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18-28.半年ぶりの再会

前回のあらすじ:桜竜さんの恋路支援について、ケイティさんから「誰かの応援をすれば、誰かの反感を買うのは避けられない」と忠告されることになりました。それに桜竜さんと話をしてみて、雲取様に恋する七柱の雌竜達よりも、手を出すのが早いというか、そうして片付けたほうが楽、という傾向が強いとも感じたのが気になるところ。まぁ日本だって決闘が罪とされ、法律で規制されるようになったのは明治時代になってからですから、竜族の事を野蛮とか蔑めるほどお上品かと言えばそうでもないんですよね。あとドイツなどヨーロッパ諸国だと学生決闘メンズーアがが未だに受け継がれているくらいですから、文化として尊重すべきな気はします。(アキ視点)

家族総出で、代表達と何を話すのか、どこに注意すべきか、僕の起きている時間が限られる中、それ以外の時間帯をどう活用するか、なんて話をギリギリまで話し合った。


ロングヒル発のイベントについては、各勢力の関係者が本国に適宜報告してるし、それとは別に僕の方からも親書や私信を送り合ってることもあるから、僕が絡んだ話で、代表達が知らないって事はないと思う。


逆に、各勢力側で起きたイベントについては、他勢力に直接の影響が出るような話以外はなかなか伝わってはこないから、今回、秋の集いは、互いに持ち寄って相談し合うことで、新たな動きが生まれるかな、とは思う。


竜族は全体としての纏まりはないから別とすると、今回は連合、連邦、帝国、共和国、妖精の国の五勢力が集うことになる。


このうち、共和国の長老ヤスケさんがロングヒルに常駐しているし、妖精の国の女王シャーリスさんはなんだかんだ言って、結構な頻度で喚ばれてきているから、疎遠って感じはしないんだよね。そもそもお爺ちゃんが常に傍にいるし、いざとなれば、妖精界にいる本体のお爺ちゃんと、召喚体のお爺ちゃんがそれぞれ別に行動もできるから、ちょっとシャーリスさんと相談してみる、なんて具合に結構、気軽に話を伝え合えるのだから便利なものだ。


それに比べると、残り御三方、ニコラス大統領、鬼王レイゼン様、ユリウス帝はいずれも各勢力の首都にいるから、何をするにも往復なら二~三日はかかる遅さがネックだ。このうち、連合のニコラスさんは、財閥の通信網がカバーしているし、同じ連合内ということもあって、頑張れば一日でやり取りできなくもないけど、まぁそれはよほどの時だけだからね。


あと、何気に互いに情報を伝え合うレスポンスが鈍いのが竜族だったりする。ロングヒルにやってくる皆さんのこちらでの活動については把握できてるけど、竜達が自身の縄張りに戻って何をしているのかは、話してくれない限り知る方法がないからね。竜の側も、地の種族の活動には無頓着で、これまでに竜側から行動してきたのって、実は妖精さんが光の花を空に描いた際に、雲取様が降り立った時くらいなモノだったりする。あと、竜の活動は基本的に個で閉じてて、広がりが乏しいというのもあるかな。まぁ、近頃は雲取様が連携行動を試していたり、若雄竜達がリバーシを起爆剤に部族内の交流を促したりもしてるから、変わりつつはあるけれど。まだまだこれからってとこだ。


って感じに、竜神の巫女としての僕とリア姉、マコト文書専門家としては僕と家族三人で意識合わせを終えた訳だけど、まだ前準備はこのままでは終われない。僕達の活動基盤が自立できてるならそれでいいだろうけど、政治的には共和国が、経済的には財閥が支えてくれている以上、彼らとの認識のズレは避ける必要があるからだ。


あと、代表達の集いとなると、流石に財閥は並ぶ訳にはいかない。実質的には並んでる気もするけど、あくまでも下支えする裏方に徹しているのだから、自分達からわざわざ出ていく筈もなし。


ということで、本島とレーザー通信を繋いで、財閥代表である家令のマサトさんと秘書のロゼッタさん、それに長老のヤスケさんも交えて、課題について意見交換を終えたのだった。勿論、予め、ベリルさんがリストアップしてくれた三十項目については資料を読んで貰っていたから、各人が伝えたいこと、気になること、知りたいことを話して、それを元に議論を行う、といった形をとった。そうでないと時間がいくらあっても足りない。


