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18-26.桜竜の恋路を応援したい(後編)

前回のあらすじ:桜竜さんが第二演習場にやってきたんですが、心を触れ合わせて思い描いたヤバさと、実際に目の当たりにしたヤバさにはかなりの開きがあって、他の皆が持ってた危機感を意識することになりました。反省することしきりです。(アキ視点)

話をする前に一応確認しておこう。


『桜竜様、この話題ですけど、この場にいる者の中だけの話ってことでいいですか?』


この場、というのは第二演習場に今いる面々、という意味を込めて。別に隠したい話ではないとは思うけど、だからといった吹聴して回るような話でもないよね、というニュアンスを込めてみた。


<別に恥じる話じゃないから、それでいいよ>


桜竜さんもサクッと了承してくれた。ただ、思念波からは、気に入らない事が起きたなら、乗り込んで片付ければいいや、って手の早さに通じるような軽さも感じられた。


 ちょい釘を刺しておこう。


声の届く者全てへと警告を込めて。遠くへと届くように。


『他人の恋路を邪魔するような奴は馬に蹴られて死んでしまえ、とも言いますからね。皆さん、他言は無用ですよ?』


ちょい、雲取様の真似をして、広く拡散していくイメージも思い描きながら、思いを声に乗せてみた。


ん、良し良し、周辺警戒の任に就いている森エルフさん達やスタッフの皆さんも含めて、見える範囲の人達にはきっちり声が伝わったようだ。


 げ。


ヤスケさんがちょい怒ってる。杖を振るうと、僕の耳元に風と共にすっごく渋い声が響く。


「それ以上、感情を込めるでないぞ、馬鹿者!」



 あぅあぅ。


そんなやり取りを見て、桜竜さんが笑い声を上げた。


<話には聞いてたが、地の種族は面倒だねぇ。群れは大変だ>


『惚れた、腫れたって話は感情的になりやすいですから。では話をしましょう。と言っても、大した提案ではないんですけどね』


<アキの大したことはない、は要注意だよ>


緑竜さんがやんわりと忠告してきた。桜竜さんも興味深そうに目を細めながら続きを促した。


『桜竜様は白岩様が好き。でも桜竜様が成竜になるには時間がかかる。白岩様は若竜をつがいの相手とみるような方ではない。だから桜竜様の恋心は当面成就しない。困った話ですよね。時間が解決してくれそうですけど、他に魅力的な雌竜さん達も多く、桜竜様が成竜となる頃には、もう白岩様の隣は埋まってるかもしれない』


絡み合った条件のせいで、桜竜さんの恋心に白岩様が応えてくれるルートは全て塞がってるように思える。これは悲しい。まぁ、そう言いながらも、桜竜さんが不機嫌にならないよう、話す声にも、今の枠組みでは、という条件を付けて、諦める必要なんてない、という思いを乗せておく。


おかげで桜竜さんも、さぁ続きを、と催促してくれた。


『ところで桜竜様、少し繊細な話題ですが、幼竜との交流、触れ合いに不自由されてますか? そしてできればそれを何とかしたい、と思われてます?』


これだけ魔力の安定感が乏しいと、多分、他の若竜と違って、幼竜の世話は禁じられたりしてそうだ。そして、この問いは確かに繊細なところを直撃したようで、苛っとした意識が伝わってきた。


<何とかできるならしたいね。で、アキがそれを何とかできるって言うのかい?>


半端な気持ちで言ったなら怒るよ、と睨んでくる。おぉ、怖い、怖い。妖精トリオに緊張感が走ったけど、軽く手で制して、笑みで応える。


『桜竜様が改善に真剣に取り組む姿勢を見せるなら、何とかできるかもしれない案があります。桜竜様、白岩様が鬼族の力を制する技に深い興味を持ち、その技を竜族に取り入れようと試行錯誤されている事を御存じでしょうか?』


ポーズで怒るような話題だぞ、と示してるだけで、しかもその眼差しはそれを受けた僕の反応を見極めようという冷静さが見て取れた。それに緑竜さんも全く慌ててないからね。


軽くいなして、話を振られた桜竜さんは、さっきより更に本腰を入れて話に意識を向けてくれた。


<大まかな話は知ってる。足繁くここに通って、鬼と人形が武の技を交わす様を熱心に観察してるのだろう?>


 ふむ。


『そう、それです。あと、連邦領に一緒に飛んで貰った時に、まだ試行の域ではある、とのことでしたが、実際に力を抑えて飛ぶ様を実践してみせてくれました。竜族の技だけの時より明らかに力を上手く制されてましたよ』


