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第十八章の各勢力について

十八章は、二週間という短期間ですが、各勢力で色々と動きがあったので整理してみました。アキが忙しくて他勢力の話まで意識が回ってないのと、情報が入ってくるのにタイムラグもあるので、十九章で詳細が語られるってとこも多めです。


あと、今回は「ここ半年(十三~十八章)で溜まった要相談・認識合わせが必要な事項(全30項目)」も同時投稿してます。

各勢力の基本説明は八章の「第八章の各勢力について」をご覧ください。このページでは、十八章での状況を中心に記載してます。


【ミアの財閥】

十八章で、財閥が大きく関わる出来事としては、やはりラージヒル事変への対応だろう。若竜が高空から語り掛けたことを発端とする王の乱心と、家臣一同による押し込め騒動は、長命な街エルフ達にしても、青天の霹靂、想像すらしてこなかった事態だった。

幸いなことに、交流祭りに殆どの国が参加していることもあって、財閥が依頼するまでもなく、各国から移動の妨げを速やかに解消するよう圧力が掛かり、これが早期の国境開放へと繋がることになった。祭りに参加する人の移動だけでなく、祭りの会場での売買手続きに従って、普段にはない商品の移動が多く発生していたことも要因だろう。品質低下を避ける為に空間鞄や保管庫に留めておくなどすれば、それだけで料金が加算されてしまう。各国から示された封鎖期間の料金請求書だけで、ラージヒル上層部は顔を青くしたことだろう。


研究組の統制については、財閥としても悩んでいるところだったので、アキの提案は渡りに船といったところだった。ただ、その船は片道航海のタイタニック号かもしれないので要注意。

竜族には所有の概念と言っても、縄張りくらいしかなく、契約を結ぶ仕組みもそれを残しておく書類の運用だってない。口約束だけだから認識のズレや、言った、言わないの水掛け論とも無縁ではいられないだろう。


アキが示した、竜族への契約概念の普及という施策は、竜族の長い歴史になかった社会制度を根付かせようという意欲的なモノであり、その導入は順風満帆となると考えるのは楽観的過ぎる。筆記用具と文字の普及がスタートラインとなるとマサトやロゼッタが主要メンバー達を集めて宣言した時に、皆が場を和ませる冗談と言ってくれ、と懇願するような面持ちをしたのも当然だった。


竜用のリバーシセットを一つ持ち込んだだけで、雲取様達の部族内では少なくない問題を生じさせていて、財閥関係者達の意識は更に渋いものになった。これが未開の原住民にモノを売りつけるとかなら、いざとなれば武力で黙らせるという解決策も取れるが、対竜族となれば、逆にわからせられてしまうのは地の種族側だ。


竜達は聡く、理詰めで話をしていけば納得してくれるだけの知性を冷静さがある。だから、説明をした、書類で示した、という実績を盾に、読んでないアナタが悪い、同意した記録があるでしょう? などという地の種族同士の流儀を押し付ける真似だけはしてはいけない。それは厳禁だ。それが可能なのは、地の種族の法と暴力の執行機関である国家が、その力押しを保証してくれるからだが、竜相手には力がまるで足りない。


説明されなかった、騙された、などと怒りを買うことになれば、下手をすれば街ごと消し飛ばされてしまう。消し飛ばした後で、その竜が自らの正当性を語れば、その行為が過ちだった、と証拠を固めるのすら困難だろう。消し飛んでいるのだから。


そんな訳で、対竜向けの商取引、契約概念の定着と運用というのは、海外に帆船を向かわせるなんてレベルを遥かに超えた冒険、未知の世界への挑戦なのだ。


それと、竜族は別に地の種族がいなくても、自分達だけで活動が完結している点も忘れてはならない。地の種族と交流することには大きな利があり、竜族の社会にも豊かさと楽しい刺激が多く生まれるのだ、とアピールし続けなくてはならない。得られる利より、手間が増えれば、面倒だからやめた、となるだろう。竜達にとってはまぁ楽しい娯楽、暇潰しだった、とするだけなのだ。


