第十七章の各勢力について
十七章は、二週間という短期間ですが、各勢力で色々と動きがあったので整理してみました。アキが忙しくて他勢力の話まで意識が回ってないのと、情報が入ってくるのにタイムラグもあるので、十八章で詳細が語られるってとこも多めです。
各勢力の基本説明は八章の「第八章の各勢力について」をご覧ください。このページでは、十七章での状況を中心に記載してます。
【ミアの財閥】
財閥では、依代の君が二体目を降ろして、神力を大きく削減するのに成功した事から、予定通り、依代の君(二人目)を館で迎えることになった。本編でも語られているように後見人は家令のマサトが務めて、館の支援体制としてはトップはロゼッタ、配下に女中人形達が控える、というシンプルな構成だ。時間調整をして、ロゼッタが活動できるタイミングでだけ、依代の君(二体目)が稼働する、という形にするので、実は寝てる(止まってる)時間の方が長い。
ただ、アキの提案に依代の君もやる気を見せていることもあり、共和国内で精力的に人脈を広げていく方針となり、ロゼッタは依代の君の教育計画を練ることとなった。元々は日本にいるミアとの繋がりを強化する一環として、ミアに関連する出来事、情報を伝えていき、依代の君の実力を高めていこう、といった程度だったので大きな路線変更だった。
尤も、人脈を広げることは、次元門構築に関わる活動の自由度を高めることにもなるので、ロゼッタも大いにやる気を見せている。街エルフの流儀に従って最速で、古狸達と渡り合えるだけの実力まで鍛えられることだろう。
ヤーポン滅ぶべし、に絡む呪い研究の話は、財閥というより、研究所が主体で動く感じになる。公正に見せつつ、自分達にとって都合のよい制度を創り上げるのは彼らの十八番、彼らなら安心だ。少なくとも表面上は、心証を損ねることなく関係勢力が円満な合意を迎えるに違いない。
遊説飛行トラブルでは、財閥の通信・物流網を駆使して、どこよりも早く現地情報を入手した。影響があまりに大きい事件であることから、ニコラス大統領が各地に書簡を送るのも最優先で送るなど全面支援を行っている。何せ、ラージヒルは東西の物流を担う一大中継拠点でもあるのだ。そこが国境閉鎖などされては、経済活動への被害も馬鹿にできないものになる。この件で財閥は、連合のサポートをするという体裁を維持しつつ、速やかに事態解決を図るべく、精力的な活動を続けていくことになる。
交流祭りでは、共和国の紹介、特産品紹介、舶来品提供の流れの紹介するなど、連合の他地域との競合を避けつつ商売を円滑に進めるための宣伝活動も順調だ。ラージヒルの国境封鎖に関する混乱も、ラージヒル以外を中継する形で情報伝達を行い、先の見通しを各地域に伝えることで混乱を最小限にも抑えていた。この辺りの話は十八章冒頭で明らかにされる。
登山報告書は、財閥が推進する計画なので、既に聞き取り結果の回収は終わり、現在は、じっくり内容確認中だ。やはり、計画が巨大過ぎて、現実味が薄いと思われている問題点が浮かび上がった。登山チームメンバー達が素のアキを意識していた点は僥倖だった。
【共和国(街エルフの国)】
依代の君(二人目)が共和国の館にやってくる件は、財閥と綿密に調整して活動方針を定めた。正規ルートでの入国として、ファウスト船長に迎えに行かせたのは、依代の君の性格の見極めも多面的に行う為である。この人選は基本的に、依代の君の本質はアキに近い事から、海の男に好印象を持つと予想されたというのもあった。活動方針としては、アキと同様、用があれば関係者が館に出向くようにして、外出はできるだけ控えさせるつもりである。これは情報統制の面もあるが、彼の神力が強く、耐性強化の対応が手間だ、という実利的な面も大きい。
