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18-27.積み上がっていく代表達への相談事

前回のあらすじ:桜竜さんの恋路を応援するちょっとした提案をしましたが、緑竜さんから予想外の宿題を貰ってしまいました。桜竜さんも参考程度と口では言ってるけど、明らかに期待してて、大変そうです。(アキ視点)

桜竜さんの恋路支援の為、各種族で類似の事例があれば教えて欲しい、という親書というか、私信をしたためて、代表の皆さん宛に急いで届けて貰うことになった。僕としてはもう、代表の皆さんがやってくるまで二日と迫ってるのだから、わざわざ厳重に封を施された親書を送らずとも、来た時に話せばいいんじゃないか、と話したんだけど、これにはケイティさんが駄目出しされた。


「アキ様、確かに親書は安くはありませんが、話を聞きたいと願ったのが竜神となれば、話は別です。その言は王が出向いて話を伺うに値する重みがあります」


そう話すケイティさんの目はマジだった。


「軽々しく扱うべきではない内容だという点は僕もそう思います。あの場に居合わせた全員に、その場で釘を刺しておこうと判断したくらいですから。でも、今から送っても移動中に目を通すくらいじゃありません?」


「それでも、きっと代表の皆様は、自分の記憶頼りにその場で答えればいい案件とは思われないでしょう。道中に考えを巡らせる時間を得られるだけでも、十分な価値があったと評価していただけると思います」


 ふむ。


ちょっと、お爺ちゃんの意見を聞いてみよう。


「儂か? あの場に居合わせた女王陛下も困った顔をされ即答を避けていたであろう? 悩ましい話じゃよ」


「妖精さん達って長命種らしく恋愛には寛容で事例には事欠かないとかじゃないの?」


僕の問いに、お爺ちゃんは渋い顔をした。


「事例があるのと、それが社会的に認められているかは別じゃろう? あまりに歳の差があれば、儂らとて、それをあまり快くは思わん。恋は盲目と言うように、恋の病にかかっておると、冷静なようで、その心の在り方は平時とは違うからのぉ」


幼い側が恋に恋するような有様だと、下手に忠告を促しても反発するだけじゃし、と面倒なんじゃよ、と遠い眼差しまでされてしまった。


ケイティさんもそれに深く頷いた。


「障害があるほど恋心が燃え上がるのは、どの種族でも同じなのですね。アキ様、翁も話したように、事はその種族の文化にも絡む話なのです。誰も好き好んで火の中に飛び込みたくはありません」


 おや。


「他人の恋バナほど美味しいモノはない、ってミア姉は一般論として話してましたけど」


「それは、恋の実りに繋がるような微笑ましい話であって、ドロドロとした互いを傷つけあうような話は、誰だって近寄りたくないものです」


 まぁ、それはそうか。


「んー、でも桜竜さんはサッパリした性格だし、白岩様は落ち着いた余裕のある方だから、そう揉める話にはならないと思いません?」


そう指摘すると、ケイティさんは子供の意見を聞いたように苦笑した。


「アキ様、ご自分でも指摘されていたでしょう? 白岩様は立派な成竜、縄張りもお持ちで黒姫様にも並ぶ方です。他の雌竜達がそんな優良物件を黙って見てると思いますか? 桜竜様は若竜の中では高い実力をお持ちなのは確かですが、成竜達から見ればまだまだ子供。それが自分達を押し退けて白岩様に求愛するのを傍観するとでも?」


甘い、甘いですよ、アキ様、などと駄目出しされた。


 ぐぅ。


ケイティさんに、雲取様達の部族の関係図を引っ張り出して貰い、今言われた視点から改めて見てみると、うーん、雲取様と七柱の雌竜のように傍目からもわかりやすい恋愛関係ではないけれど、つがいとなって子を育む年代、つまり成竜だけに絞って眺めてみても、確かに桜竜さんの強敵ライバルになりそうな雌竜は少なくない。


