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18-16.研究組統制案に欠けた視点(後編)

前回のあらすじ:研究組の統制案に、自分のことが入ってないと指摘されて驚きました。異界まで届く数少ない方法として心話が注目されてる関係で、僕まで研究者扱い。まぁ改めて列挙されてみると、確かに怪しい特徴が色々と入ってるので、対象に含めるべきでした。(アキ視点)

凹んでる僕を見て、ミア姉がちょっと苦笑いしながらも、良かったところも褒めてくれた。


「やり過ぎなところはあったし、心に働きかける案はどれも過剰ではあったけれど、研究メンバーへの意識改めを促し、今後の活動ではこれまでよりも踏み留まって考えるようになったのは良かったと思うよ。ただ、情に訴え過ぎると、重い女だと避けられるようになるから気をつけてね」


常に利や論理より情を優先するような子だと、可愛さに目が眩んでる間は気にならないだろうけど、真面目にあれこれ考え出すと、途端に重くて面倒と感じちゃうだろうからね。


何事もバランス、と。


伝家の宝刀はいざという時にだけ抜くから効果があるのであって、普段から抜いてたら、それは普段使いの日用品になって、ありがたみが消えてしまうのだから。


「そういう子は僕も嫌だから気をつけるよ」


リア姉は、幻影じゃ撫でられない、などとボケを混ぜつつ、なら良し、と微笑んでくれた。


「さて。呪言や心話に関する話については、後は他のメンバーのように、対策を思いついたなら語れ、だったね。一般的な心話術師をアキの教育係として付けることも考えたけれど、それは断念したよ」


「どうして?」


「実のところ、心話術師って玉石混合な上に汎用性が低くて、その技法は個人の能力に強く依存している有様なんだ。これには理由があって、魔力属性の相性が悪いとそもそも心話が成立しない問題が大きい。地球あちらで発展してきた科学は誰が行っても同じ手順であれば同じ結果が出るからこそ、その事実の積み重ねで大きく飛躍できた。だけど、相性問題があるから、腕の良し悪しより、相性の影響が大きく、同じ相手に複数人が心話を行って客観的に評価する、といった科学者なら思い付くであろう手法も、実現は困難なんだ。そしてアキの主戦場は高位存在達との心話であって、その部分に関するノウハウをアキほど持ってる心話術師なんていないし、一般レベルの知識なら私でも教えられるからね」


 ふむ、ふむ。


「それじゃ、暫くはリア姉が教えてくれるの?」


「そのつもりだよ。ただ、私も魔導師の資格は持ってるけど、弟子を導く方じゃなく、専門分野を磨いて先に進む研究畑の方なんだ。だから弟子の指導の方は私も学びつつ、竜族の方々に協力をお願いして、高位存在向けの工夫もしていくよ。ただ、私が直接、心話で指導できないから、座学で説明したら、アキは竜族の方々との心話を通じて、自分でノウハウを掴み取っていくことになる。迂遠になるけれど、今はそんなところ」


なるほど。


でも、感性頼りなところが大きい心話において、座学で学んだことがどれだけ活かせるか。難度が高そうだ。


そう考えていたら、雲取様が面白い提案をしてくれた。


<リア、それならば、我も共に学び、二人の間を取り持とう。リアとアキが直接繋がることはできずとも、リアは我と、我はアキと心話を行うことはできている。ならば座学だけで導くよりは、言葉や図に表現しにくい感覚的なところも伝えられるだろう>


「ありがたい申し出ですが、宜しいのですか?」


<我はアキを庇護している。ならばその程度の労は惜しまぬ。それに心話での記憶や感覚の共有を使って、ちと手を借りたいところもあるから丁度よいところだったのだ>


思念波からすると飛行に関する事っぽい。同時に少し話がズレるから後回しにしたい、という意識も感じられた。というかそう提案された感じだ。器用だね。


「僕が学ぶのはどういったことからになるの?」


「弟子を導く観点からすると、少し努力することで手が届く課題を与え、方向の誤りや、過剰な負担を避ける、といった意識を常に持つことが必要になる。それに多少痛い目に遭うくらいなら許容範囲だろうけど、怪我や病にならないよう指導方法も工夫しないとね」


むぅ。言ってることの難度が跳ね上がった感じだ。教師の卵である大学生達が実習として母校にやってくることがあって、歳の近いお兄さん、お姉さんって感じがしてた。だけど、そんな実習生達も、その前に教師となるための前提知識を大学でしっかり学んできてた訳だ。


高校生に求める課題にしては、難度がかなり高めだ。


ん、師匠が手を上げた。


「良い取り組みじゃないか。そうして教える視点を学べば、私が魔術の師としてどれだけ頭を悩ませてるか、少しは理解できるってもんさ。上限はないから、しっかり感謝するんだよ」


などと煽ってくれた。確かに毎回、課題を出すのに苦労されてる感じだし、普通の指導がそのままじゃ当て嵌らないから、悩むところも多いだろう。


「ソフィーには感謝しているよ。アキへの指導で得たノウハウは私も使わせて貰ってるからね。話がズレるから、お礼は別の機会ね」


師匠はわかってるよ、と手を振って答えた。


「話を戻すと、これまで以上に心話を行う相手の状態、変化に気を配ること。それから、何かに挑戦するなら、その結果がどうであってもちゃんと記録を残すこと。やりっぱなしじゃ改善に繋がらないから」


「研究って感じだね」


「だから、アキも研究者なんだよ。雲取様もそのつもりでお願いします。資料として残すのはこちらで行うのでご安心ください」


<理解した。師も弟子もどちらも初心者なのだ。無理をせず進むとしよう。これでアキの研究に対する二重チェックも見通しは立ったな>


雲取様が一緒にあれこれ付き合ってくれるなら、これほど心強いことはない。


 おや?