登山計画は話題になっただけあって、報告書の扱いに苦慮している。財閥主導ではあるが、当然、フリーハンドなど許す訳もない。あまり生々しい部分は伏せたいところだ。しかし、未曽有の大計画でもあり、竜族の大々的な参加も想定されることから、その実現性が高い点を考慮して、ある程度、一般に情報を流そうと考えているところだ。
それと、どの種族も「死の大地」の呪いを見て衝撃を受けた、という話は興味を持って受け止められることになった。長老など、年配層は故郷がそのようになっていることへの苦々しい思い抱くことになった。
弧状列島交流祭りでは予定通り、順次、交代要員を送ることで、他種族との交流を体験させる作戦は順調だ。外に出て行こうという気概を持つ街エルフが増えてきたのは長老達も歓迎していた。ただ、街エルフとは人形遣いであり、空間鞄一つでも戦力として数えられるという現実がある。その為、本人達が出歩きたいと言っても、その許認可はそうそう降りるものではない。一流魔導師の移動よりも危険視されるのが実状だった。
呪い研究の件はリアの研究所に一任、共和国の不利益に繋がることはないので、こちらは状況把握に努める程度である。
遊説飛行トラブルは共和国でも衝撃を持って受け止められた。なぜ、そのように軟弱な者が王をやってるんだ?、と言った具合である。この辺りは成人している街エルフが全員、あらゆる技能を習得、その中には精神制御も含まれていることから、心の平静を失うほど取り乱す事態はあり得ないからだ。
ちなみに雲取様が来訪して語り掛けた際にも、結構な混乱が見られて長老達がお冠だった訳だが、その時も一時的に取り乱しただけで、後に引くほど心に傷を負うような者が出ることはなかった。それだけに、他国も王族、貴族であれば、その程度で済むだろう、とまぁ、そう考えていたのだ。
そして、そもそも、現ラージヒル王はどんな奴だ、とか他の二十九の国の代表達はどうなのか、といったところを大慌てで再確認する羽目に陥った。幸い、街エルフは自他共に認める筆まめなので、言及している資料に事欠くことは無かった。ただ、話が回ってきた関係者も、始めは何の冗談か、と思うのだった。
アキ&リアが竜の指導を受けて自己イメージ強化を行ってる件は共和国としても、新たなスキル取得という面から注視している。魔力が感知できなくとも、明らかに変わった、とヤスケも認識する程だ。ただ、竜族の指導を仰ぐ必要が本当にあるのか、と年配層の反発は強い。街エルフの人口から言っても、誰もが竜族に導いて貰う、というのは現実的ではない。その為、手法を理解して、自分達だけで行えるよう代替の方法を編み出していくことになるだろう。
連樹への「死の大地」浄化作戦への参加打診の件については、経緯を見守っている程度。まだまだ形になる段階ではないとの認識だ。ただし、連樹の参加があろうと無かろうと、先々を見越して、参謀本部を立ち上げるべき、とアキが提言しており、後手に回るくらいなら人を出す、と現在は人選作業中である。なお、アキが希望した「三個師団程度を率いた経験のある方」という条件は論外、と却下された。
竜族とガチで殺し合ってた頃は、数を集めても消し飛ばされるだけなので、極限まで独立性を高めたゲリラ戦に終始していた。そして彼らが今の島に移住を終えた後は引き籠っていて、大軍を差し向けるような事態は無かったからだ。耐弾障壁を装備した魔導人形達が蹂躙しまくった時も、前線で戦っていた人形遣いは十人に満たなかったくらいだ。その為、魔導人形を部隊指揮官に据えた、多層構造の軍勢を指揮できるメンバーから選ぶことになるだろう。
【探索船団】
共和国の港に、鬼族の船が立ち寄り、数時間といったレベルだが、船員達の交流も行われた。また、妖精の助力を得て、魔導具による記録作業が街エルフの帆船、鬼族の帆船それぞれで行われた。その結果は、現在、編集作業中なので、代表達がロングヒルに集う頃には関係勢力に配布されることだろう。
