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17-21.依代の君、二体目降臨(前編)

前回のあらすじ:登山チームが盛大に不満を言い合ってたけど、僕にそんなこともあったと教えて貰えた関係は貴重なモノだとエリーに教えて貰いました。それはそれで言祝ぐとしても、長期スパンに立った活動を円滑に進める為には、地道な啓蒙活動も必要そうだと感じました。楽をするには手間を惜しんではならない。悩ましいですね。(アキ視点)

依代の君が神官達に神託を送り、ロングヒルの地に彼らが再度集結した、という話は聞いていたけど、二体目の依代に、依代の君を降ろす試みは無事、成功したそうだ。


今日はその成果を確認するために、第二演習場に関係者を集めてお披露目会をすることになった。


前回と同様、会場への到着は僕がラスト。起きるのが遅いから仕方ない。


ケイティさんに手伝って貰いながら身支度を済ませて、移動する馬車の中で軽食を取りつつ、ダニエルさんから、依代に降ろす儀式の顛末を聞くことになった。


「――召集に応じて神官達が集ってカラ、儀式の実施にすぐ取り掛かれなかったノハ、信仰する神への認識を明確に改める必要があったからなのデス」


「認識、ですか。それは「マコトくん」と依代の君が元は同じであっても、今は分かれた存在となったあたりの話ですか?」


「ハイ。私達、神官は信仰心を拠り所として、神から力を賜り、それを行使しマス。ですが、私達が信仰するのはマコト文書であり、そこに記された「マコトくん」デス。依代の君は降りた直後は「マコトくん」でしたが、その後一ヶ月、俗世で活動をして独自の経験を得まシタ」


「ですね。絵日記でも随分手広く色々なことに挑戦して、こちらの生活を満喫してる感じでした」


そう話すと、ダニエルさんも微笑ましい子供に向けるような笑みを浮かべた。


「その結果、神官達は解釈に頭を悩ませることになりまシタ。幼子が歳を重ねたら別人ナノカ? と言った話デス」


 ふむふむ。


「大きな経験をして、まるで別人のように、なんて言われる事はあっても、大怪我で脳に障害が残り、別人になってしまった、というのとは違いますよね」


「その通りデス。依代の君は「マコトくん」が経験を積んだだけで、その本質は同じであるとするグループと、しかし祈ることで存在を確かに感じられる「マコトくん」は別なのだから別存在とするグループ、そして異なるが等しい存在であるとして新たな依代に降りる存在も含めて三位一体であるとするグループで、議論が分かれまシタ」


 うわー、面倒臭い。


ちらりとケイティさん、お爺ちゃんの反応を伺ってみたけど、話を振らないで、と拒まれた。


 むぅ。


「えっと、その議論がどこに落ち着いたか興味はありますが、ちょっと魔術的な視点になる点は大目にみてください。僕は日本あちらの生活が長く、明確な存在に祈る、という習慣が疎いんです」


「理解してマス。ご安心くだサイ」


マコト文書の信仰は、他の宗教との併用も可とする緩さがあるからか、ダニエルさんもそこは問題視しない、と頷いてくれた。


「経験を積んだ「マコトくん」である、とするグループだと、儀式を行う際に祈る対象も、降ろす対象もどちらも依代の君になりそうですね」


「ハイ」


「次に祈りを捧げる対象である「マコトくん」と異なるのだから、別存在とするグループだと、儀式に用いる力は「マコトくん」から得て、降ろす対象は依代の君、となるでしょう」


「その認識で合ってマス」


「最後に新たに降ろす存在も含めて、どれも「マコトくん」とする三位一体説の場合、「マコトくん」という存在を異なる角度から眺めているのに過ぎない、といった感じで、統一された「マコトくん」がいて、その一面から、更に新たな一面を見出す、みたいな話になりそうですね。結局は祈ることで繋がるのは「マコトくん」にはなりますけど」


「そう思いマス」


 うーん。


「集団儀式となると、皆の意識を一つに、みたいなイメージがあるんですけど、それだけバラけてて上手くいくものなんでしょうか? それとも同じ認識のグループだけで執り行ったとか?」


「イエ。結局、三グループ合同で実施しまシタ」


 そりゃまた思い切ったね。


「そのまま執り行うとしたのは、依代の君がそれで問題ない、と言ったから?」


「その通りデス。どこから力を得ようと、降ろす対象である依代の君と、降ろす二体目の依代を認識しさえすれば問題ないと話されまシタ。「マコトくん」から得ようと、依代の君から得ようと、誤差の範疇トモ」


 ふむふむ。


「神力さえ得られれば、元がどこかは気にしない、ですか。それって信仰する神がバラバラでも集団術式は成立するんでしょうか?」


「その場合、儀式に参加する者達の意識を一つに束ねるのが困難で成功は覚束ないデショウ。今回、神力を賜る相手が「マコトくん」と依代の君のどちらからでも誤差とされたのは、実際、儀式を行う時点でも、両者の神力に区別できるほどの差がなかったからデス」


 なるほど。


「同床異夢という気もしないでもないですけど、同質の神力を携えて集った神官達の思い、依代の君から、別の依代に降ろす、という目的意識に違いは無いから、集団儀式は成立したんですね」