まぁ、この辺りはアキの突破力が凄まじく、千年くらいなら飽きさせない、退屈な日々に戻りたいなどと思わせない、と自身の活動に巻き込む気満々なので、そこに期待するのだった。


アキは竜族相手に平然と振る舞い、遊びに誘い、一緒にやろう、と手を伸ばせる。しかし、竜神とされる存在、全てを見通す竜眼の使い手に対して、百戦錬磨の商人が同じ事をできるかと言えば、挑戦できると、己を騙すことさえできなかった。彼らもアキ抜きならこんな挑戦など、現実性がないと投げ出した事だろう。


そして、今、投げ出さないのはアキが居るからであり、そして、アキの示す、皆の共存する社会があまりに眩しい夢だったからだ。


【共和国(街エルフの国)】

ラージヒル事変では慌てることになったが、共和国が動くことなく、連合所属の各国、殆どの国がラージヒルへの非難声明を出したことで事態は収束に向かい、長老衆も安堵していた。


そもそも共和国は連合に対して協力関係にはあるが一歩退いた位置にいて、意図的に関係を弱めていた。それだけに、事態収束に向けて動けば、連合に対するパワーバランスが変わってしまうので、それを避けたかったからだ。


現大統領のニコラスも一応動いてはいたが、彼の語りかけを待つまでもなく、各国が率先して動いたので、今回の件は、ニコラスの指導力が発揮された訳ではない。それよりは普段なら向いてる方向がなかなか揃わない連合において、珍しく、誰もがロングヒル非難に動いた訳で、それは珍しい出来事だったと言えるだろう。


参謀本部設立については、街エルフの故郷の奪還、再生に繋がる作戦の立案、実施を担うことと、竜族とも強く連携していくことから、共和国は他国よりも積極的にこの件に関与するつもりだ。


マコト文書の知を抱える財閥とも強く連携し、アキの示した「死の大地」浄化作戦の理解に努めようと手も回していた。参謀本部の初期メンバーが集った際に、全員が同じスタートラインから始めるのではなく、街エルフの参謀だけが事前の資料読破、質疑応答を済ませて数週間程度のアドバンテージを確保できているというのは、それなりに優位に働くだろう。

尤も、彼らもそれでずっと優位を保てるなどとは思っていない。それよりは前代未聞の超巨大作戦となれば、誰かが牽引役とならねば、そもそも話が進まないだろうと危惧したからだ。


アキが資料を用意して、一次窓口である研究組や調整組の面々に語った内容くらい、アキの手を煩わせることなく理解できねば、作戦遂行などできる筈もなし、と。まぁそういうことだ。


竜族社会に契約概念を浸透させる件も極めて重要であり、竜族を不倶戴天の敵と認識してる共和国、街エルフ人々からすれば、その在り方の根本に手が入る挑戦なのだ。


ただ、共和国はもともと、商人気質の強い国であり、財閥メンバーとの交流も深い。それだけに、その困難さもよく理解できていた。夢物語、子供の戯言、と斜に構える意見も少なくないのが実情だ。


それでも共和国がその後押しに舵を切ったのは、アキのこの一年の振る舞いと、そこから思い起こさずにはいられないミアの行状があった。


傍観したいならすればいい。賛同する人達で達成するから。だけど反対するなら容赦しないし、成功の果実も分けたりはしないよ、と言う訳だ。


そして、傍観した結果が財閥の成立であり、マコト文書を信仰の依代とする人々の台頭だった。


同じ轍を踏むことはできない。それが共和国の人々の思いだった。


【探索船団】

帰国してきた船団の面々達が、祭りに乗り遅れたのを取り戻そうとするような騒ぎもある程度落ち着き、海外との交易や探査で得られた品々、情報の受け渡し作業も本格化していた。そんな彼らも少なくない人数がロングヒルに渡って、交流祭りに参加することにもなり、それがまた、共和国内の世論を賑わせることにもなった。海外への知見がある人々が口を揃えて、今、世界で一番ホットなのはロングヒルだ、と話せば、そうなるのも当然だった。