財閥としては、各種魔導具開発、呪い研究チーム派遣、竜族への契約概念の浸透、依代の君の活動や立ち位置辺りが重点項目といったところ。依代の君はロゼッタさんが教育係をしているからという意味で、財閥としては彼の神力やマコト文書に絡む宗教は扱いが難しいので踏み込むつもりはなし、と。


共和国の方は、竜族社会の変革、契約概念の浸透や群れとしての活動強化、それと各勢力の軍事専門家を集めた参謀本部設立辺りが重点項目とのことだ。街エルフにとって竜族は不俱戴天の仇、そんな竜族の社会が変容していくとなれば注目せざるを得ないし、捨て去った故郷、失われた「死の大地」の浄化作戦を推進する機関となれば、参謀本部の設立にも並々ならぬ熱意を注ぐのも無理もなかった。





僕は、各勢力から届けられた参謀の方々の資料を眺めながら、ちょっとお爺ちゃんに聞いてみた。


「ねぇ、お爺ちゃん。この資料だと近衛さんが参加することになってるけど、あちこち兼務してて大丈夫なの?」


シャーリスさんがこちらに来る時には護衛をしてるし、妖精の国では近衛の役職名の通り、女王陛下を護る近衛兵達を束ねる立場でもあるし、聞いてる感じだと常設軍の指揮なんてところも担ってる感じなんだよね。


「あぁ、奴は役職を変えたんじゃよ。奴は総司令官とこちらの参謀を兼務、代わりに部下の一人を新たに近衛長に任命し、それとは別に軍司令と、飛行船団の提督のポストを作った。国の護りと、外征部隊の指揮を分ける話は昔から出てたからのぉ。それに飛行船団は遠征が基本となるから独自に判断できる裁量も与えるんじゃ」


「夢が広がるね。船団ってことはもう二番艦以降の計画もあるの?」


これにはお爺ちゃんも、よくぞ聞いてくれた、と胸を張った。


「うむ。まだ計画段階じゃが、一番艦の運用結果をもとに改良した船とするつもりじゃ。それにアキも言っておったように、まともに運用するなら一隻が実任務に就き、一隻は整備、一隻は訓練というローテーションで運用するのが理想じゃからな。実際、一番艦の建造に合わせて乗組員の訓練をしとるが、手間取っておる。それにやはり実際に動かさねば実力も育たん。そして、ファウスト殿からも教えて貰ったが、遠征をしてきた艦船はやはりあちこち傷むモノで、再遠征の前にドック入りして整備する必要があるそうじゃ。じゃから、儂らも飛行船は最低でも三隻は作ろうと思っとるんじゃ」


まぁ、飛行船と言っても、乗員は一隻当たり多くても十人程度のようだし、それが三隻なら、妖精さん達の人口から言っても、十分、運用できるってことだね。


それでも、飛行船を建造、整備する体制、設備、物資の確保なんかを考えると、大規模な国家事業なのは間違いない。


「近衛さんも出世したと言えるけど、現場で束ねるのとは違うから苦労するかも」


「まぁ、これもまた奴には良い糧となるじゃろう。だいたい奴がいつも現場に出ていては、後継が育たんからのぉ」


 それもそうか。


「妖精の国も変わっていくんだね」


「この一年、こちらとの密な交流を重ねたことで、異文化に触れた驚きの時期は過ぎ去り、自分達の文化や社会を見直す気運が生まれてきたんじゃよ。こちらもどんどん変わっていくが、儂らとて負けてはおれんのじゃ」


 おぉ、鼻息が荒い、荒い。


「飛行船の就航となればお祭り騒ぎだろうし、前の彫刻の時みたいに、撮影して様子も見せてね」


「うむ、任せておけ」


えいっと杖を振って、お爺ちゃんはポーズを決めて宣言してくれた。就航の日が楽しみだ。



…あ、これも代表達に話すネタかも。んー、でも妖精界でしか飛ばない話だし、こちらでは、街エルフの有志の皆さんが趣味で作ってる程度のようだから、もし、関連する話題が出たら触れる程度で考えておこう。気楽な話題としては丁度良さそうだ。





