17-19.登山を終えて(延長編)
前回のあらすじ:トレバーさん、ナタリーさんが「死の大地」を眺めた時の事を思い出しただけで、精神的に負担になっていましたが、一応、確認して貰ったところ、その不調は自身の心の内からくるもので、祟り神が経路を用いて浸食してきた、といった話ではなかったようです。安心しました。(アキ視点)
小休憩を挟んで、話題を登山後に進めることになった。
「私達は、山頂付近で一晩中、観測を行い、それから下山したのだが、麓のキャンプ地に戻っても、直ぐに解散しようという話にはならなかった。余りに衝撃的な経験をしたせいで、各人がその経験を消化しきれておらず、同じ経験をしたチームとしての認識を持つには至って無かったからだ」
トレバーさんの話を受けて、ナタリーさんも自分達のチームの事を語ってくれた。
「私達の方でも、ここですぐに解散しては、画竜点睛を欠く事となると皆が思ったの」
うん、うん、それは良い事だ。自分とは異なる印象、気付きがあるかもしれないからね。
だけど、そんな僕を見て、二人は意地の悪い顔をした。
「そもそも、登山に至った経緯は、「死の大地」の呪いを皆で浄化して、新天地を得ること、弧状列島に住まう者達の一体感を高められると提言された事から始まった」
「まぁ、そうですよね。ちょうど、手も届くし、弧状列島統一に華を添えられて、良い提案だと賛同して貰えました」
我ながら頑張った、と同意した。
「そうね、発起人がアキで、「死の大地」の浄化と、その後の入植までの全体構想まで示したことを皆が知ってた。だから、全体の流れを確認しつつ、皆が心の内にあった淀んだ感情をぶちまける事になったわ」
「え゛?」
「我々のチームでも、全員が言い残したことはないと、スッキリした顔になるまで、盛大に思いの丈をぶつけ合ったんだ」
そう言う割に、二人とも意地悪な顔で笑ってる。
「なんか、悪口大会でもやったように聞こえますけど」
「それは誤解だ。誰もが「死の大地」が呪いから解き放たれ、夢の新天地となり、幾多の種族が手を取り合い、共存する未来を素晴らしいと感じていた。衝撃的であり、これまでの固定概念を叩き壊される見事な提案と認めていたさ」
なんか、褒めてるようでいて、言葉の端々に毒がある感じだ。
「本当に今でも私達は、アキの示した道標に大いに希望を持ち、そちらに向うべきという強い思いも抱いてるの。――ただ、モノには限度があって。池を空にするのにバケツで水を掬うとか、山が邪魔だから土砂を運び出して消そうとか、迂回路が危険だからと岩山を真っ直ぐ貫くトンネルを掘るとか。ね、凡人には話について行ける限度ってあるのよ」
ナタリーさんの例示に、大半の人達が頷いた。いや、ここにいる皆さん、どう考えても凡人じゃないでしょうに。
多少なりとも反論の意思を示してくれたのは、鬼族とリア姉、それとサポートメンバーくらいだった。
「セイケン、こんな事を言われてますけど、道を通すために山をトンネルで貫き、谷に橋を渡し、河川の蛇行を整理して堤防で流れを制してる鬼族なら、自分達のやってる事の延長線上として、共感もできるでしょう?」
ほらほら、今こそ援護射撃のタイミングだ、と促すと、苦笑しながらも、一応、フォローしてくれた。
「アキの言う通り、我らは自然をそのまま利用するだけでなく、大きく手を加えることで、更に多くの実りと、災いを低減する未来を得ようとしてきた。だから、多少は共感できた事だろう。実際のところ、チームの中で、鬼族のメンバーが全体構想との繋ぎ役になったんじゃないか?」
セイケンの指摘に二人も頷いた。
「その通りで、参加した種族の中で、鬼族ほど大規模に自然に手を加えている勢力はなかった。だからこそ、連邦における実例として、沼の水を抜いて農地としたり、山体を貫くトンネルを作ったり、大河の上流から河口までを堤防で制したり、深い谷をアーチ橋で渡すような話をして、アキが示した全体構想も荒唐無稽ではない、と示してくれた」
