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18-1.認知的枠組みの見直し(リフレーミング)(前編)

前章のあらすじ:依代の君が二人目を降ろしたり、呪いに関する統一規格を創る話が出たり、弧状列島交流祭りが始まったり、この秋に竜神子と交流をする若竜三十柱への短期集中教育をしたり、皆で「死の大地」の呪いを眺める登山イベントから参加者達が戻ってきて話を聞けたり、竜神子が庇護下にあると周知するために全国に遊説飛行をする話になったりしました。あと遊説飛行の一回目で、何故か連合内の二大国の一つラージヒルの王様が心を病んで、政変が起きたりもしてます。十八章冒頭はその対応辺りからのスタートです。こうして列挙してみると密度の濃い二週間でしたね。物質界(こちら)も八月が終わり、九月になり残暑が厳しくなってきました。


という訳で、第十八章スタートです。今後も週二回ペースの更新していきますので、のんびりお付き合いください。


<補足>

十七章の人物ページですが、本日、残り分の執筆を終えました。お暇な時に読んでみてください。読むとより本編を楽しめるようになるでしょう。


<補足2>

十一月二十二日、章始めということで、いきなり前章の続きからスタートするのも不親切かと考え、状況を軽く纏めた文を冒頭に追加しました。竜神子選定の話からだと十一章ですからね。ざっと書いてるけど、出来事の連鎖が続いていることを感じます。

弧状列島全域で合計三十組、竜神子が仲立ちして、若竜は天変地異に気付いた時にそれを知らせる、為政者は若竜のそうした気遣いと近しい距離を持てる事に感謝して、毎年、秋の収穫祭で料理を振る舞う、という緩い関係を今年から築く流れとなった。


その為の準備として、若竜と竜神子が互いを良く知るよう歓談する機会を何回も設けたところ、若竜は竜神子を気に入り、竜神子は自身の庇護下にある、と関係国に周知したいと言い出し、高空から思念波で各地の民にその旨を伝える遊説飛行を行うこととなった。


その第一弾、連合の東西を結ぶ大国ラージヒルで語り掛けたら、現王が心を病んでしまい、家臣一同に押し込められ、摂政がまつりごとを代行するという政変が起きてしまった。それだけなら、まぁその国の事だから仕方ない話だけど、国内を統制する為か国境封鎖と戒厳令の発令までしちゃったんだよね。


おかげで、連合の東西の行き来は止まり、国境を接する小鬼帝国との緊張は高まるし、連合のニコラス大統領も事態把握に苦慮されているし、弧状列島全域から広く人を集めてロングヒルで行っている交流祭りへの影響も心配されると、碌な話になってない。


幸い、現地で騒乱などは起きてないようだけど、そうならないという保証もない。万一、竜神子が傷付く事などにでもなったら「天空竜の庇護下にあると知りながら傷つけるとは、その意味わかってるんかぁ!?」と若竜が怒鳴り込みかねない。最強の個、一軍に匹敵するという天空竜の怒りによって城塞都市群が消し飛んだりもした昔話も、人族ならまで覚えている人も存命なくらい身近な話だ。


だから、そんな不測の事態に備えて、若竜に心話で釘を刺しておくとか、妖精女王のシャーリス様もいらしているから、介入を相談したらどうかと思ったんだけど……。





今、万一の事態も終息させる選択肢があろうとも、この先、ずっと面倒を見る気がないなら、手を出すな、何もするな、とヤスケさんは告げた。


竜族の皆さんは、僕の説得に理があると思えば、動いてくれることもあるだけで、僕には提案とお願いまでしかできない。妖精族も同様だ。


弧状列島全域にまで活動を広げるということは、関係者も大きく増え、各自にお任せすることとせざるを得ない。僕もお膳立てまではしても、そこから先まで面倒を見るつもりはないし、僕のような子供が訳知り顔であれこれ口を挟むのは疎まれるだけだろう。


……とはいえ。


今回は、栄えある第一回。三十柱の一柱目だ。血を流さず事態が終息してこそ、後々への悪影響も避けられる気がする。


争いは起きておらず、通信・物流拠点や、竜神子の屋敷からも実害や助けを求める連絡はなく、一見すると静観しても良さそう。


なら、落ち着くまでは、状況の注視に務める?