双方の船の根本の設計思想がまるで違うので、同じ船団を組むのは不可能、との結論で合意した。性能面も違うので共同航行自体無理なのだ。
それと海外に派遣していた船団もトップチームが帰国してきた。激変している弧状列島の様子に、普段なら帰国組への質問の嵐になるところが、逆に帰国組が居残組に質問の嵐をぶつける有様だ。 また、船長クラス限定だが、ビクトリア号が依代の君を運んだ事も情報共有された。そもそもリア同伴で船を外から眺めたり、船員達の仕事ぶりを熱心に観察してたりしたのと、小さな美幼女、しかも妖精女王のシャーリスも同伴ときた。これで噂にならない訳がなかった。
【探索者支援機構】
予定作業も順調にこなしており、残り僅か。彼らが探索しているのは、普段、人があまり出入りしない山奥なので、ラージヒル国境閉鎖の影響も少ないようだ。代表達が来る頃には作業も完了するだろう。紫竜が追い掛け回したことで始まった、魔獣達の生息域玉突き移動の件も、その場所がロングヒルの東、連合、連邦、帝国の支配地域に跨るエリアなので、やはりラージヒルの件も影響は無かった。そちらもある程度の成果報告が届くことだろう。
【対樹木の精霊交渉機構】
樹木の精霊との交流情報は積みあがっていくものの、それを分析し、横展開していくマンパワーが圧倒的に不足している有様だ。できる限りフォローはするものの、冬に一旦、交流を〆て、冬の間に情報を整理して、春の再開に備えようといったところである。ラージヒル国境封鎖の件は、これによって東西の情報・物流の流れが寸断されることになり、交渉機構の中核を担う商人達の繋がりも麻痺することになった。
【竜神子支援機構】
アキ&リアによる短期集中教育もあって、第一陣三十人の竜神子と若竜との交流は順調な消化ペースだ。お互い選抜メンバーということもあって、多少のすれ違いはあっても、フォローできる範囲であり、このペースなら、全ペアで、遊説飛行が行われることになるだろう。
彼らも初対面の若竜が、幼子にそっと触れるように様子を見つつ慎重に対応しよう、怖がらせないようにしようと配慮してくれることを理解し、そこまで繊細ではない、と言いだすくらいで、互いに相手の事を思いつつの交流は思っていた以上に順調な滑り出しとなった。
ただ、その矢先、第一陣となるラージヒルで、王が心を病んでしまうという事案が発生して、事変を聞いた竜神子達の間に動揺が走った。彼らも支配者層の王や貴族は、護符なども貸与されており、ロングヒルで見聞きした通り、地の種族の代表としての任を果たすと疑ってなかったからだ。その為、自分のところの王や太守は大丈夫なのか、と心配することになる。
各地の竜神子達はせっせと若竜との交流を記録して、それらはロングヒルに集められて分析作業に回っている。何せ、アキ&リア以外が天空竜と交流している貴重な記録なのだ。
そもそも短期的な交渉記録や戦闘記録はあっても、交流記録なんてものはこれまでには皆無だった。その為、増員した事務方が頑張って分析作業に勤しむことになっている。
一次分析結果としては、竜達の性格は個体差が大きいこと、地の種族に興味を持つ個体が選抜されたことが伺え、かなり踏み込んだところまで質問してくる個体もいる。
ただし、アキも感づいているように、第一陣の三十柱は若竜の中から選抜された精鋭だ。これから年を重ねるごとに、交流記録が増すのに反比例するように、新たに参加してくる若竜の質が落ちていくかもしれない。まだ憶測の域を出ない話だが、来年、再来年と年を重ねて行けば、竜族の層の厚さ、或いは限界も見えてくるだろう。
【ロングヒル王国】
総武演も一昨年までの身内ベースに戻したことで成功裏に終わり、交流祭りも、場所の提供と参加者達の交通整理といった裏方に徹することで、ある程度の余裕を持つこともできた。
