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17-12.若竜達への短期集中教育(中編)

前回のあらすじ:竜の庇護下にあることを周知する件は、皆で意見を出し合うことで良い感じに纏めることができました。ただ、自分が話した内容がブーメランで戻りまくってきたのは、ショックでした。あと僕の事を思って、というのは理解できるけど、皆さんの愛がちょっと重かったです。トラ吉さんとの触れ合いって大切ですよね。アニマルセラピーでしたっけ? やっぱり何も言わず受け入れてくれる相手がいるっていいですよね。(アキ視点)

今年の秋、若竜が自身の竜神子が庇護下にあることを周知する件、関連地域に遊説飛行をしようという提案は、竜神子支援機構からの提案という形式を取って、関係各所に送付された。まぁ、実のところ、送付前にロングヒル王家と、共和国代表のヤスケさん、それと財閥のマサト&ロゼッタの二人にも事前確認して貰ってるから、手堅い提案にはなってるけどね。それぞれからも大筋での指摘は無かった。


で、今朝は起きてみると、共和国から父母が帰ってきていた。なんでも、朝一でヤスケさんと遊説飛行の件での話し合いも済ませてきていたとかで、僕の食事に同席して軽食を摘まむ様子も少しお疲れ気味だ。


「リア姉はヤスケさんとの話し合いに同席しなかったの?」


「私は昨日の夜、規格統一の件も含めて話してきたから」


 お、サラリと流そうとしてる。って事は何かあったかな?


「デレてた?」


「デレてない」


 そんな、視線を逸らして否定しなくても。


「ヤスケさんの雰囲気や迫力と、言葉の選び方と、客観的に見た関係や提案を分けて考えると、可愛いところも見えてくると思うんだけどね。別邸にくると、トラ吉さんとも猫の流儀に倣ってちゃんと仲良くなろうとしてるし」


 残念、僕の提案にミア姉は目を丸くした。


「そこはそれ、と分けて考える、だっけ? それができれば苦労はしないよ」


「まぁ踏み込み過ぎるとヤバいラインがちらちらしてるから、そこは上手くギリギリで止める配慮は必要とは思うよ。でも、ヤスケさんもちゃんとわかりやすく、それ以上やったら怒るぞ、ってサインを出してくれるから」


 だからこう、踏み込めるところはギリギリまでずばーっと、と手振りで示したら、母さんに呆れられた。


「アキのそういうところは、ほんと、ミアにそっくりだわ。どうして必要もないのに踏み込むのかしら」


 ん?


「えっと、必要があって、だと互いに争う気満々でしょう? ミア姉も言ってましたよ。『相手の構えているところを正面から攻めるのは下策。柔らかい腹をついて笑わせるのが上策』って」


普通、柔らかい脇腹を刺す、じゃないかって気もするけど、相手と仲良くなる時の話だから、相手のガードが弱いところをちょいちょい突いて、真面目な空気を砕いたり、リラックスさせるのも良いこと、なーんて言ってた。心話では散々やられたんだよね。勝率は一割切ってたかなぁ。ミア姉も途中から僕を揶揄って出てくる反応を楽しんでるようなところもあったね。


「そう言えば、ミアも言ってたか。『長い付き合いになるのだから、相手の幅広い面を見ておいたほうがいい』とか」


父さんも懐かしそうに教えれくれた。


「相手が自分に見せてくるのは、見せてもいい面、見せたい面だから、それ以外のところも探りを入れて、想定外の反応を引き出した方が相手の心の内も見えやすい、とも話してました」


「下手に触ると、激しい反応を返されて痛い目に遭うから、アキも気を付けることだね」


「それこそ、一回は触れてみないと分からないし、一回目なら、知りませんでした、ごめんなんさい、で済むでしょ? ある程度推測はできても、踏み込んで実際の反応で裏も取ってかないと」


そう話すと、父さんに釘を刺されることになった。


「そうやって、地雷原でダンスを踊った結果、福慈様の逆鱗に触れて凹んだ件を忘れないように。あからさまに見えるように配置されてないから地雷なんだ。年配の方ほど、態度を装うのが上手い。軽く流されたと思ったら、実は怒り心頭だった、ということもある」


その意見に、母さんも頷いた。


まつりごとに長けた者達の中には、偽りの仮面が分厚くなり過ぎて、本人ですら自分の仮面に惑わされて、合理的な反応をしてるつもりが、実は心の奥底では憎悪が深まり判断が歪んでいた、そのことにずっと後になって気付いたということもあるわ」


