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17-13.竜が竜神子を庇護すると周知する提案への返書

前回のあらすじ:若竜が竜神子を庇護下に置くことを伝える遊説飛行について、家族やサポートメンバーの皆さんを交えて意見交換を行いました。僕は手間の部分だけに注目してたけど、人々の意識の根底が変わることに意識を向けるべき、って話のようです。若竜達への短期集中教育の方はさくさく進んで順調ですね。(アキ視点)

遊説飛行の件について三大勢力からそれぞれ返書が届いた。


居間に家族が集い、取り敢えず読んでみることに。ケイティさんに書簡を取り出して貰ったけど、公式文書と私信がそれぞれ入っていた。どれも公式の方は信頼できる者の閲覧は許可、私信はリア姉が読むのは問題なし、それ以外の関係者にも概要を話す程度なら良しとなっていた。


先ずはユリウス様。


若竜と対となる竜神子を庇護下に入れることを周知する為に、関係国に対して遊説飛行を行う件だけど、予期せぬ事故を防ぐ良い提案なので、可能な限り前倒しで実施して欲しいとのことだ。訪問は一都市一日一柱、午前中とすることや、訪問を受け入れる期間、関係国として訪問先となりうる都市や、政治的な上位都市まで大まかな地図と都市名まで一通り書かれていた。帝都訪問時の飛行パターンを参考に、上空から語り掛ける際の周回半径や高度についての提案もある。短時間で纏めたとは思えない密度は流石だ。


家族とお爺ちゃん、ケイティさんにも見て貰う。


「往復時間を考えると半日くらいしかなかったでしょうに、よく纏められてますね。遊説飛行先が被る場合も日を分けて全ての竜に訪問をさせる、というのは関与している竜全体を民に理解させる点で優れていると思います。都市名は、隣接する連合や連邦の帝国での呼称も書かれているのがいいですね。市民層に馴染みのない勢力にも竜神子がいる、と示すのに都合がいいです」


ユリウス様凄いなー。


「竜神子を示す標章で中立を示す点もアイデアに賛成で、ロングヒルに集う際に案を持参する、とあるね」


「そっちは即答とはいかないけど、遊説飛行時に、中立を示す標章が屋敷に掲げられることを伝えるようにって」


リア姉も指摘したように、若竜が民に直接語ることに意味があるんだろう。


「しかし、帝国では周知の件も検討されておったのかのぉ。見事なモノじゃ」


お爺ちゃんも感心してる。だよねー。


父さん、母さんは他も確認してから意見を話す、とのことで、それより私信を読んでみるよう促された。


 はて?


そこそこの分量があるんだけど、ユリウス様からの私信を開くと、一枚の写真が添付されていた。ユリウス様や護衛隊長のルキウスさん、それに速記係としてきていた幕僚の方々、それに年齢層も多様な方々の集団写真って感じだけど、式典用って感じじゃなく、普段の仕事着のまま集まりましたって感じと、お疲れな表情で、妙な圧を感じる雰囲気さえ漂ってくる。


そして、ユリウス様の私信を読んでみると、疑問が解けた。この写真は、僕からの提案書が届いた後、招集された関係者の皆さんで、返書を作成して内容の検討を終えた後に撮影されたものだった。


分業で何とか短時間で仕上げたものの、半日間、冬季戦仕様の重装備で雪中行軍をしたように疲労困憊な状態に陥ったそうだ。レーザー通信網が整備されていて、話の概要だけでも半日先に届けばもっと余裕をもって対応できたと思うと、整備をできるだけ前倒しとするよう共和国政府に掛け合って欲しい、と記されていた。提案内容と帝国民のこれまでの文化・風習を考えると、遊説飛行によって多くの民が竜の存在を身近に感じることは有意義であり、スケジュールが前倒しにできるほど価値がでてくるので、連合や連邦とタイミングを合わせることなく帝国限定であっても遊説飛行をして欲しい、と。積もり積もった感情については再会した時に清算しようって締め括られていた。


