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SS⑥:連樹の巫女と竜神の巫女

前回のあらすじ:半年ぶりに三大勢力の代表達がロングヒルに再び集いました。見てる方向は少しずつズレはあるけど、それでも未来を考えて行こう、という思いに違いはなし。同じ志を持ってる人達が仲間にいるのは嬉しい事です。(アキ視点)


今回は本編ではなく、連樹の巫女ヴィオから見た近況のお話です。読まなくても本編理解には何ら問題はありませんが、読むとより一層楽しめることでしょう。

連樹の里。それは山一つを覆い尽くす連樹と呼ばれる木々を神と崇める一族の住まう地である。


山頂に湖を持つ連樹の山は独立峰としてはかなりの広さがあるが、高さは麓から山頂にある社まで石段が築かれている程度なので、低い方だろう。


山頂まで連樹の木々だけが生い茂り、山頂湖のおかげか水が枯れるような事もなく、その植生はとても豊かであった。


樹木の精霊(ドライアド)が住まう森ともなれば、人々が立ち入ることも少なく原生林のような有様であることが多いが、ここはそうではない。


連樹の声を聞いた民が下草を刈り、密度が高くなり過ぎた木々の伐採を許し、被害を出す魔獣や獣を駆除することで、山全体が里山のように豊かな実りを齎しているのだ。


山頂湖でも漁の期間は短いものの、魚を捕ることもあり、食卓に新鮮な焼き魚が並ぶことになる。漁の時期になると皆も自然と笑顔になり、一族が総出で漁の準備をするなど、ささやかなお祭りといったところだ。


連樹はその名の通り、全ての木々が地下茎で繋がるという独特の生態を持っており、そのため、その木に宿る樹木の精霊(ドライアド)も、個にして全という不思議な在り方となっている。


連樹の巫女は、そんな連樹の精霊の声を聞き、場合によってはその身に神を降ろすことで、民と神の間を繋ぐ役目を担う。


連樹の民にとっては、巫女は自身が崇める連樹の神との間を仲立ちしてくれる大切な存在であり、その地位は一族の長にも並ぶものであった。


当代の巫女はヴィオ一人であり、声を聞くだけでなく、神を降ろせるほどの力量も備えていた事から、大切に育てられてきた。もちろん、こちらの世界の感覚での大切、であって、連樹の民もそう多くはない。なので、伝統と格式を重んじつつも、学問、護身術、巫女としての技の数々を学ぶこととなった。巫女としての仕事がない時には、他の村人と同じように田畑に出たり、森の手入れをしたりという兼業状態だった。


……などと、ちゃぶ台にノートを広げて熱心に話を聞く依代の君に、連樹の里や民について説明していたヴィオだったが、大して面白い話ではないだろうに、とても熱心に聞いている態度を不思議に思って聞いてみることにした。


「君が見た目通りの子供ではないと知ってはいるけれど、毎年同じ事を繰り返す民の素朴な暮らしがそんなに面白いかな?」


つまらないと言われるよりは嬉しいが、晴耕雨読を地で行く、ゆったりとした村人の生き方は、目まぐるしく変化を続ける華やかなロングヒルの街に比べるとかなり地味だ。


ヴィオも外との交流が乏しかった頃は、特に気にしてこなかったが、アキが神に挨拶にきた昨年からは、連樹の社を訪れる人々も多くなり、そしてヴィオを含めた連樹の民もロングヒルの街に足を伸ばす機会も増えた。


何より、人族以外の種族、それまでは昔話に出てきた程度であった鬼族や街エルフ、森エルフ、ドワーフまで頻繁に目にするようになった。お伽噺の住人だった竜族や妖精族ですら、よくやってくる始末だ。そして野蛮で残虐な小鬼族。戦場いくさばでしかまみえることのなかった者達が、理知的で文化人のような振る舞いまで見せる様は、今でも現実味が薄かった。