また、例年であれば、海外探索を終えた人々は次の探索までの期間をのんびり過ごすものだが、今年はその行動が三つに分かれることになって、船団関係者を慌てさせることにもなった。①次の探索にも参加すること、これはいい。


これまで通りだ。しかし残り二つが違った。


②「死の大地」調査団への所属変更、これはまだ運用も始まってないが、浄化作戦に向けた調査、準備を担う専門船団の立ち上げが模索されている。こちらの方に鞍替えしようと言う訳だ。


ゼロから組織立ち上げなどやってられないので、ある程度、経験者達を引き抜いて設立するつもりではあった。現時点でも小型帆船を使い、「死の大地」近海の調査も始めている。


③竜神子支援機構など、新設された組織への所属変更、これも探索者や船員達に魅力的に写ったようだ。何せ話の規模がでかい。それぞれの拠点は十名程度でもそれを数千、下手をすれば数万と立ち上げるとなれば、いくらでも人手は欲しい。それが実力者なら大歓迎だ。


そして、②と③への人の移動で、①の次の船団を向かわせることに問題が生じたのだから、洒落にならなかった。初期立ち上げメンバーも持ち出しであって、空いた穴を埋めるよう新人達を配置し、教育比重を高めて凌いでいたところだったのだ。


なのに、帰国してきた第一陣から、ボロボロと人材が流出するとなれば、探索船団の根幹が揺らぎかねない。それに第二陣、第三陣とて似た傾向を示すことだろう。


実際、各地にいる船団からは、早い者勝ちなんて真似はしないよな? という恫喝レベルの問い合わせまで届いている始末だ。


これにはファウスト提督も頭を抱えて、どこを落としどころにするか、関係者達と議論を重ねることとなった。


【探索者支援機構】

若竜達が各地で空から語りかける遊説飛行を行っていたこともあり、その間、各勢力の軍部の活動は手控えざるを得なかった。おかげで探索者達の活動はのびのびと行うことができ、結果として、当初の予定を全て完遂するという満点の結果を叩き出した。また紫竜の追いかけ回しが発端となって起きた魔獣達の生息域玉突き移動の問題も冬を迎える前に何とか解決し、今はその報告書作りで大忙しだ。

そして、今回の件を通じて人、鬼、小鬼が手を取り合った結果は、今回だけで終わりにするには惜しい、との声が当事者達から上がった。

得手、不得手が大きく異なる三種族が手を取り合って共同で活動していく事を目的に、毎年、定期的に合同訓練を行うべきではないか、というのだ。この件は事務方の調整はほぼ終えているので、後は代表達の話合いによって、方向性も決まることだろう。


【対樹木の精霊(ドライアド)交渉機構】

ラージヒル事変では、これまでになかった樹木の精霊(ドライアド)達との交流、商取引への活動が邪魔されたことに、商人達はもとより、各国の為政者達も不満を露わにすることになった。


何せ、弧状列島はその半分近くの土地を竜達が縄張りとして確保しており、残った地を人、鬼、小鬼が分け合っている状態だ。各勢力とも、限られた土地で最大の利を得ようと知恵を振り絞っており、地球あちらのような機械化はせずとも、魔導具を用いることでそれに匹敵するかソレ以上の収穫を得るほどだった。

……それだけにもう伸びしろは使い切っていて、単純な国力増加策がない状況だった。


そこにきて、自分達と交流の無かった樹木の精霊(ドライアド)達との交流、商取引話だ。連樹の民という成功事例もあり、樹木の精霊(ドライアド)の住まう地を、里山のように活用できれば、その富はかなりのものとなるに違いなく、精霊の加護を与えられた種子を貰えるだけでも収穫量増加、気候悪化への耐性強化などが期待できる。そんな皮算用を弾いていただけに、いきなり東西交流を差し止めるラージヒルの振る舞いには、理解よりも苛立ちが前に出たのだった。