隣国と綿密な調整を持って望んだ、参加者の移動調整はいくつかトラブルはあったものの、深刻なものではなく、次第にこなれた運用を行えるようになっていった。それでも、王子二人も含めて、貴族達も動員しての実績でもあり、戦に向けた団結が基本だったロングヒルの文化に、新たな気風が生まれてきたと言えるだろう。
それだけに遊説飛行トラブルは寝耳に水の事態だった。自分達が最前線に位置していて、他国よりも精神的負荷に強みがあるとは理解していたが、それにしても帝国と睨み合ってる情勢で、そんな軟な精神を持つ王がいるなどとは思ってもみなかったのだ。それも二大国の一つであるラージヒルなのだから。
ただ、国の規模が大きくなると、王や王子が前線に出る必然性も減るので自然と現場で鍛えられるといった事から遠くなるものでもあった。これはロングヒルが小国だからこそイメージしづらいところだった。ロングヒル王家も動いてはいるが、あくまでもニコラス大統領との繋ぎ役と、続々とやってくる一般参加者達に混乱が起きないよう差配する点に限定している。相手が大国ラージヒルでは隣国でもないロングヒルが動いて何かするのは無理だからだ。
【人類連合】
戦支度と、交流祭りへの参加、それに若竜との緩い交流スタート。それらは、連合所属の各国に大きな動きを齎した。例年のように戦への備えと冬支度をしてればいい、などという話は終わった。どんな小国であろうと、弧状列島全体を巻き込む変化の大渦、その激震地であるロングヒルに人を派遣することを決めるほどである。
それに近隣に竜神子がいる国では、いずれ自国でも竜神子を擁することを想定して、どのような体制が必要なのか、領主に求められる事は何か、といったことを学ぼうと、特使を派遣するといったように交流も活性化していた。
そんな中で起きた大国ラージヒルでのお家騒動。これは近隣各国に衝撃を与えることとなった。
情報の伝達にはある程度の日数がかかるので、十七章ラスト時点では、ラージヒルのトラブルはまだラージヒル近辺とニコラス大統領が知るのみである。隣接する帝国領の動きも相まって、十八章では双方で緊張を強いる動きが起こることだろう。
【鬼族連邦】
若竜の訪問も始まり、竜神子達との交流も順調であり、今のところ、鬼王レイゼンが矢継ぎ早に打ち出した施策は順調に推移していた。
登山を終えた若者達も帆船と共に帰国し、その体験を皆に伝えた。それは戦という既存の概念とはまるで違う相手との大戦。大戦略からしっかり練らねば、とても成功は覚束ない、と確信する程の鮮烈な体験だった。
大地を覆う呪いは、気候の険しさとは、意味がまるで異なるのだ。
許される範囲で、交流祭りにも人を送り込んで、参加した者達は帰国するなり、未知の体験を大いに語り、それによって、弧状列島には様々な種族が住まう、そんな当たり前の認識を再確認するに至った。
自分達と直接、国境を接しておらず、交流のない種族など名前くらいしか知らないなんてことも珍しくないが、そんな各勢力が独自性を維持して、閉じた暮らしをするというのも、終わる日が目の前まで迫っている、そう彼らは感じ取っていた。
そして、彼らの元にもラージヒルのトラブルの一報が届いた。ただ、鬼族は主だった支配層の面々は、白岩様の来訪時に顔合わせを済ませており、天空竜の圧を実際、体験していることから、類似問題は起きないとも判断していた。
一部では、前線から縁遠い為政者などというのが存在できる、連合の国の在り方はそれはそれで興味深い、と思う者も多く出たようだ。
【小鬼帝国】
若竜と竜神子の交流も回を重ねて、仲が深まっていき、遊説飛行が行われることになった。一番手は連合のラージヒル。そして、隣接する連合、帝国の都市に対して、若竜が訪れて思念波で、竜神子が庇護下にある旨を伝えて回ったのだった。
そもそも体躯が小さく、魔力も弱い小鬼族にとっては、死は身近な存在であり、彼らはロングヒルの兵士達のように、ある種の達観した死生観を持っていた。その為、多少の負荷と、心に直接響く思念波を受けても帝国領では心を病んでしまうような事例は発生しなかった。
