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17-24.遊説飛行とへし折れた心(前編)

前回のあらすじ:二人目の依代の君も共和国行きが決まりました。ただ、ロゼッタさんは僕が思っているよりも、注意して接して行かないといけないようです。いい人なんですけどね。そこに異論はないです。重いのが難点だけど。(アキ視点)

依代の君は、一人目はロングヒルに残って、第二演習場にやってくる竜達から、力を抑える技を教えて貰い、二人目はリア姉と共に大型帆船ビクトリア号を使って共和国に渡って、僕が夏を過ごした館で、ロゼッタさんから多くの事を学ぶ事になった。


「絵日記は引き続き、ロングヒルにいる一人目が描く方針だ。日々の経験を振り返りつつ、自身の手で絵と文にしたためる作業は、大切なことが記憶に残りやすいから。アキから、何か気になることはあるかい?」


旅支度を終えたリア姉と、二人目の依代の君が旅立つ前に挨拶をする時間を設けてくれた。


「そうですね。僕の時は時間も限られていて、ファウスト船長の武勇伝とかを聞けなかったから、その辺りを聞いて欲しいかな。それと、そろそろ海外から戻ってくる船団も出てくるだろうから、人材スカウトの件がどうなってるかも知りたいね」


「ちょいと声を掛けて、すぐに大洋を渡って異国に飛び込もうなんて気概を持つ稀有な人材なんて、いたとしても国が簡単に手放す訳がないよ」


まぁ、そこはリア姉の言う通り。


「そこは僕も理解してるけど、それなら、そもそもアタリな人材がいそうなのか、こちらへの興味があるか、或いは興味を持たせるのに必要な呼び水は何か、国側の姿勢はどうかなんてところを聞いておきたいな、って」


僕の考えを聞いて、依代の君が口を開いた。


「つまり、狙い目な人材がいるなら、いち早く情報を把握して手を打ちたいということか」


「千人の天才より、不世出の偉人、賢人こそが欲しいからね。それも僕達の望む、次元門構築という分野で稀有な才能を発揮してくれる人でないと。それ以外の分野でどれだけ天才だとしても招く意味がない」


だよね、と同意を求めるとリア姉は苦笑しつつも頷いてくれた。


「裾野はいらない、頂上だけ欲しい。正直な願望ではあるけど、それにマッチした状況が得られる、と考えるのは楽観論過ぎるとは思う。言いたいことは解るけどね。ただ、弧状列島と妖精の国が他国に大きく劣っている分野は今のところ確認されてない。だから、異世界へと手を伸ばす次元門構築なんて話は、研究、開発の本流からは外れている可能性は高い。そういう意味で、トウセイ殿のように稀有な才を持ちながら燻ってる人材もいてもおかしくはない、ってところだろうね」


リア姉の説明を聞いて、依代の君も成る程、と感心してみせた。


「船旅では、リア姉も同席しているから、その辺りの話はよく聞いておこう」


「後から報告書を貰えば補完できる部分はばっさり捨てて、直接話せるからこそ確認できる部分を押さえるようにね。君も海の男の生き様とか、異国文化と交流する特使とか大好きでしょう? 僕と違って気軽に会える距離でもあるし、親睦を深める方を重視しても良いかも」


今も時折、手紙のやり取りはしているけど、やっぱり距離の遠さはなかなか埋め難い、って事も話すと、リア姉が呆れた顔をした。


「自分が館にいれば、もっとマサトやロゼッタ、ファウスト、それに長老達とも親交を深められただろうにってとこかい?」


「うん、そう。せっかく縁が持てても、接する機会が少ないと、互いを知るのも難しいからね。悪いなぁって思ってたんだ。その点、依代の君なら、相手と多少、感情的に反りが合わなくても、()()()()()()()()、長老さん達と話していて楽しいし、きっと上手くやれると思うんだ」


