すような真似は誠実さに欠ける行いなのだ>
あぁ、なるほど。確かに帝国を訪問された時にも何柱もで編隊飛行をしてみたりと、どう見られるか気にする文化もお持ちだった。というか、あの頃から心構えは変化してた、と。
っと、シャーリスさんがふわりと前に出た。
「話が少し横に逸れたようじゃから、この話はここまでじゃ。竜族を含めて、こうして弧状列島に住まう者達が、共に同じ地に住む者として互いを認識しつつあるのは、言祝ぐべき姿と言えよう。此度は竜族も立ち会いではなく、参加者としての立ち位置となる。皆の会合が実り多きモノとなることを期待しよう」
きっちり話を締めてくれた。そう。シャーリスさんの告げたように、竜族も当事者の一人という扱いだ。具体的に参加するような話も増えてきたからね。もう無関係の第三勢力じゃない。
レイゼン様が口を開いた。
「竜族の方々とは、竜神子達を通じた交流、竜眼を用いた自己イメージ強化の指導、それに研究への支援活動と、多くの実務で関わりも増えてきた。それに竜族の部族間での交流も活発化してきたとも聞く。半年前よりもより多く。そして次の半年後に向けた布石も打っていこう」
これにはニコラスさんも頷いた。
「これは妖精族も同じでしょう。召喚という形でこれまでの交流は間接的な形となっていたが、妖精の道が開けば、直接的な交流も増していく。それに備えた取り組みも一つや二つではない。シャーリス殿もより多く実りを持ち帰れましょう」
ヤスケさんもこれに続いた。
「ここに集った種族はもう軽い挨拶の時は終わり、実利を睨んで取り組み始めた。まだ諍いは多いが、この歩みを阻めはしまい」
ちらりと雲取様の方に視線を向けたけど、両者ともにこの件は軽くスルーしてくれた。竜族と街エルフは殺し殺されてきた時代があって、今も相互不干渉の誓いをしてる関係だからね。それに人族と小鬼族は毎年、成人の儀と称した定期戦争をしてて、今年もまだ戦う可能性が残ってる。
それでも、こうして前向きな発言を引き出せた。
さて。
では、締めよう。
『それでは、皆の思いも確認できましたので、これより第一回首脳会合を始めましょう。皆さんがより多くの実りを手にするように。春先に成果を持ち寄れるように。そしてそれらの先に統一国家の元で一つに集えるように』
僕の宣言に合わせて、妖精さん達がパイプ楽器で盛大に歓迎の音楽を奏でてくれる。開催式典って感じがして、これは確かに楽しい気分になってきた。横目で見るとお爺ちゃんも、やっぱり音楽があった方がいいじゃろう?とご満悦な表情だ。
そして、皆もその思いは同じだったようで、誰からともなく笑みを浮かべることになった。
◇
演奏が終わると、控えからぞろぞろとスタッフの皆さんを引き連れてリア姉がやってきた。自然な間接光で全体を照らせるように大きなレフ板を抱えた人達も多い。
<記念撮影とは聞いていたが、その反射させる板は何に使うのだ? 日差しも出ていて十分明るいと思うのだが>
雲取様は写真撮影に詳しくないからね。疑問に思うのも無理はない。これにはリア姉が答えてくれた。
「陽光だけだと、陰の部分が強く出て険しい表情に見えたりする事があります。それを避けるためにこの反射する道具、レフ板を使うのです。鏡と違い、レフ板は受けた日差しを散乱光に変えるので、照らし方が穏やかになるでしょう?」
リア姉の指示で、実際に雲取様が軽く広げた羽の裏側に向けて、レフ板で散乱光を向けてあげると、陰影の強さが薄れて、だいぶ印象が変化したのがわかった。雲取様、というか竜族は首が長いから、長い首を曲げることで、第三者視点のような角度から自身の翼を眺めるのも容易だ。
<これは面白い。ただの板ではなく、鏡でもない。道具一つとっても奥深きモノよ>
うむ、うむ、などと雲取様も納得してくれたので、さっそくレイゼン様用の椅子を用意したりと、スタッフさんが撮影準備を始めてくれた。以前も撮影には随分苦労したからね。これだけ大きさが違うと、一枚の写真に皆を収めるだけでも大変だった。
◇
そうして、多少手間取ったものの、記念撮影も終わり、雲取様は皆に挨拶を告げてから去って行った。相変わらず、色々抱えていてお忙しそうだ。ケイティさんが用意してくれてるスケジュール表でも、雲取様がやってくるタイミングは飛び飛びだからね。お疲れ様だ。
……なんて感じで、式典も終わったし、堅苦しい服装も着替えようと思ってたら、何故か、まぁちょいとこっちに来い、と控室に連行されることになった。
はて?