……丁寧な文面ではあるけど、俺達はこれだけ時間を詰めて頑張ったんだから、遊説飛行の前倒しはしろ、という圧が凄く感じられる。


リア姉にも読んで貰ったけど、リア姉も顔を顰めていた。


「なんて書かれていたのかしら?」


「えっと、この返書を作るのにすっごく無理することになったけど、それで遊説飛行が前倒しにできるなら致し方ないことであって、帝国側限定でも構わないから各都市への訪問を終えて欲しい、それが為されることで奮闘した関係者も労も労われることだろう、って。あと、切実にレーザー通信網が欲しい、急いで欲しいとありました」


返書をつきつけて、笑顔だけど目は凝視してるような怖い圧が、丁寧な文面から感じられたと話すと、何が書かれていたか薄々察してくれたのだった。





次はんー、レイゼン様にしよう。多分、ニコラスさんよりは恨み言が少ないと思う。連発はキツイからね。


返書の方は、周知の趣旨は理解し歓迎するとある。ただ、成人の儀で攻めてくるかもしれない帝国軍に対して、連邦は例年通り防衛戦に徹する予定なので、帝国側の都市への遊説飛行は早めにやる意義もあるとは思うが、連邦については秋に行うことにはあまり拘らず、冬の時期にズレ込んでも良いとあった。連合や共和国の国については馴染みがないので現地では何と呼称されているのかといった情報とか、各勢力の国の配置についても、資料を公開してくれると、民も離れた他国を想像しやすいので助かるともあった。


「時期の指定はなく、要調整だけど訪問は歓迎って言うのはいいですね。ただ、関係勢力内の国々の配置を示した地図が欲しいというのは、共和国案件ですよね、これ」


「そうだな。これまで世界儀は別として、地図は話し合いの場において幻影や立体地図で見せることはあったが、持ち帰らせることは避けていた。近隣の国名を伝えられて竜神子がそこにいる、と言われても、そもそも他勢力内の国がどこにどれだけの広さで存在するのか、民が知らなくては周知の効果も減じられることになる、それはわかる。共和国の保有する地図については私達の方で調整しておこう。そう遠くない時期に、「死の大地」の浄化を念頭に、弧状列島全図は提示せねばならないとは考えられてはいたから、精度をどの程度にするかは揉めるだろうが、提供する方針とはなるだろう。それと、この件は共和国単独では決められない。提供される情報について、各勢力の合意が必要だからだ。提供の用意はするが、三大勢力の代表が集った際に情報共有をどこまで行うか定めることになるか」


父さんの指摘の通り、地図情報は共和国が所有してても、各勢力の情報を相手に提供する、という意味では勢力間の合意が必要、か。確かにその通りだ。


「共和国は連合内の国境線は理解してるとしても、帝国や連邦については疎いですからね。弧状列島全図にするか、帝国が統治分割してるくらいの粒度で各地方単位の地図にするか、という点は見やすい方で決めるとして、各勢力にはロングヒルにくる時に情報を持参して貰えるよう伝えておきますね」


「それだと帝国が困らないかな? あ、ユリウス帝からの資料に連合や連邦内の国名も記されていたから、帝国限定の遊説飛行なら影響はないか」


「帝国がどこに攻めるか、侵攻先に竜神子がいるかどうかが重要だから、多分、他勢力の国情報の事前共有まで急がなくても平気だと思うよ」


それ以外は特に皆からの指摘事項はなし。連邦は予想通り、穏やかな内容だった。


あ、レイゼン様からの私信も読んでみたけど、竜族が絡むと行動半径の広さ、移動の速さ、地形に縛られないことの強さを実感するといったことが書かれていて、そのように空を飛ぶ経験ができた僕のことを羨ましい、ぜひ自分も体験してみたい、なんて思いも記されていた。こっちはセーフだ。





