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18-2.認知的枠組みの見直し(リフレーミング)(後編)

前回のあらすじ:思考に自分から枠を設けて視野が狭くなっていた、とヤスケさんに教えられました。ついでに普通の子供は知らなくていいような事を色々と教わったりして隠し事が増えました。(アキ視点)

万一に備えて、とか思ってたけど、選んだカードは見当違いで、別の問題を引き起こしてしまいかねず悪手だと思い知らされた。


本気で即応したいなら、別邸にある心話魔法陣で縁のある天空竜には声掛けできるし、お爺ちゃん経由で妖精族に相談もできる。


だけど、その簡便さが逆に危うい。動かせる戦力に対して、安全機構が僕やお爺ちゃん、ケイティさんの理性だけというのは、為政者から見れば、恐ろしい状況なのだろう。実際には動かせるんじゃなく、動いて貰える可能性のある戦力なんだけどね。為政者からすれば、命令権がなかろうと、実際に動く可能性が高いなら脅威と認識する、ということだ。


竜神の巫女が持つ特異性、それが前面に出るのは不味い。一度、示してしまえば、それを無かった事にはできない。


基本的に竜神の巫女は、大きな催しの時に各勢力が争いをせず手を取り合う、その場、その姿勢に対して、どこにも肩入れしない立ち位置から言祝ぐ存在くらいであるべきなんだよね。表に出てくることは稀で、集う目印、神輿くらいな扱いってとこだ。勢力間の利害調整に口を挟んだり、調停案を提示するみたいな行動は裏でやるのは自由だけど、表だってやっては、各勢力の面子を潰しかねない。


……とまぁ、自分の希望する立ち位置と、皆が竜神の巫女に抱く幻想の違いが出てきた感があるけど、一朝一夕にどうにかできる話でもないし、僕やリア姉が主体的に動くと余計拗れる気もする。尤も、下手を打たなければ急に悪化する話でもないし、今は遠い先の話より直近の対応を片付けていくことにしよう。


「すみません、現時点では天空竜が騒動を制止するような事態もないし、妖精族に偵察を手伝って貰う必要もないことは理解したんですけど、若竜には今回の騒動について第一報を入れないといけないと思うんです。それと残り二十九柱への対応方針決めも」


僕の言葉に、ヤスケさんはその通りと頷いた。


「では、どう対応するべきか、何に注意をすべきか、誰に何を話すべきか語ってみよ」


げっ、いきなりハードルが跳ね上がった。周りの反応を見ても、僕がまず自分の考えを語るターンと判断しているっぽくて、援護射撃はなし。


なんで朝からこんな七面倒臭い話を考えさせられるんだか。しかも検討時間なし、その場で考えて即答せよ、ときた。


時間稼ぎも兼ねて、ベリルさんに弧状列島の略図と、三大勢力の代表が居住している都市を描いて貰う。


ニコラス大統領は連合の二大国のうち東のテイルペースト、ロングヒルの南西に位置していて、ラージヒルとの中間地点ってところだ。ユリウス帝は、ロングヒルの南南東、帝都に居て、レイゼン王はロングヒルの東北東、連邦の首都にいる。共和国はロングヒルと海を挟んだ北北西くらいに位置していて長老達もそこにいる。


こうして略図を観ると、勢力中枢の大半がロングヒルの周囲に散らばっているのがよくわかるね。半径三百キロくらいの巨大円内だから、まぁかなり大雑把な認識ではあるけれど。それでも弧状列島はひょろ長くて、ロングヒルから、北の連邦領の果てまでは四百キロ、連合の南西端までだと千キロも離れてるからね。そう考えると中枢の分布は偏っていると思う。あと、福慈様の巣はロングヒルの南に位置しているけど、今回の件で福慈様が出張ってくることにはならないかな。