連樹の里に足繁く通う商人達の流れが途絶えることはなく、冬の期間をどう活用していくか、商人達の戦いが加熱していくことだけは確実だろう。


【竜神子支援機構】

アキの調整によって、竜神子達と若竜の前倒し交流と、それに伴う遊説飛行も一通り行われて、秋の収穫祭に、各地の為政者との間で行われる式典セレモニーも問題なく行うことができそうだ。竜神子同士の交流も活性化しており、一国に一人しかいなくても、同じ悩みを抱えている仲間が各地に合計三十人、しかも今後も毎年、似たペースで増えていくとあれば心強いことだろう。


ただ、ロングヒルが発端となった、竜族へのリバーシの紹介、提供とそれに伴う騒ぎについては、竜神子達も戸惑うしかなかった。竜神子達からすれば、たかが遊び、たかがリバーシといった認識だったからだ。


比較文化学や、政治形態の移り変わりといった歴史学、政治学、道具や貨幣が無く、人の数百倍という行動範囲を移動速度を持つ竜の生態への理解など、アキなら理解している分野に疎いのだから無理もない。


この意識のズレは、アキのサポートメンバー達も認識し、危機感を抱いていた。マコト文書の知識を持つサポートメンバー達ですら、その理解は十分とは言えてないのだから。


一応、竜神子入門と称して、人と竜の間に立ち、両者を繋ぐには、竜への理解は大切ということで、関連分野の初等教育資料の作成、配布に着手したのだが。


この件も集った代表達の間で重要な議題として取り上げられることになるだろう。今後の交流で何か問題があって、理不尽だと竜族がちゃぶ台返しをする流れになったら、全てが終わりなのだ。馬鹿が、地の種族同士の流儀で政争ごっこなど仕掛け、憤慨した竜によって、城塞都市を消し飛ばされては、泣くに泣けないのだから。


【ロングヒル王国】

総武演も例年通りに戻してさくさく実施し、弧状列島交流祭りの方も独立した形で、共和国や財閥の手を借りることで、無事、開催することができた。


毎日のように、大勢がロングヒルの地を訪れて、祭りを楽しんで笑顔で帰国していく様は、最前線の地で緊張感を持って、武を高めていたこの地の人々にも、様々な思いを抱かせることもなった。


王家も貴族達も、多少の方向性のズレはあっても、ロングヒルという国を豊かにし、その豊かさを盤石なモノとすることに違いはない。それに過去のロングヒル一国で眺めていた世界など、弧状列島全域に広がった今の規模、視点からすれば坪庭の如き狭さと認めざるを得なかった。


アキが「細かいことなんか横において、どーんと大きく取りに行きましょう。パイは取り放題ですよ」と言っていたのも今ならわかる。


ロングヒルももともと、共和国と唯一、同盟を結んでいただけあって、最前線の武の国という割には豊かではあった。しかし、規模で言えば小国と言っていいのに、その財政規模は鰻登りで、二大国すら視野に入るほどだった。


そんな環境の変化は僅か一年で引き起こされた。これが農業なら作付け面積を増やしたとしても、やっと一回収穫できるかどうか。しかも増えた分も上手く売り裁けなければ、逆に豊作貧乏にも陥りかねない話だ。


工業なら、工場を新設してもやっと軌道に乗るかどうか。それに大量生産=比例して利益増加、なんて話にもなかなかならないのが常だ。


しかし、商取引、特に取り扱うのが情報となれば、話は大きく変わってくる。他に代えようがない貴重な情報となれば高値になるし、買う時期を逃せば価値を失いかねない。


そして、取引される情報は、弧状列島の半分を支配する竜族の話であったり、妖精界の話であったり、樹木の精霊(ドライアド)達や世界樹という既存の活動範囲の外の領域の内容だ。


