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18-15.研究組統制案に欠けた視点(前編)

前回のあらすじ:事故を起こさないのではなく、被害が出る前に消す案については、多くの利点メリットがあること、多少の注意点デメリットがあることもきちんと説明することができました。(アキ視点)

休憩している間は、皆さん、お疲れっぽいので、昨日、事前に案作成に関わってて、それほど疲れてないケイティさんと話すことにした。


「雲取様達も、こちらの検討が終わるまでは保留にしてくれたから、当座はこれで凌げそうですね」


代表達が来たら、一緒に検討すればいいし、この感じなら、統制三案の比較資料を作成も間に合いそう。


「アキ様は、実現性十分とお考えなのですよね?」


「勿論。そうでなければ提案なんてしないですよ。梅案は費用対効果コスパが悪過ぎですけど」


「そして、研究メンバーも手軽に試験に手を付ける前に立ち止まる意識付けができたことで、自分達で納得の行く運用案を生み出せる、恐らく代表達がやってくるまでに、試運転に入れるか否か、といったところなので、代表達にも運用案を示して意見を伺える計算ですか」


「ですね。人材や物資、資金に対する決定権を持ち、経験豊富で、優秀な部下の方々も共にやってくる訳ですから、かなりの部分までは詰められるでしょう。そうなれば、冬の間は研究に没入して、その成果を春には報告できますよ」


その時が楽しみ、と伝えた。けれど、ケイティさんは苦々しい表情を浮かべて否定の言葉を口にした。


「アキ様が良いところに目を向けるのは美点ですが、代表の皆様に相談するとした案件がどれだけ積み上がっているかお忘れですか? 滞在期間延長と議論紛糾はもう確定した未来です」


代表達を向かい入れる作業をしているスタッフ達は、もう期間延長確定、増員も視野に入れて準備してるくらいですから、と乾いた笑みをされてしまった。


ん、お爺ちゃんがふわりと飛んで、先は長いとポーズをつけた。


「そもそも、研究組統制案も欠けた分を埋めねばならんからのぉ。覚悟を決めるしかあるまいて」


ここが勝負時、とキリッとした表情をしてから、ぽんぽんと僕の髪を撫でた。





共和国の島との中継が繋がって、幻影のリア姉が演壇横に出現した。ザッカリーさんが中継が正しく行われていること、予定の話し合いが区切りのいいところまで進んだことを伝えた。


「それで、私は何を話せばいい? アキの出した統制案の方で、追加の話は何か出た?」


「リア殿からは、アキの示した研究メンバーへの精神的な引き締め措置の四点への一般的な心話術師観点からの評価と、統制案に欠けた点の指摘、それともし可能なら欠けた部分を補う提案を話して欲しい。追加の話は特に出ていない。まだアキから説明を聞いて概要を把握できたところまでだ」


ザッカリーさんの説明を受けて、幻影のリア姉はなるほど、と頷いた。ホワイトボードに書かれた内容は既に伝えられているようで、何やら手元資料を眺めてから、口を開いた。


「それじゃ、私も本業ほどではないけれど、ミア姉との心話にはかなり打ち込んでて、一般レベルなら語れるから、認識合わせを兼ねて、評価からしようか。一つめは、思いを言葉に乗せる呪言、妖精族の技か。これに演技マシマシで感情をがっつり乗せて声を送ったそうだけど、その効果から言っても、今後の使用は戦術級術式相当の制約を課すべきだと思うね」


 えー。


「アキ、そんな面倒臭いって顔はしないの。これまでに竜神の巫女としての公務で、軽く感情を乗せて語りかけた程度なら、そこまで縛らなくてもいい。でも、そこにいるメンバーが心話での体験は辞退したいと言い出してる程となると、その扱いは注意が必要だね。私の方で被験者を集めて確認するから、それが終わるまでは、感情マシマシの意思を乗せるのは禁止。いいね」


代表達が来ても、今回は別に洗礼の義とかは予定されてなくて、大勢に語りかけるような催しはないから、まぁ問題ないか。


「今回のような使い方はしません」


今回のようなお試し、なんて感じでやるのは止めよう。ミア姉の体なせいか、明らかに昔より感情の抑えが効いてないから。


「じゃ、次。依代の君に語りかけて貰うんだったっけ。論外、試みることも厳禁、そもそも依代の君は、今はまだ自身の心を育んでいる最中で、加減にも苦慮しているんだ。規模こそ違えども、激情に駆られた依代の君の心は、怒りを爆発させた福慈様の同列だ。相手の心を揺さぶるだけじゃなく、そのまま砕きかねない。皆が不幸になるルートだよ」