共和国の方は任せた、って話を振ると、依代の君も目を細めて嘲笑った。


「転んでもタダでは起きるな、使える者なら親でも使え。ボク達に伝手はいくらあってもいいくらいだ。共和国の方は任せろ。リア姉、取り敢えず現職の長老達への繋ぎを頼む。影響力のある元長老の方々にも会ってみたい」


ん、意図を理解してくれて何よりだ。この辺りの基本的なスタンスが同じだと話が早くて助かる。


「はいはい、その辺りは道中に詰めていこう。幸い、現身を得た神であるキミに興味を持つ者達は多いし、立場上、見極めようと接近してくる者もいるからね。ただし、そういった古狸達とやり合うなら、ロゼッタの指導を受けて合格を貰ってからだよ。キミはアキも話していたように、影の部分が薄くてバランスが悪い。初回はセッティングできても、二回目以降も交流を続けられるかはキミ次第だ」


会う価値なしと思われれば、それで交流は終わりだからね。


「それでは行ってくる。館でミア姉に関することだけ学ぶだけなら狭い活動になると思っていたが、アキの言う通り、共和国の地にいる利点を活かさぬ理由はない。忙しくなりそうだ」


ん、良い顔だ。


感覚質クオリアを育てる活動も忘れずにね。それが心を強く豊かにもしていくから」


「解った、解った、皆まで言うな。過保護な保護者面がウザいぞ」


彼はリア姉の手を掴むと、さぁ行こう、と促した。そう、彼の神力を制する技が高まった事で、アイリーンさん達の高魔力耐性以上の強度を発揮できるようになったんだよね。お陰で、こうしてリア姉とも触れられるようになって、初日は手を繋いだり、頭を撫でてもらったり、抱き締めてもらったりと大はしゃぎだったそうだ。


 僕?


彼は僕に触れられるのを嫌がるし、僕も必要がなければ、触れたいとは思わないから、別に気にしない。


 おや?


依代の君が握り拳を突き出してきた。仕方ないなぁって顔をしてるのが子供っぽい。


僕も同じように手を握って、軽く彼と拳を触れ合わせた。父さんに教わった男同士の挨拶だ。軽くだけど。


「それじゃ、行ってくる」


「ん、いってらっしゃい」


依代の君も義理程度に手を振り出掛けていった。普段、ツン反応しかしない猫が、レアなデレを見せたようで、ほんのりと愛しい気持ちが湧いてくる。扱いの難しい関係だけど、気長に育んで行こう。


依代の君は馬車に乗れないから、外で待機していた護衛の人形遣いさん達と共に歩いての移動だ。


とはいえ、荷物は全部空間鞄の中に入ってて身軽なのと、身体強化の技を習得している人か、依代の君のように疲れも単なるフレーバー要素に過ぎない存在となれば、その移動速度は驚異的だ。


馬車で移動してきた僕の場合は半日かけての旅程だったけど、彼らなら昼前にはロングヒルの港湾都市ベイハーバーに辿り着けるとの事だった。





「上手く人脈を築けるでしょうか?」


ケイティさんは少し心配顔だ。


「人生経験は少ないけど、竜眼ほどじゃないにしても、見通す能力に長けてる感はあるし、ロゼッタさんもいるから、そうそう下手は打たないと思いますよ。どちらかというと萎縮しないように、発破を掛けた方が良いかも」


「それはロゼッタに任せましょう。その辺りの見極めは得意でしょうから。それにしても長老の方々を総嘗めですか?」


「こちらにはヤスケさんが居てくれて、色々と話せる間柄ですけど、共和国は長老達による多頭政治体制でしょう? 頼み事も増えるだろうし、一通り把握しておいた方がいいかなーって。せっかく、会える機会があるなら、あちらも繋ぎは付けておきたいでしょうから、渡りに船ですよ」