国土を倍するような豊かな新天地フロンティアの情報が湧いて出てくると言うのだから、ロングヒルの地は、唯一無二の文化都市、黄金郷と化すのも当然だった。


……ただ、僅か一年、以前の暮らしを覚えている者は、あまりの激変に危機意識も持っていた。今の豊かさは三大勢力がバランスを維持し、竜族や妖精族、それに連樹の神や世界樹が協力してくれているからこそ生み出される幻のようなモノだ。


そして、その協力は要たる竜神の巫女アキがいるからこそ保たれていることを彼らは重々承知していた。


だからこそ、彼らは以前の暮らし、文化を忘れず、今の豊かさの源泉が何か理解せねばならない、との共通意識を持つに至った。だからこそ、王家が総武演や交流祭りとは別に、ロングヒル自身が自らの立ち位置、歩みを確認する催しを行おうと提案した時、貴族達もその全てが賛同したのだった。


【人類連合】

弧状列島交流祭りへの参加者達が、街道を行き来する様は、まるで新たな動脈が生まれたかのようであり、彼らの携えた情報や、ロングヒルの地で行った商取引、そして移動経路での宿泊などによって、経済を大いに賑わらせることとなった。

そんな異種族同士の交流促進と並行して、例年通り、帝国が成人の儀と称する限定戦争を仕掛けてくる事への備えも行い、そんな中、各地で若竜達が竜神子との交流を行い、その新たな関係を遊説飛行で皆に語り聞かせて回った。


一般人からすれば、もう何がどうなっているのか、というくらい多くの事が同時並行で進んでおり、だからこそ、東西交流の重要地域であるラージヒルで事変が発生して、国境閉鎖に至ったのは、各地で混乱と、そして、こんな時期に情報や物流の流れを止めることへの非常識さに対する怒りを生むことにもなった。


帝国側が連合内の混乱に乗じて侵攻してくる、といった動きを見せなかったから良かったようなものの、各地で国境を守る人々からすれば、いつ破られてもおかしくない偽りの平穏としか思えなかった。


ニコラス大統領も、そんな各国の意向を十分理解しており、ロングヒルの地ではこの秋と、それから春先まで、どうまつりごとを進めていくか難しい舵取りを迫られることだろう。


【鬼族連邦】

連邦と連合はロングヒルの地で接しているだけであり、帝国とも皇帝領が接しているだけなので、他勢力との関係は安定していると言えた。それに今回の騒動となったラージヒルは、連合の更に奥、中央付近ということで、直接的な影響は少ないのは明らかだった。

今回の騒ぎを機に帝国が成人の儀のいくさを前倒ししたとしても、連邦への影響はほぼゼロとさえ言えた。帝国との国境の守りは維持しており、国境付近での増軍の動きもないので、こちらも懸念材料はない。


そのため、鬼王レイゼンはロングヒルの地に赴くことに傾注することができ、人数の少なさというハンデも克服できるだろうと算段していた。


ちなみに、そんな三大勢力の関係は勿論、共和国も把握しており、その分析内容はアキにもちゃんと伝えられていた。


そして、アキは、竜族は傍観、不干渉が常、妖精族もやはり世界越しなので勢力間の話には関与せず、共和国も連合を後押しする程度、ということで、それなら、今回の集まりでは、連邦、レイゼン様に主導権を握って貰おうと喜ぶことにもなった。


連合も帝国もいくさに備えてバタバタしていて、長期的視点を持ちにくくなってたから、丁度良いよね、という訳だ。人口が少なく、長命種故にその伸びも悪いとあって、少しバランスの悪さを考えていたところだったので、渡りに船といった認識だった。


【小鬼帝国】

短命種で強力な中央集権国家を樹立していることもあって、細長い国土もあって、各地の王も裁量は大きく認められているものの、国家全体としてみると、上意下達の傾向が強かった。


また、いくさによって生き残り、運命に選ばれる事が成人の証という社会風土もあって、昨年、いくさが行われなかったのは、過去に例がないではないが、やはり異例な話だった。


