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18-23.桜竜の物言いへの対応(中編)

前回のあらすじ:リバーシ騒ぎについて雲取様、ヤスケさんと対応方針をあれこれ考えました。情報の取り扱いについて研究課題を貰いましたが、なかなか手強そうです。あと、桜色の鱗を持つ若い雌竜、桜竜さんが心話を求めてきたので、そちらも急遽、対応する流れになりました。居合わせた青竜、緑竜の二柱も頑張れ、と応援してくれたりして、ちょっと気になるところです。(アキ視点)

それでは、桜竜さんと心話を始めてみよう。


心話魔法陣を起動して、心を触れ合わせてみると、いやー、これはすっごく特徴的な雌竜さんだ。今まで触れてきた天空竜達は、若竜、成竜、老竜のいずれもある種の落ち着きと安定感があったけど、桜竜さんは、排気に燃料を吹き付けて爆発させているアフターバーナー点火中のジェットエンジンって感じで、突き抜けたレベルの暴れ具合を辛うじて制しているような激しさとギリギリの安定感が両立してるようだ。


 っと。


触れ合わせた心から、何をしてるかわかった。丁度、気が乗らないリバーシに付き合わされて、しかも、ゲームと関係のないところでちょっかいを掛けてきてる雄竜に、苛つきがそろそろ限界突破しそうというタイミングだったからだ。


<お忙しいところすみません。竜神の巫女と呼ばれてるアキですけど、緑竜さんから鱗を渡されまして、第二演習場から心話をしてます。出直しましょうか?>


そう問いかけながらも、気乗りしないなら僕を理由に席を外せばいい、という提案も渡してみた。


<……もう届いたのか。丁度いい。ちょっと待って>


僕との心話を維持しつつ、途中だけど試合を終える旨を相手に伝えて席を外したっぽい。ただ、雲取様や他の雌竜さんと違って、区分けが下手なのか、そもそもあまり隠す気がないのか、呼び止めようとする雄竜に対して、ぐあっと大きく口を開いてしつこいぞ、と圧して黙らせた様子まで伝わってきた。


 いやー、怖い、怖い。


相手の反応からすると、雄竜は哀れなくらいビビり散らして、すごすごと引き下がったようだ。それに桜竜さんも、自分がそういった態度を取れば、相手を威圧できる、という自信、というか、過去の実績も結構あって、それで終わり、とする接し方で軽く追い払えると知っているようだ。


 もうちょい、雄竜には頑張って貰いたいとこだけど。


ただ、桜竜さんの認識フィルタからすると、相手の若竜は、まだまだ子供で、成竜達に比べるとひょろくて弱い、遊び相手にはまぁいいけど、恋の相手としては歯牙にもかけないってとこだ。この経験を糧に頑張って欲しい。


皆が遊んでいる広場から少し離れたところに場所を変えたようで、桜竜さんは僕に意識を戻してくれた。


<待たせたね>


<あ、いえいえ。えっと、鱗の綺麗な色合いに合わせて、桜竜様と呼びますが宜しいですか?>


<好きに呼べばいいよ>


さばさばした感じだね。相手が何と呼ぼうと自分は自分だ、という揺るがない自負がある。


<話し相手としてイメージしやすいように、僕の姿をお渡ししますね>


自身の記憶にある僕の外見や大きさについて、雲取様の傍に並んだ時の様子も合わせて渡してみた。僕は小さくて、まぁ色合いは珍しい感じではあるけど、怖くない相手ですよーってね。


桜竜さんの反応は、まぁ、予想通り、かな。以前よりもクリアな自己イメージを渡せるようになったからか、明らかに僕に対する意識が切り替わったのがわかった。格下である若竜達相手ではなく、成竜を前にしたような引き締まった心だ。