だが、そんなヴィオの思いとは裏腹に、依代の君、どうみても小学生低学年くらい、ストレートの長い髪と整った顔立ち、華奢な体つきのせいで女の子に間違われることが多い彼は、何を言ってるのやら、と首を傾げた。


「ヴィオ姉にとっては、周りにあって当たり前の光景なのだろう。街から来た者達が、何の手も入ってない砂浜を見て、その美しさに感激する様を不思議に思うようなモノだ。ボクはマコト文書で語られるあちらの世界、ニホンという島国の街中で暮らしてきた、とされる「マコトくん」について皆が思い描いてきた概念、それが現身を得た存在だ。植物と言っても庭木くらいしか目にせず、田畑も知ってはいるが、身近な存在ではなく触れた事すら稀なんだ」


だから、見ること、聞くこと、生き方、その全てが目新しく新鮮に思える、と彼は笑った。


それに、と彼は柱時計を指差した。


「長針と短針だけの時計が時を刻むゆったりとした時間や、縁側から流れてくる草木が風でそよぐ音も、夏休みって感じがして好きだ」


縁側にかけられた葦簀よしずがつくる穏やかな影も良い、とご満悦である。


「夏休み?」


「ん、こちらでは馴染みが無かったか。ニホンでは子供は十五歳までは義務教育として――」


自分が語れるとあって、依代の君は地球あちらの世界、日本の小学生、中学生の過ごし方について、ざっと説明していった。細かく語るのではなく、どういう趣旨で、どんな分野を学ぶのか、体育や家庭科などの授業の意味などの紹介といった切り口である。


ただ、一年前にアキが経験したように、こちらの世界の住人からすると、その教育方針はあまりに歪だった。


「体力など野山で仕事の手伝いをすれば自然と身につく。それに実際に触れてこそ理解も進むだろうに座学偏重が酷く思える。あぁ、そもそも身近な地域に田畑がないのか。それに家庭科? それを教えるのは父母の役目だろう?」


などと、もうけちょんけちょんな有様だった。一応、教員免許を持つプロが教える事で、一定の教育品質を保てる、とフォローしてみるも、機織りや裁縫、それに炊事や洗濯などは、ある程度の経験を積まなければ身につかないと、ヴィオは呆れる始末だった。


そして、だからこそ、依代の君が連樹の森や里、社に足繁く通い、もう一ヶ月近くが経過してもなお、色々なことに興味津々なのにも納得することができた。


つまり、未体験の異国であり、文化であり、暮らしなのだ。ヴィオがロングヒルの街に行くと、華やかで目新しく思うのと同じで馴染みがないからこそ、新鮮に感じる、とまぁそういう話と言えた。


ここで、もう少し踏み込んで聞いていれば、斧を振るうと一回で薪ができるとか、道具を組み合わせるとすぐ何かが完成する、というアクションも、現実にはこんなに手間がかかり、手先の器用さ、慣れが必要なのか、と妙な驚き方をしていることに気付いたかもしれない。イベントがどうだとか、移動できる場所が増えたとか、妙ちくりんな言葉がちらほら出てた事への疑問も解消した事だろう。


依代の君にとって、農村での暮らしとは、テレビゲームの中で上っ面だけ認識してる程度に過ぎず、しかも彼自身はゲームで遊んだ、という実体験すら無い。暖を取るならエアコンのスイッチを入れる、なんて程度の認識しかないし、何なら寒い、暑いという体験すら、知識としてしか知らなかったのだ。


ヴィオにとっては、やること為すこと、何でも興味を示し、喜んでる依代の君は、色々と突飛なことをしでかすものの、見た目通りの子供といったところであり、それにしてはかなり聡く、年上とも思える事のある深い思索や発言をして、何とも目が離せない存在であった。





依代の君は、本人も男の子である、と自認しているせいか、その行動は見た目と違って、かなりやんちゃなモノがあり、我思う故に我あり、を地で行くだけあって、普通の親なら真っ青になるような振る舞いもよくしでかしていた。


