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18-6.研究組との意見交換会(前編)

前回のあらすじ:鋼竜さんの熱意もあり持ち運び用のリバーシセットを急遽創りました。ヨーゲルさんも無茶振りへの迅速な対応お疲れさまでした。(アキ視点)

アキは、朝一で第二演習場に呼ばれて、竜族用リバーシの駒を量産する作業なんぞをやらされたものの、特にそれ以上の要件があった訳でもないので、別邸に戻って、午後からの予定に備えることができた。


二週間後にやってくる三大勢力代表達や、共にやってくる参謀本部への参加者達向けの資料作りも大切だが、それらはアキが本来やりたい次元門構築の研究に比べれば些事だった。そして、現身を得た神である依代の君の強過ぎる神力を制するという緊急の課題があって、研究組はその対応に専念せざるを得なかった。依代の君も二人目の依代に降りたことでその力を大きく減らして制することもできる目処が立ってきたことから、研究組もやっと本業に戻ることができた、という訳である。


そして、今日は、各人とも手隙な時間に少しずつ研究課題を考えていた内容を共有しよう、と集まることになったのだ。


なお、黒姫は世界の外について思索の海に沈んでおり不参加、竜族からは紅竜が代表として小型召喚体で参加という流れとなった。


リアがまだ共和国の島から戻ってきてないので、移動の手間はかかるものの、小型召喚の為に第二演習場に赴いたりもして、アキも午後に備えると言いながらも、実際には馬車の中で移動しつつあれこれ考えるといった具合だった。


また、今回は今後の方針について触れる機会でもあるので、依代の君も参加することになっていた。





会場はいつも通り、連邦大使館の庭先で、僕が到着する頃には、小型召喚の紅竜さんも先に降りてて、他のメンバー達も既に揃っていた。


ざっと会場を見渡すと、研究組の意見交換会と言いながら、調整組からとしてエリー、セイケン、ジョウさんの三名が参加してたり、今後、様々な活動に絡んでくることが確実な連樹の神の関係者として、巫女のヴィオさんが依代の君と同じテーブルについてたりして、何気に参加人数が多い。


師匠とトウセイさん、賢者さんも同じテーブルを囲んでおり、その横ではガイウスさん達、小鬼族研究チームが別のテーブルを占領していた。


そして、僕も演壇近くのテーブルに座り、テーブルの上にトラ吉さんも軽やかに飛び乗ると香箱座りをして、お爺ちゃんもいつものように僕の横にふわりと浮いてくれる。すぐ後ろのテーブルにはサポートメンバーのケイティさん、ジョージさん、それに女中三姉妹も全員揃っている。それだけ重要な案件と認識してるんだろうね。板書はいつも通り、ベリルさんが担当してくれるからこれも安心だね。


庭先の一角には小さな紅竜さんも尻尾の上に頭を乗せるポーズでいてくれて、一見すると全体としては落ち着いている感じに見えたけど、まぁ、そんなのは表面的なだけだ。演壇横のホワイトボードには、研究メンバーの名前がずらりと記されていて、それぞれが自身の研究について語る為にうずうずしてるのだから。


演壇にあがったザッカリーさんが、僕達が落ち着いたのを見て口を開いた。


「こうして皆が集まることができたのも久しぶりだ。緊急対応の話も終わり、我々も本来の研究に立ち返る時が来た。連合の一部では若竜の遊説飛行で混乱が起きているが、幸い、ここロングヒルは落ち着いており、交流祭りも一部プログラムの見直しはしているものの、開催は続いている。我々への支援要請も今のところない。故に我々は、我々に課された仕事に専念していこう」


この発言に大半のメンバーはそりゃそうだ、と頷いていたが、調整組は苦々しい表情を浮かべていた。特にエリーはまつりごとに携わる身なだけあって、思うところが色々あるようだ。外向けの王女様としての顔なんてそこらに蹴っ飛ばし、こいつらいい気なもんだわ、なーんて内心を隠しておらず、そんな彼女を見ても、皆も信頼しているからこそ安心してられる、なんてお題目を義理程度に顔に出してスルーしていた。


「そこで、いきなり研究再開とする前に、各人の研究状況について意見交換を行い、研究の優先順位や協力体制の確立について調整をしていくこととした。知った仲ではあるが、研究組としての参加は初となる依代の君からと、今後は交流も増していくであろう連樹の神との間を取り持つ巫女ヴィオ殿から、それぞれ一言お願いしたい」


話を振られた二人だけど、その反応は対照的だった。依代の君はやっと自分も参加できると意欲的な顔をしていたのに対して、ヴィオさんは何で自分がこんな専門家集団の会合に呼ばれているのだろう、と戸惑いが見え隠れしてる有様だったからだ。


