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18-25.桜竜の恋路を応援したい(前編)

前回のあらすじ:桜竜さんと心話をしてたんですが、緑竜さんの予想通り、第二演習場にやってくることになりました。ただ、エネルギーが有り余ってて不安定な感じがあるので、緑竜さんに立ち会って貰うことに。まぁ緑竜さんがいてくれれば安心です。(アキ視点)

桜竜さんとの心話を終えると、お爺ちゃんに風を操って貰って、緑竜さんとヤスケさんに、この後、桜竜さんが第二演習場にやってくる旨を伝えて貰った。青竜さんはリバーシの対戦を終えて既に帰路についており、緑竜さんはロングヒルの文化系支援スタッフさん達とお話中だった。


<……桜竜の借り一つで私が立ち会い?>


「はい。心を触れ合わせた感じだと、こちらに来ている他の皆さんに比べると、力の安定性に不安があるように思い、提案させて貰いました」


緑竜さんは少しお爺ちゃんに視線を向けてから、改めて確認してきた。


<私は桜竜がアキに危害を及ぼしそうになったら、翁よりも早くそれを止めればいいのね。アキはそれでいいの?>


 ん?


『はい。緑竜様が立ち会ってくれるなら安心です』


ここはしっかり思いも届けた方がいいと判断して、命を預ける事になるけど不安はないこと、面倒な話に巻き込んで済まないと思う気持ちを言葉に乗せた。


それを聞いた緑竜さんは、少し困った顔をしつつ、こちらにやってきたヤスケさんに発言を求めた。


<アキはこう言ってるけれど、ヤスケ殿もそれでよい?>


絞った思念波が僕宛に放たれる関係で、そこに込められた思いも伝わってきたけど、信頼されていることを嬉しく感じてはいるものの、僕を諫める思いや、ヤスケさんを労わる気持ちすら含まれていた。


ヤスケさんもジロリと僕に向けて、多くの思いを含んだ眼差しを向けながらも、襟を正して、緑竜さんへと頭を下げた。


「アキを宜しくお願いします。後ほど()()()()言い含めておきます」


()()()()、と強調した物言いに緑竜さんも深く頷いた。


<アキは割り切りが良過ぎ。不安に思ったなら、桜竜が己が力を制するまで会うのを先送りする手もあった。次からは七柱の雌竜(わたしたち)がいても、新たな竜を招く前に相談しなさい>


お爺ちゃんが桜竜さんの不本意な問題行動を止めるには、術式なら発動前に基点を潰す、羽や尻尾を動かして当たる可能性があるなら、投槍を神経節に打ち込んで反射で動きを変える、みたいな話が必要になってくる。お爺ちゃんは竜に比べれば相対的には力が弱いから、竜の動きを止めるには竜の鱗を貫通するような痛撃を与えて、集中を乱したり、動きを変える必要が出てくる。


そして、そんなお爺ちゃんの初手よりも早く緑竜さんは桜竜さんを叩かないといけない。緑竜さんなら力は十分あるから、無理に鱗を貫通するような技でなくとも、長い首を跳ね上げるとか、後遺症が残らない形での対処もできる訳だ。


ただ、その難度は竜族にとっても決して低くない。


緑竜さんも、桜竜さんの来訪は予想してたものの、その力の不安定さまでは想像してなかったようで、いきなりの無茶振りに、かなり渋い気持ちになっていて、桜竜さんから踏んだくってやる、なんて思いも伝わってきた。


そして、リスキーな話なのに、緑竜さんなら安心、と命を預ける僕のことを危なっかしいと強く感じたようだ。


「すみません。次からは気を付けます」


素直に謝ると、お爺ちゃんからも杖で頭をこんこんと叩かれた。


「アキ、儂は確かに子守妖精としての務めは果たすが、本人すら意識していない挙動で害してくるのを止めろ、というのは容易な話ではないんじゃぞ? しかも、その相手が鬼族辺りまでならともかく、竜族とあっては、安請け合いできん。緑竜殿、助っ人を何人か喚んでもいいじゃろうか?」


お爺ちゃんの提案に、緑竜さんも賛同を示した。


<そうしてくれると助かる。アキも反省すること>


緊急召喚される妖精達も大変、お礼を忘れずに、という気持ちまで伝わってきた。というか、発言とは別に、口にはしないけど窘めたいことを意図的に渡してきた感じだ。


「ごめんなさい。今後は同意する前に相談します」


もう平謝りするしかなく、急ぎの召喚に応じてくれたシャーリスさん、近衛さんからも、友達を自宅に招くノリで竜族に対応しては駄目だ、と怒られることになった。竜の側にその気はなくとも、大きさがこれだけ違えば、来訪時にもそれとなく配慮を促すくらいの気遣いをするのが互いの為だ、と。