これには、お爺ちゃんが割り込んできた。


「それはヤスケ殿以外にも、経路を確保することと、依代の君が距離と時間を超えて、すぐ話せるからかのぉ?」


「ん、そういうこと。ヤスケさんが報告するとなると、レーザー通信施設を使うしかないけど、手間も時間も掛かるから。それに比べて依代の君なら、依代を切り替えるだけだから、瞬間移動するようなもの。この有利な点(アドバンテージ)を活かさない手はないよ」


「同じ話も違う者から聞けば得るものもあるじゃろう」


お爺ちゃんも納得してくれた。


「依代の君は現身を得た神であり、秘するべき存在です。当面は長老達や接点を持ったファウスト船長のような限られた人々との交流としていく事になるでしょう。アキ様であれば、ロングヒルにいらっしゃる天空竜の方々の助力は必要となりますが、日帰りで共和国を訪問することも可能なのですから。表の活動はアキ様、共和国での裏の活動は依代の君、と役割分担されるのが宜しいでしょう」


なるほど。


「では、その方針で。彼の外見からしても僕以上に前に出るのが難しいところがありますからね。それと、共和国にいるマコト文書の神官さんとの接点も確保してあげて下さい」


「神官ですか」


「マコト文書の知を活かしている共和国には、マコト文書を知る人達や神官も多く、そのスタンスもロングヒルよりは深いものがあると思うんですよね。ダニエルさんも魔導人形であり神官でもあるので、その辺りは精通されているとは思うけど、ロングヒルに一年来てるから、共和国にいる神官に比べれば疎いところも出てきてるでしょう。その辺りの穴埋めです」


「そちらはロゼッタとスケジュールを調整しておきます」


「宜しくお願い致します。あ、僕からの提案と判らないようにしてくださいね」


「お任せください」


ケイティさんも快諾してくれたし、これで彼の共和国での活動も実り多いものとなってくれそうだ。僕とは違う、依代の君だからこそ得られる視点、知見もあるだろうから楽しみだ。ストレスが溜まったとしても、こちらで竜族や妖精の皆さんと触れ合えれば、そうそう困った事態には陥らないだろう。順風満帆だ。





それからは、忙しい合間を縫って、師匠やエリーと魔術の訓練をしたり、あちこちで交流の始まった若竜と竜神子のフォローをしたり、三大勢力の代表達が見せる為の資料作りをベリルさん達とやったり、それに運動不足解消を兼ねてトラ吉さんと追いかけっこをしたりと、それなりに充実した日々を過ごしていたんだけど、その日は朝から慌ただしかった。


目が覚めると、何故か、お爺ちゃんだけでなく、シャーリスさんもまで揃っている。


「おはようございます。シャーリスさん、今日は何かありましたっけ?」


ケイティさんに手伝って貰いながら、健康診断を軽く済ませつつ、身支度をしていると、シャーリスさんが理由を話してくれた。僕の顔の横あたりに浮きつつ、鏡越しに僕と目線を合わせる心遣いが嬉しい。


「妾も翁から概要を聞いて、急いでやってきたところよ。遊説飛行の話があったじゃろう?」


「はい。意気投合するのが早くて、いの一番にラージヒル近辺を飛行する予定でしたね」


話の流れからして何かトラブったか。予定してない都市を訪問しちゃったとか、飛行高度を間違えたとかかな? 思念波での語り掛けは、心話で事前確認もしてたから強圧的な印象とかは与えてない筈だけど。


そして、問題についてはお爺ちゃんが自分も驚いた、と言いながらも教えてくれた。


「そのラージヒルでな、御家騒動が勃発したそうなんじゃよ。何でも王が心の病を患ってまつりごとを行えず、病が癒えるまでの間、摂政を立ててまつりごとを取り仕切るんじゃと」


 いやいや。


ちょっと待って。


病気で一線から退くなら、王子や王女に家督を譲ればいいし、そもそもそんな話が急に湧いてくる訳もない。それに次の王がまだ幼くて摂政を立てるなんてのはよくある話で、それを御家騒動とは言わないだろう。


 つまり……?