そして、代表達のロングヒル入り当日。


前回と違い、弧状列島交流祭りを開催中でロングヒルにやってきている参加者達が大勢いること、各勢力がアピールする意味も薄くなったことから、それなりに見栄えがする程度に抑えた代表団が時間帯をズラして来訪することとなった。


行列を眺めに行っていたお爺ちゃんの言によると、各勢力とも前回よりも文官の比率が大幅に増している雰囲気だったとのこと。春に比べると実務的な話が激増するのが解ってるからね。妥当な判断だと思う。


雲取様を呼んで再会を祝う式典セレモニーは明日だけど、時間が中途半端と言えども、集った初日を無駄に過ごすのは勿体ない。


ということで、別邸の庭先にテーブル席を設けて、顔合わせをすることになった。


公式な場ではなく、皆さん、格式ばった服装は無しと話は通してあったから、僕もワンピの上にボレロを着て、雲取様の装身具ブローチを付けた程度の略式の装いで参加だ。


毎度のことだけど、もう皆さんは集まっていて、僕が最後の到着だ。


大きなテーブル席には、仕立ての良いシンプルな服装だけど筋肉のボリューム感が凄いレイゼン様、サッパリとして小洒落た装いのニコラスさん、ラフだけど軍服チックなユリウス様、落ち着いた色合いで涼し気なヤスケさん、秋に合わせて紅葉のように鮮やかな服を着てるシャーリスさんが和やかな雰囲気で談笑している様子が見えた。


半年ぶりだけど、こうして揃うと、やっぱり嬉しいね。


レイゼン様が、おう、やっと来たか、なんて話し掛けてくれた砕けた姿に頬が緩んでくる。



ん、大丈夫。感情は跳ねてるけど、手綱で制せられる程度。


ヤスケさんの反応を伺うと、仕方ない、って感じで黙認してくれた。


それじゃ、懐かしさ、嬉しさ、楽しさ、色々話したいもどかしさ、なんてところをギュッと詰めて。


『お待たせしました。こうして集えたことに感謝し、皆さんを心から歓迎します』


溢れる思いを言葉に乗せて、祝う気持ちを素直に笑顔で伝える。


自己イメージ強化後の声を始めて聞いた三人は驚きの表情を浮かべたものの、やはり笑みを浮かべてくれた。


「アキ、見違えたぞ。そして、余もこうして会えたことを嬉しく思う」


ユリウス様にそう言われると僕もちょっと誇らしい気分になれる。


「話に聞いた自己イメージ強化か。こちらにいる間だけでも俺達も鍛えて貰うのもいいな」


レイゼン様は相変わらず、手が届くなら掴み取ろうって感じで、そんな変わらぬ姿もまた嬉しい。


「歓迎の気持ちは十分伝わったよ。ただ、明日も今くらいで抑えてくれ。もう胸が一杯だ」


なんて、ニコラスさんは片目を瞑って微笑んでくれた。なんか前回より格好良さが増してる。




そんな三人の答えを聞くと、楽しげにふわりと舞いながらシャーリスさんが寄ってきた。


「アキもその技を使いこなしておるのぉ。教えた甲斐があったというものよ」


ぽんぽんと頭を撫でて褒めてくれた。


だけど、そんな様子を見たヤスケさんが目を細める。


「まったく余計な事をしてくれたわ。その技は便利だが、連発されると相手が疲れると思え。そんな真似をせんでも、アキの心の内などここにおる者は皆わかっておる。使用は控えよ」


 ぐぅ。


「乱用はしません。ところで、皆さん、楽しそうに何をお話してたんですか?」


椅子によじ登って、誠意をもって約束し、積もる話はあるけれど、取り敢えず、教えてと聞いてみる。そんな僕の態度にヤスケさんはちょっと不満そうではあったけれど、話題を教えてくれた。