「世界の英知たる集まりにこうして参加できることを誇りに思う。ボクはこの世界において、神術の使い手としては比類なき域にあると自負している。だが、過程を無視して結果を得る神術と言えど、漠然とした願いは結果ではなく、(ことわり)から外れるほどにそれを実現することの歪みも増すだろう。そして、ボクは皆ほどにはこの世界の(ことわり)には精通していない。この世界ですらない妖精界や、そして世界の外ともなれば、無知とすら言える。だから、ボクは当面は主体的に動くつもりはない。皆の研究で、そのままでは達成が困難なところ、そこさえ超えれば良いという部分を絞り込むことができた時点で、そこを越えるための最小限の支援をしよう。超えるのは皆だ。ボクは自ら歩む者の背に手を添えるに過ぎぬ。そう思って欲しい」


依代の君は、普段の子供らしい雰囲気を薄めて、皆の心を見通すような眼差しで自らの考えを告げた。ある意味、万能とも言える神術、その力の強さ故に自らを制約で縛ると言う。その姿勢に皆は歓迎の意を示した。そこに不満の色はなく、一歩退いた姿勢でいてくれることへの感謝すら感じられるほどだった。


……ある意味、当然と言える反応ではあった。(ことわり)をすっ飛ばし、理論魔法学の裏付けもなく、欲しい結果だけ神力で世界を捻じ曲げて手に入れ続けたとしたら、それは世界にどんな影響を与えてしまうか。影響無しなどあり得ないのだ。そして得られた果実とて、その中身がどうなってるかもわからないブラックボックスとあっては、それを汲み込んだシステムを無邪気に構築できるなんて奴は研究者の魂を捨ててると言えるだろう。


そして、この場には結果さえ得られれば過程などどうでもいい、と言うような輩はいなかった。その筆頭は調整組の面々だろう。もしもに備える彼らからすれば、どっちに転ぶかわからないから試してみようという試験だって、本当なら試させたくないくらいだ。これが子供の球蹴りなら好きにさせておけばいいが、城塞すら吹っ飛ばすような膨大な魔力を鬼族や妖精族が集団術式で制し、竜族が瞬間発動魔術をばんばん放り込む、なんてのは彼らからすれば正気の沙汰では無かった。


それでも、竜族しかできない空間跳躍テレポートですら届かない高位術式ともなれば、当たり前の範囲で研究をしてたって手が届く訳がない。それを理解するからこそ、依代の君の態度は有難かった。


次は連樹の巫女ヴィオさんだ。


「私は本日呼ばれた趣旨を理解し、我が神と皆を繋ぐ巫女として協力していくことを約束する。ただ、我が神は樹木の精霊(ドライアド)の性質が強く、冬の間はあまり能動的に動かれることはない。他にも地の種族の事の多くに理解を示してくださっているが、それでも共感は難しいと思われている事も多い。それを忘れずにいて欲しい。それと、私は我が神との間を繋ぐ身ではあるが、魔術の(ことわり)には詳しくない。初歩的な質問も多くなると思う。ザッカリー殿には、理解に必要となる分野について教師役の手配をお願いしたい。それと私一人で抱えるのが厳しいようであれば、我らの神官達にも分担させていくことになるだろう」


可能性っぽく言ってるけど、ヴィオさんはもう自分だけじゃ無理と判断していて、他の神官達を巻き込む気満々のようだ。それでも嫌だ、無理だ、研究組と連樹の神が直接やり取りすればいい、と言い出さないだけ、かなり譲歩してくれてると思う。


「教師についてはこちらで手配しておこう。依代の君は研究組ではあるが支援の立ち位置、連樹の巫女や神官の方々もまた研究組に参加される連樹の神を支援する立ち位置となるので、皆もそのつもりでいるように」


ザッカリーさんが話を纏めてくれて、皆も新たなメンバー二人の研究に対する姿勢を理解することができた。連樹の神様は移動することができないし、樹木の精霊(ドライアド)として根本的に動物とは異なる認識が必要な点は要注意事項だろう。研究組への新たな参加メンバーは現身を持つ神、それもどちらも一癖も二癖もある点は変わらない。いずれは世界樹の精霊さんにも参加して欲しいとは思うけど、連樹の神様に輪をかけて樹木の精霊(ドライアド)寄りだから、意思疎通の段階でかなり大変そうだ。黒姫様が足繁く通っているそうだから、場合によっては黒姫様に間を取り持って貰おう。





トップバッターは師匠だ。


「それじゃ、私、というか、私と白竜様の共同研究について話すかね。私達が取り組んでいるのは召喚術式の改良、具体的に言うと異種族召喚だ。通常の魔術と違って、経路(パス)を通じてではあるが世界を越えて繋げられる数少ない術式だ。その理解を深めることは、次元門構築の一助になるとそう考えた訳だね」