「皆さん、お疲れさまでした。ところで話って何です?」
そう問うと、皆の視線がユリウス様に集まった。
「アキ、解散する前に一つ確認しておきたい。先ほど、敢えて雲取様が不快さを露わにする域まで踏み込んで話をしたように思えた。それは何故だ?」
ふむ。
他の皆もそう感じたのかと目を向けてみると、リア姉が補足してくれた。
「私の目から見ても、雲取様はあまり明るみに出したくない話題に触れて、不満そうな表情をされていたし、魔力も僅かだが乱れ、というか荒れが感じられたね」
なるほど。
「まぁ、ちょっと不快さをアピールされてましたね。魔力の乱れとか表情は、不快だぞ、って示してくれた感じで、意図せず出たモノではありませんでしたけど」
「それで、踏み込んだ理由は?」
っと、ユリウス様に急かされてしまった。
「雲取様、というか竜族の公式見解として、今回の騒ぎの件についてどう感じているのか、どう扱われる事を望むのか、皆が揃った場で明言して貰った方がいいと判断したからです。あと、不快アピールではありましたけど、アレは恥ずかしく思う気持ちを抱いて、でも、そこは配慮した扱いをして欲しいと期待してもくれてましたよ? つまり、一種のデレです。広い意味で言えば、甘えに類する振舞いですね」
格好いい方がそうした振舞いをするのってグッときますよね、と皆さんにも同意を求めたんだけど。
……残念、なんか、無いわーって否定的な視線がザクザク刺さってきた。
「アキ。我々には竜族のそんな機微までは認識できん」
ユリウス様が断言し、同意する態度ばかりがそれに続く。
ぐぅ。
竜族と並ぶと自称してる妖精ペアならどうだろう?
「儂もそこまでは判らんぞ? 確かに魔力の荒れは極短時間じゃったから、不快さは敢えてそう振る舞ったとは判断できた。じゃが、本心でどこまで不満に思ってたかは判らん」
お爺ちゃんは駄目と。
「妾も、雲取殿がまだ十分冷静であるとは把握できていたが、恥ずかしさは読み取れなかった。というか恥ずかしがってたのか? 本当に?」
シャーリスさんまで!?