さて、さて。


「先ず、ラージヒル政変の切っ掛けとなった若竜には第一報を入れるべきでしょう。竜神子との交流スケジュールまではこちらも把握してません。次の交流日まで日数があるなら、若竜には特に何も伝えない、という手もありますが、気が変わってふらりと訪問してくる可能性は捨てきれません。実際、ロングヒルにおいても、雲取様がふらりと訪問されたことがありましたから」


「一報を入れる理由はわかった。それでどう話すのだ?」


「起きた事をありのままに。地の種族が天空竜を恐れるのは自然で、彼らもそこに疑問を持つことはありません。空からの語り掛けを聞いた王が心を病んでしまい、まつりごとが滞ると困るので、代わりの人を摂政とする手続きをしているところだと。事態が落ち着いたらこちらから声を掛けるので、竜神子の元を訪れるのは、それまでは控えて欲しいと話そうと思います」


「若竜に不安を感じさせぬよう心話を行えるか?」


「それは問題ないと思います。まだ聞いてませんが、焦点となるのは竜神子の安否だけですから、二重、三重に打つ手があって、よほどの事態になっても、竜神子の安全を確保できると確信できれば、僅かな懸念事項を心の棚に仕舞い込んでおくだけの話です」


その説明に、ヤスケさんは一応、納得した表情を浮かべてくれた。


「我々が打てる手については後で教えてやろう。先に残り二十九柱への対応をどう進めていくか考えを述べよ」


む、そっちが後回しか。ってことは多分、手札は結構多くて、どこかで確実に安全確保をできるという見込みがあるって話なんだろうね。それなら後でいいや。


「それで残り二十九柱ですが、勢力によって対応方針は異なると思います。共和国、連邦はそもそも急ぎではなく冬でもいいと言っていたので、これは方針維持。帝国については近々の遊説飛行については止めた状態で、ユリウス様にそのまま実施しても良いか確認。こちらは予定通りで良いと言って貰える気はしますが念の為です。最後に連合ですが、やはりニコラスさんから今後の実行方針について返事が貰えるまでは遊説飛行を止めるってとこです。えっと、ところでラージヒルですけど、竜族の圧に対する緩和効果のある魔導具の提供とかはされてます?」


「いくつか提供されていたかと思いますが、それを現ラージヒル王が身に付けていたかまでは把握していません」


 ふむ。


「となると、魔導具の追加貸し出しも含めてニコラスさんに決めて貰う感じですか。時間がかかりそうですね」


連合で今回、遊説飛行の対象となる地域だけ、と言うけど、竜神子のいる国に隣接しているところや、政治的に関係のある上位国も含むから、何気にご意見伺いが必要なところが多いんだよね。


「そこは財閥にも優先して文を運ぶよう命じておこう」


ヤスケさんがそう言ってくれるなら安心だ。


「それなら、全部揃ってから返事を貰う感じではなく、揃ったところから情報を貰う形にすれば、遊説飛行も少しずつは進めることができると思います。全部揃える必要もないから、その辺りはニコラスさんが上手く判断してくるでしょう。帝国と訪問許可の時期がズレるであろう件は、竜神子の元に届けている立体地図を使って、どのタイミングにどの国に声を掛けるか若竜と調整する方針で」


ざっと話していて、これなら平気そうかなぁ、というところで、シャーリスさんが飛んできた。


「アキ、妾達の対応や、交流祭りの話はどう考えておる?」


「竜の訪問によって生じた各国のまつりごとの動きについて、情報を把握することは皆さんの糧となるでしょうから、ジョウ大使とペアで動ける専任の担当者を派遣されるのはどうでしょう? 地の種族がどう考えるのか、動く際の制約は何か、など学ぶことは多いかと思います。交流祭りの方は、人の流れを堰き止めている国境封鎖だけでも早々に解除して貰うよう働きかけるくらいかと。ラージヒルを経由せずに東西で行き来するのは現実的ではないでしょう?」


