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17-20.気楽に愚痴を言われるのは喜ばしいこと

前回のあらすじ:登山の後、「死の大地」の祟り神を見て感じたこと、思ったことを皆で出し切ったと思えるまで話し合った結果、二日間の予定延長となったそうです。聞いた感じ、半分くらいは僕への悪口大会になったようで、ちょっと微妙な気分になりました。(アキ視点)


登山先から若雄竜や妖精さん達が帰ってきたことで、第二演習場の閉鎖運用も解除された。


三柱の若竜が横たわり、戦術級の黒夜の術式が何日も彼らの姿を覆い隠しているというのは結構レアな状況だったらしい。演習場だけでなくその周辺、結構な広さが立ち入り制限されていて、弧状列島交流祭りに集う人々の移動にも少なからぬ影響が出ていたという。


そうそう、交流祭りも無事、開催され始めたんだよね。開催期間は合計一ヶ月。周辺国も巻き込んで、祭りに参加した人は一泊したら、出国して、新しい来場者のために場を空ける、なんて具合だ。


一般参加者の移動を滞りなく安全に行うため、都市間の道は、それなりに整備され、安全維持のために、警備兵も一定間隔で配備されている念の入れようだったりする。


物資は空間鞄に入れて少数が手紙などとともに運ぶだけで、都市間の移動が稀なこれまでとは、大きく異なる催しは、それだけでも論議を呼ぶ出来事だった。


当然、それほどの旅客が中継地点として利用する周辺国でも、宿泊施設はフル回転、それどころか既存施設だけではまるで足りず、臨時に増設し、スタッフも増員するなど、てんやわんやの大騒ぎとなってるらしい。


ちなみに、総武演の方は、例年通りの内容に戻して、さくさく実施し終えたそうだ。ロングヒル国内、身内だけのこじんまりとしたイベントということで、兵と市民の間で触れ合いや力比べをするといったように、距離を縮める演目を増やして、近所の兄ちゃんを応援する、といった和気藹々とした雰囲気で終えることができたという。その後は、参加していた兵達も含めて、街では宴会へとなだれ込んで、夜遅くまで、それはもう大いに盛り上がり、皆で肩を組んで踊ったり、楽器を演奏したりとにぎやかな夜ともなった。


なーんて話をエリーが話してくれて、それには、雲取様も興味深く耳を傾けてくれていた。



世間は、第三演習場で開催中の弧状列島交流祭りに注目して、お祭り一色なんだけど、僕とエリーは、使えるようになった第二演習場で、雲取様に、自己イメージ強化の指導をして貰うことになったんだよね。


そっちは、前回通り、雲取様が厳しいけれど、優しく指導してくれたので、かなりの手応えを掴むことができた。エリーも前回に比べると、終わった時点でもまだ十分余裕がある様子で、雲取様からも、魔導師としてまだ実力が伸びる時期にあるのだろう、と評価されていた。



そして、久しぶりということで互いの情報交換をしたり、訓練結果について見解を教えて貰ったりしてたんだけど、それから自然と、話題は登山参加者達の話へと流れていった。


「――という感じで、せっかく全体構想グランドプランについて各種族が忌憚なく意見を出し合える流れになったのに、彼らはかなりの時間をかけるほど、不平、不満、不安を吐き出したそうなんですよ。酷いと思いません?」


そう同意を求めると、雲取様は少し思案すると、エリーに発言を促した。


「群れの中での評価、噂、認識といったものは竜族にもあると思いますが、今、アキが話した件については、地の種族の流儀をよく知る私のほうが、その意味を評価しやすいでしょう。その上で言うと、アキ、貴女は彼らが大っぴらに不平、不満、それに将来への不安を言い合えたこと、そうしたことを話し合ったと率直に教えて貰えたことを、先ずは喜ぶべきよ」