「ハイ。そもそも、集った神官達は、依代の君からの神託を聞くことができていまシタ。ですから、心を一つにする下地は備えていたのデス」


 ふむふむ。


「脱落した神官さんはいました?」


「二名は神託が聞こえず、今回は不参加となりまシタ」


 やっぱりゼロとはならなかったか。


「依代の君は何と?」


「それもまた信仰である、と満足げでシタ」


なんだか、その時の表情が目に浮かぶようだ。ほんと、相手を試すのが好きな子だね。苦しみ、足掻く姿すら尊いとか思ってそうだ。


「ちなみにダニエルさんはどのグループ?」


「私は三位一体派デス」


「高位存在なのだから、分かれて活動するくらい容易だと?」


「多くの神官が同時に神に祈っても、それぞれが異なる神託を得ていマス。私達には不可能な事でも、神は造作もなくされるのデショウ」


あぁ、なるほど。そもそも「マコトくん」自身が完全同時並列処理をやってるんだから、一にして多、三つに分かれて動くくらい朝飯前ってとこか。


そんな話をしているうちに、第二演習場に到着した。


さてさて、どんな評価になるのやら……。





周囲の土手を超えて、演習場を見下ろすと、ちっちゃな黒夜の術式のドームが二ヶ所設置されていた。


竜族からは雲取様が、妖精族からはシャーリスさんと賢者さんが参加してる。


他は研究組と調整組のいつもの面々だ。


っと、調整組の席の端に、連樹の巫女のヴィオさんも座ってるね。


「ヴィオさん、お久しぶりです。今日は連樹の神様から何か頼まれてるとかですか?」


「それもあるが、揃った様子が見られるのは最後になるから、立ち会うことにしたよ」


 ふむ。


さて。今回仕切るのは、ん、雲取様か。


<それでは皆も揃ったところで、依代の君のここ一ヶ月の成果、神力をどの程度、制することができるようになったか確認していこう>


雲取様の声を受けて、左手の闇のドームから依代の君が出てきた。


いつも通り、少年っぽい服装をしている美少女といった姿だ。ただ、麦わら帽子に赤いリボンが巻かれているのがいつもと違うところかな。


それに、神力が随分減って、微かに感じられるくらいに希薄だ。かなり安定してる印象はあるかな。


「こうして皆に集って貰えたことを感謝する。先日、二体目の依代にボクの四割を降ろした事で、この通り、神力は大きく削減することができた。それにここ一ヶ月の経験を経て、「マコトくん」からの神力の流入量も大きく減った。皆にも違いが判るだろう」


手応えありって感じだね。腰に手を当てて、自身の成果を誇る様が可愛らしい。


他の人の反応も概ね好評だ。


「妾から見ても、力は十分安定しているように見える。雲取殿から見るとどうか?」


<我から視ても、分かれたと言われねば判らぬほど安定している。予定していた成果は十分得られたと言って良いだろう>


ほぉ。


「それなら、希望していた交流祭りにも参加できそうですか?」


お祭りに行きたいって言ってたからね。


雲取様は少し思案すると、師匠に説明を譲った。


「勿体つけてもしょうがないから話すが、現時点では参加は許可できないよ。安定性は合格ラインと言ってもいいが、まだ神力は強い。雲取様に習って、力を抑える術を習得すれば、祭りの最終日、お偉方と一緒に回れるだろうさ」


その言に、依代の君は笑顔を浮かべた。


「それはヴィオ姉も一緒で構わぬか?」


ヴィオさんは、かなり濃い面子と回ることになりそうと、若干、気が引けてる感じではあったけど、参加を拒む気はなさそうだ。


「それは好きにすればいいさ。ただ、シャーリス様、その時は子守妖精として同行して頂きたい」


「その時は同行しよう」


シャーリスさんも快諾してくれて、彼もニコニコだ。


「それにしても、ヴィオ姉? 仲良くなったね」


まったく、クール系お姉さんに親身になって貰えたからって、懐いてる姿はまるで子犬だよ。まぁ、同席している神官さん達を見た感じ、その光景を当然のことと受け入れてて、不満を表したりはしてない。


「ヴィオ殿とか、ヴィオさんでは他人行儀であろう?」


「ん、まぁ、そうかも」


依代の君は、近しい間柄なのだからそう呼ぶのが当然と言い切った。ヴィオさんも仕方ないなぁって顔をしてるけど、満更でもなさそうだ。僕の方が出会ってからの交流期間は長いのに、僅か一週間程度で割り込まれた気がして、ちょっと残念ではある。


そんな僕の横にふわりとお爺ちゃんがやってきて、「朝から晩まで一週間、入り浸っておったからのぉ。それに将棋を学んで苦楽を共にもした。仲良くもなろうて」と慰めてくれた。


仕方ない、この件は完敗と認めよう。残念だけど。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字、脱字の指摘ありがとうございます。気付きにくいので助かります。


依代の君を、二体目の依代に降ろす儀式もアキが寝てる時間帯にサクサク終わりました。ダニエルが話していたように、実際のところは、神託を聞く時点で二人が脱落し、ロングヒルに集ってからも、集団儀式の前提意識を揃えるだけでも数日費やしており、前回と同じ儀式を対象だけちょいと変えて、という割には手間取ったとも言えるでしょう。


あと、ヴィオが同席してるからか、依代の君も三度目の正直とばかりに、大人しく成果と課題について聞いてて、前二回と違って神力を使うような真似はしませんでした。僅か一ヶ月ではありますが、彼もまた成長しているのでしょう。


ヴィオと依代の君が親密な雰囲気になったことに、アキもちょいと不満げなとこはありますが、本人としてはそこそこ抑えられてるつもり。でもさらりと翁にフォローされていた辺り、周りにはバレバレでした。実はそんな態度自体をケイティやリアは微笑ましく思ってたりするんですが、その辺りは17章が終わったら、外伝「姉達の女子会」で語ろうと思います。第三者視点で語らないと、そういった周囲の認識とかは解らないですからね。


次回の投稿は、十月十九日(水)二十一時五分です。

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