でも、そこまで慌てなくていい話なら、そもそもジョウ大使が情報収集に奔走する必要はないし、シャーリスさんを妖精界から喚ばなくてもいいとも思う。


最初で大コケしたら、残り二十九拠点での遊説飛行だって、対策を確立するまで実施は止めるべきだ。傷は浅いうちに手当するのが鉄則なんだから。




少し。




少し、頭を冷やそう。


そもそも、地の種族の争いに竜族が介入するのは、子供の喧嘩に軍隊が介入するようなモノと窘められていた訳だ。余程の理由がない限り、地の種族が自分達で解決すべき話だ。


なら、今回はどうか。



想定外の混乱を招いたのは現ラージヒル王一人。もしかしたら、他にも出てるかもしれないけど、今は聞こえてきてないから、居ても影響は軽微と見る。なら、それによって国が割れて内乱になる恐れは? 家臣達による王の押込めが成功していて、各地で騒乱も起きてないのだから、家臣団が割れている可能性も低い。


――そんな風に考えていたら、ケイティさんが助け舟を出してくれた。


「ヤスケ様、アキ様も状況が二者択一ではないと気付かれたようですので、試しは十分ではないでしょうか?」


底の見えない薄暗い眼で僕を見ていたヤスケさんは、ケイティさんの提案を受けて緊張感を和らげてくれた。


「感情に流されて、近視眼的な発言でもしたなら、叱らねばならなかったが。首の皮一枚繋がったな。簡単に選べるからと、天空竜や妖精達に話を持っていこうとするのはアキの悪癖だ。娯楽ならそれでもいいが、面倒事なら、我らで手の打ちようが無いのか、万策尽きたのか考えねばならん。で、どうだ? 我らは万策尽きた状況か?」


ヤスケさんが意地悪い顔で、さぁ言え、と促した。


「すみません、色々と憶測混じりですけど、多分、手札は何枚か、あと、財閥もどうしょうもない時に出せる切り札を持ってる気がしてきました」


連合内の細かい話は教わってないけど、財閥が連合の通信・物流網を支えているなら、やれそうな話は色々と思い付く。それに空間鞄を携えて単独で都市間輸送を担っている人達は、生半可な戦力に襲われても逃げ延びる実力もあるという。


なら、そんな猛者を支える拠点、通信と物流の集積地が脆い何てことがあるだろうか?


そもそも、ニコラス大統領への連絡も、財閥の通信網が生きているからこそ届いているのだ。


「気付いたか。ジョージ、説明せよ。それと、アキ。今から聞くことは、ロングヒル王家にも語ってはならん。薄々は気付いてあるだろうが、同盟国とて知らぬ方が良い事もあるのだ」


ヤスケさんが重々しく、口外無用と告げた。知る必要のないことまで知っても、気苦労が増すだけという事っぽい。


何で、こんな面倒臭い話を聞かされる羽目に陥ってるんだろうね?





指名を受けて、ジョージさんがホワイトボードの前に立った。


「では、アキ。問題解決の基礎だ。我々、セキュリティ部門では認知的枠組み(フレーミング)による視野狭窄は疎まれる。何故か判るか?」


む、いきなり概念的な話だ。認知的枠組み(フレーミング)的な話で有名なのは、コロンブスの卵かな。新大陸発見を妬んだ人々に対して、テーブルの上にゆで卵を立ててみろと言い、他の人が挑戦するけど、転がるばかりで立てられない。そこでコロンブスが卵の底を割って立てて見せた。人々はそれなら自分でもできると抗議したけど、誰もが思いつかないことを最初に行うのは難しいのだ、と語ったという。文句を言ってた人達は無意識のうちに「卵をそのままで立てる」と自ら枷を嵌めていた訳だ。


「教科書的な話なら、認知的枠組み(フレーミング)内の最善策が、実際の最善策と同じとは限らないからって話ですよね?」


「その通り。で、だ。アキは万一の事態に備えて、手札の中から最強の天空竜や妖精族のカードを切ろうとした訳だが」


 む。


「それらは強力ではあるけど、最善策ではないって事ですか?」


「そうだ。というか、我々の目線で捉えると、両者は実はそれ程、万能な切り札ではないんだ。シャーリス様なら、近衛に身を護らせる立場だから、この見解も納得して貰えるだろう」


「ジョージの指摘した通りよな。妾達は確かに魔導師並みの力を持ち、自在に空を飛び、気配や姿も消せるが、万能ではない。不得手なことも多いのよ」


ふむ。


「不得手というと、お爺ちゃんが召喚体の空き領域を利用して、耐弾障壁の術式を起動しているような話ですか?」


「よくわかっているのぉ。妾達、それに竜族もそうだが、所詮は生き物の範疇から逸脱はできぬ。全周囲の警戒などできぬし、そのような警戒を四六時中行うこともできない。アキ、妾達が得意とするのはどのような役目だ?」


んー。


「相手に気取られぬよう偵察をするとか、後方撹乱をするとか、ですね」


僕の指摘にシャーリスさんも、その通りと頷いてくれた。


「相手に見つからず、必要最低限の手を使って、最大の結果を得る、それが妖精族の矜持よ。小鬼族もそうだが、小さき者達は受けて守るのは苦手なのだ。それよりは出鼻を挫き、撹乱して集団の利を奪い、惑わせ、迷わせ、相手の心を折るのよ」