う、そんな扱いなのか。一段階強い語りかけくらいのイメージで考えちゃってた。


ん、依代の君が手を上げた。


「リア姉、その件はボクからも補足しておこう。アキの研究メンバーへの語りかけは試し程度だったと本人は話していたが、確かにボクですら危険性を感じた。雲取殿も触れていたが、語りかけに反応する己の心、ボクの場合なら自分を映さない眼差し、寂しい、悔しい感情が呼び起こされて、心が大きく引き摺られる事になった。受けた者の心によって、その影響が大きくも、小さくもなる、そう思えた。扱いには注意を払うべきと同意する」


あ、ちとミスったか。ミア姉にずっと意識して貰えず寂しい思いを募らせてきて、出会い頭に怒りの消失術式を叩き込んできた彼にとって、共感し過ぎる演技だった。


「不特定多数に語りかけられる、しかも元々、その効果は強く、経路パスを通じて異界にすら届く。その上、受け手の心境によっては、予想外に効き過ぎてしまいかねない。そんなんじゃ危なくて使えないよ。それに依代の君だって、そんなつもりはないのに病院送りの大量生産なんてなったら嫌じゃないかい?」


「それは嫌だ。それに意味もなく力をバラ撒くなんて、ボクの信念ポリシーにも反する」


「そういう訳で論外。反論は?」


「ありません。短慮でした」


うぅ、言われてみれば、心の合鍵の話は、受け手との精神的な関係を指摘しているのに過ぎず、受け手の歩んだ人生、経験によっては、効き過ぎちゃうこともあるというのは盲点だった。個人差を考えて用法・用量を守ってお使いください、ってことだ。


「三つ目は心話か。精神撹拌を仕掛けて相手の情に訴えるって? これも論外だよ。昨日軽く話したけど、幼いマコトから終わることのない感情の嵐を叩き込まれて、あのミア姉が涙が止まらない、感情が乱れて落ち着けられない、食べ物が喉を通らないほど落ち込んでしまったんだ。ミア姉は比肩する者すらいないほどの超一流心話術師だよ? それでも負い目があって、この世の終わりとばかりの絶望に曝されて、それが目の中に入れても痛くないほど溺愛してるマコトからとあっては、心が共感しまくって、どうにもならなかったんだ。ミア姉が心の距離を離して心を落ち着かせようとするだけで、その振る舞いを嘆き、もっとしっかり向き合ってと縋り、ちゃんと共感しないと泣き叫んで、と逃してくれなかったそうだからね」


僕に向けられた皆の視線が、その光景が目に浮かぶようだ、と心の内を雄弁に語っていた。


「リア姉、僕も感情が暴れるような状態で体験して貰うつもりではなかったよ?」


「役に入り過ぎて泣いたアキが言っても説得力無いね」


 ぐぅ。


「……さっきは確かに自分でも驚いたけどさ」


「アキは興が乗ってくると、つい勢いのまま踏み出す悪癖があるからね。しかも演技のつもりが引っ張られてるんじゃ、試すのだって危ういくらいだ。それに事故が起きた時に、ぐちゃぐちゃになった心をそのまま相手に渡して、理解して貰うなんて話も全然駄目だよ。一時期、アキが心話を禁じられていた時と同じで、そんなの、相手の心を傷だらけにするだけで、注意を促すなんて範囲を逸脱し過ぎだ」


 ぐぅ。


何か、もういいところなしのぺちゃんこだ。


「最後は、妖精族と心話がしたい、だったね。翁の帽子はあるから、翁とは心話ができる訳だけど、常時、召喚で経路パスが繋がってる状態に、心話を重ねてどうなるか予想が付かないからこれは試せない。それ以外となると、本人がこちらの世界にいないから、心話魔法陣で繋げられない。あと、アキは相手と心を触れ合わせた後の実技には文句はないけど、本人はまだ初歩的な術式を学んでいる段階で、高度な心話術式に自前では手を出せない。だから自前で繋ぎに行くのも無理だ」