<……話半分と思ったけど、こいつは驚きだ。あたしの姿も教えてやるよ>


そう宣言して渡してくれたけど、ふむふむ。若いと思ったけど、緑竜さんから知ったイメージと同じで、白竜さんと同じくらいの大きさ、ロングヒルに来ている雌竜さん達より一回り小さい感じだ。だけど、自己イメージからすると、見た目は小さくても、他の若竜達になんか負ける気はしないね、という強い認識も持っている。これまでの他の若竜達との交流からも、その力関係の認識は裏付けられていて、成竜にはまだ少し及ばないけど、でも若竜達には負けない、といったところか。


これで、すらりとした小柄な外見、桜色の煌めくような鱗の姿なのだから、パッと見の印象とは偉い違いだ。


<白竜さんと同じくらいでしょうか。でも力強さだけで言えばまるで白岩様のようですね>


リップサービスも兼ねてだけど、その在り方は、スピードタイプの雲取様というより、パワータイプの白岩様だ。


 っと。


<力比べなら、あたしは負け無しさ>


自慢というより、事実の確認といったところで淡々とした物言いだね。でも触れ合わせた心からは、白岩様の系統に似ていると言われたこと……というより、白岩様に似てる、と評されたことを喜んでる様子が伝わってきた。


 おやおや。


っと、そこについて確認する前に、取り敢えず、口上の方から済ませておこう。


<それでは桜竜様、鋼竜様が持ち込んだリバーシについて、物申したい事があるとのことですけど>


そう話を振ると、まるでミキサーのように激しく心が動いて、どれから話すかと迷ってから口を開いた。


<あぁ、ソレだ。確かに面白い娯楽だね。試合がサクサク終わるのもいい。不快な事もあるけど、退屈さに飽いていたあたし達の中でも大人気さ>


さっき、不快な出来事に直面して苛々してたのに、それはそれとして、良かった面をちゃんと伝えてくれたのは予想外だった。物申すと伝えた緑竜さんが少し脚色してたのかも。


でも、褒めてはくれてるけど、リバーシ盤を囲む様子は和気あいあいと言うよりは、もうちょい不真面目さが増えて、よく物語とかで描かれているような、少し怠惰というか気だるげな空気のようなモノもあるようで、それを不快に感じているようだ。


それに、幼竜から老竜まで分け隔てなく交流する、というスタイルもこれまでの竜族文化にはない事であり、近い距離で盤に向き合うのも、ゲームに集中していればそれほどでもないけど、相手が邪念塗れだとストレスになるようだね。


<皆さんに楽しんで貰いたかったので、それは良かったです。何事も始めてとなれば混乱も生じるかと思いますけど、雲取様もそれを心よく思ってはおらず、先々を踏まえて皆がストレスなく楽しめるよう働きかけていくようです。桜竜様も手を貸していただければ幸いです>


雲取様とあれこれ話してきたことについて、ダイジェストのように紹介しつつ、桜竜さんの不満ポイントも放置している訳ではない、と伝えてみた。誰にどこまで何を話していいかは雲取様、ヤスケさんと共に検討し終えていたので問題ない。


 ん。


痒いところに手が届く、というか、白竜さんと話しているようだ、といった連想とか、これが話に聞いていた心の内を読み知るって奴か、なんて驚く様だとか、ぐるぐると何とも目まぐるしく心を変化させた。


<話が早くて楽でいいや。今の浮ついた騒ぎが落ち着いてくれれば、あたしも文句はないよ>


それに騒いでいるのは竜族自身のせいであって、遊びの道具を渡した僕に文句を言うのは筋違い、なんて意識もあるし、ゲーム一つに熱狂する同族に対しては、もっと落ち着けよ、と斜に構える意識も垣間見えた。ある程度、立派で序列も上な大人達が、普段見せないような様子を示すことに呆れているようだ。


すっごく同年代の女の子っぽい瑞々しい感性で、触れてるとニコニコしてきちゃう。


 おや。


そんな僕の嬉しい気持ちに感付いたようで、桜竜さんが何とも居心地悪そうな意識を示した。


<……皆が幼竜みたいだと言ってたのはコレかい>


<僕は小さくて弱いから、人の飼ってるペット枠のようなモノと思ってくれればいいですよ。若竜や成竜ではありませんから、他の方と同じように穏やかな心で愛でてくれると嬉しいです>