とはいえ、実際に求愛されていると聞いてる訳でもない。


「僕が桜竜さんの恋路を応援する事を緑竜さんは気にしてませんでしたけど」


「それは、自分と雲取様の恋路に絡まないから気にされてないだけです。アキ様が覚悟しておくべきは、桜竜様の恋路で火花を散らす事態になった際に、競う雌竜の方々の不興を買うかもしれない、という事です」


 げ。


どうも気持ちが顔に出たようで、ケイティさんに呆れられた。


「アキ様、全員から好かれるなんてのは無理なのですよ? 誰かに肩入れすれば、それを良く思わない者は必ず出てきます。桜竜様の件は、アキ様も応援されると既に伝えているので、今更それを撤回される気はないと思いますが、後から知らなかった、その気はなかった、などと逃げるのだけは駄目ですよ」


それは、桜竜様に対しても誠意を欠く振舞いです、と注意された。


 め、面倒臭い……。


そう言えば、クラスの女子達も誰が好きだ、嫌いだとグループを形成して、笑顔を貼り付けながらチクチクやり合ってたね。男同士の方がシンプルでいい、女子の関係はぐちゃぐちゃしてて嫌だ、なんて姉さんも愚痴ってたっけ。


「そんな真似をする気はないですけど。ほら、街エルフの恋愛観のように、どうせ結婚しても子供が成人すれば関係を解消することも多いのだから、桜竜さんが勝っても、今回は譲ってやるか、くらいの気持ちで、こう、穏便に済みませんかね?」


「それは雲取様や福慈様、黒姫様によく伺っておくべきでしょう。ですが揉め事を力比べと称する争いで決着されるような方々です。女同士の取っ組み合い(キャットファイト)などと呑気に眺めていられるとは考えぬべきです。何せ相手は天空竜なのですから」


戦争で大量の銃弾が飛び交う騒音問題にガチギレして、怒りの勢いで城塞都市群を灰燼と化した雌竜達の争いが穏便に済むと思います?、などとケイティさんに問われて、確かに認識が激甘だったと反省するしかなかった。


「……代表の皆さんが到着されるまでに、その辺りの話を聞いておきます。心話の予定を組んで貰えます?」


「それが良いでしょう。スケジューリングはお任せください」


ケイティさんもいくさの準備をするように神妙な顔で頷いてくれた。





代表達のロングヒル入りが迫る中、様々な資料作成にサポートチームの皆さんが最後の追い上げに入り、共和国としても受け入れ態勢を整えるべく、仕事で帰国していたリア姉達もロングヒルに戻ってきた。久しぶりの家族勢揃いだ。


再会の挨拶もそこそこに、居間にホワイトボードが用意され、そこにはずらりと、えーと三十に及ぶ案件が列挙されていて、それらについて認識合わせの場を設けることになった。


ベリルさんが纏めてくれたおかげで、代表と要相談な案件、新設される参謀本部で扱う案件、各勢力で認識合わせをすべき案件がグルーピングされていてわかりやすい。


とはいえ、多いなぁ。


「ここ半年で起こった案件だけなのに多いですね。息の長い取り組みが多いから仕方ないところはありますけど」


こんなにあったっけ、と思わないでもないけど、一つずつ追っていくと、確かに終息してなかったり、派生した案件に続いてたり、そもそも着手したばかりだったりと、どれも見覚えのある話ばかりだ。


僕のコメントに、リア姉もその通りと頷いた。


「代表達ときっちり相談しておくべき案件だけで、①依代の君降臨、②連樹の神の浄化作戦への参加、③若雄竜達に竜族社会に新構造を導入することを提案、④自己イメージ強化手法の扱い、⑤研究組の統制とそれに伴う竜族社会への契約概念導入、⑥リバーシに竜達が熱狂してる件、⑦桜竜様の恋路支援、⑧帝国都市の防疫・医療体制拡充の件、と大物が目白押しだね」