エリーは、これだから素人は、なーんて顔をして、まぁ聞きなさいと腕を組んだ。


「仕方ないと諦める、黙認するとかじゃなく、喜ぶ、なの?」


「そうよ。そもそも、以前にも話した通り、アキの立ち位置はかなり特殊で、口悪い者達は傾城傾国の女だ、なんて言われる程よ」


「傾国の美女って?」


「あー、そっちは美姫くらいかしら。美女というには幼さ、子供っぽさが先立つから。アキからは妖艶さなんて感じられないものね」


「まぁ、そっちの評価は気にしないけど」


「どちらかと言えば、王が常に耳を傾ける怪しい占い師くらいの印象かもしれないわね。まつりごとの専門家でもないのに、口を挟んで、国の行く末を左右する煙たい存在。なのに、今のところ、良い結果が出ていて、そのせいで王からの信頼も厚くなり、ますます傾倒していく有様だ、あぁ嘆かわしいと」


エリーは少し、芝居がかった言い回しをして、それから雲取様には、そう思う連中もいる、って話です、と補足してくれた。


雲取様もわかっている、と頷いた。


<アキのように年若い者が重用されれば、それを面白く思わない者も出てくるだろう。それで、今の話がどう繋がるのだ? アキがそのように思われているなら、不平をこぼして目をつけられては彼らも困る――そういうことか>


「はい。もし、登山に参加した者達が、アキのことを傾城傾国の者と認識してるなら、批判的な態度は取りにくいでしょう。でも、彼らは不平、不満、不安を語り合い、そうしたことをアキに伝えた。だから、参加者達はアキがそれを聞いても、多少は不快に思うかもしれないけれど、必要なことを認めると信頼していたからです」


<信頼されている、だから喜ぶべき、か>


「そうですね。それに、アキの立ち位置では、先程のような怪しい占い師的な認識とは別に、竜族の代弁者、あるいは竜族に並び立つ偉人、英雄、上位存在と見做されるパターンもあります」


「それって信仰対象になるってこと?」


勘弁して欲しい。


「アキ自身は、竜族との間に上下関係はなく、傍らに立つ者、世間話ができる程度の隣人と思ってるようだけれど、一般人からしたら、それは過去のどんな英雄も成し遂げなかった偉業なの。一歩間違えれば、崇拝され、信仰対象にすらなるでしょうね」


「すっごく嫌」


「はいはい。アキならそうでしょうね。それで、登山者達の態度を思い出して。彼らがもしアキを英雄視したり、崇拝したり、信仰したりしてたなら、悪口大会なんてするかしら? それをわざわざ報告するかしら?」


<それはしないだろうな>


「はい。彼らはアキが、稀有な提案も行える専門家であり、竜族の傍らに立って、世間話ができる程度に親しい竜神の巫女でもあると知っている。そして、俗世の欲など気にもとめず、他の人達から何か言われたら、それを受け入れる度量もあって、軽く話せる隣人とも認識しているということです。これは普通ならあり得ないことなのです」


ふむ。


「親しみを持たれるって意味なら、エリーだってそうじゃないの?」


「私も国民から親愛の情を向けられてはいるわね。それは否定しない。そうなるよう振る舞ってもいるのだから。でも、為政者としての私を見る人であれば、私のことを小娘扱いなんてしない。当然ね。力を持つ者は慎重に扱うべきで、軽んじるような対応はすべきではないのだから」


<その点、アキはまつりごとに直接は関わっていない。その立ち位置が功を奏しているのだな?>


「そう思います。それと、徹頭徹尾、富や権力、美食などに興味を示さず、それどころか面倒臭いと他の人に押し付ける様は、ここ一年で十分知れ渡りました。アキは提案はすれども、採用するのは各勢力の為政者。この役割分担が機能している証でしょう」


ここまで聞いて、雲取様は合点が行った、と頷いた。


<つまり、登山者達は権威や風聞といった虚飾を取り除いた、素のアキを見ているということか>


「はい。登山参加者の多くがアキと直接の接点を持っていないことを考えると、これは奇跡的ですらあります。だから、喜ぶべきと話しました」


ふむふむ。


ところで、今のエリーの指摘に、雲取様の魔力がちょっと反応したね。思い当たるところが何かあった感じか。


「雲取様、何かされました? 例えば、若雄竜達に何か助言をしたとか」


そうカマをかけると、雲取様は誤魔化したりはせず、軽く頷いた。


<登山の趣旨を考えれば、全体構想グランドプランから派生してアキに話題が繋がることは予想できた。だから、彼らには素直に竜神の巫女という役職ではなく、身近な存在としてのアキへの認識を皆に伝えるよう助言したのだ>


