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3-2.魔力に頼らない技

前話のあらすじ:アヤから、戦闘外傷救護について学び始めたお話でした。

午前の二コマ目は、リア姉さんの授業だ。テーブルには様々な魔導具が置かれている。


「それじゃ、アキ。ここからは私の講義だ。と言っても、妹に姉が教えるというスタンスだから、呼び名はリア姉のままでいいよ」


「はい。よろしく、リア姉」


「まず、おさらいだ。私とアキの魔力属性は、唯一無二とされる例外中の例外、無色透明だ。しかも範囲は異様に狭く、出力はとても強い。おかげで魔導具クラッシャー扱いで、活動範囲も大幅に制限せざるを得ない有様だ」


頷いて続きを話すよう促す。


「他の魔導師や魔導具が、私達を検知する事はほぼ不可能だ。これは利点でもあるが欠点でもある」


「隠れるのに便利だけど、探して貰う時に困るって感じ?」


「その通り。私達が触っても壊れない、強い魔力を備えた魔力結晶を持つ案もあるが、反応が強く、目立ち過ぎるから、その案はボツ。今の所は、私達は団体行動では気をつける必要がある。ジョージと護衛人形を使って訓練して、うまく行かなかっただろう? 普通、視覚外の範囲は音や気配、それと魔力反応で捉えるから、勝手が違って混乱するんだ」


確かにあれは大変だった。触れると壊れるかもしれないというのが、一番のネックだと思っていたけど、そもそも、どこにいるのかわからないんじゃ、護衛しようにも大変だ。


「それと、私達を認識できる魔導具がないわけでもない」


そう言ってリア姉が取り出したのは複数のガラス玉っぽい、たぶん魔道具。


「これは実際、ガラス球だが、見た目だけは本物と同じ、複数を組み合わせて使う監視用の魔導具だ。こうやって離れた位置に置いて、稼働させると、間を何かが遮ったら、通報があがるんだよ」


聞いた感じだと、赤外線センサーみたいだ。魔力を感知するんじゃなく、互いの発信する光が見えなくなったら通報する、みたいな。


「他にも、敢えて、魔力反応を無視して、通常の五感だけで判断する魔導人形もいるくらいだから、潜入任務スニーキングミッションをするなら、隠形術は必須だね」


「いや、そんな風に車に乗るなら免許を取ろうみたいなノリで言われても。……あれ? そもそも魔導人形は街エルフくらいしか運用してないんですよね。五感だけで判断するような器用なことができる魔導人形なんて要望(ニーズ)はあるんですか?」


敢えて、応用範囲が広い魔力感知を使わない、なんて限定状況を想定した魔導人形をわざわざ作るか、疑問だ。


「できる魔導人形もいるんだよ。一人だけ」


「もしかしてロゼッタさん?」


「そう。無色透明の魔力は唯一のユニークスキルなのだから、誰にも真似のできない絶対の一となるよう、研鑽しましょうとか言ってきてね。延々と鬼ごっこと隠れんぼをやったんだ。ロゼッタと」


なるほど。


「一芸に秀でる者は多芸に通ず、ですね」


「あぁ、それそれ。ミア姉にも言われたよ。何か幹になるものがあれば、枝葉は自然と伸びるってね」


さすがミア姉だ。というか僕も言われた覚えがある。


「今の私達は、当時の私と違って、魔力感知ができないから、死角を意識した行動が更に重要になる」


「例えば音や気配に注意したり、後方を意識して見るようにするみたいな感じ?」


「それでいい。まぁ、魔力感知ができなくても、気配はわかるものさ」


ふむふむ。あれ? なんでリア姉が、魔力感知できない相手の訓練ができたんだろ?


「リア姉、魔力感知できないけど、気配でわかるって、相手は何だったの? 罠が相手じゃないよね?」


「ロゼッタだよ。重力や加速の勢いを最大限利用して、姿勢を維持する必要最小限の魔力を、必要なタイミングの時だけ使うことで、僅かな魔力しか発しない、なんて真似をされてね。かなりやられたよ。最後はきっちり勝ったけどね」


「なんか武術の奥義って感じだね。それに勝てるなんてリア姉、凄い」


「まぁ、そう言って貰えて嬉しいよ。ただ、その域まで訓練するのは時間がかかり過ぎるから、アキにはひたすら森の中で、敵を探して貰うつもり。何か質問はある?」


「それは、魔力感知以外の五感を研ぎ澄ませて、隠れている魔獣とか、鬼を見つける感じ?」


「そういった直接的な捜索もあるけど、脅威となる敵の残した痕跡、例えば足跡、折れた枝、残った匂いなんて間接的なものも含めて。罠ももちろん対象に含める。野山の歩き方や注意点は父さんに任せるから、私の講義ではそれらは扱わないよ」