これに母さんも意見を付け足した。


「勘違いしてはいけないのは、それ以外の案件も相対的に重要性、優先度を下げているだけで、決して粗雑に扱ってはいけないモノということね。竜族の創造術式と竜眼を用いた医術、アキと翁が進めてる映画製作、妖精達が創り上げた夜空をプラネタリウムで再現する件、帝国の帆船を共和国に招く件も、他に比べれば小さいけれど、その政治的な衝撃インパクトは軽視できないわ」


並んでる項目の中では、母さんがあげた四件はへー面白そうだね、で終わりそうに思えるけど、交流がない勢力間、これまでにない試みとなれば、その衝撃インパクトはそれ単体では終わらず、次々に波及していくと思うべきということだろう。実際、映画製作はもっと竜のことを知って貰おう、親しみを持って貰おうという狙いもあるし、三大勢力が手を取り合って対処した歴史的な活動の紹介を示すことで、統一国家成立に向けた機運を盛り上げるつもりもあるからね。


父さんも僕が抱いているであろう思いを代弁してくれる。


「竜族関連の話は、これが地の種族内の話であれば、わざわざ取り上げるような真似をする必要はない話だろう。リバーシに皆が熱狂してると言われても、好機を逃さずゲーム盤を売り捌こうと商人達が動く程度だ。他の件にしても牧歌的な暮らしをしている村人達に、商取引を持ちかけるにせよ、後腐れのないよう取引内容を見張らせる程度で済む。だが、相手が個で一軍に匹敵する天空竜、それも下手をするとその総数三万柱の動向すら左右しかねないとなれば、話は別だ」


FXでレバレッジ百万倍とかで取引してるような話だよね。人同士なら、誰かが諍いを起こした、痛い目に遭ったと言っても大した話じゃないけど、それが竜同士となれば、城塞都市が消し飛び、地形が変わるような天災にならないとは言えないのだから。


何をするにも、話がすぐ大きくなってしまうから、竜族の絡む問題は大変だ。


ん、お爺ちゃんも意見を出してくれた。


「代表達との相談や、新設される参謀本部の検討には含まれてはおらんが、例えば、樹木の精霊(ドライアド)達の分布を調べて妖精の道発見の手助けとする件は、儂ら、妖精の国の側も絡んでくる。次元門構築という視点からは重要な取り組みであり、二つの世界に跨る難度の高い挑戦じゃ。代表間では方針の最終確認程度で済ませるにせよ、事務方同士はきちんと話と詰めねばならんぞ」


妖精の国が絡む件ということもあり、お爺ちゃんもきっちり念押ししてくれた。嬉しいね。


「世界間を繋ぎ、これまでにも何回となく発見されている現象だもんね」


ん、ケイティさんがそこは手配済み、と教えてくれた。


「アキ様、研究組が主体となって動くべき案件については、各勢力と別途検討を進めるよう手配してますのでご安心ください。アキ様は代表や参謀の方々との話し合いに専念していただければ十分です」


 ふむふむ……ん?


「ケイティさん、参謀本部設立の話は、以前、ロングヒルにいる方々向けに行った概要説明の資料があれば、それを各勢力から集った優秀な軍師のような方々が実務レベルに落としていくだけでしょう? 質疑応答の時間を設けるくらいじゃないんですか?」


バグラチオン作戦や攻勢作戦編成ストライクパッケージの話を咀嚼して、こちらに合わせた仕組みや組織を作るだけでも時間がかかるから、その辺りが煮詰まるまではお任せかなって思ってたんだけど。


僕の疑問に、ケイティさんはそれでは足りない、と指摘した。


「アキ様、各勢力から集う参謀の皆様はきっと、事前の要望を満たす方々、軍事の戦略、戦術レベルに精通された精鋭かとは思います。ですが、「死の大地」の浄化作戦は、彼ら、軍人の流儀だけで成し遂げることはできない。そうではありませんか?」


