SS⑤:お姉さん達の女子会(後編)
前回のあらすじ:リアが声を掛けて始まった女子会。アキや依代の君の周りにいる「お姉さん」の親睦を深める趣旨だが、先ずは連樹の巫女ヴィオのセキュリティ面見直しの件について片付けるのだった。
今回も本編ではなく、リア達がこっそり開催した女子会を三人称視点で描きます。読まなくても本編理解には何ら問題はありませんが、読むとより一層楽しめることでしょう。
取り敢えず、ヴィオ限定の話も終わった事で、軽い話題に移ることになった。軽い、というのは相対的な話である。
「ここにいるのは、お姉さんだと話していたが、リアはアキの姉、依代の君の義姉であって、位置付けが違うように思うがどうだろう?」
ヴィオの指摘に、リアはその一面もあると頷いた。
「確かに二人にとって、私はミア姉の妹であって、先々の事を考えれば、義姉、それも家族の中でも味方にしておきたい相手だろうね。ただ、アキの立場上、私は父ハヤト、母アヤの次女であり、姉でもあるけれど、私への接し方は、義姉へのソレだ。無理もない。家族として過ごし始めてまだ一年なのだから。それに幼少の頃から家族として過ごしてきた姉妹とは大きく違うところもある」
「父母からの愛、資源を取り合う事も無く、お二人が会われたのもリア様が成人された後、成長の時期を終えてからでした。ある意味生々しい、姉妹としての衝突を経ていない関係、養子で迎い入れた、歳離れた末子といったところでしょう」
リアが自分で言うのもどうかと思ったところを、ケイティがさらりと付け足した。
ヴィオも、父母から子に与えられる精神的、経済的、物理的な諸々を、資源と纏められたことに苦笑を浮かべたが、言わんとするところは理解できた。両親が資産的に余裕があったとしても、持てる時間は有限だ。姉が優先されれば妹が不満を持つし、その逆なら姉が妹を羨むだろう。
「日本ではアキにも姉がいるそうだけど、その関係はアキからすれば、お姉さん、ではなく姉、ということらしい」
そのニュアンスの違いにダニエルは気付いた。
「アキ様、それと依代の君が思う「お姉さん」は親しい間柄ではあるものの、家族と言うほど近くない、他所行きの仮面を付けた存在なのデスネ。職務をきっちりとこなす、外向きの役職をこなす存在ダト」
リアなら財閥や研究所の代表として、ケイティなら家政婦長として、女中三姉妹なら女中として、ダニエルなら神官として、そしてヴィオなら連樹の巫女として、という訳だ。
「そう、そこなんだよ。アキも一生懸命、私のことを家族として見ようと努めてくれてるのは嬉しいんだ。でもケイティが抱き着いた時と、私で反応がまるで違うのは酷いと思わないかい?」
ケイティが抱きつけば、傍目からもわかるほどに慌てて頭に血が上って、目にハートマークが浮かんでるような有様だ。ソレに対してリアが同じことをやっても、リア姉暑いって、などとぞんざいに扱われてしまう。
リアとしては、ケイティの時のようにドギマギするアキの反応を楽しみたいのだ。
「リア様、少し話がズレているかと」
「……そうだね。話を戻すと、お姉さんにも二種類ある。仕事モードの時とオフモードの時、だね。ヴィオが最終日辺りで依代の君と回る時はオフモードを期待されてるって話だ」
何せ私服だし、依代の君と二人でデートなんだから、と笑った。
「彼から強く望まれたんだ。人生初のデートは、ぜひ、私に、とせがまれた」
「やはり拒まれることなどない、と確信しているような口振りでしたか?」
ケイティの問いに、ヴィオは首を振った。
「それが、いつもの尊大な態度などどこかに忘れてきたようで、見た目相応に幼い感じだった。誰かに甘えるような経験もないから、とても初々しい振る舞いで」
「トキメキを感じて、デートを約束されたのデスネ」
男の子が背伸びして純粋な好意を向けてくるのも良いモノ、などと全てを理解したような顔でベリルが断言した。
反射的に取り繕う言葉が出そうになったものの、この場でそうする意味もないと気付いて、ヴィオは開き直った。