「むぅ、なんかかなり本格的な気がする」


「街エルフのやることは、基本的にいつでも本格的でフルセットなのさ。そう言えば、ジョージとの訓練でトラブってたね」


「うん。護衛人形に触れると不味いから、かなりギクシャクした感じになっちゃってる」


「なら、私と少し組手もやってみようか。私なら接触に備えて、いちいち魔力耐性を高める必要もないし、魔力感知に頼らない戦闘術は、今のアキにはぴったりだ」


「さっき言ってたロゼッタさんと修練した奴?」


「そう。大切なのは肌感覚。大気の揺らぎ、地を通じて感じられる振動、それに気配。それらを感じ取れるようになるだけでも、かなり有利に動けるようになるからね」


「なんかいきなりハードルが上がってない?」


「まぁ、やり甲斐がある技だと思うよ。慣れてくると、四方を囲まれても戦うことができるようになる。もっとも、更に遠距離に射撃手がいて、味方ごと撃ってきたり、巻き込んで魔術を使ってくるような敵だと厳しいから、まぁ、その程度の技術だよ」


「いやいやいや、それ、おかしいから。リア姉、そもそも見つからないのが僕達の魔力特性だって言ってたよね? なら、偵察とか破壊工作とか暗殺とかがメインじゃないの??」


「なんだ、わかっているじゃないか。そういったことをやりつつ、いざという時にはある程度の強硬策も取れるってことさ。本当ならこれに人形遣いとしての技も組み合わせるのが重要なんだが、それはまだアキには早いからね」


「それって、完全な連携と、意思疎通ができて、疲労しない魔導人形達の戦闘集団を、敵の不意をついて、思いもよらぬ方向、位置から出現させて攻撃させたりできるってこと?」


「まぁ、そうやって直接ぶつけるのは初級編のレベルかな。他に自然を利用した罠を濃密に仕掛けて混乱させたり、小動物や鳥に偽装した人形達を使って情報を得たり、相手から装備を奪って味方のふりをしてみたりと、取れる手段はかなり多くなるから、人形遣いの技はアキもいずれ学ぶといい。今回の期間ではそこまでやる余裕はないから、ロングヒルに行ってから、ケイティに教えて貰うといいよ」


「……なんだか聞いてる話だと、魔導人形の数が街エルフの十倍どころじゃない気がしてくるんだけど」


「普段、働いてる魔導人形はそれくらいで合っているよ」


「休眠中というか待機中のも数えたら?」


「総数は機密扱いだから、私は知らないけどね。興味があるかい?」


「いえ、それほどでも。ただ、数が多過ぎると維持費が大変かなと思っただけです」


「確かに。劣化はせずとも陳腐化はするからね。さて、そろそろ訓練を始めよう。まずは、森の中を警戒しつつ前進だ」


「わかった。歩くペースはどれくらい?」


「見つけることが主目的だから、問題ないと思ったら進む感じで」


「やってみる」


それから、庭に用意された獣道を注意して進んでみた。植生まで考慮されて作りこまれているようで、急造したとは思えない出来だ。進んでみたんだけど、昆虫や鼠のような小動物にも気を取られてなかなか進まない。


「アキ、止まって。その先の道は踏み荒すと情報が消えてしまう。よく見て。足跡がいくつも残っているだろう?」


リア姉が指で指し示した部分は、言われてみれば、確かに不自然に落ちた枝や葉が折れ曲がったり、靴跡の一部が地面に残っていた。


「注意して観察しないと、これは難しいね」


「慣れればこれくらいならそうでもないさ。これは人族の足跡だから、まだ痕跡がくっきりしている。小鬼族は難度がぐっとあがるんだ。奴らは軽いから、足跡も小さいし、浅くしか残らない」


「うーん」


リア姉の話だと、慣れてくれば、その痕跡がどれくらい前につけられたものかも予想できるようになるって話だけど、それはマタギのような専門家レベルの話だと思う。


さて、注意して先に進もうとした瞬間、止められた。


「アキ、見逃しだ。上を見て」


上を見てみると、木に片手で掴まって、武器を構えた小鬼人形と目が合った。……少し気まずい。リア姉が合図すると、武器を納めて森の奥に消えていった。


「人は足元と左右は良く見るけど、上は意識から外れやすい。小鬼族の襲撃スタイルの基本は上方からだ。注意するように」


「うー、気をつけます」


それからも見つけたと思って安心したら、数を間違えてて、背後を見せたところで、襲撃されて減点とか、足元に張られたワイヤーに気が付かず盛大に引っ掛けて、連動した鈴が大きく鳴って慌てふためいたりと散々だった。

評価ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

家族からの教え第二弾はリアでした。リアは街エルフの中でも異質ですが、それだけにアキに対する教育者としては、適任なんですよね。それに魔力が感知できないアキからすれば、自分が認識できる感覚の範囲でなんとかする技術は、身に付きやすいでしょう。


次回の投稿は、八月十五日(水)二十一時五分です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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