皆の意見に、足元に寄り添ってくれていたトラ吉さんも、ぺしぺしと僕の足を叩いで、反省しろーと皆に賛同する姿勢を見せてくるほどだった。孤立無援、四面楚歌、これは辛い。


竜と妖精の二重防御があれば安全確保には充分過ぎで過剰かなと思ってたんだけど、認識は甘過ぎと皆から怒られてしまった。


……そして、謝りながらも、ちょっとだけ、やっぱり過剰じゃないかという疑念もあったんだけど。


そんな甘い意識は、傘上の雲(ベイパーコーン)を発生させながら、超スピードでぶっとんできた桜竜さんを観て、消し飛ぶことになった。


そして、そんな飛び方を見て、護りは緑竜&妖精トリオに任せること、自分達がいる方が足を引っ張ると、ヤスケさんがトラ吉さんを説得して、急いで控室に逃げ込むことになった。





魔力の強さは雲取様と同程度だけど、脈動するような荒さがあって安定感が乏しい。しかも、高空ではあるけれど、大気の層を押し破るような飛び方もあって、圧縮された大気が傘上の雲(ベイパーコーン)を発生させていて、かなり遠くからでも、その姿がはっきり見えた。


こちらで初めに観た天空竜が桜竜さんだったら、竜のことを武装ヘリに例えたりはしなかったと思う。飛行、ホバー移動、地上戦のできるアニメの可変戦闘機辺りが妥当だろう。


一応、気を使ってはくれてるようで、こちらを視認した時点で速度を落としてはくれたけど、魔力の強さは変わらない。あ、変わらないんじゃなくて、これでも抑えてくれてる感じだ。


小さな体に、成竜並みの魔力とアンバランスなせいで、制する力が足りてないんだ。


近衛さんが空に描いてくれた光の誘導路に従って、桜竜さんはゆっくりと降りてきたけど、飛び方の制御は、雌竜さん達の初回くらいかな。悪くはないけど、まだまだ粗さが見える。ただ、力の不安定さを考えると、今でも十分、気を使ってくれてる。


<少し距離を離そう。皆は私の後ろに>


緑竜さんが創造術式を使って、少し離れた地点にラインを描き、それに従って位置を変えることになった。桜竜さんは、そんな僕らの行動を眺めながらも、ゆっくりと指定された位置に降り立った。


<済まなかったね。――もしかして怒ってる?>


桜竜さんの思念波は、方向を絞ったものでは無かったので、さっそく緑竜さんの機嫌が悪くなった。


<別に。ただ、思念波は私かアキに絞って。地の種族には負担になるから>


<ごめん。で、そっちがアキか。どれどれ――>


緑竜さんがいるからか、絞った思念波は僕ではなく緑竜さんに向けることにしたんだね。いつもは僕宛に送られてくるから、間接的に触れる思念波は久しぶりだ。


僕だけでなく、召喚された妖精さん達の魔力は完全無色透明な属性もって感知はできてないようで、大して警戒してない緩い意識が感じられた。


竜眼でこちらをじっと眺めているのがわかる。


 おや。


風を操って、シャーリスさんが桜竜さんに話し掛けた。


「桜竜殿、その距離では如何に竜眼であっても妾達の召喚体の在り方までは見えまい。近付いても良いかぇ?」


なんて感じに軽い言い回しだけど、どこか挑発的な顔付きだ。


<では、一人参られよ>


桜竜さんも、相手が誰か知っているようで、同格と看做した物言いをしてくれた。


 ふぅ。


シャーリスさん、明らかにやる気だったからね。下手な態度をしたなら、少しわからせてやろう、なんて意識が感じられた。


桜竜さんからの射線上からズレるように、ふわりとシャーリスさんは近付いていき、桜竜さんが止めるまで大胆に距離を詰めた。




……そして、無遠慮に竜眼でシャーリスさんを視ると、途端に魔力の抑えが弾け飛び、すかさず、緑竜さんの思念波がそれを咎めた。


<落ち着いて! ……それと挨拶を>


緑竜さんの近くにいるおかげで、彼女の魔力は十分に感じることができる。おかげで、今の一言に窘める思いと、促される前に挨拶くらいしなさい、という叱責の思いも込められているのがわかった。


 うん、まぁそうだよね。


桜竜さんも、相手を同格とするなら、初見の相手には挨拶をすべきと判断してくれた。


<気が急いて済まなかった。あたしのことは桜竜と呼ぶといい。妖精の方々の名を教えてくれるか? それと、元の位置まで戻ってくれ。このままでは気が落ち着かない>


眼前にスズメバチがいるような危機意識が思念波からも伝わってきた。まぁ、危機意識といってもその程度ではあるんだけど、竜族からすれば、魔獣であってもさほど危険と感じないくらいだから、十分、珍しい反応ってとこだ。