座席ハーネスを取り付けて、空を一緒に飛んだんですよ、と説明すると、桜竜さんも興味を示してくれた。


<その話の流れだと、私もその技を学べって事かい?>


 んー、惜しい。


『白岩様が学んでいる相手、鬼族のレイハさん、鬼人形のブセイさんはそれぞれ鬼の武を組み手などの形で実践しますが、ソレをそのまま竜が使える訳ではありません。教えたくても体の作りも大きく違いますからね。だから白岩様はその様を竜眼で丹念に観察して、自身が色々と試し、そこで浮かんだ疑問を話し合って共に考える、といった活動をされてます。地の種族がイメージする師匠と弟子といった関係とは違い、そうですね、共同研究者といった間柄かと思います』


身振り手振りを加えて話してみたけど、いまいちピンとこない感じだったので、お爺ちゃんに投槍を撃ちだす試技をして貰い、それを桜竜さんに竜眼で観察して貰う、という疑似体験をして貰った。


<興味深い技だね。視て学ぶ、か。ある程度、イメージできたよ>


 良し。


『つまり、僕の提案は、白岩様と共に鬼の技を学ぶ共同研究に参加されてはどうか、というモノです。白岩様も苦労されているように、これは一朝一夕にできる話ではありません。また雌雄の違い、若竜と成竜の違いもあるので、桜竜様が参加されることで得られる新たな視点は、研究への新たな知見を与えてくれるでしょう。白岩様も自身を竜眼で観察はできませんからね。鬼の技を取り入れた自身の動きを竜眼で観察して貰えるだけでも、大いに研究は捗るでしょう』


一緒に居られる時間も確保できるし、研究を通じて自身の力も制することができるようになるし、研究という枠の中ではあるけれど、互いを深く知る事にも繋がる、と話したんだけど、桜竜さんはと言えば、ボフッと頬を赤くして目を泳がせた。


<竜眼で互いを視る!?>


嬉し恥ずかし乙女心って感じに感情が乱れた事で、桜竜さんの魔力制御が外れて、荒れた魔力が噴き出した。すかさず緑竜さんが障壁を展開して横に逸らしてくれたから被害なし。


 ふぅ。


『桜竜様、リバーシの件と根は一緒です。研究に真剣な気持ちで取り組み、相手を視る行為は、怪我の治療と同じ。そこで浮ついた意識など持っては、邪魔だと追い払われるだけですよ。だから聞いたんです。真剣に取り組めるか、と』


研究に取り組んでいる時は、二柱は共同研究者であって、それ以外の意識を混ぜるのは相手に失礼だとも伝えた。そして、研究を通して互いの考え、意識を深く知り、信頼関係を築いていく事はできるでしょう? とも話して、本気で捉まえたいなら覚悟の決め時ですよ、とも煽ってみる。


 おー、迷ってる、迷ってる。


でも、迷ったのは数秒程度か。桜竜さんは不敵な笑みを浮かべた。


<やってやろうじゃないか。ここで怖気付くなんてのはあたしじゃない!>


もう見惚れるくらいに迷いない眼差しを向けてくれた。とても綺麗だ。


『いいですね、そう答えてくれると思ってました。無いとは思いますけど、もし白岩様が煮え切らない態度を取るようだったら、僕も心話でがっつり説得しますよ。女が覚悟を決めたんだから、それに応えるのが男気ってなもんだぞ、ってね』


そう笑うと、緑竜さんが楽しそうに笑いながらも疑問を口にした。


<これは白岩殿も大変だ。ところでアキ。共同研究者となることで、信頼関係を築くことはできそうだ。それに長い時間共にいることで他の雌竜達を牽制することもできるだろう。だが、まだ幼いと見られている桜竜への意識を乗り越えてつがいになる、という部分に話の飛躍があるように思うのだが>


 まぁ、そこのハードルは高いよね。


『そこはそれこそ演出次第、努力次第ですよ。僕の師でもあるミア姉も実演してくれましたが、ちょっとした仕草、意識の持ち方、振舞いを変えるだけで、生真面目な教師、家族としての気楽な姉、ドキドキさせられるお姉さん、と別人かと思うくらい豹変する様を魅せてくれましたから。桜竜様も研究を通じて力を制する実力が高まれば、幼竜の相手をしたり、それを通じて母竜達からも色々と学べます。共同研究者として信頼を築きつつ、共にいる時間を通じて研究以外も知り合い、そして堅実に子育て等も学ぶことで、ふと気付けば立派な成竜、つがいの相手に相応しくなっていた、と意識させることも可能でしょう』