「投入する労力、資源、期間は膨大だけれど、思い描いたことは実現できる。鬼族はそうしてきた、と話してくれたわ。そんな鬼族も「死の大地」を前にしては、竜族の参加が無ければ絵空事と断じていただろうと言い切ってたわね」
なるほど。
「ちなみに、若雄竜もボヤいてたんですか?」
「ボヤいていたとも。ただ、彼らの場合、共同作業をするという習慣が乏しく、理解はできるが、実感が持てないといった感覚だった」
まぁ、それなら納得できる。
「アキ、私達は地球の事例を多く知ってるから、頭から否定はしないけど、共感はできてないと忘れないようにね。現実味がない、桁をいくつか間違ってるんじゃないかって疑問が常に付き纏うくらいなんだ」
リア姉にも釘を刺された。マコト文書に精通しているメンバーでそれだと、確かに一般からすれば、御伽話か神話の類と。
むむむ。
いつもの面々に説明して、一応、同意も得られたから、あとは専門家にお任せって気でいたけど、参加する人達の裾野を広げるには啓蒙活動も必要そうだ。
「それで、不満や不安を出し切った後はどうしたんです? 出して終わりじゃなかったのでしょう?」
そこで終わりなら泣けてくる。
「勿論、そうして心をスッキリさせてからが本番、アキの示した全体構想に対して、祟り神を目の当たりにした我々だからこそ言える意見、疑問、指摘もあるだろうと、意見を出し合った。これ以上は出ないところまで話し合ったから予定を二日間も超過することにはなったが、それだけの価値はあったと確信してる」
トレバーさんは、貴重な意見交換の場だったと話してくれた。その意見にはナタリーさんも同意した。
「天空竜からすれば、地の種族などどれも同じであるように、祟り神からすれば、竜族も含めて、どの種族であっても小さな存在に過ぎない、そんな認識に立てたわ。それでもやり方如何で、制することはできる。できる存在だと理解する事こそが肝心、という結論にも立てたわ」
そこまで卑下しなくてもいいと思うけど、タイマン勝負が基本の竜族からすれば、数千柱が細心の注意を払って集団戦を行えば何とかなる相手なんてのは、自分達の小ささを自覚せざるを得ない相手だったって事か。
「話し合った内容は、代表の皆さんが集った時迄に関係者に展開しておきたいところですね。貴重な意見ですから」
「それは財閥の方で、各人が書き記した内容を纏めて配布しておくよ」
リア姉もこの件は快諾してくれた。それなら安心だ。
しかし、雨降って地固まるとは言うけど、僕への不満暴露大会で仲間意識を高めるって、どうなのさ、とは思う。不満を内に溜めておくよりはマシだけど。
あまり深く関わると、本業、次元門構築の話にも悪影響が出るし、こっちの話は代表の方々と、新設される参謀本部に投げて、なるべく距離を置こう。面倒臭いし。
……そんな僕を見て、エリーが逃げ道を塞いでくれた。「専門家のアキが逃げられるわけないでしょ」と。
未来はまだ確定しておらず、上手く立ち回れば、ワンチャンあるから、なーんて思ったけど、多勢に無勢、今は勝ち目がないので口にはしなかった。
いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
誤字、脱字の指摘ありがとうございます。気付きにくいので助かります。
登山を終えた後、予定より二日間延長したのは何故か、その理由が明らかになりました。まぁ、水平線の向こう、「死の大地」を埋め尽くす呪いを見た人々からすれば「敵が七分、空が三分だ。いいか、敵が七分で空が三分だ!」ってくらいの超劣勢、これでワクワクしてくるのは、心が壊れた戦闘狂くらいなものでしょう。
何にせよ、多種族を集めた登山は、その目論見通り、仲間意識を強く持たせることに成功しました。アキはちょっと不満ありですが、まぁ「今は」なんて言ってるくらいで、その程度で凹む訳もなしなのです。
次回の投稿は、十月十二日(水)二十一時五分です。
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