シャーリスさんはふわりと、こちらに戻ってきて、改めて名乗った。


「妾はシャーリス、妖精の国の女王をしておる。こちらは近衛、そして、アキの隣にいるのが翁。アキの子守妖精、最後の護り役よ。いずれは交流を深めたいとは思うが、此度は事故を防ぐ立ち合いとしてきておる。故にいないモノと思ってくれていい」


そう言いながらも、姿を消すつもりはないようだ。竜眼でいるのは視えるから消える意味はないってのもあるけど、余計なところに力を割く気はない、という意思表示でもある。


<理解した。手を煩わせる事がないよう注意しよう>


取り敢えず、両者の間の無用な緊張は解かれた感じだね。


 ふぅ。


……まさか、こんなに緊張感のあるやり取りになるとは想像してなかった。


この感じだとお爺ちゃんに風を操作して貰うのは微妙だね。では、直接伝えよう。声が届くように、とそれだけの思いを軽く乗せて、と。


『桜竜様、それで竜眼での確認はもう十分ですか?』


距離はあるけど、僕の声はしっかり届いたようで、今度は僕に絞った思念波で答えてくれた。思いを乗せた声には軽く驚いた程度だね。


<視た、視た。もう少し近くで視たいけど、今は止めとく>


そう話したところで、緑竜さんの無言の視線の圧で気付いてくれたようで、尻尾を身体に沿わせると、そこに頭を乗せて羽も畳んでくれた。


<――それで、ここまで来た理由は?>


緑竜さんも少しだけ緊張を解いたけど、尻尾の上に頭を乗せてはいない即応の姿勢は崩していない。そして桜竜さんもそれでいい、とばかりに咎めることはなく、問い掛けに答えた。


<アキが私の恋を応援してくれるってさ。でも、邪魔があれば圧し潰すようなヤバさを感じたから、心話は止めて会って話をすることにした。来て良かったよ>


桜竜さんの物言いに、皆から無遠慮に咎めるような視線がぐさぐさと刺さった。これは酷い誤誘導(ミスリード)だ。


『桜竜様、案出しの時には自由な発想ができるよう、一旦、制約を取っ払った話しましょうって言っただけですよ? 意味もなくあちこち壊すような物言いは誤解を生むので控えてくださいね』


思念波からは、自分が感じた驚きを皆に共有して欲しいって気持ちも感じられたから、僕も本気で怒ってはいませんよ、という気持ちを乗せて抗議するに止めた。


だけど、緑竜さんの魔力からは、なんか納得した感が伝わってきたし、周りにいる妖精の皆さんからも、それなら仕方ないといった反応が伝わってきた。最近、皆の遠慮が無くなってきたよね。


まぁ、ここでその文句を言うほど僕も情勢が読めない訳じゃないから、スルーするけど。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字・脱字の指摘ありがとうございます。自分ではなかなか気付けないので助かります。


アキは竜と妖精の二段構えなら過剰な安全対策だ、なんて認識してたようですが、実際の桜竜を視て、その認識が甘過ぎることを悟ることになりました。最初に雲取様を迎えた時には、かなりの緊張感を持って対峙してたけれど、一年、心話や実際に対面する形で交流をしていけば、同じ危機意識を持ち続けると言うのは難しいことではあるでしょう。


まぁ、今回のことでアキも、ロングヒルに来ている竜達が、竜族の中でもだいぶ品のいい層だということを理解したことでしょう。桜竜も良い子なんですけどね。ちょいと安定性に欠いていて、即断即決、やたらとフットワークが軽く、そしてつい手が出ちゃうだけで。


<補足>

緑竜も体を起こして立ち会ってるように、アキはのほほんとしてますが、周囲は結構な緊張感を持って対面してます。アキ視点なんで、どうしてもその辺りへの認識はゆるゆるですが。

侍で言えば、刀の鯉口は既に切っていて、すぐ抜刀しつつ斬りつけられる状態で待機、くらいのギリギリ感です。翁に風を制御をお願いするのを止めたのも、余計な真似をしていたら初動が遅れるから拒否されると理解してたからです。


アキはそんな緊張感を理解した上で、それはそれ、自分は桜竜を歓迎しのんびりお話するのだ、と意識を切り替えて笑顔で振る舞ってる訳ですから……まぁ、桜竜が成竜相手と気持ちになるのも当然なのでした。


次回の投稿は、二月十五日(水)二十一時五分です。

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