 ほぉ。


「それは有り難い話でしたけど、それはまたどうして?」


<我も小型召喚の助けを借りて、庇護下にある森エルフやドワーフ達と語り合う場を持つ事ができた。そこで教えられたのだ。小型召喚といった助けなしに語り合える竜神の巫女や竜神子の存在は特殊だと。他の者達は持ち得ない立場、特別感。そんな者達をどう思うのか、気になる者が多くいたのだ>


「なるほど。それで正直に話してみたらどうでした?」


<その程度なのか、と逆に驚いていたな。もっと他と違う対象かと思ってたようだった>


「竜族の皆さんからすると、自分に懐いているペットくらいの認識ですものね」


<我らはペットを飼う事がないから、その言には何とも言いかねるが。気兼ねなく話せる相手というのは、嬉しいものだと知ると、彼らの態度は明らかに軟化したように感じられたものだった。それまでの庇護する者、庇護される者という縮め難い距離感が埋まるように感じたのだ。我らは身に纏う圧もあって、どうしても近しい存在とは思われないモノだ。だが、そうして距離が開いたままでは、隣人とは言えまい。だからこそ、アキへの認識を語ることは、我らの心の内を知る良いきっかけにもなる。そう考えたのだ>


 おぉ。


何かフォローがあったんだろうとは思ったけど、雲取様の助力もあったのか。


「ありがとうございます。確かに空を飛ぶ竜族は、そのままでは縁遠い存在と感じられるから、僕と世間話をして和んでる様子とか、そうして語らうことを楽しく思う心の内を伝えて貰えれば親近感も増したことでしょう」


「そういうことよ。だから、多少、不快に思うところがあったとしても、アキは皆が忌憚なく話し合い、心を一つにした結果を言祝ぐくらいのことはしなきゃ駄目よ?」


「はいはい。わかりました、姉弟子様」


エリーに言われるまでは、僕のいないところで、好き勝手、話のネタにされることに、燻った思いもあったけど、傾国の美姫とか思われたり、信仰対象として拝まれるよりは、よっぽど親近感の持てる相手と思われてるのを喜ぶことにしよう。


それに雲取様と若雄竜達の関係も改善されてきたようだし、それとなく僕のためにフォローしてくれた、という気遣いもとっても嬉しかった。





<ところで、翁も何かしたのではないか?>


雲取様は竜眼で眺めつつ、さぁ話せ、と促した。


「お爺ちゃんも?」


ちらりと横顔を伺うと、指摘されたから仕方なく、といった感じに口を開いた。


「今回の登山に参加した旅人達じゃが、彼らの選考には儂も絡んでいたんじゃよ。これからのことを考えれば、こちらの世界に強い興味を持ち、他の種族への偏見がなく、若い者が良い、とな。簡易召喚される時点で妖精界での技量差など意味が薄くなるしのぉ。それよりは豊かな感性のある世代の方が、互いに良い刺激となる、そう思ったのじゃ」


今後の交流を担う者達じゃからな、と話してるけど、そーいう重要なポジションの人の選考に絡めるって、どう考えても、()()()好事家ディレッタントじゃないよね。


「強い興味ってどう判断したの?」


「儂が書いてる手記を読んでいる者としたが、それだけでは数が絞れなくてのぉ。数の少ないサイン入りを所有している者として絞った。それに先日の連邦領での市民交流。それに参加したかどうかで一定の技量、人格を持つことを担保した。後は、中庭に設置してある妖精と戯れるアキの像についてどう思うか話させて、感性の見極めともしたのじゃ」


「ドワーフさん達が実物大で再現してくれた、賽子サイコロに座る僕と妖精さんの像?」


その通り、とお爺ちゃんは頷いた。


「こちらに召喚された者達は、実際のアキを見ておるからのぉ。像との印象の違いについて、選んだ三人は的確に話しておったよ。アキの動いている時の躍動感、溢れる生命力、それと純真さ、つまり元気な子供のような特徴が像からは感じられない、アキを表現するのであれば、動きのない像で躍動感を表現する必要がある、と」