この意見は確かに面白い視点だと思う。今のところ、世界を越えて作用をする技法は、心話、召喚術式の二つだけなのだから。街エルフが用いる転移門はこの世界の離れた場所同士を繋げる超技ではあるけど、この世界の中で閉じた術式と言える。竜族の空間跳躍テレポートは移動の経路として、世界の外を利用するという意味で、両者の中間に位置する技だね。


「皆も知っての通り、魔術も多段階の条件を順次満たして発動する術式は、意図的にその段階の途中で止める、或いは術の発動が成功しないように工夫して、その流れを確認するもんだ」


 おや。


「師匠、すみません、人族の場合、集束、圧縮、発動の三段階を踏むけれど、最後の発動は、結果をイメージして発動させるだけですよね? 竜族や妖精族のように最後の発動段階だけ、瞬間発動の術式だと途中で止めるっていうのが何を意味するのかわからないんですけど」


僕だけかと思ったら、この指摘には同じように疑問を持った人がちらほらいて、逆に師匠が驚いた。


「おやおや。これは盲点だったねぇ。そう言えば白竜様も一通り説明しろ、と話していたね。確かに瞬間発動の術式は途中で止めると言ってもイメージはしにくいか。この場合はね、集団術式や魔方陣を用いた術式を複数組み合わせた仕掛けを考えると見ればいい。集団術式なら皆の魔力を束ねて一つにしてから術式発動と最低でも二段階を踏む。これが召喚術式なら、所縁ゆかりの品を用いた相手との経路(パス)の確立、召喚対象の存在を基に召喚体の形成、形成した召喚体の維持といった段階を踏む訳さ」


「召喚の場合、その過程を魔法陣がやってくれてるんですね」


「そうさ。多段構成の術式は、昔は術者がその工程の全てを担っていたが、術者への負担も大きく安定性に欠けることもあって、今では魔導具や魔法陣によって発動させるように変わった訳だ」


 ふむふむ。


「そして、多段階の術式の場合、意図的に術式がそれ以上発動しないようにして、その過程が正しく機能するか確認するのさ。いちいち最後まで発動させていたら魔力が勿体ないからね」


「異種族召喚で今の説明ってことは、いきなり異種族召喚を試す前に、術式の途中まで試してみようって話ですね?」


「そういうことだね。召喚魔法陣の最後、召喚体の維持をする術式を弄って、召喚体形成が終わったらすぐ切れるようにして、試してみたんだが、小型召喚と違って、召喚体の形成が安定しなくてね。結局、揺らぎが収束するどころか拡散して終わったよ。恐らく、召喚対象の存在の中に、異種族の形質が含まれないせいじゃないかと――」


「ちょ、ちょっと待ってください。えっと、もう試したんですか!? 誰と!? いつ!?」


「昨日、白竜様とどう試験をするか話していたところに鋼竜様が来たじゃないか。それでちょいと協力してくれないか聞いてみたら、途中で止まるよう手を入れた魔法陣を確認した上で鋼竜様が了承してくれてね。他の要件で賢者も来ていたから、鋼竜様を妖精として異種族召喚を途中まで行うことにして、白竜様には召喚体形成について竜眼で確認して貰ったのさ」


まるで、今朝食べた食事のメニューを語るように、師匠はさらっと答えてくれた。


 あ、あれ?


結構、リスキーな試みのように思ったけど、魔導師なら普通の話なのかと戸惑って、周りの反応を伺ってみた。けど、やっぱり、そんなことは無かったようだ。その直後、蜂の巣を突いたようにそこら中から一斉に驚きと非難の声が上がるのだった。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


雑多な対応も片付けて、やっと本業に戻れた研究組。多くの種族からこれぞという逸材ばかり集めただけあって、熱意溢れる面々に何故か混ざることになったヴィオは早くも逃げ腰なようです。自分では移動できない連樹の神様こそが加わる集いに繋ぎ役が顔出ししてるだけ、という認識ですからね。無理もありません。


そして、研究者の一人目、ソフィアも研究内容自体は真面目なものですが、思考を深める為の軽い確認作業といったノリで、異種族召喚を試したことを話して、案の定、騒ぎとなりました。


この件の問題って、何気にその場に研究組のメンバーの半数、ソフィア、賢者、白竜と揃ってたことなんですよね。リアは共和国に出掛けてて不在、アキは要ではあるけど技術論に踏み込んでいくのは無理、ケイティは財閥パトロンの代弁をすることもあるけれど決定権は持ってない、ザッカリーは研究管理マネジメントの役処なので、実は研究組内で多数決をやると、よしやろう、という結論になるってところにあります。

次パートで皆が発言をしていきますが、そもそもが不可能に挑戦してやろうじゃないか、と突っ込んでいく気質な連中ばかりな訳ですから、その議論が穏当な方向に進むかというと……。


次回の投稿は、十二月十一日(日)二十一時五分です。

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