「それをするくらいなら、近隣諸国で参加者達を留め置く方が現実的です」


ケイティさんも同意してくれた。まぁ、そうだよね。


「参加者達の流れを速やかに再開させるのは、武装も最小限の人々であれば軍事的な脅威は低いと考えたからかぇ?」


「まぁそうですね。あと、多くの種族が平和裏に交流を果たしている、その実績を参加した人達は土産話として語ってくれるでしょう。そんな話を数多くの人達から聞けば、人々も他種族への恐れや門戸を閉ざそうとするよりも、一刻も早く日常を取り戻そう、と考えるかなぁって気がしました」


「なるほど」


シャーリスさんは納得してくれたけど、ヤスケさんが一応、フォローしてくれた。


「ラージヒルの上層部からすれば痛し痒しな話だがな。門戸を閉ざし、摂政が思い描いた筋書きを民に伝えれば、国全体を彼らが思う道筋へと導いていくこともできよう。民は外の事を知る術がなく、摂政から聞いた話、それだけでで話の良し悪しを判じるしかないからだ」


「けれど、アキは門戸を開け放ち、多種族が集い交流をしてきた物珍しい経験を人々に語らせようと言う。摂政以外からも話が入ってくれば、思うように導くのには多少手間取るかもしれん、か。確かに痛し痒しよな」


シャーリスさんも情報統制の何たるかを感じ取ってくれたようで何より。ただ、こちらを見て「己ではなく民に語らせて導くとは面白い」なんて意地悪そうな笑みを浮かべるのは心外だ。


「予定が狂って足止めなんてされたら余分に宿賃もかかるし、参加者達の祭りの思い出に余計な話が混ざるのも、やっぱり嫌でしょう? ストレスなく思い出を持ち帰って故郷で楽しかった、と皆に語って欲しいんですよ。来年以降の為にも」


何せ、上手くいけばロングヒル名物ともなってくれるのだから、と話すと、皆さん、そうだよなぁって諦観混じりの顔で頷いた。


「何か?」


「つい先ほどまで、不測の事態に備えて竜に現地入りできるよう待機して貰おう、などと話しておったのに、今はもう、争いは起きずに政変も片付き、交流祭りで生まれた新たな気運を来年には更に大きくしていこう、などと言っておるのだから、呆れても仕方あるまい」


ヤスケさんが理由を教えてくれたけど、咎めるつもりはないようだ。


「だって、ラージヒルの政変を穏便に着陸させる策をいくつかお持ちなのでしょう? だとしたら、そう長引く話でもないし、秋の収穫時期前には多少残るかもしれないけど遊説飛行も終えて、上手くいけば、帝国の成人の儀も開催中止に追い込んで、各勢力代表とも晴れやかな気分で再会できますよね」


全て丸く収まって万々歳、そう手を叩いて笑顔を浮かべると、ヤスケさんは苦々しい顔を向けてきた。


「面倒事は全部他人に押し付けて、望んだゴールに辿り着いたところだけを見て喜ぶ様は、まるでミアのようで悪い癖だ。我々に手札はあるが好んで使いたいモノではないのだ。――ジョージ、アキに誤解がないようしっかり教えてやれ」


「承りました。ではアキ。この件について共和国、財閥が行える策を説明するからよく聞くように。そもそも連合への行政権を持つ訳でない我々が行える策は――」


ジョージさんが重々しく頷くとホワイトボードを回転させて、裏側に用意してあった、共和国、財閥が行える策の箇条書きについて、一つずつ丁寧に説明してくれた。


封鎖解除に関する手札は、①国境封鎖の弊害を周辺国に訴えてラージヒルに封鎖を解くよう圧力をかけて貰う、②竜神子同士の交流を妨げるな、と竜神子支援機構から封鎖解除を要求する、③樹木の精霊(ドライアド)達との交流を担っている対樹木の精霊(ドライアド)交渉機構からも、横の繋がりが阻害されて全国に影響が出ていると、やはり封鎖解除を要求させる、④財閥からは通信・物流網の停止に伴う被害について、ラージヒルに賠償請求もちらつかせつつ封鎖解除を迫る、の合計4つ。