それだけに、今年は成人の儀を行うだろうと誰もが漠然と思っていたし、そのための準備も着々と進められてはいたから、そのつもりでもいた。


しかし、上層部の意識は例年とはかけ離れており、立案された攻略作戦も、それまでにはない縛りが多く、どれだけ連合に損害を与えるか、というより、如何に被害を抑えるか、に重きを置かれていた。作戦期間も短期決戦の傾向が強く、大物見、現代で言うところの威力偵察といった内容となっていた。


そんな縛りだらけで、竜族が地の種族との交流をする、などという現実味のない話が広がり、実際、帝都に天空竜の雲取様、人形遣いや多くの魔導人形達、そして妖精らが舞い降りて、市民層の意識は混迷を極めていた。


そして駄目押しとなる若竜達による遊説飛行での民への直接の語りかけだった。


この後に及んで、もはや例年通りなどと主張する市民は殆ど聞かれなくなった。いなくなった訳ではないが、誰もそんな戯言に耳を傾けている余裕がない、といった方が正しい。


あちこちにいる竜神子や貴重な産物を作る職人達に手ぇ出すんじゃねーぞ。楽しみにしてんだから。


言い方は穏やかなモノだったが、要はそういう恫喝だった。少なくとも天からの声に、小鬼族の人々は、そう理解するしか無かった。


しかも、今年はまだ竜神子と若竜のペアは三十だが、来年以降も同じペースでどんどん増えていくと言う。……今年、何とか成人の儀を行ったとしても、来年は? 再来年は? そう、誰もが考えることにもなった。


ユリウス帝がロングヒルの地を訪れた際には、まだ各地の民の声は集計・分析中だが、滞在期間中にそれも終わり、皇帝の元に届けられるだろう。ユリウス帝に課せられた責は重かった。


【森エルフの国】

交流祭りでの森エルフのアピールも上手く行えて、精霊術を使う長命で不思議な種族だ、との理解も広がることとなった。樹木の精霊(ドライアド)と交流も増えていくので、狙撃手としてではなく、精霊との交流の担い手として、各地の商人達の活動を支えていくことにもなりそうだ。


苦手なコミュニケーションも、型に嵌めて、敢えて言葉を少なく選び、長命種らしく先を見据えた意見なんぞを言うことで、聞く側が勝手に深読みして納得してくれる、などという流儀を修得する者も増えてきた。


そもそも、直接交流が難しい樹木の精霊(ドライアド)との仲を取り持つようなシーンで呼ばれることもあって、連樹の民の生き方を参考に、樹木の精霊(ドライアド)と人が共存するとはどういうことか、なんてところから説明するのだから、話がさくさく進む訳もない。


だから、場所を区切って試行するとか、幾人も連れてきて、見処がありそうな者を精霊使い候補として育ててみようとか、いずれにせよ、その取り組みは息の長い話になるのだ。


なので、今年の秋さえ何とか乗り切れば、冬の間は休めるぞ、などと妙な連帯意識を持ちつつ、森エルフ達は、慣れない笑顔を貼り付けて、今日も交流祭りの会場で、観客達の相手に明け暮れるのだった。


【ドワーフの国】

多くの人々に、ドワーフの技を魅せるというコンセプトは大当たりし、交流祭りの会場内でも、常に観客が溢れかえる盛況ぶりとなった。

やはり、幻影の竜や妖精、高級路線で場違い感の強い街エルフや魔導人形達、強くておっかない鬼なんてのと違って、職人芸という、ある意味、馴染みのある活動だから、というのもあるだろう。


ただ、大盛況ではあったが、光が強ければ影もまた強くなるのが常。早くもドワーフ達の間では、来年はどーするか、なんて話題が持ち上がっていた。


技術なんてものは、そうそう革新的なモノが生み出せることもない地味で息の長い分野だ。今年はまだドワーフの技を知らない層向けだから良かったが、来年、再来年と客の目が肥えてくれば、あぁ、また同じネタか、などと飽きられかねない。