特に、二体目の依代に降りて、共和国で秘書人形のロゼッタから教育を受けるようになってからは、その傾向に拍車がかかった。


ロゼッタ曰く、「アキ様も指摘された通り、依代の君は、一般向けに検閲されたマコト文書抜粋版の記述がベースとなっている為に、性格の光の面ばかりが多くなり、バランスを欠いてマス。闇の暗さを知るからこそ光の暖かさも理解できるのデスヨ」らしい。


ある日は、木々の高い位置で鳴いている蝉の姿を見ようと、幹の僅かな凹凸に指を引っ掛けながら、飛ぶように駆け上っていき、突撃してきた子供に驚いた蝉が飛んで逃げ、彼はソレを捕まえようと手を伸ばして……当然のように体が宙に舞うことになって、多くの枝に体を打ち付けながら、地面に落ちることになった。


同行していたヴィオも普通なら大怪我間違いなしの落ち方に顔を青くしたが、折れた枝や沢山の葉を服に纏わせた彼は、けろりとした顔で体を起こすと、ちょっと転んだかのように、服の汚れを手で払った。


「馬鹿! なんて真似をするんだ! ……怪我はないか?」


ヴィオも目に見えた傷もなく、魔力にもまったく淀みも揺れもないので、問題ないと感じつつも問い質した。


「もうちょっとで手が届いたのに。ん、怪我? ボクなら心配はいらないぞ」


依代の君は何でもないことのように告げたが、そんな態度にヴィオにも怒りが湧いてきた。


「君は平気かもしれないが、私は君が落ちるのを見て心臓が止まる思いだった。アキは慎重過ぎるが、キミはもっと落ち着くべきだ」


背中についてる枝葉を取りながらも、あぁ、服も破れてるじゃないか、とヴィオはお冠だ。そんな彼女の勢いに、彼も、バキバキと枝を折りながら落ちるのも面白かった、などと口にしてはイケナイと悟っていた。


「……心配を掛けたようで済まなかった」


殊勝な態度で、頭を下げると、ヴィオも多少は怒りの感情が収まってきたようだ。


それでも、彼が連樹の里に通うことになった経緯を引っ張り出して、帰りは歩きながらお小言を言い続けることになった。


「キミがここに来てるのは、単に遊ぶためじゃなく、自身の力を制して人の暮らしの中で、安全に過ごせるようになる為だろう? キミの力は身体強化をした大人並みかソレ以上だ。やろうと思えば家屋だって紙細工のように壊せてしまう。けれど、それじゃ駄目だから訓練してるんだったよね? それなら――」


モノを作るのがどれだけ大変か、手間が掛かるのか体験するためにも、大工仕事を体験させようとか、思いつくままにヴィオは、体験リストを増やしていった。


依代の君も、どれもやったことがないので面白そうと思いつつも、今、それを口にするとやぶ蛇なので、貴重な体験になる、ありがとうと感謝を思いを告げて、嵐が過ぎ去るのを待つことにしたのだった。





そして、屋敷に戻ると、泥だらけの埃だらけで、あちこち服も破れている依代の君に、他の大人達も驚くことになり、そうなった顛末を聞くと、不用意に枝を折られた連樹の神に詫びろとか、下手に身体強化して走ると獣道が崩れるとか、ソレはもう非難轟々となった。


彼らも依代の君が見た目通りではないことは知っており、自身らの神でもなく、崇められるような態度も好まず、この地にいる時は子供として扱うよう言われてたので、遠慮なく文句を放ち、そして、それでも怪我が無くて良かった、風呂を沸かすから汚れた体を洗ってこい、と苦笑いしながらも許すのだった。