暴漢対策に関する手札は、①ラージヒル国内にある通信・物流拠点から使い魔を飛ばして竜神子屋敷の監視、②いざという時には同拠点に居る運搬人達を用いた助勢、③非常時には同拠点にいる護衛達が指揮用魔導具を用いて、人形遣いとして介入、という三段構えだ。


指揮用魔導具、空間鞄内の魔導人形達というのは、拠点放棄も覚悟せざるを得ない時の最終手段とのことで、本来なら魔導人形達がそこにいることすら秘するべき話と念押しされた。日本で言えば、在日米軍基地に、日本政府も知らないうちに三百両以上の装輪装甲車両を保有するストライカー旅団戦闘団が配備されてて、それらが基地防衛を理由に暴れまわる、みたいな話だもんね。うん、洒落にならない。


実は為政者には内密に話を通してあったりしないのか聞いてみたけど、そもそも通信・物流を担っているのに、更に国軍を払い除けるような戦力まで保持しているなどと伝えては、藪をつついて蛇を出す事にもなる、と言われた。


あー、うん。えっと、聞かなかった、ということで。


なんで、ただの高校生だった僕が、そんなヤバい国家機密を聞かされているんだか。そういうのはエリーみたいなガチな政治関係者だけがこっそり聞く話じゃないかなぁ、なんて思ってゲンナリしてたら、ヤスケさんが、すっごく露骨に溜息をついた。


「アキ、そんな時だけ何も知らない子供だから、などと逃げるではないぞ。権威を持つ者は無知でいてはならん。権力を持つ為政者達と徒手空拳で渡り合える為には、皆が尊重する権威であり続けなくてはならないからだ」


権力に媚びないからこそ価値がある権威、けれど市井に疎くては担ぐ価値も減じてしまう。……面倒臭いけれど、そういうことだ。



聞いた感じなら、人、物、金のどこからでも圧を掛けられるから、ニコラス大統領の顔を立てつつ、最大限、事態収束に向けて尽力していけそうだ。それに一部の暴発による被害を防ぐだけなら、竜神子屋敷近くの通信・物流拠点が手を回せば何とでもなりそう。


後回しにしただけあって、共和国、財閥の持つ手札は慌てた心を落ち着けるのに十分な強さがあった。だから、今の話を聞いて、これなら若竜にしばし連絡待ちでいてください、と穏やかな気持ちで伝えられると話す事ができた。


いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。


人払いして、手助けするような者がいない状態で、アキ自身の思想、判断をヤスケが見極める作業もやっと終わりました。今のところ、ヤスケも得られた情報以上の事は知らないので、基本方針を定めて、竜族に暫し近付かず連絡を待つよう伝える程度の判断までしかできません。そもそも連合の話なので、基本的な対応はニコラス大統領に動いて貰うのが筋でもあります。


妖精族のシャーリスも勢力間の関係や、先を見越して手を打つといった考え方は色々と興味を持てる内容だったと言えるでしょう。これまで妖精の国は独立独歩、周辺国とまともな交流をしたことがありませんからね。外から観察するだけでは、同じ人族でも違う国に所属している、なんてのは連合軍を組んでたりしたらよくわかりませんし、旗印が違っても、動かしやすいよう軍を分けているのだろう、としか判断できないでしょう。司令部付近まで潜り込んで詳しく話でも盗み聞ければまぁ、そこも理解できるかもしれませんが、いくら妖精族でもそんな中枢まで侵入するのは無茶ですから。


共和国も去年までなら、連合のことは連合に任せる、頼まれたらフォローするくらいだったので、ヤスケも含めて長老衆も随分、考え方が変化したものです。


次回の投稿は、十一月二十七日(日)二十一時五分です。

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