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17-22.依代の君、二体目降臨(中編)

前回のあらすじ:ダニエルさんから、二体目の依代に降ろす儀式関連であれこれ聞けました。地球(あちら)とは違う意味での三位一体論なんてのが湧いて出てくるとは驚きました。信仰する神から神力を賜り、神託を得られる世界なだけあって、実体験ベースで認識してる辺りが面白かったです。(アキ視点)

次は二体目の依代のお披露目、ということで、一体目の方が闇のドームの中に戻り、もう一方のドームの方から、二体目の依代の君が歩いてきた。


違いは麦藁帽子に結ばれているリボンの色が青であること。あと、神力が極微かに感じられる程度だ。


「かなり注意しないと、神力がわからないね」


「こちらの依代に合わせて、割合を減らしたのは正解だった。ソフィアよ、こちらでも交流祭りへの参加は無理か?」


依代の君の期待する眼差しに、師匠も困った顔をしながらも首を振った。


「一体目の神力に比べて六割相当なのは確かだけど、それでも一流魔導師よりずっと強くて、それだと、一般客が怯えてしまうんだよ。白岩様達、成竜が本来の半分、雲取様達、若い世代が本来の三割まで圧を減らせている事から考えると、今の依代の君なら、同じ手法で一割程度にまで減らせても不思議じゃない。開催期間はまだ一ヶ月近く残っているから、焦らず圧を減らす術を身に付ければいい。身に付けられたなら、大手を振って参加すればいいよ」


師匠も、依代の君の子供っぽい仕草に言葉遣いを合わせた。依代の君もそれに特に不満を持ってないようだから問題はなさそうだ。


「うむ。では雲取殿、済まぬが指導を頼む」


<我だけではないが、第二演習場にくる竜ならば、誰でも指導に応じるよう話を通しておこう。……ところで、それほどまでに交流祭りに行くことを望むのは何故か教えてくれるかね?>


地の種族が何かの区切りに祝いの席を設けたり、祭りを催したりするのはわかる。ただ、新たな技法を習得してまで参加したい、というほど情熱を傾けるのは何故か。雲取様の思念波から感じられたのは、そんなところっぽい。わざわざ混雑してるところに出向く、というのがそもそも気が乗らないところがあるのは、竜族気質かな。


依代の君は、尊大に頷くと自説を滔々と語り出した。


「まず、この交流祭りが弧状列島に住まう全種族、全勢力を対象として集った第一回の開催であるところが大きい。そのように目出度い場に居合わせた事を慶び、同じ場に立って思いを共有しておきたいと思ったからだ」


 なるほど。


「次に、様々な種族の一般層がどんなものか観ておきたいと言う思いもある。今、こうして集ってくれている皆は、一般層からは離れた存在だろう。例えば神官達だ。彼らはマコト文書を信仰する者達の中でも、神の声を聞き、神力を得る力を持っている。だが、そのような者達は信者の中でも極僅かだ。ボクはこうして皆と同じ地に降り立った。ならば、市井の者達のことも観ておきたい。同じ目線からだからこそ見えてくるモノもあろう」


この発言には、神官さん達は感動した思いを抱いたようだ。


「それから、こうして現身を得たことで、過去を振り返り、未来に思いを馳せることにもなった。ボクがこうして降りたった始めての夏、そして秋。季節が冬へと移り、家の中に籠ることが増え、春の到来を待ち望むことになったなら、夏や秋の季節を懐かしく思い出すことにもなろう」


 うん、うん。


「となれば、やはり思い出、それもその時にしかないイベントなどあれば最高だろう。普段とは違う装いをして、その時だけの華やいだ場に赴き、それまでには無かった多様な種族が集い、平和な時を共に過ごせるならば、それはきっと良い記念となるに違いない」


神は生きておらず、故に過去はなく、未来もなく、ただ、今があるのみ。ちょっとしんみりした気分になっちゃった。……んだけど、それもここまで。次の言葉で一気に評価が変わり果てた。


「それに、ヴィオ姉も普段の巫女姿ではなく、市井の町娘のような装いで一緒に行ってくれると約束してくれたのだ。これまでは連樹の森を歩く色彩こそ派手だが実用第一な服か、巫女服だったから、今から楽しみだ。シャンタールも祭りの場に合わせたボクの装いを用意してくれると言ってくれた。これで気持ちが昂らない訳があるまい?」