「他の誰でもない、私が良い、と思いを向けられたんだぞ。私だってあれだけ好意を向けられて悪い気などする訳もない。彼が望む「お姉さん」として振る舞えるか、そちらの方が心配だった」
「それでも心の内にある不安を見せず、年上の余裕のあるお姉さんとしてリードしてあげよう、とその思いを受け止められた」
ケイティが、その時の光景が目に浮かぶようです、などと言いながら回り込む。
「勢いよく振ってる尻尾が幻視できるくらいに、依代の君は喜んだんだろうね」
リアもしっかりと逃げ道を塞いだ。
他人の恋バナ、しかも初デートとくれば、話のネタとして最高だ、なんて内心が透けて見える。というか、隠し事はしないよ、と胸襟を開く姿勢を前面に押し出し、楽しむ気満々で二人は踏み込んできた。
つまり、防御を捨てて恋バナをしよう、と。
カチリ
そう、音が聞こえた気がした。女子会に参加した面々は後にそう語った。それからヴィオは、あまり馴染みがないだろうからと、連樹の里で、依代の君と過ごした際のエピソードをあれこれ披露し始めた。現身を得た神の思考を理解するのに重要そう、とわざわざ匂わせて、それでいて、話を最後まで聞いていくと、結局は可愛い弟自慢かいっ、と突っ込みたくなるような流れで。
最後には、胸焼けでお腹一杯です、と全員が音を上げることになった。何事も過剰摂取は毒ということである。
しかも、ヴィオが自分より依代の君と仲良くなった事に、アキが露骨にヤキモチを焼いていた点にも触れて、ケイティにもオフの姿を見せるべき、と焚き付けた。そしてリアには、身近なお姉さんとのデートを終えた二人から、義姉として話を聞いて、心の距離を縮めよう、などと囁くのだった。
◇
当初、イメージしていたのと辿り着いたゴールは結構違ってる感はあったが、それでもヴィオの身辺警護も増した重要性に相応しいモノに変更し、アキや依代の君に近しい「お姉さん」同士の親睦を深めるという目標も達成することができた。胸焼けもしてきた終盤の頃合いには、アイリーンが「暫くしたらまた食べたい、と思える程度の味付けとするのが大事で、当面食べたくないというほど過剰に満足させるのは悪手なのデス」などと語るくらいで、もうすっかり染め上がってる感じになっていた。
突っ込み不在というのは恐ろしいという好例だろう。
参加してる面々は、不快に思われないギリギリまで攻める悪いサンプルとしてロゼッタがいるせいか、自分達は自然かつ、ヤキモチを焼かれるくらい、執着や依存をされない程度に上手く立ち回っていこう、などという妙な団結心も芽生えた。下手に動いて、依代の君が神力を行使しちゃったり、アキが天空竜にちょっと睨みを効かせて貰おうなどと、言い出さないよう、他に漏れないようにしつつ、情報共有も密に、などと言った具合だ。
公平な第三者視点などというモノがあれば、彼女達とロゼッタの間にどれだけの差異があるだろうか、と突っ込みを入れていたに違いない。
ただ、この場には共犯者しかいないので、己の趣味が隠れるほど、たっぷりの善意にコーティングされた話し合いによって、今後も定期的に女子会を開催することが全会一致で決まったのだった。
ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
誤字、脱字の指摘ありがとうございます。気付きにくいので助かります。
色々ありましたが、女子会も無事終わりました。ヴィオも伊達に連樹の巫女をしている訳ではないので、濃い面子相手にもしっかり存在感を示すことができました。やはり、信仰する神の為とはいえ、苦手な将棋を共に学んだ経験は、ヴィオと依代の君の心の距離を縮めることになったようです。定期開催も決まったので、今後は横の繋がりも密接になっていくことでしょう。
<今後の投稿予定>
十七章の各勢力について 十一月九日(水)二十一時五分
十七章の施設、道具、魔術 十一月十三日(日)二十一時五分
十七章の人物について 十一月十六日(水)二十一時五分
十八章スタート 十一月二十日(日)二十一時五分