最後はニコラスさん。


返書には、いくつかの地域について、秋の侵攻に対して、防衛に回るのではなく先制攻撃をすることで主導権を握ろうとする気運がある、として、遊説飛行については歓迎する旨が記されていた。ただし、戦争への気運を鎮静化させる活動は連合だけでなく、帝国、連邦に対して同時に行わねば意味がなく、連邦と隣接している連合領はロングヒルのみであることから対象外とするとしても、秋の成人の儀の時期前までに、連合と帝国への遊説飛行は終えたいとのこと。ただ、いつ、どこに訪問するのかという点は、これから調整せざるを得ないので、調整を終えた段階で逐次、情報提供をしていきたい、とのことだ。


「連合も歓迎はしてくれたけど、帝国とは訪問時期を分けるしかなさそうですね。竜神子のことをすぐ気に入るとは限らないから、何回か会う間に、情報提供が間に合うかもしれませんけど、纏めて一回とはできなさそう」


「どこに訪問するのか、そこで何を語るのか、若竜の側も色々と覚えることが多そうじゃな」


お爺ちゃんの指摘通り、何回かに分けるなら、どの若竜が、どの日にどこを周回するのか、ちゃんと調整していかないと駄目そうだ。


「アキ様、庇護下に置いて良いと考える程度には竜神子と若竜は親密な間柄となる訳ですから、地図とスケジュール表を竜神子から見せることで、認識合わせを行えばよいと思います」


「それもそうですね。若竜だけだと全部暗記で、ってなるから面倒でしたけど、竜神子に資料を提示して貰えるなら問題ないでしょう」


ケイティさんの話してくれたように、資料付きならまぁ、何とかなりそうだ。


で、私信。


庇護下に置きたい、との若竜達の持つ要望を知った時点で、速やかに提案を纏めたことへの謝意は書かれていた。ただ、竜族への認識が改まるということは、竜神子支援機構や竜神の巫女の存在感が増すことに繋がる。特に、竜達の在り方を大きく変容させた竜神の巫女に対しては、その功罪を問う声も出てくるから、交流祭りでは天空竜の紹介だけでなく、竜神子支援機構についても紹介ブースを設けた方がいい、との提案が書かれていた。変化することは、それだけで軋轢も生むのだから、と心配もしてくれていた。……大統領としての仕事が増えて、その分、政治力も高まるのは嬉しいが、この身は一つしかないのが恨めしい、何か良い栄養剤とかあれば教えて欲しい、と書かれていたのが不憫だ。


 心配してくれているのは、ありがたいね。


「ニコラス大統領は何と?」


「今回の話を進めることで、竜神の巫女や竜神子への様々な声も出てくるから、交流祭りで市民にアピールしておいた方がよいだろうって心配してくれてました」


「――そうね。竜神子支援機構と言っても、各国にはせいぜい十人程度しか関係者がいない小さな組織なのだから、無用な諍いは避けるべきでしょう」


母さんも、心配してくれてることに感謝しなさい、とも話してくれた。


「竜神子支援機構については、天空竜の紹介ブースで、竜の幻影の傍らに立つ竜神子の立像を用意して、その在り方、立ち位置についてはナレーションで説明すればよいのではないでしょうか?」


「ですね。傍らに立って竜と地の種族を繋ぐ役処だ、ってだけだから、それほど凝った説明は無くても大丈夫でしょう」


僕はそれで十分と思ったけど、これにはリア姉が待った、をかけてきた。


「竜神子はそれでいいけど、竜神の巫女はそれだと説明不足じゃないか? 心話を通じて全国、どこの竜に対しても対話を行える、というのは傍らに立つ、という在り方とは別物だ。……ただ、心話自体があまり一般的な技術じゃないから、心話の説明も込みで、説明コーナーを追加した方がいいと思う」


 ふむ。


「ケイティさん、一般層向けに心話の説明資料とかあるものでしょうか?」


「そもそも魔導師の技であり、外に作用する術式と違い、地味なので、そういったものは聞いた事がありません」


 むぅ。


「そこは説明資料を作り、説明する人を配すれば、ある程度は伝わるじゃろう。資料を先に作って、魔術にあまり縁のない者達に見て貰って、内容を見直しておけば、本番も安心じゃて」