「あれ? だって、触れてた魔力からも、ちょっと隠しておきたかったなぁ、って感覚が伝わってきたでしょう? 何とかしたいけど、思ったより上手く行ってないって焦りこそ、ほんの僅かでしたけど」
判りやすかったですよね~って例まで出してみたけど、リア姉はゆっくり頭を横に振った。
「無理。雲取様がポーズとはいえ不快さを露わにした瞬間、全身の毛が総毛だって身震いするような有様だったんだ」
結構離れた位置で控えていたのに、そんな風だったとは知らなかった。その後も、離れていたから魔力に触れた感触が鈍くなってたんじゃないかとか、遠くて表情や身体言語が良く見えなかったんじゃないか、と食い下がってみたんだけど。
残念。スタッフの皆さんも含めて、僕の意見にその通りと同意してくれる人は一人もいなかった。
むぅ。
結局、僕以外の総意によって、僕とそれ以外の方々との竜族の機微に関する認識のズレの評価、自己イメージ強化に伴う竜族側の配慮の緩み、なんて話を課題として話し合うことになってしまった。それも感覚が残っている間に済ませるのがいい、と最初に捻じ込まれることに。
いきなり、課題が増えてしまったのは予想外。
特に、配慮の緩み、という指摘は想像してなくて、何のことか聞いてみた。すると、この半年、離れていた三人が口を揃えて、前回、春の頃の比較すると、明らかに雲取様の感情表現や圧力が増していた、と教えてくれた。より生々しい印象を受けたと言われて、ロングヒルにいたメンバーは何の事やら、と首を傾げる事になった。
ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。
季節感がズレズレですが、十九章はアキがこちらに来て二回目の仲秋、やっと夏の暑さも去って、秋の気配が色濃くなってきた時期に入りました。新しい単行本冒頭相当ってことで、振り返り的な話も冒頭に添えたりもしてみました。
やはり目出度い集いの場でもあり、妖精さんがこちらの世界にせっかく持ち込んでくれた(情報を元にドワーフ達が創り上げた)楽器セットも活用することに。翁もやはり音楽があった方が、と以前、ボヤいてましたからね。丁度いい感じになりました。妖精さん達でないと奏でられてない、聞き覚えはないけれど、とても完成度の高い演奏形態と楽曲は、妖精さん達の文化アピールの場ともなってます。
そして、本編でも語ったように、十八章ラスト辺りで結構、がっつり積み上がった項目についての検討をして準備もしてた筈だったのに、一発目から想定外の課題が湧き出してきました。波乱……という程ではありませんが、始めの一歩で躓いた感はあるでしょう。そうは言っても、それほど揉める話でもないので、ちょうど第二演習場にもいるので、次にやってくる雌竜を交えて、この件はちゃっちゃと片付けます。(解決するとは言ってない)
次回の投稿は、三月十五日(水)二十一時五分です。
<妖精の楽器 ※技術の纏めにも再掲します>
妖精族の楽器は、吹奏楽器系しか存在しない。これは体の小ささによる制約によって、弦を張って振動させる仕組みも、叩いて音を出す仕組みも困難だからだ。また、自身の肺活量によって音を鳴らすのも厳しく、結果として、吹奏楽器の英語表記、風の楽器そのままといった仕組みを取ることになった。
パイプオルガンのように、風を送り込むことでパイプが音を奏でるが、魔術で風の勢いも操作できるので、パイプオルガンと違って、音の強弱変化も付けることができる。また、パイプオルガンのような指や足による操作という制限がないので、多くのパイプを同時に鳴らすこともお手の物だ。肺活量という制約がないので大音量も得意だし、ずっと音を鳴らし続けることもできる。それと三人の奏者が分担して音を奏でることで、幅広い音域で音を幾重にも重ねる和音の心地よさも表現していた。
ただし、人の楽器にはない数多くの利点を満載してるものの、弦楽器や吹奏楽器の呼吸操作、それに鍵盤楽器のような短音のキレの良さだけは表現できなかったりする。なので、奏でる楽曲も自然と、パイプオルガン系のような豊かな倍音(音の高さ=周波数が倍になっている音)の響きを楽しむものとなっていた。
……とまぁ、妖精特有の巨大楽器であり、妖精の国にも三人の奏者を必要とするセットは王城に一つあるだけである。何せパイプオルガン系なので、でかくて運搬も不可能だ。なので、妖精達からすれば、指で穴を塞ぐことで一本の管で多彩な音色を出せて持ち運びも簡単な吹奏楽器はかなり洗練された楽器に見えた。あと打楽器の激しさや弦楽器の音色も新鮮に感じられたりする。ということで、種族間の音楽の交流もそれぞれに強烈な刺激を与えることになっているのだ。
補足しておくと、こちらの世界には一神教のような強い宗教はないので、大聖堂にパイプオルガンをどーんと設置、みたいな文化は発生しなかった。少なくとも弧状列島においては生まれることはなかった。マコト文書によってパイプオルガンは紹介されてはいたのだが、音響も考えて建物とセットで造るパイプオルガンにまで手を出す酔狂な者は現れなかった。