 ん。


「ですね。規模が大きく、祟り神が手強い相手なので誤解しがちですけど、浄化作戦の名の通り、その場に縛られた呪いを開放して、大地を蘇らせる活動ですから。竜族の皆さんも集団行動に慣れてない素朴な村人達ってとこですし、皆が集って行う社会貢献ボランティア活動と看做すべきでしょう。呪いが大地に点在する状況にまで持っていくのは竜族頼みですが、参謀本部がなければ成功は覚束ないと思わせる必要もあります。それに――」


「アキ様、そこまでで十分です。軍事的な統制、運用は必要ではあっても、その本質は社会貢献ボランティア活動だ、などと言う認識は、普通の軍人の頭からは出てきません。与えられた駒を用いて作戦を成功させるのは得意でも、作戦に必要な駒が何か導き、それを用意し、滞りなく動かす視点を持てる大局観を持てる軍人も稀です。それとこれが最大の問題ですが、天空竜相手に地の種族の権力、制度など何の意味もありません。軍人同士ならば上位命令系統からの指示に従うのは当たり前であり、各自がそう動くことを国が保証する訳ですが、天空竜達はそうではありません。そして天空竜達との多くの調整において、両者の仲を取り持つ竜神の巫女の存在は不可欠です」


ケイティさんの説明に、お爺ちゃんが解りやすく補足してくれた。


「命令に従うのが軍人、しかし今回、作戦に従事するのは好意で参加してくれる素人達であって、命令を聞く義務もない。水と油ほどに違う両者を繋げる者、竜神の巫女の存在なくして、両者は混じり合わんという事じゃよ。アキにできることは、参謀本部設立の際に積極的に関与して、自分の関わる部分をできるだけ少なくするよう働きかけること、ということじゃな」


その説明に、皆もその通りと頷いた。


 ぐぅ。


「資料を読み終えること、集った参謀同士の意見交換まで一通り済ませるとこまではお願いしますね。多分、代表の皆さんと話してると、そこまで手は回らないので」


「お任せください。マコト文書に精通されている皆様も戻られたので、それらについては手分けして対応しておきます」


なるほど。だから、家族三人が到着に合わせてロングヒルに戻ってきた、と。


それからは、全三十項目について、誰が対応するか、気を付けるべき点はどこか、なんてことを一つずつ丁寧に確認していくことになった。一見、状況確認するだけに思える案件であっても、次に何をするべきか、報告のどこに気を付けるべきか、なんてとこは話し合ってみると、視点の違いもあったりするから、チェックを終えるだけでも結局、一日作業となってしまった。


まぁ一日作業と言っても僕が起きていられる時間を目一杯使った、という意味であって、しかも大筋を確認できたら後の詰めはお任せ、という有様だったから、急ぎ足もいいとこだったんだけどね。


それでも、家族総出でマコト文書に詳しい要員が四名に増えたから何とかなりそうだ。思ってた以上に案件が積み上がってたからほんと、助かった。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


アキの桜竜の恋路応援は良い事ばかりではなく争いの火種になる危険を孕んでいるとの指摘も受けることになりました。まぁ、ケイティの言う通り、誰かの応援をするってことは、対抗する相手からすれば、邪魔な奴ってことですからね。仕方ない話です。


そして、家族総出で洗い出しをしてみると、半年の間(十三~十八章)に案件が三十件も積み上がってることが判明しました。基本、アキは案件を見つけて提案はしても、誰かにお任せしてるのと、息の長い取り組み、派生する話が多いので、随分増えました。いつもの章の纏めに追加して、積み上がった案件一覧も掲載しますね。勿論、それを読んでおかなくても問題はありません。大半は結果か経過を聞くだけ、本編でもさらりと流す程度か、他は冬の間は休んで春に再開だね、といった程度となるでしょう。


次回の投稿は、二月二十二日(水)二十一時五分です。

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