「それだと、当面は諦めるしかないの?」


「諦めるというか、心話魔法陣を使う、所縁(ゆかり)の品が必要、という制約があることに安堵すべき状況だよ。アキと心話をしてきた二柱なら同意していただけると思いますが、感情がぐちゃぐちゃに乱れてるアキと心話がしたいですか?」


<それはない>


<同じく>


 ぐぅ。


即答された。考慮する余地なしって感じだ。尤も、雲取様は一応、フォローもしてくれた。


<そのような時には敢えて何も語らず、寄り添うのがいい。その為ならば我はロングヒルに駆け付けよう>


 くぅ〜〜〜


このイケメン竜、最高過ぎる!


「嬉しいです!その時はお願いします」


大歓迎、と満面の笑みでお礼を伝えると、リア姉に白い目で見られた。


「話が逸れたけれど、私の評価はこんなところ。アキの敗因は自身が持つ手札の大きさを把握できてないこと。それにその札も上手く使いこなせてない。だけど、それは心話術師として正規に学んでないからだ。ならそれは学べばいい」


「今後の課題だね」


「そういうこと。で、アキの示した統制案に欠けてる点が何か判ったかい?」


んー。


「情に訴えるのは悪くないけど、実現方法が適切ではなかった」


「ぶー、ハズレ。それなら足りないって指摘するよ。正解は、統制する研究メンバーリストにアキが入ってない、だ」


 え?


「僕は他の方と組む支援タイプで、単独で研究なんてできないよ?」


そう反論すると呆れられた。


「アキと心話を行う為の独自活動をしているケイティ達ですら、重なる研究範囲が広いからと、研究仲間認定されたんだろう? なら、アキの誰とでもできる心話や、気持ちを乗せられる呪言もそうだと思わないかい?」


そこでリア姉が合図すると、ホワイトボードの研究者欄に僕の列が追加され、二重チェックに☓がついているのが判った。


「心話をしてる間は、当事者以外は何をしてるか全く感知できない。それにアキほど高位存在と自在に心を通わせる心話術師もいないから、実行内容の検証もできない。心話で扱う情報量が膨大過ぎて聞き取りなんてしてたら、それこそ足を引っ張ってしまう。心話をする相手によって話す内容も千差万別。その範囲は弧状列島全域に及ぶ、と。私がアキと心話をできれば、まだ指導や情報共有もできるけど、魔力共鳴の影響が読めないから、ソレは試せない。本人の腕がいいだけに、大丈夫、やれると断言されると否定しにくい、止めにくい。あと、心話は外に出てこないから、時を止め、対象を消し飛ばせる竜族でも、問題が起きた時の介入は容易じゃない。アキは他の研究メンバーと並ぶか、それに輪かけて慎重であるべきなのに、二重チェックも効かない、事故を消す対応も取れない、大問題児なんだ」


ここで、ベリルさんが僕の名前の上に赤文字で最優先対応と追記してくれた。


お話してるだけで、研究してるって視点は無かったなぁ。改めて列挙されてみると、確かに欠けてる視点、大穴だった。

感想、ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲が大幅にチャージされました。


さて、一応、提案プレゼンテーションも終わり、本国にいるリアとも通信回線越しですが評価を聞くことができました。そしてリアの話した通り、研究組で一番ヤバいのがアキというオチも着きました。


勿論、問題視するだけではなく、後編ではちゃんと解決案も出しますのでご安心を。


それと冒頭、ケイティが語っていたように、代表達との検討課題は山積みで、代表達も気が重いところではありますが、期間延長と密度の濃い議論に耐えうる準備、体制を伴ってロングヒル入りする手筈となっています。


ただ……今回の件も更に上積みされるんですよね。それもロングヒルに向けて出発しようという直前になってコレです。この打ち合わせが終わった後、各勢力向けの報告書の作成をして、最速で書簡を送り届けたとして、さてさて、どれだけ検討時間が残っていることやら。アキが悪い訳でもないし、問題が起これば速やかに対処はしてる方ではあるんですが……。


次回の投稿は、一月十一日(水)二十一時五分です。


<活動報告>

以下の内容で投稿しました。


・雑記:CLIP STUDIOでお絵描き

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