登山から戻った参加者達から、「死の大地」の祟り神を視た件を聞き、帝国が用意を進めていた参謀本部の要員達は、自分達の考えに間違いがないことを再確認していた。
相手はあまりに強大、と言うより広大であり、各方面軍は他方面軍と連携をとるのは難しく、独自裁量を大きく認めるしかない、と。彼らは自分達の軍の運用をベース案として出すべく準備を進めるのだった。
あと、小鬼族にとってもラージヒルのトラブルは想定外だった。帝国側からは手出ししないこと、監視は密とすることが通達された。ラージヒルと国境を接している半島、群砦王の元にも連絡は届き、一大事として帝都へと使いを飛ばしたが、それでもロングヒル経由で送られてきた通達の方が届くのが速かった、という事実はユリウス帝に衝撃を与えることとなった。
【森エルフの国】
登山先から戻ってきた参加者達が語った「死の大地」は、彼らの予想を遥かに超える状況だった。そもそも上陸することすら不可能と思えた。ある程度、竜族が吹き飛ばして、呪いに覆われてない土地を生み出せなくては、結界もずっと貼り続けることなどできない。呪われた地の中でキャンプをするような酔狂な真似はできないのだ。できるだけ短時間で呪いの基点を発見して浄化する、というのが基本だからでもある。
交流祭りについては、頼ったのは同じく雲取様の庇護下にあるドワーフ達だった。その辺りも十八章で明らかになることだろう。
交流祭りでは、彼らの用いる長弓が、持ち主でないと引けない異様な強さであることを展示品で示し、人々の反応と、自分達でも苗木から育てれば可能かなど、参加者達の食いつきの激しさには随分驚いたという。結果としては長命種かつ精霊使いでないと難しいといった条件が開示されたことで、森エルフ=彼らにしか見えない精霊とお話できる不思議な人、というイメージが広まっていくことにもなった。
【ドワーフの国】
山登りを終えた参加者達は、事前に観測機器の研究チームから受けていた指示に従って調べた結果をいち早く報告していた。彼らも、「死の大地」ほどの大規模な呪いは見た事がない。だからこそ、自然の流れに従わず独自に蠢く在り方に戦慄を覚え、同時にやる気も見せていた。
交流祭りは、ロングヒルで開発・研究施設を稼働させ、他種族の技術者との交流を行って貯めたノウハウがあるので、それを参考に、より一般向けにした展示品とした。玄人向けではなく、技術に疎い人でも良く分からないが凄い、と思えるように工夫したのだ。
例えば、超絶加工技術であれば、組み合わせると継ぎ目が消えてしまう超精密加工をした金属箱なんて感じだ。個別の部品なのに、組み合わせると表面の光沢も含めて完全に一体化してしまい、継ぎ目が消えてしまう、という地球でもトップクラスに比肩する加工技術だ。
誰が見ても凄い、そんな展示品は多くの観客が飽きもせず眺める事態を引き起こすことにもなった。仕方なく、時間制限を設けた入れ替え制にして、名残惜しいと言う観客に、商売スマイルとセットで、後からでも見られるパンフレットを渡すのだった。
【妖精の国】
事前に綿密な準備と、妖精らしい人当たりの良さを活かして、登山に参加した者達は、共に登った仲間達と親交を大いに深めることができた。
小さく華奢な体と、完全無色透明な魔力のおかげで、相手に警戒されることなく、フレンドリーさを前面に押し出すことができた。彼らが語った旅と、「死の大地」の観察結果は、妖精達にも驚きを生んだ。
これらは大いに人々の関心を集めることになり、交流祭りに参加する者達は羨望と妬みの視線を浴びることとなった。
妖精達にとっても、ラージヒルのトラブルは想定外であった。竜族は確かに彼らにとっても怖い相手だが、十分な距離を取り、拡散型の弱い思念波で語られた程度で逃げ出す事は無い。