大好きって気持ちを過剰になり過ぎない程度に前面に押し出して、どうせなら、近くで桜竜さんの姿を実際に観てみたいとか、どんな魔力なのか触れるのが楽しみとか、陽光に照らされる姿はきっと映えるだろうとか、飛び方はどうだろう、なんて感じに連鎖する気持ちをぽんぽんと渡してみた。


渡された思いに反応して、どう返事をするか迷う間に、次々に渡していくと、ぐいぐいくる幼竜の小ささ、弱さ、脆さに腰が引けて、その扱いに困った記憶が伝わってきた。


 む。


<すみません、困らせるつもりはなかったんです。僕は魔力だけなら雲取様や白岩様、黒姫様から、遠慮なしの思念波で話をされても平気なので、そこは気楽に構えてください>


実際、第二、第三演習場で触れ合った様々な竜達との様子、絞って放たれる遠慮なしの思念波への感覚なども渡して、不意の事故で跳ね飛ばしたりさえしなければ大丈夫、と伝えた。


いつも、やってくる竜達が尻尾の上に頭を乗せて落ち着いてくれている様子も示して、そうする事は互いに安心できるんですよ、と話し、更に、以前、雲取様に寄りかかって休ませて貰い、羽で覆って貰えて、とても嬉しい体験も貰えました、とも教えてあげた。


<理解できた。幼竜のようでもあり、成竜のようでもある。確かにそうとしか言えない。少し、好意は隠してくれるか。心がどうにも落ち着かぬ>


心話だと、直接、思いが伝わってしまうからね。生々し過ぎて対応に困るっぽい。竜族にとっては最低でも五十メートルくらいは話して対峙する距離感なのに、心話だとゼロ距離。それは確かに困りそうだ。


それに、桜竜さんの心は結構な激しさ、というか本人も制しきれない荒さがあるから、そういう意味でも、普段よりは距離を離すよう調整してみた。


ん、いい感じ。僕が近くにいたせいで、どうも成竜相手のような圧を感じていたようで、ホッとした感触も伝わってきた。


<それでは、これくらいで。せっかく心話をする機会も得られた訳ですから、もっと色々お話しませんか? 言葉にするのが面倒なら、思いや記憶をそのまま渡して貰えるだけでも大丈夫です。桜竜様は考えが早いようなので、その方がいいかも>


先ほどまでの会話で垣間見えた様々な出来事、思いについてダイジェストのようにパラパラと渡してみせて、さぁ、ご遠慮なく、と微笑むと、桜竜さんもそんな僕の姿勢を歓迎してくれた。


<あたしに向き合ってるのに、悠然としてる様は好感が持てるよ。それじゃ、気の向くまま話をしてみようか>


最初はちょっと気になったから一度視てみるか、といった程度の軽い気持ちだったのが、腰を落ち着けて、しっかり相手を見極めよう、という意識を持ってくれた。明確に言葉にしない部分に触れて知ることができる、ということを示した事にも、ソレができると手の内を明かした態度に好感を持ち、更に、言いたいことがスパっと伝わる様は白竜さんや緑竜さんと話をしている時のようで心地いいと思ってくれた程なのは驚いた。


何とも竹を割ったような性格で、確かに緑竜さんが好感を持つのもわかる。


そして、それからは渡した記憶の断片への桜竜さんの反応を見つつ、興味の赴くままに心話をしていくことになった。

評価、ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲が大幅にチャージされました。


桜竜との心話も始まりました。触れた感じでは問題なさげですが、本番はこれからです。あと、心話で得た他の雄竜達への印象は、桜竜フィルタがかかってるので、実際にアキが会った場合の印象はこれとは違ってくる可能性は十分あります。ただ、まぁ、こうして本人達の知らないところで、第一印象を得てしまったので、覆すのは大変かもしれません。


次回の投稿は、二月八日(水)二十一時五分です。

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