 お、おぅ。


「というか、もう行けることは確定なんだね?」


僕の問いに、彼はなんという愚問だ、と嘆く真似すらしだした。


「ヴィオ姉のような人がボクの為に着飾って、()()()祭りに行くことを約束してくれたんだぞ? 術の習得が間に合わずデートをキャンセルするなどあり得ん! 神力を制し抑える技を習得した結果は確定だ。当日、もし天候が邪魔するなら、ボクの意で心地よい秋晴れに変えてやるとも」


 あー、なんというか、うん、気合入りまくりだね。


ちらりとヴィオさんを見ると、他の皆さんから視線が集まってしまい、恥ずかしそうに縮こまってる。


雲取様も、お題目をあれこれ言ってたけど、最後はそこかーって気持ちが感じられた。

……っと無言の思念波で黙っていろ、と釘を刺された。


<天候操作の術式は、影響範囲が大きい。以前、合同で行った試験で鬼族が集団術式で天候操作をしていたから、場合によっては彼らに頼むと良いだろう。それと、祭りに参加したい気持ちも理解できた。繰り返される日々にはない特別、そう捉えれば熱意も湧いてこよう>


竜族にとっては、一年の季節の移り変わりですら、あまり変わり映えのしない日常、繰り返されて飽きのきている光景だもんね。


「ところで、依代の君が天候操作をするのと、鬼族が集団儀式で天候操作をするのでは何か違いがあるんですか?」


この問いには、師匠が答えてくれた。


「対象地域だけで見れば同じだろうね。ただ、周辺地域まで含めると話は変わってくる、というのが私達の見立てさ。神術はその名の通り、神の御業、結果がいきなり得られる。その過程がどうだろうと関係なく、だ。鬼族の集団術式なら、魔力で捻じ曲げるにせよ、ある程度、辻褄はあった変化に収まる。けれど神術はそうじゃない。過程をすっ飛ばして結果を得るから、この場合だと広い地域に歪みが出る……かもしれない、とね」


師匠はさらりと話してるけど、それはなかなかヤバ気な話のような気がする。


「それって、魔術は魔力を用いて世界を捻じ曲げるけど、それでも世界の(ことわり)に沿っている。だけど、神術は直接、世界を変えてしまうから、あちこちで(ことわり)が歪むと」


「そういうことだね。まぁやってみないとわからないが、空の彼方まで全部、神術の範囲にするより、もっとこじんまりと確認していきたいじゃないか」


ん、この発言には、依代の君も納得して頷いてくれた。


「それなら、もし、必要があれば、鬼族に頼むとしよう。結果が得られれば別に方法はどうでもよい」


「澄み切った青空、心地よい気温と湿度、それに微風ってとこ?」


「そうだ。こちらの生活も慣れてくれば、悪天候もまた良しと思えるだろうが、今回は栄えある第一回。やはり、空もまた、その場を祝福するような天候であるべきだ」


 お、おぅ。


晴れ舞台には青空こそが似合うと、大気を汚す近隣の工場群を停止し、会場に雨が降らないよう、そこに至る前の地域で人工降雨ロケットを撃って、雨雲を消し去った中国共産党みたいな姿勢だ。まぁ、操作できるなら操作しちゃえ、という気持ちも分からなくはないけど。


その発言を聞いた時、依代の君に常識を尊重する意思を学ばせることで、その場にいる人達の心が一つになった。言葉にせずとも、皆がそれを認識していた。不都合もまたそれでよしと楽しむ精神を持って貰わないと、彼の実力なら、大概の事なら望むよう結果を創れてしまうのだから。


人を試すのが好きな性分とは思ってたけど、事が自身のこととなると、その基準はかなり緩くなりそうな気質が垣間見えたので要注意。彼が神力を抑える術を学ぶ間に、その辺りの感性もまた学んで貰おう。


……そんな皆からの無言の期待を一身に受けて、ヴィオさんは神妙な表情で頷くのだった。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字、脱字の指摘ありがとうございます。気付きにくいので助かります。


依代の君も、神力を大きく減らし、制御も上手になったことで期待が高まってましたが、残念、ソフィアも話しているように、一般層からすれば、並みの魔導師であっても、萎縮してしまうくらいなので、参加許可まではまだまだハードルは高いのでした。


と言っても、神が命じるのだから、つべこべ言わず結果を出せ、ができちゃうのが頭の痛いところ。アキは次元門構築への心強い神術の使い手ゲット、くらいで喜んでますが、他の面々も感じてるように、彼は触るな危険、って存在です。


それでも、だいぶ理性的な行動はしている……少なくとも降りた直後よりはだいぶマシになってきてるので、この流れで頼む、といったところでしょう。ヴィオも大変です。


次回の投稿は、十月二十三日(日)二十一時五分です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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