その先はジョージさんが話してくれた。


「つまり、だ。セキュリティの観点から行けば、妖精族は最前線、可能なら敵地に浸透していく斥候役にこそ相応しいんだ。身近な身辺警護になら、身を盾にできる小柄な護衛人形達が最適であることは忘れるな」


う、これまで何度となく身辺警備でお世話になってきただけに説得力が段違いだ。


「はい。竜神子の傍にいるのも難しい天空竜も、護衛には不適格なんですね」


「そうだ。今回の事例では、精神を病んだのは王一人であり、彼は既に押込められて、命令権を失っている。となると、軍部が王の意を汲んで、独自に動く事が懸念されるが、これは新摂政が掌握しており、その可能性は低い。この状況下で恐れるべき敵は何だ?」


ふむ。


「王が気を病んだのは、天空竜が語りかけたからで、それを促したのは竜神子の存在。そう考えて、竜神子に仕返ししようとする、逆恨み的な犯行、暗殺でしょうか? 或いはピンポイントに王を揺さぶれると考えて、他国がやはり竜神子に手を伸ばすなんてのもありそうですね」


前者は思考が狭過ぎて、王の狂信的な手下とかでもないと有り得ないとは思う。後者は天空竜の怒りをお手軽にラージヒル国に向けられるから、コスパはいい。ただ、このタイミングでやるか、というと普通は時期をズラす気もするけど。


僕の指摘に、ジョージさんは苦笑した。


「警告としての凶行、いつでも害することができるとの脅し、食事に毒を混ぜて疑心暗鬼を抱かせる、などなど、殺害まで行かずとも、竜神子に何かしら影響を与えられれば、それだけで得をする、或いは困る者達は多い訳だ。さて、そんな状況で、アキが選んだ手札は効果があるだろうか? 余計に場を混乱させたりしないだろうか?」


ここまで説明して貰えば、流石にわかる。


「全員を萎縮させる竜族が威を発するのは、軍勢や大衆の騒ぎが制御不能に陥った時。妖精族なら、あちこちで魔獣が暴れたりしていて、人を派遣するのが難しく、けれど速やかに状況を把握したいような時。今回の事例なら、竜が飛んできても場が混乱するだけ、妖精族が撹乱工作をするような相手もなく、人の顔の区別も不慣れだから護衛にも不向きなんですね」


「正解だ。翁がアキの最終ラインを担えるのは、アキの身辺に見知った者しか居らず、迷う要素が少ないというのもある。予定にない存在が現れたなら、問答無用で無力化する。処遇は後で考えればいい、シンプルな話だ。これが竜神子ならどうか。護るべき相手、共闘すべき仲間を把握するだけでも何日も必要だ。その間、妖精族とて、持てる力の一割も発揮できないだろう」


万一の事態に備えると言っても、竜族や妖精族が対応できる範囲はそう広くない。


認知的枠組みの見直し(リフレーミング)。国境封鎖や戒厳令と聞いて、それでも抑えられない事態に備えるというのは、思考の視野狭窄、その中での最適解は、更に視野を広げた中では最適解に非ず。……すみません、短慮でした」


そう謝ると、ヤスケさんも深く溜息をつきながら、一言、付け足した。


「安易に竜や妖精の選択肢を口にする前に、気付いておれば儂も少しは肩の力が抜けるのだがな。依代の君が自身も動くべきか、と思考を巡らせる事態も招いてはならん。よく覚えておくのだ」


 う……


確かに。僕が慌てたら、同じ別邸に住んでる依代の君も何事だ、と身構えるだろう。そうなっては不味いのはわかる。彼の存在は秘するべきなのだから。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。


十七章の人物ページ執筆に大変苦戦しましたが、何とか片付けて十八章スタートです。

本章では、多分、三大勢力の代表達が集うまでの残り二週間を扱うことになるでしょう。彼らが来るまでに整えておきたい事も色々あるし、ラージヒルの事変もアキの手を離れてしまえば、研究組の方の本業の方もやることは目白押しですから。


次回の投稿は、十一月二十三日(水)二十一時五分です。


<雑記>

今回の投稿で無事500パートを達成することができました。よく続いたものと自分を褒めたいところです。そしてこうして書いていると、単行本一冊を一ヶ月程度で書き上げる速筆のプロの方々の化け物っぷりも理解できるようになってきました。日本語で文を書けるなんてのは、私は歩けます、という程度の話であって、ならその人が一冊描き上げる=フルマラソンを走り切れるか、というと大半は入念な準備、練習が無ければ途中でギブアップしちゃいますからね。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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