薪を焚べて湯を温める様子を熱心に眺める彼の様子に、大人達も釣り上げていた眉を撫で降ろすことにもなった。


そして、窯風呂に入ることになったのだが、そこで問題が起きた。


鉄釜を下から薪で熱する訳だから、当然、窯風呂の底は熱くて、そのままでは火傷をしてしまう。


だから、浮き蓋に上手く乗りつつ、足元に沈めて湯船に浸かることになるのだが、依代の君には決定的に体重が足りなかった。


「ヴィオ姉、風呂に入れないんだ、助けてくれ」


などと言われて、覗き込むと、依代の君を乗せた浮き蓋は、その浮力で彼の体を完全に支えていて、まったく沈み込んでくれなかった。


そんな様子と、普段のませた態度とのギャップもあって、ヴィオを大いに笑わせることになった。


神術を使えば沈めるのは容易だが、それを選ばない敏さも微笑ましい。


「それじゃ大人が一緒じゃないと風呂は無理か。では、私が一緒に入ろう。私も汚れてたからちょうどいい」


などと、手早く衣服を脱いで、湯船に入る前に体を洗うヴィオに、依代の君は、浮き蓋の上で、それを咎めるという何ともコミカルな反応をすることになった。


「ヴィオ姉、も、もっと婦女子として慎みを――」


「そんな台詞は、せめて一人で風呂に入れるようになってから言う事だ」


頬を赤くしながらも、男子の前でみだりに体を露わにするものではない、などと主張する彼だったが、子供の背伸び発言と軽く流され、ヴィオに抱えられて湯船に浸かることになった。


彼が大人の姿になれる変化の術に強く興味を示したのも、こういった体験が少なからぬ影響を与えていたのは間違いないだろう。


まぁ、ヴィオの方も、彼の初心な反応が何とも可愛らしく思えて、少し悪ノリし過ぎたか、と反省することにもなった。


彼の強過ぎる神力に、他の者では対応が難しいという真っ当な理由もあるのだが、先程の振る舞いだけ見たら、揶揄ってるようにしか思えなかっただろう、とも。


それでも普段、振り回されてる分、これもまた情操教育だ、などと自己弁護しつつ、どの辺りまでならいいだろう、なんて次の算段をしてたりするのだから、ヴィオもなかなか良い性格だった。





五✕五のミニ将棋や、九路盤囲碁と言った初心者向けのセットで駒の動かし方を学び、アキが竜族にリバーシを紹介したなら、そちらにも手を出して。ヴィオと依代の君は、派遣されてきた先生に指導を仰ぎながら、完全抽象アブストラクト系ゲームの遊び方、扱う概念を学び続けていた。


学ぶとは言っても、遊びであり、互いの手を読み合うことも楽しさ、奥深さを理解することに重きを置いてくれていたから、つまらないと投げ出したりすることもなく、理解を深めていく事ができた。


途中からは、普通の倍の大きさの駒と盤を用意して、連樹の木陰で打つようにしてみたりと、連樹が遊ぶ様子を眺められるよう工夫もするようになった。


そして、これは予想外だったが、連樹の神がより熱心に意識を向けてきたのが試合の後に行う感想戦だった。ヴィオ、依代の君がそれぞれ、何を考えて打ったのか、より良い手は無かったか、何処が誤りだったか、と言った事を語り合いながら、和気藹々と話す様を眺めるのが一番のお気に入りだった。


ヴィオは何回か、自身も打ってみないか誘ってはみたものの、連樹の神は、二人が考える様から、それが現実世界の何に該当するのか、自身の振る舞いとの関連性は何か、といったところへの思索を深める事に重きを置いており、そのような場が持たれることは無かった。


それでも、当初はあまり興味を持っていない様子だったのが、二人が対局の場を設けると、明らかに熱心にその様を眺めるようになったのだから、大きな変化と言えただろう。


なお、二人の棋力には大した差はなく、良くも悪くも良い勝負をしており、おかげで場の空気も程良く緊張感を保てていた。





依代の君が足繁く通うこともあって、この夏のヴィオの暮らしは随分と様変わりする事になった。時折、竜も降り立ってくるし、鬼や小鬼の研究者達も連れ立ってやってきた。いちいちヴィオが対応するのは無理なので、神官達が代行することも増えた。