「課題が山ほど積み上がってることは皆、理解しておるが、その中で各自が一番重視する事は何か示し合えばどうか、と話しておったのだ」


「それは面白そうですね、えっとそれじゃ、用意も整いそうなので、一斉に書いて出してみますか」


ベリルさんが手際よく、フリップボードと太ペンを用意して配ってくれたので、各自が書くことに。ちなみにシャーリスさんは、お爺ちゃんがボードを支えて、太ペンを力術で操作して書く、という器用な技を出してくれた。


「では、皆さん、書き終えたようなので、一斉に出しましょう」


どんっとタイミングを合わせて、全員が一斉にフリップボードを裏返して見せてくれた。


ニコラスさん、レイゼン様、ユリウス様の三人は全く同じ「直通回線ホットライン開設」、ヤスケさんは「契約概念浸透」、シャーリスさんは「妖精の道の探索」、そして僕は「桜竜さんの恋路支援」。


いやー、揃ってるというか分かれてるというか、あー、うん、三人からの圧が凄い。


皆さんも、他の面々の書いた内容に目を通して、色々と思うところはありそうだ。それでも、フリップボードの内容を肴に、何故多くの課題の中からそれを選んだのか、理由を話し、それに対して意見を出し合うことで、他勢力の思惑や自勢力の立ち位置もある程度見えてきた。


 未来を話そう


意見は違うし、求める先もズレはある。だけど、その思いだけは間違いなく皆が共に抱けていた。そう共感できたことで、誰からともなく笑い出し、そしてそのまま、再会を祝したささやかな宴会へと突入していくことになった。


僕達の関係ならこれくらい緩く始めるのが相応しい。そう思える楽しい時間を過ごせたのだった。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


色々と不穏な流れもあったものの、取り敢えず、半年ぶりに三大勢力の代表達がロングヒルに集うことができました。皆さん、元気そうで何よりでした。


アキの方も家族と手分けし、共和国や財閥との認識合わせも済ませたので、これで滞在期間中は自分の担当部分に集中することができると思ってるようです。しかし、まぁ、同じ出来事とて見る者によって見解が異なるように、代表達が何を重視するか示したら、結構バラけました。ロングヒルから遠い三人の意見は揃ってましたけどね。


さて、これで十八章が終わりました。三章単位で単行本一冊相当ということで、次の十九章からは七冊目相当のスタートです。週二回投稿してるのに、ここまで執筆してやっと初年度終了とは……。


今後の投稿予定ですが、今回は、定番の設定紹介×3とは別に、SS⑥「連樹の巫女と竜神の巫女」も投稿していきます。連樹の巫女ヴィオ視点の短編です。


<今後の投稿予定>

SS⑥「連樹の巫女と竜神の巫女   二月二十七日(日)二十一時五分

十八章の各勢力について      三月一日(水)二十一時五分

十三~十八章で詰み上がった案件×30 三月一日(水)二十一時五分

 ※勢力紹介とセットで投稿します。

十八章の施設、道具、魔術     三月五日(日)二十一時五分

十八章の人物について       三月八日(水)二十一時五分

十九章スタート          三月十二日(日)二十一時五分


十八章も終わってキリも良いので、感想、ブックマーク、評価、いいねなど何らかのアクションをしていただければ幸いです。それらは執筆意欲のチャージに繋がりますので。


<雑記>

SS⑦「研究組にお仲間認定されて」、森エルフやドワーフ達の視点から、研究組に巻き込まれることが確定した出来事を描く短編を考えてみましたが、あまり話に奥行きが出ないので没に。


SS⑧「自己イメージ強化と絡みつく思惑」、18-28の簡単な宴の後に、半年ぶりに会った者達の変化に驚いた代表達がソフィアやエリーを呼んで、自己イメージ強化をした者達の変貌ぶりをあれこれ話す~なんて短編、これは実は一回ざっと書いてもみましたが、残念、こちらも話に奥行きが出てこない感じになったので没に。本編ではさらりと数行で「試している者達からも話を聞いてみたが~」って感じに語ろうと思います。


<活動報告>

以下の内容で投稿しました。


雑記:松本零士さん死去。享年85歳

雑記:笑福亭笑瓶さん急逝。死因は大動脈解離

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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