「遊説飛行を発端に突発的に心を病んで、主君押込騒動が起きたと?」


こちらの世界の支配者層、特に連合のそれは、毎年のように帝国と行われる成人の儀と称する限定戦争と立ち向かっている。だから、ロングヒル王家を見ても分かるように常在戦場って気概を持っているし、これまでに会ってきた三大勢力の代表の皆さんも、共和国の長老の方々も、防壁込みではあっても天空竜の前に立ち、思念波を浴びても、毅然とした態度を崩すことは無かった。彼らの先祖は、怒れる母竜達の前に決死の覚悟で交渉に赴いたくらいで、そんな英雄の末裔なのだと理解していた。


それだけに、自分で言っておきながらも、有り得ない事例を口にした、その思いが拭えない。


……だけど、鏡に映るケイティさんは、淡々と僕の髪を整えながら、その通りと頷いた。


「居間にはヤスケ様もいらしています。ジョウ大使はロングヒル王宮に出向き、連合との繋ぎを奔走中。連邦、帝国両大使館にも一報を入れました。ただし、遠い地の話ですので情報封鎖しつつ、交流祭りは引き続き開催してます」


 あぅ。風雲急を告げる展開だ。


「詳細はヤスケ殿を交えて聞くとしよう。それと、今、最も注意深く動くべきはアキ、其方だぞ」


シャーリスさんが念押ししてきた。


「僕、ですか? 僕がやることと言っても、遊説飛行をした若竜に心話で話を聞くくらいしかできませんよ?」


「アキ様、それこそが慎重な上にも慎重に行うべき行為なのです。仲の良い竜神子の住まう地で、お家騒動が起きてます、などと若竜に伝えて、直接介入などされては大混乱間違いなしです。それは避けなくてはなりません」


「ケイティさん、いくらなんでも若竜がそこまで踏み込んでいく事にはなりませんよ。――それとも、なりかねない危うい事態だと?」


「詳しい話はヤスケ様がされますが、現在、ラージヒルは混乱を防ぐ為と称して国境封鎖及び戒厳令が施行されているのです」


 え゛?


「な、なんで、空から声掛けしただけで、王が病んで、家臣が主君押込をして、国境封鎖して、戒厳令なんて連続コンボになるんです? というか、竜神子も含めて身の安全は確保できてるんですか!?」


いくらなんでも事態が急変し過ぎだ。以前から政治体制が揺らいでて、今回の遊説飛行が最後のひと押しになったとか? でもそんななら、ニコラスさんが事前に手を打つだろうし。


そんな風に思考が次から次に連鎖していってしまったけど、お爺ちゃんがポンポンと頭を撫でて、意識を戻してくれた。


「それらも含めて、女王陛下も喚んだんじゃよ。軽挙妄動は慎まねばならん。じゃが、霧が晴れるのを待って出遅れては悔やみきれぬ事にもなるやもしれん。じゃからこその集いじゃ」


お爺ちゃんはそう言って笑みを浮かべた。上に立つ者は待つのも仕事じゃ、なんて話す姿は、歩んできた人生の重さを感じさせる安心感があって、そんな落ち着いた声を聞くだけで、乱れていた心を落ち着かせる事ができた。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲が大幅にチャージされました。

誤字、脱字の指摘ありがとうございます。気付きにくいので助かります。


依代の君(二人目)が共和国に行く事になり、どうせ行くならと、アキが遠慮なく要望を託しました。ソレがミア救出に繋がるとなれば彼も拒む理由はなし。彼も言ってるように、今後、館での彼の活動は当初イメージしていたよりも濃いモノになって行くでしょう。


遊説飛行も始まりました。……が、語られているように、皆が天空竜の語り掛けに耳を傾けて無事達成とはなりませんでした。アキも言ってるように、王が病む→主君押込で摂政擁立→国境封鎖→戒厳令発動、の四連続コンボが決まってしまう展開に。なかなか思い通りにはいきませんね。


次回の投稿は、十月三十日(日)二十一時五分です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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