 面倒臭っ。


「相手の直接的な反応だけじゃなく、他のことへの反応も含めて俯瞰した方が、気付けることもある、とは聞いてますけど、面倒臭いですよね、それって。それよりは、相手の仮面をかち割って、素顔を覗き見た方がかなーって気もしたり。あ、福慈様相手にそんな真似はしませんよ? きっと悲しませちゃうから」


福慈様は激怒した際も、後から僕をちゃんと労わってくれたし、どちらかというと自身の行動の結果が想定以上の惨状になると嘆かれる方だと思うんだ。


「ほんと、ミア姉そっくりだね。ちまちま削っていくくらいなら、一気に仕留める方が性に合うって」


リア姉は懐かしさを楽しむような目をしながらも、後始末がすっごく面倒臭いから、よほどの事がない限りしないように、とそれはもう丁寧に念押ししてきて、父さん、母さんもそれはそうと認めつつも、リア姉がヒートアップし過ぎないように宥める始末だった。





一週間ぶり程度だけど、居間に家族が揃った。テーブルの上にはでーん、とトラ吉さんが座って目を閉じてる。耳は向けてくれてるから、聞いてますよ、ってとこだね。アイリーンさんが皆に麦茶を給仕して壁際へと戻る。


圧が強いなぁ、と思うのは、何故かサポートメンバー、ダニエルさんも含めて皆が揃ってるからだ。


 むむ。


ホワイトボードには、弧状列島の地図が貼られていて、そこに色付きカバーの付いた磁石が所狭しと置かれている。大きさは三段階。大サイズの磁石は共和国、ロングヒル、帝都、連邦の首都に置かれている。中サイズの磁石は竜神子のいる国。小サイズは遊説飛行先の国っぽい。


「こうして、地図に示して貰えるとわかりやすいですね。遊説飛行先はかなり重複してる感じでしょうか」


ざっと見た感じ、遊説飛行先はせいぜい合計百ってとこだ。


僕の疑問にベリルさんが答えてくれた。


「規模の小さな城塞都市は省略しまシタ」


 ふむ。


「前線の砦とかも?」


「ハイ」


 なるほど。


「こうして、皆に集まって貰ったのは、この秋、天空竜が各地を訪れる件について、その影響を頭に入れておいて欲しいからだ。見ての通り、実際に一日以上時間を掛けて訪問を受けている地は少ないが、遊説飛行先まで含めれば、弧状列島に住む地の種族の九割以上が天空竜の圧を身近に体験する見込みだ」


父さんが集まった趣旨を説明してくれた。まぁ、普段の生活はロングヒルで完結してるから、弧状列島全体をイメージする機会を設けるのは確かに重要と思う。


「いい感じのカバー率になりましたよね。遊説飛行先は返答次第なとこはあるけど、これなら、天空竜がこちらに寄ってきたことを多くの人が認識し、その経験を元にこの秋をどう過ごすか思考できるでしょう」


災害に例えると、国民全員が直接、台風の直撃を体験させられたようなモノだ。政府やマスコミから与えられた恣意的な情報に思考誘導されるようなレベルではなく、五感で本物の存在、脅威を知り、しかもそれを皆が一斉に体験することで、共通意識も醸造できる。


……これで阿呆な判断をするなら、もう国民全員が同罪、そういう状況が整うってことだ。


「ここ一年は天空竜と実際に対面した者もあり、その体験を各地に持ち帰って皆に伝えたものの、やはり天空竜との対面をした者と、話を聞いただけの者の意識の差は大きかったと言えるわ」


 ふむ。


「共和国は国も小さいから、雲取様との訪問を受けて、ロングヒルの次くらいには、天空竜を知る人は多くなったと思いますけど、それでも差はあるんです?」


「大きいわね。天空竜の飛行範囲の広さからすれば、共和国に彼らが立ち寄らないのは、彼らが相互不干渉の約定を守っているからに過ぎない、と理解できるでしょうに、敵対勢力のいない共和国の立地もあって、危機意識が薄い者達もそれなりにいるの」