「それは彫刻家さんも話してましたね。澄まし顔で頑張れば僕でも、あの像みたいなイメージもいけると思うけど」


「それではアキを表現したことにはならんじゃろ」


「まぁ、それはそうだね」


<翁よ。他の種族への偏見の無さはどう判断したのだ?>


 ん、それは僕も気になった。


「儂らの国では周辺国は人族ばかりじゃ。それに竜族も雲の上を稀に飛ぶだけで言葉を交わした者もそう多くない。そこで儂の手記に出てくる小鬼、鬼、森エルフにドワーフ、それと竜について、もし交流する機会があったなら、どうアプローチしていくか語らせてみたんじゃ」


<ほぉ。それは興味深い。それでは選ばれた者達は、いずれもアキのように、機会があれば掴んで離さない貪欲さがあるのかね?>


雲取様がちょっと揶揄う声色で確認してきた。


「アキほどか、と言われるとそこまでとは言えんがのぉ。それでも仲良くしよう、と先ずは自分から近付いていく積極性は示しておった。実際、今回の登山でもその積極性は十分に発揮してくれたようじゃ」


儂の見立ては確かじゃった、などと頷いてる。


「えっと、なんか散々な云われようだけど、そんなに貪欲かな?」


僕の問いには、三人とも何を当たり前のことをって顔で頷いてきた。


「話し合う機会が得られたからと私とセイケン殿の元に押し掛けたり、舞い降りた雲取様が次からもやってきてくれるように仲良くしようと熱心にアピールしたり、ロングヒルに乗り込んできたユリウス様に対しても、上手く興味を引き出して最後にはまた会えるのが楽しみと言い合える間柄になったわよね」


「まぁ、そんなこともあったね。でも、仲良くしたいなら、自分から歩み寄るくらいするのは普通でしょ? それにどうせなら興味を持って欲しいし、好感も得て欲しい。だったら、相手の振舞い、言動に注意を払って、少しでも手応えがあるところを見つけたら寄っていくものじゃない?」


僕の言葉に、エリーは宥めるように手を振った。


「はいはい、アキはそうよね。翁の話からして、登山チームの中で妖精の旅人も、皆を繋ぐ良い役割を果たしてくれたようですね。妖精界から来ているからどの種族との確執もなく、知らないから知りたいと歩み寄りやすく、それに小さく華奢で愛らしい姿には、警戒心も湧きにくいから」


エリーが指折り、妖精さんの利点を数え上げた。


「儂らは、草木の陰から大きな種族の様子を伺う、奥ゆかしい種族じゃからな」


そうじゃろう、そうじゃろう、などと偉そうなポーズをとるお爺ちゃんを見て、皆も遠慮なく笑ってあげた。雲取様も、<召喚で、属性が完全無色透明になっているから魔力擬態も抜かりなしだ>、なーんて突っ込みを入れる始末だった。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字、脱字の指摘ありがとうございます。気付きにくいので助かります。


登山チーム達の話し合いや、凡人達にはついてくのはキツイとか、不平不満も色々出てましたが、それを含めて、今回の結果は言祝ぐ内容だったとエリーから教えて貰いました。


実際、単に各種族を集めただけだったなら、後ろ向きな感情、忌避感などがもっとずっと増えたことでしょう。本文では語ってませんが、小鬼族も、アキが「鬼や妖精、竜と同じように親しくしたい」と親愛の情を示し、彼らを高く評価しているといった事実を披露することで、アキへの理解のフォローをしています。

ある意味、アキのこれまでの行動の集大成が結実したとも言えた出来事でした。良かったですね。


なお、不満の部分では、どの種族も公平に扱うけれど、やる気を見せないなら、無理に引っ張り込もうとせず、その姿勢も尊重しますよ、と執着しない姿勢が怖い、なんて事も言われてたりします。アキなりの敬意の向け方でもある訳ですが、ドライと感じる人もまぁいる訳で。しかもそれが個人単位ならまだしも、国家レベルでも同じですからね。


次回の投稿は、十月十六日(日)二十一時五分です。


<活動報告>

以下の内容で本日投稿しました。

・雑記:電力プランと燃料調整費

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