それに秘匿性の強い技術もあり、何でも公開できる訳でもない。


ドワーフの国としては、もう十分過ぎるほど仕事は溢れていて、更に仕事を求める要望ニーズは薄いのだ。


……などという贅沢の極みのような話をドワーフの上層部はしてるのだが、彼らが大した話じゃないと思っている蒸留技術など、酒にかける情熱も、十分、人々に驚きを与えるのだ、なんてことに気付くのはまだまだ先の話だった。


【妖精の国】

半年ぶりに三大勢力の代表達がロングヒルの地に集う日も目前となり、妖精の国もその件は話題となっていた。弧状列島交流祭りの開催期間中でもあり、毎日何十人とこちらの世界に来て交流に勤しんでいるのだから、こちらの世界への関心も高まろうというモノだ。


妖精達からすれば、代表達が話し合う予定の案件は、所詮、異世界の話であって優先度は低い。しかし、二つの世界を繋ぐ妖精の道、その発生の検出と、開通した際の直接交流を行う件は別格だ。情報しか行き来できない中、一応、電波を扱う魔導具も試作しているが、現在、想定されているのは、相手の世界が創った発信器からの電波を、自分達が創った受信機で捉えるという話だ。同じ規格も定め、同じ波長、時間、高度など、手探り状態のまま決めていったが、やはり現物を持ち込めるなら、それを使って確認したいところだ。


妖精の国が建造中の飛行船に電波受信器を搭載することで、重量とサイズの問題は解決できた。飛行船の運用計画の中には、指定高度に滞空しつつ、電波の受信を行うなんてのもある。何もかも妖精界初の話であり、彼らも並々ならぬ熱意を注いでいるのだ。


この辺りの熱意の差についても、誤解を解いていく必要があるだろう。こちらとて、妖精の道を見つける為に樹木の精霊(ドライアド)達を探し回り、交渉をして、共和国やドワーフ達を中心に電波発信器や受信器の製造もちゃんと行っているのだから。


【竜族達】

「死の大地」の実体についての認識が広がっていき、いくら最強の個である天空竜であっても、相手がこれほど広大とあっては、群れでなくては対処はできない、との認識を持つ竜もちらほら増えてきた。

縄張りが離れている部族も、そんな話ならちょいと観に行ってみようか、なんて話題も出ている。

ただ、それはあくまでもまだまだ遠い未来の話であって、慌てるような話じゃない、なんて空気も根強い状態のようだ。

そして、彼らにとって今、一番ホットな話題は、雲取様達の部族が熱狂的に遊んでいるリバーシのことだった。竜の噂は一日で千里を渡る、なんて話もあるくらいで、幼竜から老竜まで皆が同じ娯楽をしているというのは、竜族の文化からすれば、聞いたことのない話であって、だからこそ、注目を浴びることにもなった。

まだ、近場の部族でもフットワークの軽い若竜達がちょっと覗きに行ってみよう、などと画策している程度であって、まだ訪問にまでは至っていない。ただ、雪が降り始めれば、テーブルゲームを遊ぶことなど無理なので、竜族の流儀に倣いつつも、前倒しに訪問してくる竜達が増えていくことだろう。


あと、あの桜竜がロングヒルの地を訪れた、と聞いて、多くの成竜達は大丈夫だったのか、と慌てることにもなった。緑竜が同席しており問題とはならなかった、アキとの対話も穏やかに行われた、と報告を受けて、ホッと胸をなでおろしたのだが、同時に、よくもまぁ、桜竜相手に上手く立ち回れたものだ、と感心されることにもなった。


子供同士の争いに大人が出ていくような真似はしないモノだが、桜竜は若竜の中では飛びぬけた実力を持っており、雄竜達が尻尾を巻いて逃げていく様を何とも情けなく思っていたからだった。勿論、彼らとて、雄竜達にもっと頑張って欲しいと思っても、それを強いるのは無茶だと理解もしていた。