帰国時に色々と話を仕入れてきたようで、母さんも珍しく毒を含んだ口調で呆れた思いを示してくれた。


 うーん、街エルフですらそれ、なのか、街エルフだからそうなのか、判断に困る。


「それなら、避難所シェルターに逃げ込む人以外は、体験の質に差はあれど、体験している人が大半を占めるようになるから、色々な活動も身が入りそうだね」


 うん、うん、良いことだ、と頷いたけど、残念、僕のように楽しみを示してくれた人はいなかった。


「アキはこの通り、全体視点で変化を祝う意識だけど、一般との意識の差について、今後は私達やサポートメンバーが橋渡しをしていく必要があると考えたんだ」


リア姉の説明に、スタッフメンバーの皆さんもなるほど、と頷いた。


「んー、でも、竜神子と竜もそうだけど、年に数回来訪する程度だよ? これまでと違う、変化の時代が来たと意識は切り替わるだろうけど、分かれて暮らしている状況は当面続くんだし、そこまで注意する必要なんてある?」


身近と言っても、僕みたいに頻繁に竜と触れ合う訳でもないし、と話すと、何故か皆が溜息をついた。寝てますよアピールをしてたトラ吉さんまで! なんで!?





そんな疑問にケイティさんが答えてくれた。


「アキ様、地球(あちら)で例えると、いきなり世界各国の首都に宇宙人の円盤がやってきたような話です。これから仲良くしよう、とアピールしてきており、それまでと違い、毎日のように円盤が空を飛ぶ様子も見られるようになった、と想像してみてください」


 ふむ。


「始めは驚くでしょうけど、直接の接点がないと理解が進めば、結局、普段通りの生活に戻りますよね。あー、でも戦争は減るかな? 宇宙人から見れば、惑星にへばりついて生活している人類なんて、保護区にいる野生動物みたいなモノだから、野生の掟は尊重しつつも、保護区全体が豊かさを維持するよう、あれこれ言ってきそう」


「そうですね。一見すると変わらない社会、けれど、未来は宇宙人の来訪の前と後では決定的に異なってくると思います。こちらも同じです。交わることのなかった竜族と地の種族。そんな時代は終わりを告げて、共に歩む時代へと変わっていくでしょう」


 うん、それはわかる。


「それと、皆さんが差を意識して橋渡ししていく、でどう繋がるのかいまいちピンとこなくて」


この問いにはウォルコットさんが答えてくれた。


「アキ様も今回の遊説飛行についてはこれほどまでの広がりは予想されていなかったかと思います」


「ですね。若竜達への短期集中教育をやっていく中で、周知したいというニーズがあることに気付きましたから」


「後知恵ではありますが、各地に竜神子を配して竜を招くと決めた時点で、今回の事態を想像できるだけのカードは揃っていた、とも言えます」


「まぁ、そうですね」


「実際、アキ様も竜神子を毎年配していくことで十年後にはそちらの地図にあるような周知状況になるところまで想像されていました」


「毎年増やしていけば、いずれはどの地でも竜が来訪するようになるとは考えてました」


「つまり、昨日、皆さんから色々と学ばれたのと同じで、思考の深さに関わる話です。アキ様が全てを先の先まで見通すことはできず、またそれをしても、時間を無駄にするばかりで益は少ないでしょう。ですから、こうして身近にいる者達が、何か気付いた時にはすぐ皆にそれを示していこう、という事なのです」


 ふむふむ。


「例えば、今回の件なら、竜神子に対して竜が加護を与えたいと言い出しそうと気付けば、竜神子を選定している頃には、幅広く周知していく流れになる、と指摘できたかもしれない、と」


「ロングヒルに来られている竜の皆様は、感激されると加護を与えたい、と言い出すことが多いので、気付くこともできたでしょう。ここにいる皆が、ふと、何かを気付いたなら、忘れる前にメモを取り、そしてそれを話題とするのです。殆どの場合は大きな影響はないでしょう。しかし、貴重な気付きが得られるかもしれません」


 それはわかる。


「ミア姉も、アイデアは揮発性だから閃いたらすぐメモするようにって話してたから、その話はわかります」


ここで、ジョージさんが話を纏めてくれた。


「アキにとって、こちらの一般的な暮らし、意識、感性は馴染みがない。だから、広く一般市民層にまで働きかける活動をする際に、それが一般層にどう影響を与えるのか、アキ自身が気付くのは難しい。そこを家族やサポートメンバーが補う。そういうことだ」