それに、彼らが交流を重ねてきたロングヒルに住まう者達は、洗礼の儀に参加した者も多く、それほど弱い者達はいなかったからだ。
だが、ここに勘違いの原因がある。
そもそも、ロングヒル自体が最前線を担う、その身に狂気を宿すと言われるような男達が住む国なのだ。女達だってそれに負けない強さがある。そして、頻繁に天空竜が飛来し、鬼族が大使館を構えるとなれば、そこに送り込む人材もまた、ある程度の選別を経た精鋭となって当然だった。
アキも何回となく指摘されていた件ではあるが、それでも、彼らも竜に恐れおののき、精神に異常をきたしてしまう為政者というのは想像できなかったようだ。
【竜族達】
「死の大地」を眺めた若雄竜達も帰国した足で、すぐに福慈様など、群れを束ねる竜達への報告を行った。大地を覆い尽くす呪いは、自然の雲や霧とはまるで動きが違い、まるで生き物のように蠢いていた。そしてアキがいうようにそれらは数多くの呪いが重なって群れを為している、と看做すのが妥当だとも。
日中と夜間でそれぞれ定量的に計測するドワーフ達の様子なども報告し、感覚ではなく、同じ尺度で計測することの大切さも学んだ、と語った。あちこちで計測した情報を持ち寄る場合、同じ尺度で計測しないと集めても意味のある結果にならない。
そして、「死の大地」はそうして大勢で調べなくては全体像が把握できないほど広大だと。
遊説飛行の件は、まだ竜族側には連絡は届いていない。十八章で基本方針が決まったらアキから第一報が届くだろう。物を作る必要がなかった竜族にとって、物事を定量的に計測すること、「死の大地」全体を捉える超広域視点を持つこと、数千柱の竜が協力せねば、対峙できる相手ではないことが明らかになってきたことで、竜族の中でも物事への捉え方への大きな変化の流れが近付いてきたと言えそうだ。
【樹木の精霊達】
十六章ラストから二週間しか経過してないこともあり、樹木の精霊ドライアド達の行動に特に変化はなく、新たな共存相手としての地の種族に興味を向ける個体が増えてきた、といった程度だ。
【「マコトくん」の信者達】
依代の君から神託を受けた神官達は、二名の脱落はあったものの、ロングヒルに再集結し、二体目の依代に対する神降しの儀式を敢行し、これに成功した。「マコトくん」、依代の君(一体目)、依代の君(二体目)と存在が増えたことで、彼らの中でもそれをどう解釈するかで、三つのグループが生まれた。
依代の君は、そうして悩む神官達に対しても、悩みながらも目を背けず対峙していく姿勢こそが大事と褒める。その結果として、依代の君からの神託が聞こえなくなったとしても、「マコトくん」との繋がりが あるなら、神官としての在り方はそれで良い、とも告げた。
それと、交流祭りでは、マコト文書に関するブースも立ち上げられており、希望者には、購入と搬送の手続きもするといった商魂逞しいというか信仰心厚い行動が見られた。
勿論、宗教を前面に出しては、反発も招くので、彼らは既存宗教との二足の草鞋も認める寛容さと、魔力という邪魔がないシンプルさで描かれているマコト文書の世界こそが、世界の本質を理解するのに最適だ、なんて感じでアピールするのだった。
いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。
時系列表を更新したり、勢力という視点、技術的視点、人物視点と経ることで、頭の中も整理できる感じです。……結構、十七章で紹介するとしていた奴で、時間軸がそこまで進まず、十八章送りという項目も多かったですね。
……十六章の時と同じことを言ってますね。すみません。
<今後の投稿予定>
十七章の施設、道具、魔術 十一月十三日(日)二十一時五分
十七章の人物について 十一月十六日(水)二十一時五分
十八章スタート 十一月二十日(日)二十一時五分