「まぁ、それもそうだね。概要を聞いて、よくわからないけど便利だね、くらいに思って貰えれば一般向けならそれでいいかも」


他には特に追加の指摘はなし、と。


「アキ、ニコラス大統領には私の方から栄養剤セットを送っておくよ。安眠に効能がある芳香も入れておくか」


リア姉が温かみのある対応を申し出てくれた。


「ありがと。……それって習慣性とかないよね?」


「大丈夫。何年でも続けられる全力を保証する研究所印の逸品だから」


リア姉はそう笑ってたけど、なんかヒヤリとして寒気が感じられた気がしたのだった。





これで一応、一通りの書簡は読んだということで、父さんが話を切り出した。


「まだ公式書類は出せないが共和国の方針も話しておくと、遊説飛行で広く竜の存在を知らしめる意義については、これに賛同する意見が大半だ。ただし、海を挟んだ隣国は連合だけであることから、遊説飛行の時期は物事が片付いて落ち着くであろう冬季、降雪のない日としたいところだ」


「妥当なところになりそうで安心しました。以前、雲取様と訪問した際も、屋敷の通常の防壁程度だと、雲取様の言葉は素通りして奥まで届いてたから、若竜の飛ぶ姿を見ようともしないような面倒臭がりな人でも、天空竜の存在を印象付けられるでしょう。訪問先は島内の主だった都市全てが対象ですか?」


「そうなる。そもそも、雲取様が港町ショートウッドにやってきた際も、上空から共和国の島の全てを目にしていたくらいだ。いまさら一部だけ隠しても意味がない」


「なるほど。なら、長老の皆さんと、竜族への忌避感が少ない若い世代は歓迎してて、一部の成人層があれこれ不満を漏らして抵抗中ってとこですか」


僕の指摘に、母さんが苦笑しながらも頷いてくれた。


「感情的に0か1かでしか考えられないような人達もいるのよ。それに一部の過激な年配層だと、竜族必滅は我が国の国是である、とか、そんなの憲法のどこにも書いてないのに、声高に吹聴してて困るのよね」


あー、うん。街エルフでもそーいうのがいるのか。


「若竜が遊説飛行をするのを邪魔されたりはしません?」


加速投槍ジャベリンの一本でも投げられたら、当たらなくても歓迎ムードが台無しだからね。


「そこは大人しくして貰うさ」


仕方ない、と父さんが目を細めたけど、それはゴミはゴミ箱へというくらいに、何も気負いを感じさせない淡々とした諦観の念があった。




そんな感じで、三大勢力からも良い返事が貰えて、遊説飛行の件は大きく前進することになった。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字、脱字の指摘ありがとうございます。気付きにくいので助かります。


短期集中教育の後編を終えようかと思ったんですが、三大勢力からの返書の内容がそこそこのボリュームになったので分けることにしました。予測は難しいものです。


色々と不満はありそうで、勢力間での温度差もありますが、概ね、遊説飛行については了承が得られたことで、この件も本格的に始動することになりました。まぁ、とは言っても、アキは飛行の趣旨と注意点などを周知して、後は現地の竜神子と若竜の間で詰めていけばいい話なので、気楽なものです。手離れのいい話っていいですよね。


次回の投稿は、九月二十一日(水)二十一時五分です。


<活動報告>

以下の内容で本日、投稿しています。

・雑記「円安で日本は独り勝ち?」


<雑記:新投稿の宣伝>

全37パートで完結したアクション小説「ゲームに侵食された世界で、今日も俺は空を飛ぶ」の設定&執筆裏話の投稿を2022年9月14日から始めてます。取り敢えず23パート分は毎日、10月6日(木)まで投稿していきます。まだ書いてない分がプラス5パート分くらいありそうですが、10月5日(水)までには書き終える見込みです。

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