見せる面の落差と、きっちり切り替えて魅せるのがポイントですよ、と伝え、その為には常に白岩様と共にあるのではなく、ある程度は自分の時間を確保し、成竜となる為の活動時間も確保して行くことが大事、そうでないといつのまにか成長していた、というインパクトが与えられない、なーんて感じに話してみた。


これには桜竜さんはなるほど、と頷いて、色々と思い描いてくれたんだけど、緑竜さんはといえば、何とも面白いところに気付いたって感じにニンマリと笑みを浮かべた。


『緑竜様、何か?』


桜竜さんにも声が届くように、という思いだけを声に乗せる。何せ、どう見ても僕を揶揄う気満々な目だ。下手な感情を乗せると藪蛇になるからね。


<いや、ね。確かに一緒にずっと過ごしていたら、いつのまにか、なんて落差は演出できない、という部分はその通りと思ったよ。ただ、その別の面だけど、アキはそれを見せられた体験はあっても、自分でそれを為した経験が無いように感じたんだ。その実践部分だけ急に話がぼんやり、ふわっとした感じに変わったからね>


などと、ニヤニヤ笑ってる。あー、何とも鋭い観察眼だね。


『そこはほら、僕は基本、偽らない誠意ある態度を心掛けてますから』


なんて感じに惚けてみたけど、緑竜さんはうん、うんと頷きながらも何とも困った提案をしてくれた。


<アキが誠実なのは知ってるとも。ただ、事が恋路となると、マコト文書の知を参考に、後は桜竜が工夫して頑張れ、というのはやはり心許ない。幸い、アキには多くの頼りになる縁者達もいるだろう? そこで提案だけど、もっとしっかりとした実体験ベースの助言も集めるというのはどうだろう? 地の種族の数は多い。きっと婚姻を結ぶには若い女と、壮年の男の恋物語もあるだろう。桜竜、聞いてみたくはないかい?>


緑竜さんの提案に、桜竜さんも前のめりになるような気持ちを表してくれた。


<それは聞いてみたい!>


 ぐぅ。


桜竜さんはキラキラした熱い視線を向けてきてるし、緑竜さんも無言の思念波で、煽って終わりじゃないだろう? なんて催促してきた。


『伝手を頼ってみます。ただ、あまり過剰な期待をしないでくださいね』


既婚者は多いし、種族の伝手も豊富だから、その手の話も少なくない数は集まるとは思うんだよね。それでも、一応、予防線を張ると、二柱とも苦笑しながらも同意してくれた。


<鬼の武を研究するのと同じで、参考にするだけさ。それでも竜の流儀で手詰まりだったのに比べればありがたい話だ。楽しみにしてるよ>


桜竜さんはすっきりした顔をして、過度に期待してない、とアピールしてくれた。


 あぁ、でも。


思念波からは、それでもきっと参考になる話も色々聞けるだろう、と皮算用してる胸の内が垣間見えた。


 これは思った以上に重い宿題だ……。


この思いに共感して貰おうとシャーリスさんに視線を向けると、そんな話をこっちに振るな、とばかりに目を逸らされることにもなった。ここは任せておけって仕草(ジェスチャー)でも返してくれると期待したんだけどなぁ。残念。


まぁ、それでも、多少の荒れはあったものの、桜竜さんとの最初の相互接触(ファーストコンタクト)は、懸念していた事故も起きず、楽しい雰囲気で終えることができたのだった。

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桜竜だけなら言い包めることもできたところでしたが、緑竜の竜眼はアキのふわっとしたところも全てお見通しで、しっかり重い宿題を課されることになりました。


それでもまぁ、若竜の中でも筆頭に挙げられる気性の荒い雌竜相手に軟着陸させたのだから、アキとしては大成功な最初の相互接触(ファーストコンタクト)だったと言えるでしょう。


こういう成果の積み重ねが、また、竜族内でのアキの評価に繋がっていく訳で……。


なお、一応、竜神の巫女として代役を務めることもあるリアですが、同じ真似ができるかと言ったら、当然無理でしょう。いくらどの竜とも心話ができると言っても、火薬庫の中で火遊びしつつ、時折、爆発が起きても横に控えている緑竜がフォローしてくれるから問題なしと、顔色一つ変えずに話を続けるなんて真似は、まぁ無理です。


今回の件は、ヤスケもしっかり教育する、と明言してましたし、十九章ではお灸を据えられるのは確定です。


次回の投稿は、二月十九日(日)二十一時五分です。

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