紅竜さんが割り込んできた。


<今の話だが、私達も共に学ぶことで負担を減らし、複数の竜からの視点を入れることで、客観性を増すのはどうだろう?>


ここで言う私達、は思念波からするとロングヒルにやってきてる雌竜の皆さん全員って事だ。


「確かに、同じ相手に複数人が繋いで客観性を持たせると、研究の質も上がりそうですね。それに雲取様も年配層の方々や他部族との交流で以前よりお忙しい身。良い提案と思います」


僕の為に色々とありがとうございます、という態度で、雲取様に話を振って、気付いてませんよアピールも忘れない。


紅竜さんの思念波からは、ペットに嫉妬する恋人というか、対抗意識を持っても仕方ないと思いつつも感情的に割り切れない、みたいな乙女心が伝わってきたけど、ここでそれに触れるのは無粋ってモノだからね。


この場にいない雌竜さん達への気配りも、こうして捩じ込んでおかないと後で揉める、みたいな計算が垣間見えた。一度、痛い目に遭ってるだけにそこもまた切実だ。


<確かに、手分けした方が良さそうか。皆ならば、アキの言う合鍵も持ち、何も知らぬ若竜を新たに招くよりも、心話への取り組みも捗るに違いない>


うむ、うむ、と雲取様も感謝の意を示した。


「では、アキへの心話に関する指導は、私とロングヒルに来ている竜の方々で取り組むこととします。雲取様、紅竜様、宜しくお願いします」


<任せよ>


リア姉も空気を読んで場を纏めてくれた。雲取様も殆ど意識を揺らがせることすらなく、雌竜さん達が手を組んだ際には、ノーと言わない、という選択肢を自然に選べるんだから凄いものだ。随分、苦労してきたんだろうね。





その後、事故対策への提案、被害で出る前に消そうという竹案についてだけど、マサトさん、ロゼッタさんも含めて、財閥としては興味深い提案であり、契約の概念を竜族が持つことは今後の交流活性化を考えると喜ばしい、と語ってくれた。ただし、研究組の運用と同じかソレ以上に、試行期間を設けて、竜族社会が上手く折り合いをつけていく必要はあり、結論を急ぐべきではない、とも考えたそうだ。


それと、研究組の活動だけだと規模が小さいので、福慈様の部族だけで契約の概念導入を終えても当面支障はない、とのこと。でも契約の概念を全部族が導入するのではなく、一部族だけが導入することが果たして良いことなのかどうか、といった部分は深い検討が必要ではないか、とも語ってくれた。


先々、「死の大地」の浄化作戦を視野にいれると、全部族に契約の概念を普及させて、二十五の攻勢作戦編成ストライクパッケージを運用する際に、それぞれが自分達の仕事を責任を持ってこなしていけるようになるのが理想だ。


目指すゴールはそこ。


ただ、いくら僕が楽観視する方だと言っても、そこに至るまでにはかなりの紆余曲折があるだろうことは否定できなかった。というか、ある程度、挫折や失敗をせず成功体験だけ積み重なったルートの方がヤバいだろう。そんなのは砂上の楼閣であって、あっけなく崩れるに違いない。



その辺りで、回線もリミットに達して、中継も終わりとなった。


でも、大まかな方針は定まり、今決められる範囲はある程度埋まり、後は各自の研究内容をどう横展開し、皆で話し合う基準はどうするか、弱いとされる部分の扱いはどうするか、といった具体的な話を詰めていく段階になった。


ここでザッカリーさんが、全員の参加はここまでとして、この後は主要な研究メンバーだけで運用基準や方法の検討を行うことを提案した。


これには皆も賛成し、一旦、休憩となった。僕は研究者でもある、とはされたけど、実のところ、まだリア姉の指導はこれからであって、研究メンバーの話し合いに加われるほどの知識はない。


なので、ここで僕も開放されることになって、別邸に戻ることになった。


なお、帰りの馬車の中や、隣を歩く態度から、何となくトラ吉さんが焼き餅を焼いてるよう感じられたので、日頃のお礼を兼ねてブラッシングの時間を設けることにした。


 猫は液体。


そんな言葉を思い出すほど、トラ吉さんもすっかりリラックスしてくれて、拗ねた気配は霧散してくれた。ザッカリーさんが小鬼族研究者達にばかりあまり熱い視線を投げないように、バランスが大事と言ってたけど、多分、同じこと。


竜に感謝するのと同じように、常に寄り添って見守ってくれているトラ吉さんへの感謝も忘れないように、思うだけでなく、行動で示すこと。小さなことだけど、それが積み重ねが大事だと、そう思えた。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


アキの心話も、雲取様や雌竜達が手を貸してくれることになり、今よりは改善に向けて進むことができる感じになりました。今見えてる範囲では、心話関連で急にトラブルが起こるような話はないので、暫くは問題なく運用できるでしょう。


小鬼族の研究者達に熱い視線を向けたり、竜族の協力と心遣いに感激、なんて目一杯感謝してたら、ちょいとトラ吉さんが不満を感じたようでしたが、アキがトラ吉さんにとても助けられているのは確かで、寄り添ってくれてるだけで安心するくらいですから、今回のようにちゃんとフォローしていけば拗れることはないと思います。まぁトラ吉さんもアキが気付きやすいように、ちゃんと不満があればアピールもするので、その辺りは問題ないでしょう。


次パートは、雲取様がちょっと触れてた、アキと心話で相談していこと、の件です。雲取様も独自に動いてますからね。見えないところであれこれ試したりしてるのです。


次回の投稿は、一月十五日(日)二十一時五分です。

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