 なるほど。


……共和国議員に研究所の所長、探索者に商家の隠居、魔導人形の女中さん、マコト文書の神官さん。で、魔獣の角猫に、謎の好事家ディレッタント


僕の考えを読んだのか、お爺ちゃんがふわりと飛んで、杖を振ってポーズを取った。


「皆も一般からはちとズレておるが、それでもアキよりは市民との接点もあるじゃろ。儂はこちらの世界に馴染みがないが、物事には当事者より離れた者の方がよく見えることもある。そういうことじゃよ」


 それもそうだね。


「では、お手数ですが宜しくお願いします。竜の皆さんと話してることが多いと、空の視点になりがちですから」


普通の生活をしてる人も、航空パイロットでもない限り、上空から眺める視点を意識することは少ないと思う。なので、ここは素直にお願いして、皆も、意識することを約束してくれたのだった。





その後は、ベリルさんが試作品として、基本的な地形図に対して透明なフィルムを重ねて様々な情報のレイヤーを表せるようにした資料を見せてくれた。基本的なレイヤーは、地形、地の種族の領地、都市国家、竜の縄張り、判明している竜の住処、といった具合で、任意に重ね合わせることで、異なるレイヤーとの関係を理解しやすくする、といった意図らしい。それに竜神子の住む地、遊説飛行先の地を増やし、何かあった際に弧状列島全体図に情報を示すことで、新たな気付きを得よう、といった具合だ。


ぱっと見た感じ、位置関係や分布を把握しやすくて、漠然と考えていたイメージの明確化には凄く役立ちそうと思えた。まぁコンピュータ上で重ね合わせるのと違って、物理的なフィルムを重ねるから、どうしても透明度は下がるけど、関係性を見るだけなら、二、三枚重ねる程度で十分だから問題にはならないと思う。


「これ、代表の皆さんが来た時に見せられるでしょうか? 多分、欲しがると思うんですよ」


「制作は十分間に合いマス。では列島全域の試作品を用意しマス」


ベリルさんも快諾してくれたから、この件はこれで良し。


他の皆も、勢力の色分け図と、地形図、それと竜神子のいる国、遊説飛行先を重ねるだけで色々と想像が広がる、と高評価だった。まだ、共和国やロングヒルの周辺地域分の限定品だけど、これは役立ちそうだ。






皆の意識合わせが終われば、皆も仕事に戻り、僕は短期集中教育の為の準備と心話の繰り返し作業に専念することになった。隣では、リア姉がこれまでに既に終えてる若竜達や竜神子に関する資料、それと僕のコメントを読んで、何を話すか考えてる。


それからは、僕が心話をしている間はリア姉は準備を行い、リア姉が心話をしている時は僕が準備を行う、といった形で心話魔法陣をフル活用することになった。立ち合いもケイティさんだけでは厳しいので、シャンタールさんも応援してくれる豪華な布陣だ。ベリルさんも心話を終えた後の報告を口述筆記して黙々と報告書へと仕立て上げてくれた。


そうして、二日間、新たに十二柱への短期集中教育を終え、リア姉の後追い教育も進んでいった。そちらはまぁ色々と手応えがあったんだけど、今日も終わったねー、などとリア姉と話しているところに最高機密を扱う書簡が三つ届いた。勿論、差出人はユリウス様、レイゼン様、ニコラスさんの三人だった。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字、脱字の指摘ありがとうございます。気付きにくいので助かります。


ヤスケに邪魔扱いされて、あちこちに飛ばされていた家族も戻ってきて、家族団欒の時間を設けることができました。こんな家族団欒があるかーって気もしますけど、各人、抱えているものが多いですからね。


今回の意識共有は、ウォルコットも後知恵と話していたように、やれるべき、という話ではなく、もし気付いたら、といった程度の内容でした。竜が自然災害に気付いたら一声かけてあげる、というのと似たような話です。それでも全然意識にないのと、心の片隅にでもあるのでは、やはり雲泥の差があると思います。


代表達からの書簡も最速で戻ってきました。返書の内容をしっかり吟味するより、速さを優先するあたり、代表達の内心が透けて見える感じですね。三者とも最速を選ぶ辺り、離れていても心は一つってとこでしょうか。ご愁傷様です。


次回の投稿は、九月十八日(日)二十一時五分です。


<雑記:新投稿の宣伝>

全37パートで完結したアクション小説「ゲームに侵食された世界で、今日も俺は空を飛ぶ」の設定&執筆裏話の投稿を始めました。取り敢えず22パート分は毎日、10月5日(水)まで投稿していきます。まだ書いてない分がプラス5パート分くらいありそうですが、10月5日(水)までには書き終える見込みです。

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