それに桜竜は暴れ者ではなく、気難しいところがあるといったところであり、そんな彼女が不機嫌になるのも、別に虫の居所が悪いから、なんて話ではなく、同世代の雄竜達の配慮の無さや、思考の浅さ、などに呆れてるから、である。深く考えるより前に手早く動いて片付けるのを好む性格ではあるが、傷つけるのを好むような性格ではない、と皆も知っていたのだ。


だから、アキが桜竜と良好な関係を築いたことには驚いたし、同時に、扱いに困っている連中もどうせなら何とかできないか、などと思われることにもなった。自分達で手に負えない話を地の種族に頼るなんて、と眉を顰める者もいたが、そこはそれ、動物介在療法アニマルセラピーという手法もあると聞いたぞ、なんてネタも出てきたりして、アキや竜神子の活用への興味は増していく一方だった。


この話も、代表達が滞在している最中に、雲取様辺りから相談を持ち掛けられることになるだろう。


樹木の精霊(ドライアド)達】

十七章ラストから二週間しか経過してないこともあり、樹木の精霊ドライアド達の行動に特に変化はなく、新たな共存相手としての地の種族に興味を向ける個体が増えてきた、といった程度だ。


【「マコトくん」の信者達】

弧状列島交流祭りを通じたマコト文書の布教活動は順調で、人族だけでなく、鬼族、小鬼族にもその説話が受け入れられていったのは、マコト文書が語っているのが、地球(あちら)の世界、つまり、こちらと違い、魔力のない異世界の話だから、という点が大きかった。マコト文書では種族差に通じるようなサイズの差、といった部分の話題はまず出てこない。地球には人間しかいないのだから、まぁ当然だ。だから、異種族との交流的な話題はないが、同じ種族内の話、老若男女の話は多く、それらについては共感できる部分も多かったからだ。


また、異種族相手の説法も、ロングヒルで一年間も研鑽を積めば、それなりの実力を備えることにもなり、異種族の一般客相手程度なら、十分過ぎる力量を発揮することにもなった。鬼族や小鬼族の中にも「マコトくん」の声を聞けた、という者も出てきて、神官候補として勧誘も始まっていた。


これが地球なら、「マコトくん」が人族だから、他の種族なんて、という話が湧いて出てくるところだろうが、こちらでは、実際に神の声を聞き、信仰を拠り所とする神術という技も行使できる。宗教によっては特定の種族限定なんてのもあるが、マコト文書はそうではなかった。


こちらにはない世界の話とすることで、こちらの国家との軋轢も生まれにくく、魔力に依存しないシンプルな話は、こちらに通用することも多い。世界の違いを上手く吸収して説法を行う神官達の力量も相まって、連邦、帝国での信者獲得もこの分なら結構なペースで進んで行くだろう。


現身を得た神、依代の君が降りたことで、この件も主要議題の一つとなるのは確実だ。普通なら国家や種族の枠を超えて急速に広がっていく世俗宗教なんてのは、為政者達からすれば危機意識を持つ話なのだから。


ただ、ロングヒルを中心に全てを巻き込んで次々に騒動を起こしているアキがいるせいで、相対的に小さな話に思えてしまうのが悩ましいところだろう。為政者からすれば、天空竜はその総数が三万柱とも言われており、それに比べれば、「マコトくん」など一柱に過ぎない、と。それに、実際に神と称される存在が絶大な力を使い、生ける天災として活動する様に比べると、信仰により形作られる神の在り方はかなり地味だ。


野火のように広がっていくマコト文書の信仰が何を生じさせていくのか。その結果が目に見えてくるには、まだ暫く時間が必要だった。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。


時系列表を更新したり、勢力という視点、技術的視点、人物視点と経ることで、頭の中も整理できる感じです。……結構、十八章で紹介するとしていた奴で、時間軸がそこまで進まず、十九章送りという項目も多かったですね。


<今後の投稿予定>

十八章の施設、道具、魔術     三月五日(日)二十一時五分

十八章の人物について       三月八日(水)二十一時五分

十九章スタート          三月十二日(日)二十一時五分

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