連樹の神からの声は聞けずとも、社のある敷地で、伝えたい事を話し、図表や絵を広げれば、意識を向けられていることは、誰もが感じる事ができたから、ヴィオが不在でもそれ程困ることは無かったのだ。


勿論、帰る前にはヴィオも連樹の神からの声を聞いて、それを伝えてフォローはしていた。そして、だからこそ、ヴィオをまた、彼らの話す内容を概要程度には把握するようになったし、それがあるからこそ、神からの返答や質問も的確に伝えることができたのだった。




連樹の巫女ヴィオは、様々な取り組み、研究に対しても理解しており、話をしやすいなどと話題になった事も呼び水になったのか、ロングヒルの連邦大使館に招かれることになった。


何でも研究組の今後の活動方針を話し合うことになり、連樹の神も絡む話なので同席して欲しい、との事だった。


「連樹の神には、世界樹との間の取持ちもお願いしたいと話してた。ヴィオ姉も今後は他の面々と話す事も増えるだろうから、良い機会だ」


などと同席する依代の君は楽しげだが、ヴィオは内心、憂鬱な気分だった。今回は研究組も全員参加ということで、小型召喚体で天空竜の紅竜も来ると言う。彼ら竜族の、心の内まで見通す竜眼の目線が苦手だった。


アキは全く気にしてないどころか、竜眼を使うのを歓迎しているかのようだった。


「アレは天空竜への愛が上限到達カンストしてて、竜眼を使われても、熱心に話を聞いてくれてると喜ぶ始末で当てにならん」


などと依代の君も呆れ顔で、ヴィオもその意見に異論は無かった。


それに、様々な種族が連樹の社にやってくるようになったからこそ、見えてきたモノもあった。研究組の面々からは、アキと同じ匂いが感じられたのだ。勿論、匂いと言っても本当の匂いではなく、その思考や物事への視線、物事への軽重の基準のズレというか歪み、といったモノだ。研究のために常識が邪魔なら、取っ払え、なーんて姿勢スタンスがアリアリと感じ取れた。


温和で思慮深い振る舞いに騙されてはいけない。連樹の巫女として、神に近付く輩を見極める目を養ってきたヴィオだからこそ、気付ける異質さ、決定的な違和感だった。


人々はそれがどんな豪傑であろうと、俊英な者でも、高位の存在に対しては、頭を垂れざるを得ない。膝を屈して願いを伝え、対価を払い、得られた恵みに感謝し、神との取引、望みが適った事を慶ぶものだった。


しかし、研究組の連中には、そんな意識は欠片も感じられなかった。そもそも竜族、妖精族は連樹の神に対しても並ぶ立場としか考えてないし、他の者達も、優れた存在、敬意を払うに相応しい力を持つ相手と認識はしているが、それは同僚に対するソレだった。


ウォルコットの助手人形でもあるマコト文書の神官ダニエルもこの意見には同意しており、秘書人形ロゼッタへの対応も含めて、彼女と手を取り合って行うことにしたくらいだ。口惜しいが、単独ではまるで勝負にならないのだから仕方ない。


そして、極めつけがアキだ。今回の話も「死の大地」の浄化作戦への参加も、連樹の神にも利があるのだから、一緒にやりましょうよと、お友達感覚で誘ってきていた。振る舞いや発言こそ、神への敬意を示していたが、根底にあるのはそんな感覚だった。


同じ巫女でもエラい差だった。ヴィオが考える巫女は、己が神を敬い、信仰心を持ち、同じく信仰する民達と神を繋ぐ者だった。直接のやり取りができない両者を繋ぎ、神と信者それぞれに恵みを齎し、共に生きるよう尽力する、重圧のかかる大切な役目であった。


なら、竜神の巫女はどうか。


そう問うた時、アキのそれはあまりにヴィオのそれとは違っていた。


アキは自身を、竜と人の間に立ち、両者の間を繋ぐ者とよく話している。巫女と言いながら、竜族を崇拝してないし、繋ぐ人々も信者ですらない。誰よりも竜族を深く理解し、溢れる愛は理解できる範囲を軽く超えている。その傾向は依代の君にも強く現れていて、だからこそ二人の根は一緒と確信することにもなった。


ザッカリーの司会に従って、各自が着手している研究について発表をしていくが、ヴィオには話されている言葉を理解するだけの下地が無く、話が頭を素通りしていくようだった。


言葉はわかるのに意味がわからない、何を示しているのか、その先に何があるのか、イメージがあまりにボヤけていた。


なので、途中からは面々の研究にかける姿勢や、それぞれの関係に注意を切り替えていく事にした。


そもそも神と共に生き、一年周期で繰り返される営みをゆっくり歩むのが連樹の民であり、巫女だった筈だ。


妖精界だの、世界の外だのと言う御伽話、望む生き物を創り出すなどという話とは、無縁だったろうに。


アキの師であるソフィアが白竜と共に、さらりと異種族召喚を試してみた、などと暴露するのを聞いた瞬間、ヴィオは悟るのだった。


これは理解の外にいる連中であり、我が神や民の為にも、皆がこの色に染まらないよう尽力せねばならない、と。


……それでも、幼い頃から自分を見守り続けてくれた連樹の神であれば、こんな連中のように常識を蹴飛ばして捨てるような真似は為されないだろう、などと思うのだった。


皆を客観視する存在がいたならば、ヴィオの思考が、信仰し崇拝するという枠に嵌って狭まっていると指摘できただろう。たが、そんな存在は居らず、彼女は幻の願いを抱き続ける事になった。


ヴィオが、己の神が、本質的に動物とは異なる、樹木の精霊(ドライアド)に属する存在なのだ、と悟るのは、参謀本部の開設から随分、日が経ってからとなった。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


ヴィオも去年までは、連綿と繰り返されてきた生活スタイルがそのまま続くものと考えていたんでしょうね。それでも周囲の環境は大きく変化し、連樹の神もまた巻き込まれていくとあっては、そこから背を向けて暮らしていける訳もなし。それと依代の君(二人目)が共和国で生活を始めた事で、秘書人形ロゼッタが早速、不満に思っていた育成方針の叩き直しに着手しました。

ヴィオもダニエルも頑張ってはいるんですけど。


十七章時点では、悪い見本としてロゼッタのようにはなるまい、と女子会の面々が団結してたものの、依代の君の教育係にロゼッタが据えられた意味を、まだその頃は認識できてませんでした。

あと、女子会も全員が同じ方向を向いてない事も明らかに。


ロゼッタの教育方針によって荒れた状態から立ち直ったのがリアであり、そんなロゼッタに感謝し共にあったのが父母(ハヤト、アヤ)であり、主たるミアでした。それに女中三姉妹は魔導人形であり、その思想の根底にあるのは街エルフの流儀。


マコト文書の神官として信仰に目覚めた魔導人形のダニエルが極めてレアな特質を持っていた、というのが客観的な判断でしょう。


ケイティは高名な探索者ですが、そもそも街エルフが運営している孤児院の出身ですからね。実力で生きていけるよう、種族特性に合わせて長い時間もかけて教育されており、その教育は当然、資金を出してる街エルフの流儀な訳でして……。


女子会において、連樹の巫女ヴィオと神官ダニエルが手を取り合うのはある種、必然だったと言えそうです。



<今後の投稿予定>

十八章の各勢力について      三月一日(水)二十一時五分

十三~十八章で詰み上がった案件×三十 三月一日(水)二十一時五分

 ※勢力紹介とセットで投稿します。

十八章の施設、道具、魔術     三月五日(日)二十一時五分

十八章の人物について       三月八日(水)二十一時五分

十九章スタート          三月十二日(日)二十一時五分

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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